マクロ経済●●○○○

為替レート

Exchange Rate ・ かわせれーと

通貨と通貨の交換比率。円とドルの注文の差し引きで決まり、輸出入から資産価格まで動かす

✦ 30秒で試す — 航海輸入が輸出より多いままでも、円は急に高くなりうるこのあと円相場は、どちらに動きやすい?予想してみる

概要

為替レートは、ある国の通貨と別の国の通貨を交換するときの比率です。「1ドル=150円」という表示は、1ドルという商品に150円の値札が付いている、と読めます。国境を越えて何かを売り買いするには、必ずどこかで通貨の交換が起きます。日本の商社がアメリカから小麦を買うにはドルが要り、アメリカの投資家が日本株を買うには円が要ります。為替レートは、こうした国際取引すべての「換算係数」として、貿易・投資・旅行・仕送りまで、国境をまたぐ経済活動の損得を左右します。

日本でよく使われる「円高」「円安」は、この値札の動きを円の側から見た言葉です。1ドル=150円が100円になれば、少ない円で同じ1ドルが買えるので円の価値が上がった状態、つまり円高です。150円から160円になれば円安です。ここで最初につまずきやすいのが、数字が大きくなると円安という向きです。「1ドル=○円」はドルの値段を円で書いた表記なので、ドルの値段が上がる=円の値打ちが下がる、と読み替えます。ユーロは逆に「1ユーロ=○ドル」と書くのが慣習で、どちらの通貨の値段を書いているかを確かめる癖をつけると混乱しません。

為替レートも、需要と供給で決まる価格の一つです。円を欲しい人(円買い)とドルを欲しい人(ドル買い)の注文がぶつかり、その差し引きで値段が動きます。そして、その注文の大半は貿易ではなく投資の資金です。貨幣の価値は国内では物価に対して測られますが、為替レートはその国際版、通貨の対外的な値打ちを映す体温計です。

なぜ生まれたか

通貨の交換比率という問題は、異なる通貨圏が交易を始めた瞬間から存在します。しかし「レートをどう決めるべきか」が制度設計の問題になったのは近代以降です。19世紀の金本位制では、各国が自国通貨と金の交換比率を固定していたため、通貨同士の比率も金を介して自動的に固定されました。第二次大戦後のブレトンウッズ体制でも、ドルを基軸に各国通貨を固定する仕組みが採られ、日本円は1949年から1ドル=360円でした。固定相場は貿易の計算を簡単にする一方、経済の実力が変わってもレートを動かせません。無理が溜まると、切り下げ騒動や投機の標的化という形で破裂しました。その極端な姿が通貨危機です。

1971年のニクソン・ショックでドルと金の交換が止まると、主要国は1973年までに変動相場制へ移りました。レートを政府が決めるのではなく、外国為替市場での需要と供給に委ねる仕組みです。ドルを買いたい人が多ければドル高に、売りたい人が多ければドル安になります。レートが毎日動くという不便と引き換えに、経済の実態の変化を価格が吸収する柔軟性を手に入れた — これが現在の変動相場制です。ただし「完全に市場任せ」の国は多くありません。IMFの分類(2023年)で自由変動相場制とされるのは日本・米国・ユーロ圏などおよそ30か国で、残りの多くはドルなどへの固定や、当局が値動きを抑える管理相場を採っています。

詳細

誰が円を買い、誰がドルを買うのか

外国為替市場の取引額は、国際決済銀行(BIS)の2025年4月の調査で1日あたり約9.6兆ドルでした。世界の財・サービスの貿易額は2024年で年約33兆ドルなので、為替市場は貿易1年分の取引を3〜4日でこなしている計算です。つまり為替の注文のほとんどは、モノの代金の支払いではなく、金利差を求める運用、株や債券への投資、ヘッジのための取引です。取引の9割近くは片側にドルが入っています。

日本の円に即して、主な参加者を並べてみます。輸出企業は受け取ったドルを円に換える(円買い)側、原油や食料を輸入する企業は代金のドルを買う(円売り)側です。訪日客は日本で使う円を買います。ここまでが貿易や旅行、つまり経常取引の注文です。一方で、生命保険会社や年金は外国債券を買うためにドルを買い、家計は新NISAで米国株の投資信託を買い、海外のヘッジファンドは低金利の円を借りて売り、高金利のドルで運用します(円キャリー取引)。これらは資本取引の注文で、向きも大きさもすぐに変わります。

