簿記のしくみ●●○○○

資本金

Share Capitalしほんきん

株主が会社に払い込んだ元手のうち、会社法上の基準額として維持される純資産の中核

概要

資本金は、株主が会社に払い込んだ元手のうち、会社法上の基準額として登記され、維持が求められる金額です。貸借対照表では純資産の部の先頭に置かれ、会社設立時の出資や増資(新株発行)によって増加します。「株主から集めた返さなくてよいお金」の中核であり、銀行からの借入のような負債とは根本的に性格が異なります。

注意したいのは、資本金は「会社が今持っている現金」ではないことです。払い込まれたお金はすぐに設備や商品に姿を変えて事業に使われます。資本金という科目が表しているのは現金の在り処ではなく、「株主からこれだけの元手を預かっている」という調達側の記録です。複式簿記の言葉で言えば、借方に現金(運用)、貸方に資本金(調達)が立つ関係です。

また、純資産には資本金のほかに資本剰余金や利益剰余金といった区分があり、「株主が入れた元手」と「事業で稼いだ蓄積」を分けて表示します。資本金はこのうち元手側の中心に位置する科目です。

なぜ生まれたか

株式会社の最大の発明は株主の有限責任 — 会社が倒産しても株主は出資額を失うだけで、それ以上の弁済義務を負わない — という仕組みです。しかしこれは、会社にお金を貸す債権者から見れば恐ろしい制度でもあります。株主の個人財産をあてにできない以上、債権者の返済原資は会社の財産だけです。もし株主が出資したそばからお金を配当で引き出せてしまえば、会社は空っぽになり、債権者は貸し倒れます。

そこで会社法は、「この金額に相当する財産は会社に維持しなさい。ここを取り崩して株主に配ってはいけない」という基準額を定めることにしました。それが資本金です。株主への配当は、資本金(と法定準備金)を守った上でなお残る剰余金からしか行えません。資本金とは、有限責任という株主の特権と引き換えに、債権者を守るために社内に留め置くことを約束した金額 — 有限責任制度を社会が受け入れるための「担保」として生まれた概念なのです。

詳細

純資産の中での位置づけ

純資産の部は大きく「払込資本(株主が入れたお金)」と「留保利益(会社が稼いで貯めたお金)」に分かれます。払込資本の中心が資本金で、その脇に資本準備金などの資本剰余金が並びます。留保利益側の中心は利益剰余金です。この区分は会計等式の右辺(調達源泉)をさらに細かく語るもので、「元手がいくらで、そこからいくら殖やしたのか」を読み手に開示します。元手と儲けの区別(資本と利益の区分)は、会社の稼ぐ力を評価するうえで欠かせない情報です。

純資産の部払込資本 — 株主が入れた元手資本金登記される基準額・取り崩し不可資本剰余金資本準備金など留保利益 — 稼いで貯めた分利益剰余金毎期の利益の蓄積配当の原資はこちら側準備金を除く剰余金から分配する元手(資本)と儲け(利益)を区分して表示するのが純資産の部の基本構造
純資産の部の構造 — 資本金は「株主が入れた元手」の中核で、配当の原資にはできない

出資の記録 — 設立と増資

会社設立時に株主が1,000万円を払い込んだとすると、仕訳は借方が現金1,000万円、貸方が資本金1,000万円です。事業を拡大するために新株を発行して追加の出資を受ける増資でも、同じ形の仕訳で資本金が増えます。なお会社法は、払込額の2分の1までは資本金とせず資本準備金に計上することを認めています。資本金の額は登記され、変更には法定の手続きが必要なため、あえて全額を資本金にせず柔軟性を残す実務が広く行われています。

資本金は「維持すべき額」であって「ある現金」ではない

初学者が最もつまずくのがここです。「資本金1億円の会社」と聞くと金庫に1億円あるように思えますが、実際には払い込まれたお金はとうに設備や在庫や人件費に変わっています。資本金が示すのは、「純資産のうち1億円分は、配当などで社外に流出させずに維持すべき基準」という法律上の線引きです。実際の財産は貸借対照表の左側(資産の部)に姿を変えて散らばっており、資本金はその調達の記録として右側に残り続けます。だからこそ、資本金は事業でいくら儲けても損しても直接は増減しません。動くのは利益剰余金のほうです。

資本金の大きさが持つ意味

資本金の額は、会社の規模や信用の目安として制度のあちこちで使われてきました。たとえば税制には資本金の額を基準に中小企業向けの優遇を適用する仕組みがあり、あえて資本金を一定額以下に抑える会社も少なくありません。一方で、現在の会社法では最低資本金の規制が撤廃され、資本金1円でも株式会社を設立できます。資本金の大きさ = 会社の実力とは限らないため、信用を判断するには資本金だけでなく純資産全体や利益の蓄積を見る必要があります。

また、業績が悪化して欠損(利益剰余金のマイナス)が膨らんだ会社が、法定の手続きを経て資本金を取り崩し欠損を埋める「減資」という操作もあります。これはあくまで純資産の内訳の振り替えであり、会社の財産が実際に減るわけではありませんが、「維持すべき基準額」を引き下げる行為なので、債権者保護のための異議手続きが要求されます。ここにも、資本金という概念の原点が債権者保護にあることが表れています。