音楽理論の星図 — 音が音楽になる約束事を、音程から調性への積み上げで辿る
何かを理解するために、先にどの語彙を知っておくとよいのか。100の語彙を、前提知識の系譜でつないだ星図です。 上の星をたどるほか、下の一覧からも各語彙の解説へ進めます。
音と音程
- オクターブ周波数比1:2の音程。高さは違うのに同じ音と感じる、音名の循環の単位
- 音高と音名音の高さを周波数で捉え、名前を付けて共有できるようにした約束事
- 音程2つの音の高さの隔たり。協和と不協和を生む、音楽理論の最小部品
- 音波と周波数音の正体は空気の振動。高さは周波数、大きさは振幅で決まる物理の土台
- 五線譜5本の線の上下で音高を、記号で長さを表す記譜法。西洋音楽の共有インフラ
- 半音と全音オクターブを12等分した最小の隣接音程が半音。その2つ分が全音
- うなりわずかに高さの違う2音が干渉して生む周期的な音量の揺れ。調律の耳の道具
- 音階1オクターブの中から音を選んで並べた素材集。旋律と調の土台
- 音色同じ高さ・大きさでも楽器で聞こえ方が違う理由。倍音の配合が作る音の顔
- 音部記号五線のどの線がどの音高かを宣言する記号。楽器の音域に合わせて使い分ける
- 音律12音それぞれの高さをどう決めるかの体系。協和と転調可能性のトレードオフ
- 階名唱ドレミを音階内の役割の名前として歌う訓練法。移動ドと固定ドの二流派がある
- 協和と不協和2音が溶け合うか濁るかの感覚。周波数比と倍音の重なりで説明される
- 倍音列ひとつの音に含まれる整数倍の周波数の系列。音色と協和の物理的な源泉
- 標準ピッチラ=440Hzという国際的な取り決め。合奏を成立させる高さの原点合わせ
- 変化記号♯♭♮で音を半音上下させる記号。7音の五線に12音を書くための仕掛け
- セント半音をさらに100等分した音程の対数単位。音律の微差を語る共通のものさし
- ピタゴラス音律純粋な五度2:3だけを積み上げて12音を作る最古の音律。三度が濁るのが弱点
- 異名同音ド♯とレ♭のように名前が違うのに同じ高さになる関係。平均律が生んだ同一視
- 純正律単純な整数比だけで音階を組み、最高に澄んだ響きを得る音律。転調に弱い
- 平均律オクターブを対数的に12等分し、全調を平等にした現代標準の音律
- ウェル・テンペラメント全部の調が演奏可能で、調ごとに響きの個性が残る音律。バッハ時代の妥協解
- ウルフの五度コンマのしわ寄せを一箇所に集めた結果生まれる、狼の唸りのように濁る五度
- コンマ五度を12回積んでもオクターブに戻らない微小なズレ。音律設計の宿命の誤差
- 中全音律三度を美しくするため五度を少しずつ狭めた音律。ルネサンス鍵盤楽器の標準
- 微分音半音よりさらに細かい音程。12音の外側に広がる音世界への入り口
リズム・拍子
- テンポ拍の速さ。BPMという数値と、アレグロなどの言葉の両方で指定される
- 音価音の長さを2分割の階層で表す体系。全音符から始まる長さの分数表記
- 拍とパルス音楽の時間を等間隔に刻む心拍のような単位。リズムのすべての土台
- アウフタクト小節の頭より前から始まる出だし。強拍へ向かう助走がフレーズに推進力を生む
- シンコペーション強拍を外し弱拍や裏拍を強調するリズム。予測を裏切ることでノリが生まれる
- スウィング8分音符を跳ねさせて演奏するジャズのリズム感。楽譜に書ききれない揺れ
- メトロノームテンポを機械で客観化した道具。作曲家の意図を数値で残せるようにした発明
- 拍子拍に強弱の周期を与えてまとめる枠組み。3拍子・4拍子はこの周期の違い
- 拍子記号拍子を分数の形で楽譜に書く記号。分母が拍の音価、分子が1小節の拍数
- 連符2分割の音価体系に3分割や5分割を持ち込む記法。リズムの語彙を広げる
- ヘミオラ3拍子の中に2拍子を感じさせる(またはその逆の)拍の再編成。3:2の綾
- ポリリズム異なる分割の拍を同時に重ねる技法。3連と16分が共存する立体的な時間
和声
- コードネームCmaj7のように和音を文字列で表す実用記法。ポピュラー音楽の共通言語
- 三和音3度を2つ重ねた3音の和音。長・短・増・減の4種が和声の基本部品
- 和音高さの違う音を同時に重ねた響き。三和音を基本単位とする和声の部品
- コード進行和音を時間軸に並べて緊張と解決の物語を作る、楽曲の骨組み
- サスコード3度を4度や2度に吊り上げた和音。長短が未確定の浮いた響きが持ち味
- セブンスコード三和音にさらに3度を重ねた4音の和音。緊張と色彩を担う和声の主力
- ダイアトニックコード音階の音だけで作れる7つの和音の一族。調の中で使える和音の基本セット
- ドミナントモーションV7からIへの解決。トライトーンの緊張が解ける、調性音楽最強の推進力
- ハーモニックリズム和音が切り替わる頻度のリズム。コード進行に時間の設計図を与える視点
- ローマ数字分析和音を調からの相対位置で書く分析記法。調が変わっても進行の型が見える
- 機能和声和音をT・S・Dの3つの役割に整理する理論。進行の文法を説明する枠組み
