経済・金融の星図 — 市場と貨幣のしくみを、課題を解いた発明の系譜で辿る
何かを理解するために、先にどの語彙を知っておくとよいのか。100の語彙を、前提知識の系譜でつないだ星図です。 上の星をたどるほか、下の一覧からも各語彙の解説へ進めます。
ミクロ経済
- インセンティブ人の行動を特定の方向へ導く報酬と罰の構造。人の性格ではなく仕組みから行動を予測する経済学の鍵
- 希少性欲しい量に対して資源が足りないという、経済学の出発点。量の多さではなく欲しい量との比で決まる
- 機会費用何かを選んだことで諦めた、次善の選択肢の価値。帳簿に載らない費用まで数える経済学的思考の出発点
- 市場買い手と売り手が価格を通じて交換する仕組み。建物ではなく、制度と信頼に支えられた関係のこと
- 需要と供給買いたい量と売りたい量のせめぎ合いが価格と取引量を決める、という市場分析の出発点
- 分業仕事を工程や役割に分けて各人が専門化すると生産性が跳ね上がる、という経済学の出発点の観察
- ゲーム理論相手の出方を読み合う状況を、プレイヤー・戦略・利得の型に落として分析する経済学の共通言語
- サンクコストすでに払って取り戻せない費用。これからの判断に入れるべきでないのに、人はつい引きずられる
- ネットワーク効果使う人が増えるほど1人ひとりにとっての価値が上がる性質。臨界質量・一人勝ち・ロックインを生む
- 価格メカニズム価格の上下が散らばった情報を運び、誰も指揮せずに生産と消費を調整する、市場経済の心臓部
- 株式会社株式で大勢から資本を集め、出資者の責任を出資額までに限って事業を行う、資本主義の中核の制度
- 規模の経済作る量が増えるほど1個あたりの費用が下がる効果。産業ごとの企業の大きさと数を決める
- 見えざる手各自が自分の利益を追うと、意図せず社会の利益が生まれるというスミスの比喩。働くには競争と正しい価格が要る
- 限界効用追加の1単位から得られる満足の増分。逓減するこの量が需要曲線と予算の配り方を決める
- 行動経済学人の判断が合理性から予測できる向きにずれることを、実験で確かめて経済学に組み込む分野
- 市場の失敗市場に任せても資源の配分が効率的にならない状況の総称。外部性・公共財・独占・情報の非対称性が典型
- 市場均衡需要と供給が釣り合い、価格が動く理由を失った点。ずれを引き戻す力があって初めて成り立つ
- 収穫逓減他の投入を固定して1つだけ増やすと、追加1単位の成果がしだいに小さくなる、という生産の基本法則
- 独占売り手が1社だけの市場。企業は生産を絞って価格を吊り上げ、成立したはずの取引が消える
- 比較優位すべてで劣っていても、機会費用の低いものに特化して交換すれば双方が得をする、という交換の利益の原理
- オークション参加者に価格を競わせて落札者と価格を決める仕組み。支払いのルールひとつで入札の戦略が変わる
- ナッジ禁止も金銭の誘因も使わず、初期設定や見せ方の工夫で、選ぶ自由を残したまま行動を後押しする設計
- ナッシュ均衡誰も自分一人だけ戦略を変えても得をしない状態。駆け引きがどこに落ち着くかを予測する基準点
- プロスペクト理論損得を参照点からの変化で感じ、損を得より重く見て、確率をゆがめて感じる — 不確実な選択の記述理論
- モラルハザード損失から守られると注意が緩み、事故や無駄が増える。契約の後に見えない行動が歪む情報の失敗
- 価格弾力性価格が1%変わると買う量・売る量が何%変わるか。値上げで売上が増えるか減るかを分ける感応度
- 寡占少数の企業が市場の大半を占め、互いの出方を読み合う戦略的相互依存が価格と生産量を決める市場構造
- 外部性取引の当事者でない第三者に、価格を通さずに及ぶ被害や便益。作りすぎ・作らなすぎを生む
- 共有地の悲劇誰でも使えて減る資源が、一人ひとりの合理的な利用の積み重ねで使いすぎられ、枯渇へ向かう仕組み
- 現在バイアス目先の報酬を不釣り合いに重く見て、遠くで立てた計画を直前で覆してしまう、時間の感じ方のクセ
- 限定合理性計算力・時間・情報に限りがある人は、最良でなく「十分よい」案で探索を止めて決める、という見方
- 公共財皆が同時に使えて減らず、払わない人も締め出せない財。ただ乗りされるため市場では供給が足りなくなる
