ミクロ経済●○○○○

需要と供給

Supply and Demand ・ じゅようときょうきゅう

買いたい量と売りたい量のせめぎ合いが価格と取引量を決める、という市場分析の出発点

✦ 30秒で試す — 航海値段は誰が決める? 売り手でも買い手でもないパンの値段と、売れる量はどうなる?予想してみる

概要

需要と供給は、市場で価格と取引量がどう決まるかを説明する、経済学で最も基本的な枠組みです。需要とは「この価格なら買う」という買い手の意思を全員分足し合わせたもの、供給とは「この価格なら売る」という売り手の意思を全員分足し合わせたものです。価格が安いほど買いたい人は増え、高いほど売りたい人は増えます。この逆向きの2つの力が綱引きをして、買いたい量と売りたい量がちょうど一致する所で価格が落ち着きます。この一致点を均衡と呼びます。

キャベツが不作の年は値上がりし、豊作の年は値崩れします。人気のライブのチケットは定価を超えて転売され、売れ残った冬物はセールで値引きされます。こうした日常の現象は、すべて需要と供給の釣り合いの変化として同じ言葉で説明できます。株式の株価も為替レートも金利も、突き詰めれば「何か」の需要と供給で動きます。そのため、この枠組みは経済のほとんどの語彙の土台になっています。

なぜ生まれたか

「モノの正しい値段は誰が決めるべきか」は、長く人類を悩ませてきた問いです。中世ヨーロッパの神学者は「公正価格」を論じ、多くの社会では領主や政府が価格を布告してきました。しかし、何百万人の「どれくらい欲しいか」と、何万という作り手の「いくらなら作れるか」をすべて把握して適正な価格を計算することは、誰にもできません。20世紀の計画経済は国家が価格と生産量を決めようとして、安すぎる品の前の長い行列と、誰も欲しがらない品の在庫の山を慢性的に生み出しました。

需要と供給の考え方は、この問いをひっくり返しました。価格は誰かが決めるものではなく、無数の買い手と売り手の行動の結果として決まる、という見方です。アダム・スミスが見えざる手と呼んだこの調整の働きを、クールノー(1838年)やジェンキン(1870年)が曲線で描き始め、アルフレッド・マーシャルが『経済学原理』(1890年)で需要曲線と供給曲線の交点として定式化しました。現在の教科書の形はここから来ています。マーシャルは「価格を決めるのは需要か供給か」という論争を、「紙を切るのはハサミの上の刃か下の刃か」と問うようなものだと退けました。両方の刃があって初めて切れる、という意味です。

この枠組みの核心は、価格が情報を運ぶという発見にあります。値上がりは「これは足りていない。作れば報われるし、節約する価値がある」という知らせを、中央の司令塔なしに社会の隅々へ一瞬で伝えます。誰も全体を知らないのに全体が調整される — この分散した仕組みを見える形にしたのが、2本の曲線でした。

詳細

需要曲線と供給曲線 — 交点が価格を決める

縦軸に価格、横軸に数量を取ると、需要は右下がりの曲線になります。値段が下がるほど「それなら買う」という人が増え、一人ひとりも多めに買うからです。背後には、1つ目より2つ目のほうがうれしさが小さいという限界効用の逓減があります。供給は右上がりの曲線になります。値段が上がるほど、費用の高い作り手でも採算が合うようになり、作る側に加わるからです。2本の曲線の交点が均衡点で、そこでの価格を均衡価格、数量を均衡数量と呼びます(均衡そのものの性質は市場均衡で詳しく扱います)。

価格数量需要供給売れ残り(超過供給)→ 値下げの圧力品不足(超過需要)→ 値上げの圧力均衡点均衡価格均衡数量高すぎる安すぎる
需要曲線と供給曲線 — 均衡より高い価格では売れ残りが、低い価格では品不足が生まれ、どちらも価格を均衡へ押し戻す

このモデルの美しさは、均衡から外れたときに働く復元力にあります。価格が均衡より高いと、売りたい量が買いたい量を上回って売れ残りが出ます(超過供給)。在庫を抱えた売り手は値下げを迫られます。価格が均衡より安いと品不足になり(超過需要)、「高くても買う」人が値を競り上げます。どちらにずれても価格は均衡へ引き戻されます。誰も指揮していないのに、市場は釣り合いを見つけるのです。

下の部品では、12人の買い手と12人の売り手が並んでいます。点の高さは、買い手なら「払ってもよい上限」、売り手なら「売ってもよい下限」です。価格の線をつかんで動かし、手を離してみてください。人数の差が価格を押し、均衡に着くと取引の組のあいだをお金が流れ始めます。「出来事」のボタンで階段そのものを動かすこともできます。

