和音
Chord ・ わおん
高さの違う音を同時に重ねた響き。三和音を基本単位とする和声の部品
✦ 30秒で試す — 航海「C」と書かれた和音、弾き方は何百通りもあるこの和音の名前の土台(根音)はどの音?予想してみる概要
和音(コード)とは、高さの違う複数の音を同時に鳴らしたときの響きのまとまりです。旋律が音を「横に」並べていくのに対し、和音は音を「縦に」重ねます。ポップスの譜面に書かれた「C」「Am」「G7」といったコードネームは、すべて特定の音の束に付けられた名前です。
大切なのは、名前が指しているのは「どの音を使うか」という材料の集合であって、「どの高さに・何回・どんな順で並べるか」ではないという点です。ド・ミ・ソを団子状に弾いても、ミを一番上に離して弾いても、ドを2つ重ねても、名前は同じ C です。材料の型の代表は、3度ずつ積んだ3音の三和音で、そこから七の和音やテンションへ広がっていきます。和音は単独でも響きの色を決めますが、真価を発揮するのは連結されたときで、コード進行や終止形へと続く和声の世界の入り口になります。
なぜ生まれたか
中世からルネサンスの多声音楽では、音楽は何本もの旋律線を横に紡ぐものと考えられていました。その理論である対位法は「2つの声部がどんな音程でぶつかるか」を1組ずつ扱う技術で、同時に鳴る3つ4つの音をひとまとまりとして呼ぶ言葉はまだありませんでした。
転機は1600年頃のバロックの始まりです。旋律を1本の歌に任せ、その下を低音と和音の伴奏で支える書法が広まり、作曲家は低音の音符に数字を添えて「この上にこういう響きを弾け」と指示するようになりました。これが数字付き低音(通奏低音)です。鍵盤奏者やリュート奏者は、声部の細部ではなく「響きのまとまり」を毎拍ごとに即興で組み立てる必要があり、ここで縦の音の束が実践上の単位になりました。18世紀にはラモーが、どう並べても同じ束は同じ和音だと見なす「根音」の考え方で理論を整え(詳しくは三和音)、20世紀のコードネームは「材料だけを指定して並べ方は奏者に任せる」という通奏低音の精神をさらに身軽にした記法になりました。
詳細
音の束に名前が付く仕組み
どんなに散らばった音の束でも、名前を付ける手順は同じです。まず高さの違いを無視して「どの音名が含まれているか」だけを取り出します(ド3とド4はどちらも「ド」)。次に、その音名を3度ずつの積み重ねに並べ直せるかを探します。ミ・ソ・ドなら ド–ミ–ソ に並べ直せるので、いちばん下に来たドが根音、種類は長三和音、つまり C です。4音なら ド–ミ–ソ–シ♭ のように3度をもう1段積んだ七の和音になります。
並べ直した結果の根音と、実際にいちばん低く鳴っている音(最低音)が違うこともあります。ミ・ソ・ドの最低音はミなので、これは C の転回形で、コードネームでは最低音を添えて C/E と書きます(分数コード)。どう並べても3度の積み重ねにならない束(ド・レ・ミを同時に押すなど)は、名前の付かない音の塊として扱われます。
配置 — 密集と開離
同じ構成音でも、音の間隔の取り方で響きの手触りは大きく変わります。構成音どうしの間に別の構成音が入る隙間がないように詰めた並べ方を密集配置、1オクターブ以上に広げて隙間を空けた並べ方を開離配置と呼びます。密集配置は輪郭がはっきりして固くまとまった響き、開離配置は各音が分離して聞こえる、広く柔らかな響きになります。合唱やオーケストラで開離配置が好まれるのは、声部どうしがぶつからず、それぞれの線が聞き取りやすいからです。
重複と省略
和音の構成音の数と、実際に鳴らす音の数は一致しなくてかまいません。4人で歌う合唱が三和音を歌えば、どれか1音を2人が受け持つ(重複する)ことになります。伝統的な和声では、響きの土台である根音を重複するのが最も安定し、第3音の重複は響きが偏るので控えめにする、というのが目安です。とくに長調の導音(ハ長調のシ)は強く主音へ向かいたがる音なので、重複すると2つの声部が同じ解決先へ進んで禁則(声部連結の並行8度)を生みやすくなります。