- 囚人のジレンマ各自が合理的に動くと全員が損をする構造。繰り返しと報復と寛容が協力を育てる条件を示す
- 情報の非対称性売り手と買い手の知っていることに差があると、良い品から市場を去り取引が縮む。中古車市場が典型
- 余剰取引で得をした分の合計。税や規制が生む得の移転と損失(死荷重)を、面積で測る分析道具
- シグナリング外から見えない能力や品質を、偽物には割に合わないコストをあえて払うことで信じてもらう戦略
- ピグー税他人への被害の分だけ課税して社会的費用を価格に織り込み、削減を最も安い所から市場に割り振らせる政策
- 逆選抜相手の隠れた性質が見えないせいで、条件に惹かれて来るのが悪い相手ばかりになる。取引前に起きる情報の失敗
マクロ経済
- GDP一国で一定期間に新しく生み出された付加価値の合計。経済の規模と成長を測る共通の物差し
- 租税法律に基づく強制的な徴収。公共サービスの財源であり、人々の行動を変える装置でもある
- インフレーション物価全体が持続的に上がり、同じお金で買えるものが減っていく現象。貨幣の価値の目減り
- デフレーション物価全体が持続的に下がる現象。借金を重くし需要を冷やして、下落が下落を呼ぶ逆説を抱える
- 為替レート通貨と通貨の交換比率。円とドルの注文の差し引きで決まり、輸出入から資産価格まで動かす
- 関税輸入品にかける税。国内の生産者を守る代わりに、消費者が高い価格を払い、社会全体の余剰の一部が消える
- 景気循環経済全体の生産・雇用・所得が、長期の成長トレンドのまわりで拡張と後退を繰り返す波
- 経済成長一人あたりの生産が長期にわたって増え続ける現象。資本・労働・技術のどれが源泉かを問う分野
- 国債政府が発行する借金の証書。最も安全な資産として、あらゆる金利の基準であり金融システムの土台になる
- 自由貿易関税や数量制限をなくして国境を越えて取引すること。国全体のパイは増えるが、得をする人と損をする人が分かれる
- 失業働く意思と能力があり職を探しているのに仕事がない状態。流入と流出の釣り合いで水準が決まる
- 社会保険病気・失業・老齢などのリスクを、強制加入と所得に応じた保険料で社会全体に分け合う公的な保険
- 所得再分配市場で決まった所得の分け前を、税と社会保障で調整し直す政府の機能。格差は縮むが、運ぶ途中で漏れも出る
- 消費者物価指数家計の買い物かごの値段を定点観測して物価の動きを測る指数。インフレ率の公式の物差し
- 年金老後の所得を保障する仕組み。賦課方式は次の世代の人数と賃金に、積立方式は運用に、給付の大きさを頼る
- 累進課税所得が高いほど高い率で課税する仕組み。所得を区間に輪切りにし、はみ出した部分にだけ高い税率をかける
- インフレ期待人々が予想する将来の物価上昇率。賃金と値付けを通じて現実の物価を動かし、その錨の固さが政策の効き目を決める
- ケインズ経済学不況の原因は需要不足で市場任せでは戻らない、政府が需要を補えと説いた大恐慌後の経済学
- ジニ係数所得の格差を0から1の一つの数字にまとめる指標。ローレンツ曲線のたわみの大きさを測る
- スタグフレーション景気の停滞と物価の上昇が同時に進む状態。供給ショックと期待の漂流が生み、1970年代に理論を書き換えた
- フィリップス曲線インフレ率と失業率の逆相関を示す曲線。短期には成り立ち、期待が追いつく長期には垂直になる
- 金本位制通貨を一定量の金と交換できると約束した制度。物価の錨になる代わりに金融政策の自由を失った
- 金融政策中央銀行が短期金利を動かし、1〜2年のラグを見越して物価と景気を安定させる政策
- 購買力平価同じものは同じ値段になるはずという考えで、為替レートの長期の落ち着き先と各国の暮らしの豊かさを測る物差し
- 国際資本移動利回りを求めて国境を越える投資と貸し借りのお金。成長の燃料にも、急に逃げ出して危機の火種にもなる
- 国際収支国境を越える取引をすべて複式で記録した統計。経常収支の黒字は同じ額の対外資産の増加と必ず対になる
- 財政政策政府が支出と税を増減させて総需要を動かし、景気の波をならす政策。金融政策と並ぶ両輪
- 財政赤字政府の支出が税収などを上回る状態。積み上がった債務が発散するかは金利と成長率の競争で決まる
