調性●●●○○

平行調と関係調

Relative Keyへいこうちょうとかんけいちょう

調号を共有する長調と短調のペアと、その周辺の近しい調たちの親族関係

概要

平行調(relative key)とは、同じ調号を共有する長調と短調のペアのことです。たとえばハ長調(Cメジャー)とイ短調(Aマイナー)は、どちらも♯も♭も付かない「白鍵だけ」の7音を使います。使う音の集合はまったく同じなのに、どの音を中心(主音)と感じるかが違うだけで、片方は明るく、もう片方は哀愁を帯びて聞こえる — この兄弟のような関係が平行調です。

そして、ある調から見て「音の共有が多く、行き来しやすい調」をまとめて関係調(近親調)と呼びます。平行調はその筆頭で、ほかに主音の5度上の属調、5度下の下属調、そしてそれぞれの平行調、同じ主音を持つ同主調が含まれます。曲の途中で調が変わる転調は、多くの場合この親族の輪の中で起こるため、関係調の地図を頭に入れておくと、楽曲分析でも作曲でも「次にどこへ行けるか」の見通しが一気によくなります。

なお用語には注意が必要です。日本語の「平行調」は英語では relative key であり、英語の parallel key は日本語の「同主調」を指します。直訳の対応がねじれているため、英語の文献を読むときに混同しやすいポイントです。

なぜ生まれたか

調性音楽が発達すると、1つの調の中だけで曲を書き続けることの単調さが課題になりました。長い曲を飽きさせずに展開するには途中で調を移る必要がありますが、どの調へでも自由に移れるわけではありません。共有する音が少ない遠い調へいきなり移ると、聴き手は道に迷ったように感じてしまいます。そこで「どの調となら滑らかに行き来できるか」を体系化する必要が生まれ、音の共有度にもとづく調の親族関係 — 関係調という概念が整理されました。

特に平行調のペアは、調号がまったく同じであるため楽譜上の見た目も変わらず、共通の和音を橋渡しにして自然に移れる最も近い隣人です。バロック〜古典派の楽曲形式(たとえば二部形式やソナタ形式)では「主調→属調または平行調へ移り、また戻る」という調の旅程そのものが設計図になっており、関係調の体系は形式論の土台としても不可欠でした。

詳細

平行調の見つけ方

長調の主音から短3度下(半音3つ分下)に降りた音が、平行短調の主音です。ハ長調(ド)なら短3度下のラが主音のイ短調、ト長調(ソ)ならホ短調、というふうに機械的に求められます。逆に短調から見れば、短3度上が平行長調です。両者は長音階と自然短音階が同じ7音の「出発点違い」であるという関係にあり、五度圏の図では、外周の長調と内周の短調が同じ位置に並べて描かれます。調号から調を判定するとき「♯1つはト長調かホ短調」のように候補が常に2つ挙がるのは、この平行調ペアが調号を共有しているからです。

関係調の地図

ある調の関係調は、伝統的に次の5つと数えます。ハ長調を例にすると、(1) 平行調のイ短調、(2) 属調のト長調(完全5度上)、(3) 下属調のヘ長調(完全5度下)、(4) 属調の平行調のホ短調、(5) 下属調の平行調のニ短調です。これに同じ主音を持つ同主調(ハ短調)を加えて近親調とする流儀もあります。属調・下属調は調号が1つしか違わないため6音を共有し、平行調は7音すべてを共有する — つまり関係調とは「共有する音・和音が多い順に並べた調のご近所リスト」なのです。

上段: 長調 / 下段: その平行短調(調号を共有)ヘ長調下属調 ・ ♭1つハ長調主調 ・ 調号なしト長調属調 ・ ♯1つニ短調下属調の平行調イ短調平行調 ・ 調号なしホ短調属調の平行調5度上5度上ハ短調同主調 ・ ♭3つ ・ 主音を共有
ハ長調から見た関係調の地図 — 調号の差が小さいほど近い親族。平行調は調号が同じ最も近い隣人

平行調同士の行き来 — 転調の入り口

平行調ペアは全音を共有するため、ダイアトニックコードもほぼ共通です。ハ長調の Am・Dm・Em はそのままイ短調の主要和音でもあり、どの和音を経由しても両者を橋渡しできます。実際、ポップスでは「Aメロは切ないイ短調、サビで明るいハ長調に開ける」といった平行調間の転調(あるいは重心の移動)が頻繁に使われます。共通和音を蝶番にして滑らかに移る手法はピボットコードによる転調と呼ばれ、平行調はその最も成功しやすい行き先です。両者の違いを決定づけるのは、短調側の属和音への進行(イ短調なら E7→Am)が現れるかどうかで、導音(ソ♯)の出現がイ短調の重心を確定させます。

実務での使いどころと落とし穴

作曲・編曲では、関係調の地図は「セクションごとに景色を変えたいが、迷子にはさせたくない」ときの行き先リストとして機能します。分析では、♯・♭の一時的な増減を見て「属調に寄った」「平行調に落ちた」と読み取るのが定石です。落とし穴は2つあります。第1に、平行調は音の集合が同じなので、楽譜や使用音だけを見て「ハ長調かイ短調か」を機械的に判定できないこと。終止する音・終止形・導音の有無から重心を聴き取る必要があります。第2に、冒頭で触れた用語のねじれです。「平行調=parallel key」と英訳してしまう誤りは非常に多く、relative key(平行調)と parallel key(同主調)の対応は意識して覚えておく価値があります。