逆に、音を減らす省略もあります。4音の七の和音を3本の指や3つの声部で鳴らすとき、真っ先に省かれるのは第5音です。第5音は根音と完全5度で溶け合うため、抜いても和音の性格がほとんど変わらないからです。一方、長短を決める第3音と、和音の種類を決める第7音は省けません。ジャズピアノで左手が根音・3度・7度だけを押さえる「シェル・ボイシング」は、この考え方を突き詰めた形です。
鍵盤で自由に音を押して、どんな束にどんな名前が付くかを確かめてみてください。「配置を広げる」で音の間隔を変えたり、同じ音をオクターブ違いで重ねたりしても、名前が変わらないことが分かります。
鍵盤を押すと音が足されたり外れたりして、束ごと鳴ります。まずは下のボタンの「ミ・ソ・ド」を押して、並び順が違っても名前がC のままになることを確かめてください。
ボイシング — 名前の外側で響きを決める
構成音・配置・重複・省略をどう選ぶかを、まとめてボイシングと呼びます。コードネームが同じでも、ボイシング次第で曲の印象は大きく変わります。実務でよく使われる目安がいくつかあります。1つ目は「低音域では間隔を広く、高音域では狭く」。低い音域で3度のような狭い音程を重ねると、倍音どうしが干渉して濁った響きになるため、ピアノの左手は根音と5度やオクターブで広く取り、3度や7度は中音域に置くのが定石です。これは倍音列自体が「下は広く、上ほど狭い」並びになっていることと対応しています。
2つ目は「前の和音とのつながりで選ぶ」ことです。和音は単独で鳴るより連続して鳴ることがほとんどなので、次の和音へ各声部が最短距離で動けるように配置を選ぶと、響きが滑らかにつながります(声部連結)。C から F へ進むとき、C を ド・ミ・ソ ではなく ソ・ド・ミ で弾いておけば、ドはそのまま残り、ミはファへ、ソはラへ半音・全音で移るだけで済みます。3つ目は楽器の都合です。ギターは6本の弦と指の届く範囲で押さえられる形しか弾けず、ブラスセクションは各楽器の得意な音域に音を割り振る必要があります。どの楽器でも「名前は同じでも、実際にどの音をどこに置くか」を決める作業が編曲の中心になります。
ボイシングの選択肢は、7度より上にテンションを積むと一気に広がります。5度を省いて9度を足す、根音をベースに任せて右手は3度・7度・9度だけを弾く、といった工夫は、限られた指の数で和音の色を最大にするための技術です。
和音から和声へ
実際の曲で使われる和音は、でたらめに選ばれるわけではありません。音階の各音を根音にして音階内の音だけで3度を積むと、その調の基本セットであるダイアトニックコードが得られます。長音階からは長三和音3つ(I・IV・V)、短三和音3つ(ii・iii・vi)、減三和音1つ(vii°)が生まれます。主音上の I は「家」のような安定、V は家に帰りたがる緊張、というように、各和音は調の中での位置に応じた役割(機能和声の「機能」)を持ちます。
和音を学ぶ順序として大切なのは、まず長・短・減・増の三和音の響きの違いを耳で区別できるようになり、次にどんな並び方をされても構成音から名前を見抜けるようになることです。そこまで来れば、コード進行と終止形という「和音の文法」へ進んで、なぜあの曲のサビで胸が高鳴るのかを理論の言葉で説明できるようになります。
試問
鍵盤でド・ミ・ソ(C の和音)が押された状態から始まります。鍵盤を押すと音が足され、もう一度押すと外れます(同時に6音まで)。画面には和音の名前と、押している音の数・いちばん低い音から高い音までの広がりが出ます。
鍵盤を押すと音が足されたり外れたりして、束ごと鳴ります。まずは下のボタンの「ミ・ソ・ド」を押して、並び順が違っても名前がC のままになることを確かめてください。