下の部品で、参加者を岸に置いてみてください。左の岸に置いた参加者は円を、右の岸の参加者はドルを買います。注文の粒が天秤の皿に流れ込み、重いほうへレートの針が動きます。

⚡ 体験: 参加者を岸に置いて、レートの針を動かす
130140150160170← 円高円安 →1ドル=150.0円円買い・ドル売り円を手に入れたい人ドル買い・円売りドルを手に入れたい人様子見(注文を出さない)外為市場円買い4.2ドル買い4.5輸出企業経常 3輸入企業経常 4.5訪日客経常 1.2生保・年金資本 4家計(NISA)資本 2海外投機筋資本 6
1ドル150.0円経常(貿易・旅行)の差し引きドル買い 0.3資本(投資)の差し引き± 0.0

いまは輸出・輸入・旅行の注文だけが流れています。下の「様子見」にいる生保・年金や海外投機筋をつかんで、左(円買い)か右(ドル買い)の岸に置いてみてください。

左の岸=円買い・ドル売り(緑青の粒)、右の岸=ドル買い・円売り(桃色の粒)。外周の弧と数字=注文の大きさ。経常=貿易・旅行の取引、資本=投資の取引。天秤の重いほうへレートの針が動く

輸出・輸入・旅行の注文は、置ける岸が決まっていて、大きさもほどほどです。レートを大きく動かすのは、どちらの岸にも移れる資本の参加者です。貿易収支が赤字でも、資本が円に戻ってくれば円高になります。為替は「国の稼ぐ力の成績表」である前に、その日その日の資金の流れの差し引きで決まる価格なのです。

レートを動かす3つの力 — 時間軸で分ける

変動相場制のもとで為替レートを動かす力は、効いてくる時間の長さで分けると見通しがよくなります。

金利差・資金の流れキャリー取引・外債投資・巻き戻し — 注文が大きく、向きがすぐ変わる実需貿易・旅行・直接投資毎月途切れず出る注文 — 底流をつくる物価の差購買力平価長い目で引き寄せる錨1日1か月1年10年効く時間の長さ
為替を動かす3つの力 — 数日〜数年は金利差と資金の流れ、年単位では貿易などの実需、10年単位では物価の差(購買力平価)が効いてくる

数日から数年で最も強く効くのは金利差と、それを追う資金の流れです。米国の金利が日本より大きく高ければ、円を売ってドルで運用する動きが強まり、ドル高円安が進みます。各国の中央銀行の金融政策の向きの違いが、為替の最大の材料として注視されるのはこのためです。ただし、ここには理論との食い違いがあります。教科書の「カバーなし金利平価」は、高金利通貨はいずれその金利差のぶんだけ値下がりするはずだ、と予想します(そうでなければ誰でも高金利通貨で濡れ手で粟の運用ができてしまうからです)。ところが実際の短期のデータでは、高金利通貨はむしろ買われて上がりやすい。この「フォワード・プレミアム・パズル」があるから、キャリー取引は儲かる時期が長く続き、そして巻き戻しのときに一気に崩れます。

年単位では、貿易・旅行・直接投資の実需が効いてきます。輸出企業が稼いだドルを円に換えれば円買い、輸入代金の支払いはドル買いで、国際収支の構造がレートの底流になります。そして10年単位では、同じものは同じ値段に近づくという購買力平価の力が働きます。安い国で買って高い国で売る裁定が、ゆっくりと価格差を詰めるからです。インフレーション率の高い国の通貨は、長い目で見て値下がりしていきます。短期は金利、中期は実需、長期は物価 — この3層を分けずに「為替はなぜ動くか」を一言で答えようとすると混乱します。

円高・円安は誰の得か

円安(1ドル=100円 → 150円)円高(1ドル=150円 → 100円)輸出企業に追い風海外で得た1ドルの売上が100円ではなく150円になる輸入・消費者に逆風1ドルの原油・食料を買うのにより多くの円が必要になる輸出企業に逆風同じドル建て売上の円換算額が目減りし、価格競争力も低下輸入・消費者に追い風輸入品や海外旅行が割安になり物価の押し下げ要因になるどちらが「良い」かは一概に言えない — 経済構造と立場によって損得が入れ替わる為替の議論が常に対立を含むのはこのため
円安と円高 — 同じレートの動きが、立場によって損得を逆転させる