⚡ 体験: 価格の線を動かして、市場が釣り合う所を見る
需要(買い手)供給(売り手)625円
この価格で買いたい7人売りたい7人釣り合い7組が取引
出来事

価格の線(白い横線)をつかんで上下に動かしてみてください。その価格で「買いたい人」と「売りたい人」が灯ります。手を離すと何が起きるでしょう。

緑青の点=買い手(高さ=払ってよい上限)、金の点=売り手(高さ=売ってよい下限)。白い横線=いまの価格。階段を人の点でなく線で見たものが需要曲線と供給曲線

部品の階段を「人の点」ではなく「線」として見たものが、需要曲線と供給曲線です。取引が成立した組を結ぶ縦の線を見てください。価格より上の緑青の部分は「払ってもよい額より安く買えた」買い手の得(消費者余剰)、価格より下の金の部分は「売ってもよい額より高く売れた」売り手の得(生産者余剰)です。この2つの合計である余剰は、均衡で最大になります。均衡より高くても安くても取引の組が減り、そのぶん誰の得にもならない損失(死荷重)が生まれます。

曲線の上の移動と、曲線そのもののシフト

需要と供給を使いこなす鍵は、「曲線の上の移動」と「曲線そのもののシフト」を区別することです。価格が変わって買う量が変わるのは、需要曲線の上の移動です。一方、価格以外の事情 — 所得の増加、流行、代わりになる品の値段 — が変わると、同じ価格でも買いたい量が変わるので、需要曲線そのものが動きます。

曲線の上の移動価格数量需要AB値下がり → 同じ曲線の上で買う量が増える曲線そのもののシフト価格数量供給D1D2所得が増える均衡が右上へ — 価格も取引量も上がる
左: 価格が変わると、同じ需要曲線の上を点が滑る。右: 所得や流行が変わると、曲線ごと動き、新しい交点に均衡が移る

猛暑でアイスの需要曲線が右に動けば、供給が同じでも均衡価格と取引量はどちらも上がります。供給の側も同じで、原材料の高騰や災害は供給曲線を上(左)へ、技術革新によるコスト低下は下(右)へ動かします。「原油高で電気代が上がる」は供給曲線の上へのシフト、「半導体の増産で値下がり」は下へのシフト、と読み替えられるようになると、経済ニュースの解像度が一段上がります。なお、個別の品ではなく多くの品の価格が同時に上がり続ける現象は、個々の需給を超えたマクロの問題で、インフレーションとして別の枠組みで扱います。

よくある間違いは、シフトと移動を取り違えることです。「値上がりしたから需要が減った」は正しくは「需要量が減った」(曲線の上の移動)で、需要曲線そのものは動いていません。逆に「値上がりしたから供給が増え、その結果値下がりした」のように、原因と結果を循環させてしまうのも典型的な混乱です。どの事情がどちらの曲線を動かしたのかを一つずつ特定し、新しい交点を求める — この手順を守れば迷いません。

傾きが結果を分ける — 弾力性

同じシフトでも、結果の出方は曲線の傾き、つまり買い手や売り手が価格にどれだけ敏感か(弾力性)で大きく変わります。米や医薬品のような生活必需品は、値上がりしても買う量をあまり減らせないので需要が非弾力的です。そのため供給が少し減っただけで価格が急騰します。代わりの利く嗜好品は弾力的で、値上げすると客が逃げるため価格は上がりにくくなります。企業が値上げできるかを判断するときも、政府が税の影響を見積もるときも、実質的に問うているのはこの傾きです。

価格統制の副作用と、需給モデルが使えない場面

需給モデルは、善意の価格統制がなぜ裏目に出るかも予言します。家賃の上限規制は、均衡より安い価格を強制します。借りたい人は増える一方で貸す側は減り、住宅不足と、抽選・縁故・闇取引が生まれます。価格を凍結しても、価格が伝えていた「足りない」という知らせと、増産への誘因まで消えるわけではないからです。ある選択のために諦めたものという機会費用の視点で見れば、統制価格で買えた人も、行列に並ぶ時間という別の代価を払っています。

ただし、市場がいつも正しい答えを出すわけではないことも同じくらい重要です。工場の煙害のように取引の当事者以外に費用や便益が及ぶ外部性があると、需給が導く均衡は社会全体にとって最適ではなくなります。競争が働かない独占や、売り手と買い手で知っていることに差がある情報の非対称性のある市場でも、モデルの前提は崩れます。こうした場面をまとめて市場の失敗と呼びます。需要と供給は「市場は万能だ」という主張ではありません。市場がうまく働く条件と、失敗する条件を見分けるための、最初の分析道具なのです。

試問

原材料が値上がりして、売り手の階段が上がった直後の市場です。価格はまだ前のままになっています。

✦ 命題挑戦中

原材料が値上がりした市場で、価格の線を自分の手で動かし、品不足も売れ残りも出ない価格に置け

  • 品不足がない(買いたい人数 ≤ 売りたい人数)
  • 売れ残りがない(売りたい人数 ≤ 買いたい人数)
  • 取引できる人数が最大(6組)
⚡ 体験: 価格を動かして、品不足も売れ残りもない所を探す
需要(買い手)供給(売り手)625円
この価格で買いたい7人売りたい5人品不足2人分

原材料が値上がりして、売り手の階段が上がりました。価格は前のままなので、買いたい人のほうが多い状態です。価格の線をつかんで、人数が釣り合う所まで動かしてください。

緑青の点=買い手(高さ=払ってよい上限)、金の点=売り手(高さ=売ってよい下限)。白い横線=いまの価格。階段を人の点でなく線で見たものが需要曲線と供給曲線