- 自動安定化装置累進課税と失業給付が景気と逆向きに自動で動き、所得の落ち込みと乗数の連鎖を和らげる財政の緩衝材
- 乗数効果最初の支出が所得と消費の連鎖を生み、GDPを元の額の何倍にも押し上げる効果。大きさは漏れで決まる
- 世界貿易機関貿易のルールを定め、紛争を裁く国際機関。報復の連鎖を手続きの中に閉じ込める、1930年代の教訓から生まれた仕組み
- 総需要と総供給総需要と総供給の交点で物価水準と実質GDPが決まる、一国経済を1枚で見るモデル
- クラウディングアウト政府の借入が金利を押し上げ、民間の投資を締め出す効果。どれだけ起きるかは経済の状態で決まる
- ブレトンウッズ体制ドルだけを金に結び、各国通貨をドルに固定した戦後の通貨体制。1971年に金の窓口が閉じて終わった
- 国際金融のトリレンマ固定相場・自由な資本移動・独立した金融政策の3つは、同時に2つまでしか選べないという国際金融の制約
- 通貨危機通貨の信認が崩れ、資本が一斉に逃げ出して為替が暴落する危機。固定相場の国で特に起きやすい
金融
- 貨幣交換の媒介・価値の尺度・価値の保存を担う、「誰もが受け取る」という信頼でできた社会の約束事
- 金利お金を借りる対価で、今のお金と将来のお金の交換比率。物価を差し引いた実質金利が行動を決める
- リスクとリターン高いリターンを望むなら結果のばらつき(リスク)を引き受けるしかない。その対価がリスクプレミアム
- 株式会社の所有権を小口に分けて売買できるようにしたもの。返済の約束の代わりに、事業の成果の分け前で報いる
- 銀行預金を受け入れて貸し出し、決済を担う仲介業。金額・満期・リスクを変換する経済の心臓
- 現在価値将来受け取るお金を割引率で今の価値に引き直す考え方。時期の違うお金を比べ、資産の値段を決める土台
- 債券借金を売買できる証券にしたもの。将来のお金の現在価値が値段になり、金利が上がると価格が下がる
- 中央銀行銀行券を発行し、銀行の口座を預かって決済と金利の要になる、物価と金融システムの番人
- 複利利息を元本に組み入れ、利息が利息を生む増え方。後半ほど加速し、時間が最大の味方にも敵にもなる
- 分散投資値動きの違う資産を組み合わせ、期待リターンは平均のまま、各資産に固有のリスクだけを打ち消す技術
- 保険多数で保険料を出し合い、少数の大きな損失を分担する仕組み。独立したリスクを束ねると1人あたりのぶれが縮む
- インデックスファンド株価指数と同じ中身を持ち、市場の平均を低いコストで丸ごと受け取る投資信託。パッシブ運用の代表
- デリバティブ株・金利・為替など別の資産の価格から価値が派生する契約。リスクだけを切り分けて売買する道具
- バブル資産価格が配当や家賃などの裏付けを離れて膨らみ、やがて弾ける現象。被害の大きさは借金の量で決まる
- レバレッジ借金で投資を膨らませ、利益も損失も倍率ぶん増幅する仕組み。倍率は耐えられる下落幅を決める
- 金融危機信用の網が一斉に巻き戻る危機。投げ売りと取り付けが銀行を通じて広がり、実体経済まで壊す
- 効率的市場仮説価格には手に入る情報がすでに織り込まれており、公開情報で市場に勝ち続けるのは難しいという仮説
- 裁定取引同じものの価格差から、ほぼリスクなしで利ざやを抜く取引。その行為自体が価格差を消し、一物一価をつくる
- 取り付け騒ぎ皆が一斉に預金を下ろすと健全な銀行でも倒れる。予想が予想を呼んで自己実現する銀行の危機
- 信用創造銀行が貸出と同時に預金というお金を生み出す仕組み。世の中のマネーの大半はこうして生まれる
- 預金保険銀行が破綻しても預金を一定額まで守る制度。上限の引き方が、取り付けを止められるかを左右する
- イールドカーブ満期ごとの利回りをつないだ曲線。将来の金利の予想が映り、逆イールドは景気後退の先行サインとされる
- オプション決めた価格で買う・売る「権利」だけを売買する契約。義務のない非対称性で損益の形を組み替えられる
- ポートフォリオ理論資産の組み合わせ全体のリスクとリターンを計算し、同じリスクで最も報われる配分を探す理論
- 最後の貸し手危機のときに中央銀行が担保を取って資金を貸す機能。パニックの連鎖を止める金融システムの最終防衛線
- 証券化ローンを束ねて優先順位の違う証券に切り分けて売る金融技術。リスクを分散する道具にも、隠す道具にもなる