円安は輸出企業の収益を押し上げる一方、エネルギーや食料を輸入に頼る家計には物価高として跳ね返ります。円高はその逆です。為替の変動は、国全体の損得というより、国内の輸出部門と輸入・消費部門のあいだの再分配として働きます。「円安は日本経済にプラスかマイナスか」に専門家の意見が割れるのは、どの部門に重みを置くか、輸出企業がどれだけ生産を海外に移しているかで答えが変わるからです。

円安の効き方には時間差もあります。輸入品の円建て価格は、為替の動きから数か月かけて店頭の値札に移っていきます(パススルー)。2022年以降の日本の物価高では、円安が輸入物価を通じて消費者物価指数を押し上げました。反対に、円安で輸出が伸びて貿易収支が良くなるには、さらに時間がかかります。直後は契約済みの輸入代金が円建てで膨らむため、貿易収支はいったん悪化し、数量が反応してから改善に向かいます。この動きはグラフに描くとアルファベットのJに似るので、Jカーブと呼ばれます。

名目レートと実質レート

もう一つ大事な区別が、名目為替レートと実質為替レートです。ニュースの「1ドル=150円」は名目レートですが、通貨の実力を測るには両国の物価の動きを加味する必要があります。名目レートが10年間変わらなくても、その間に米国の物価が5割上がり日本の物価が横ばいなら、日本人にとって米国のモノは実質で5割高くなっており、実質では大きな円安が進んだことになります。貿易相手国全体に対して物価で調整した通貨の値打ちを実質実効為替レートといい、円のそれは2023年に1970年の水準を下回り、2024年7月には統計のある1970年以降で最低になりました。「日本が安い国になった」と言われるのは、名目の円安に、海外との物価上昇率の差が重なった結果です。

介入 — 当局が市場に入るとき

変動相場制でも、急な動きには当局が市場に入ることがあります。日本では財務省が決め、日本銀行が実務を担い、外貨準備を使います。円安を止める「円買い・ドル売り」介入は、2022年9〜10月に合計約9.2兆円、2024年4〜5月と7月に合計約15.3兆円が行われ、2026年4〜5月には1か月で約11.7兆円と過去最大の規模になりました。介入は流れを一時的に変えられますが、手持ちの外貨準備で買える円には限りがあり、金利差という根っこが残る限り、流れそのものを逆向きにし続けることはできません。部品の天秤で言えば、当局は一時的に左の皿へおもりを載せられるだけで、資本の参加者の向きを決めるのは金利と期待です。

制度の選択とトリレンマ

多くの新興国が完全な変動相場を避けるのは、為替の乱高下が輸入物価やドル建ての借金を直撃するからです。しかし、国際資本移動が自由な世界では、固定レートの維持と独立した金融政策は両立できません(国際金融のトリレンマ)。固定レートに無理が生じて投機の売りに耐えきれなくなると、レートは一気に崩れ、通貨危機に発展します。為替制度の選択は単なる技術論ではなく、金融政策の自由と為替の安定のどちらを取るかという、国のトレードオフなのです。

試問

2024年7月ごろの市場です。キャリー取引・外債投資・NISA がそろってドルを買い、1ドル=162円まで円安が進んでいます。

✦ 命題挑戦中

貿易収支が赤字のままで、1ドル=162円の円安を140円台の円高に戻す参加者の配置を作れ

  • 貿易収支は赤字のまま(輸入企業が輸入代金のドルを買い続けている)
  • 1ドル=150円を割る円高(針が止まってから判定)
  • 行き過ぎない — 140円は割らない
⚡ 体験: 参加者の岸を移して、円高を作る
130140150160170← 円高円安 →1ドル=162.0円円買い・ドル売り円を手に入れたい人ドル買い・円売りドルを手に入れたい人様子見(注文を出さない)外為市場円買い4.2ドル買い16.5輸出企業経常 3輸入企業経常 4.5訪日客経常 1.2生保・年金資本 4家計(NISA)資本 2海外投機筋資本 6
1ドル162.0円経常(貿易・旅行)の差し引きドル買い 0.3資本(投資)の差し引きドル買い 12.0

2024年7月ごろの市場です。キャリー取引・外債投資・NISA がそろってドルを買い、1ドル=162円まで円安が進みました。参加者をつかんで岸を移し、円高に戻してください。

左の岸=円買い・ドル売り(緑青の粒)、右の岸=ドル買い・円売り(桃色の粒)。外周の弧と数字=注文の大きさ。経常=貿易・旅行の取引、資本=投資の取引。天秤の重いほうへレートの針が動く