調性●●○○○

調

Keyちょう

ひとつの音を中心(主音)として音階と和音を組織する重力場のような枠組み

概要

調(キー)とは、ひとつの音を中心(主音)に据えて、音階和音を組織する枠組みのことです。「ハ長調」なら、ドを主音とする長音階の音たちで曲が作られ、すべての音がドに引き寄せられるように振る舞います。よく「重力場」にたとえられるのはこのためで、曲の中のどの音・どの和音も、主音からの距離に応じた安定感や緊張感を帯びます。

音階が「使う音の品揃え」だとすれば、調はその品揃えが実際の楽曲の中で働くときの力学まで含めた概念です。同じ7つの音を使っていても、どの音を中心と感じさせるかで曲の重心は変わります。ポップスで「この曲のキーは何?」と聞くときも、カラオケでキーを上げ下げするときも、動かしているのはこの重力の中心です。

調は音楽理論の交差点のような語彙で、コード進行の分析も、終止形の効果も、五度圏による転調の地図も、すべて「いまどの調にいるか」を前提に語られます。

なぜ生まれたか

長調・短調という2つの調に整理される以前、ヨーロッパの音楽は教会旋法と呼ばれる複数の音階システム(ドリア旋法、リディア旋法など)で書かれていました。旋法ごとに音の並びと性格が異なり、単旋律の聖歌にはこの多様さがよく合っていたのですが、複数の声部を重ねて和音の響きで音楽を組み立てる書法が発達すると、事情が変わってきます。フレーズの終わりで「終わった」と感じさせるには主音へ半音下から寄りかかる導音が必要で、作曲家たちは旋法の音を臨時に半音上げる操作を繰り返すようになりました。

その結果、17世紀ごろまでに多くの旋法が実質的に同じ形へと収斂していきます。導音を持ち、主音と属音(主音の完全五度上の音)の引力がはっきり働く長音階と短音階の2つだけが、和音の緊張と解決で音楽を推進する様式に最も適していたからです。こうして「12の主音 × 長・短」の24の調というシステムが確立し、以後300年以上にわたって西洋音楽の共通基盤になりました。調とは、和声の時代が旋法の多様さを2つの型に絞り込んだ、いわば淘汰の産物なのです。

詳細

主音を頂点とする役割の階層

調の内部では、音階の各音(音度といいます)が役割を持ちます。中心となる第1音が主音(トニック)、その完全五度上の第5音が属音(ドミナント)、完全五度下の第4音が下属音(サブドミナント)です。とくに重要なのが第7音の導音で、主音の半音下に位置し、主音へ「解決したがる」強い引力を持ちます。ハ長調でシの音を聴くとドに進んでほしくなる、あの感覚です。各音度の上に築かれる和音も同じ役割を引き継ぎ、これがコード進行の機能(トニック・サブドミナント・ドミナント)の土台になります。

長調と短調、そして調号

同じ主音でも、長音階に基づけば長調、短音階に基づけば短調になり、一般に長調は明るく、短調は暗く陰影のある性格と言われます。楽譜の冒頭に書かれる♯や♭の集まりが調号で、「この曲はこの調の音を使います」という宣言にあたります。ハ長調は調号なし、ト長調は♯1つ、ヘ長調は♭1つ、というように、調が変わると調号の数が規則的に増減します。この規則性を円環に並べて可視化したのが五度圏です。

近親調 — 調どうしの遠近

調と調のあいだには「近い・遠い」の関係があります。共通する音が多いほど近い調で、代表的な近親調は次の4つです。

ハ長調主音ド・調号なしト長調(属調)五度上・♯1つヘ長調(下属調)五度下・♭1つイ短調(平行調)同じ7音・主音だけ違うハ短調(同主調)同じ主音・音階が違う共通音6つ共通音6つ
ハ長調を中心とした近親調の関係

属調(五度上の調)と下属調(五度下の調)は音がひとつしか違わず、平行調(同じ調号の長調と短調のペア)にいたっては使う7音が完全に同じで、主音の置き場所だけが異なります。同主調(同じ主音の長調と短調)は主音を共有するぶん、音階の中身は3音違います。近い調ほど行き来が滑らかで、この遠近感を全12調ぶん一望できるのが五度圏です。

転調 — 重力の中心を引っ越す

曲の途中で調を変えることを転調といいます。近親調への転調は共通の音や和音を橋渡しに使えるため自然につながり、遠い調への転調は聴き手を驚かせる劇的な効果を生みます。J-POPで最後のサビが半音上がる「半音上転調」は、あえて共通音の少ない隣へ跳ぶことで高揚感を演出する手法です。転調を成立させる鍵は、新しい調の終止形をしっかり聴かせて「重力の中心が移った」と感じさせることにあります。

調性感はどこから来るか

聴き手が調を感じ取る手がかりは、絶対的な音高ではなく音どうしの関係です。だからこそ曲全体を移調(すべての音を同じ音程だけ平行移動)しても曲の同一性は保たれ、カラオケのキー変更が成立します。一方、20世紀には調の重力から離れる無調の音楽や、特定の中心を持たない書法も追求されました。それらが「調性からの逸脱」として語られること自体が、調というシステムがいかに深く音楽の聴き方の基盤になっているかを物語っています。