- 終止形フレーズの区切りで「終わった感じ」を作る和音の定型。文の句読点にあたる
- 声部連結和音のつなぎ目で各声部をなめらかに動かす技法。和声の水平方向の設計
- 転回形和音の最低音を差し替える操作。同じ和音でも安定感とベースの旋律が変わる
- 非和声音和音の構成音の外にある旋律音。経過音・倚音などが旋律に陰影を与える
- 分数コードC/Eのようにベース音を指定するコード表記。ベースラインを設計する道具
- 保続音上で和音が移ろっても低音が一音に留まり続ける技法。緊張を蓄える錨
- アボイドノートコードの響きを濁すため長く伸ばすのを避ける音。テンション選びの裏ルール
- セカンダリードミナント主音以外の和音に向けて臨時のV7を置く技法。進行に局所的な引力を作る
- ツーファイブワンジャズ最頻出のII-V-I進行。ドミナントモーションに助走を付けた定型
- テンション7thの上にさらに重ねる9・11・13度の音。和音に色彩と緊張を加える香辛料
- 数字付き低音バロック期の速記法。低音と数字だけで和声を指定した、コードネームの祖先
- 代理コード同じ機能を持つ別の和音への置き換え。進行の骨格を保ったまま色を変える
- モーダルインターチェンジ同主調や旋法から和音を借りてくる技法。長調の中に翳りを差し込む
- リハーモナイゼーション旋律を保ったまま和音を付け替える編曲技法。代理・裏コードの総合演習
- 裏コードV7を増四度先のドミナント7thで置き換える技法。トライトーン共有の魔法
調性
- 長音階全全半全全全半の並びが作る明るい音階。調性音楽の基準となるものさし
- ペンタトニックスケール5音でできた音階。半音のぶつかりがなく、世界中の民族音楽に遍在する
- 移調曲全体を別の高さへ平行移動する操作。音程関係は保たれ調だけが変わる
- 音度音階の各音に振る番号と役割の名前。主音・属音などの機能の住所
- 短音階哀愁を帯びた響きの音階。自然・和声・旋律の3形が使い分けられる
- 調ひとつの音を中心(主音)として音階と和音を組織する重力場のような枠組み
- 調号曲の調を五線の冒頭の♯♭の組で宣言する記法。調と記譜をつなぐ蝶番
- 半音階12の半音をすべて並べた音階。西洋音楽の使える音の全在庫
- ブルーススケールペンタトニックにブルーノートを加えた音階。長調にも短調にも属さない哀感
- 教会旋法長短音階以前にヨーロッパを支配した7つの音の並び。現代はモードとして復権
- 五度圏12の調を完全五度の間隔で円環に並べた、調の遠近がひと目でわかる地図
- 全音音階全音だけを6つ並べた音階。中心音の重力が消え、浮遊感だけが残る
- 転調曲の途中で重力の中心を別の調へ移す技法。物語の場面転換にあたる
- 同主調同じ主音を持つ長調と短調のペア。主音を保ったまま明暗だけが反転する
- 日本の音階都節・律・民謡・沖縄の4音階に整理される日本音楽の音選び。5音が基本
- 平行調と関係調調号を共有する長調と短調のペアと、その周辺の近しい調たちの親族関係
- ディミニッシュスケール全音と半音を交互に並べた8音の対称音階。ジャズの緊張した響きの源
- トニサイゼーション転調と言うには短い、一瞬だけ別の音を主役に立てる局所的な調の揺らぎ
- ピボットコード2つの調の両方に属する和音を蝶番にして滑らかに転調する技法
- 半音階技法調の外の半音を積極的に使う書法。ロマン派で極まり調性の解体へ向かう
- ナポリの和音短調の♭II上の長三和音。サブドミナントの代理として劇的な陰影を作る
- 十二音技法12音を平等に一度ずつ使う音列で作曲する方法。無調に秩序を与える試み
- 増六の和音増六度がドミナントへ両側から半音で収束する和音。伊・独・仏の3種がある
- 無調主音の重力を捨てた音楽。20世紀初頭、調性の限界の先に現れた新世界
形式・様式
- ヴァースコーラス形式Aメロからサビへ盛り上げるポピュラー音楽の標準設計。サビ回帰の力学
- フレーズと楽節動機が集まってできる音楽の文。問いと答えの対で楽節をなす
- 動機楽曲を組み立てる最小の意味単位。運命の「ダダダダーン」は4音の動機
- 12小節ブルースI-IV-Vだけで回る12小節の定型進行。ジャズとロックの共通の母語
- カノン同じ旋律を時間差で追いかけさせる対位法の形式。かえるの合唱もカノン
- ロンド形式主題が何度も回帰するABACA構造。リフレインの快感を形式化したもの
- 三部形式A-B-Aと戻ってくる形式。提示・対比・再現という音楽の基本文法
- 対位法独立した複数の旋律を同時に響かせる技法。和声と対をなす作曲の二大文法
- 二部形式AとBの2つの部分からなる形式。舞曲に多く、ソナタ形式の母体になった
- 変奏曲形式主題を保ったまま装飾・和声・リズムを変えて繰り返す形式。同一性と変化の芸
- ソナタ形式2つの主題の対立を転調で描き再現で和解させる、古典派の最重要形式
- フーガ主題が声部を渡り歩いて絡み合う対位法の最高形式。バッハで頂点に達した
