和声●●○○○

三和音

Triadさんわおん

3度を2つ重ねた3音の和音。長・短・増・減の4種が和声の基本部品

概要

三和音(トライアド)とは、ある音の上に3度の音程を2回積み重ねてできる3音の和音です。土台となる音を根音(ルート)、その3度上を第3音、さらに3度上(根音から見て5度)を第5音と呼びます。「ド・ミ・ソ」がその代表例で、ピアノの鍵盤で白鍵を1つおきに3つ押さえた形だと考えれば分かりやすいでしょう。

三和音は西洋の和声の最小単位であり、いわば「和音のアルファベット」です。ポップスのコード譜に並ぶ C や Am といったコードネームの多くは三和音かその拡張ですし、クラシックの和声学も三和音の分類と連結から始まります。積み重ねる3度の種類(長3度か短3度か)の組み合わせによって、長・短・増・減の4種類に分類され、この4種がすべての和声の基本部品になります。

なぜ生まれたか

中世ヨーロッパの多声音楽では、協和音程として認められていたのは完全5度や完全4度が中心で、3度はまだ「濁った音程」とみなされていました。しかし14〜15世紀にかけて、イングランドの音楽などを通じて3度の甘く豊かな響きが受け入れられ、声部が3つ以上重なる音楽の中で「3度+5度」の組み合わせが響きの単位として頻出するようになります。それでも当時の理論は音程(2音の関係)の積み重ねとして音楽を説明しており、3音のかたまりを1つの実体として扱う概念がなかったため、「ド・ミ・ソ」と「ミ・ソ・ド」が同じものの並べ替えだという単純な事実すら、うまく説明できませんでした。

これを解決したのが17〜18世紀の理論家たち、決定的にはラモーの『和声論』(1722年)です。ラモーは「和音は根音の上に3度を積んだもので、音の並べ替え(転回)をしても同じ和音である」という視点を打ち出しました。何十通りもあった音の重なりが「根音+種類」というわずかな情報に圧縮され、和音同士のつながり(コード進行)を根音の動きとして分析する道が開けたのです。現代のコードネームも和音記号による分析も、この「三和音を単位とする」発想の直系の子孫です。

詳細

4つの種類 — 3度の組み合わせがすべて

三和音の種類は、下の3度と上の3度がそれぞれ長3度(半音4個分)か短3度(半音3個分)かで決まります。長3度+短3度なら長三和音(メジャー、例: ド・ミ・ソ)、短3度+長3度なら短三和音(マイナー、例: ラ・ド・ミ)です。この2つは外枠が完全5度(半音7個)になり、安定した響きを持ちます。一方、長3度+長3度の増三和音(オーグメント)は外枠が増5度(半音8個)に広がって行き場を探すような浮遊感を持ち、短3度+短3度の減三和音(ディミニッシュ)は外枠が減5度(半音6個)に縮んで不安定な緊張を帯びます。明るい・暗い・不思議・切迫 — 4種類の性格の違いは、すべてこの半音数の組み合わせから生まれています。

長三和音短三和音増三和音減三和音C ド・ミ・ソCm ド・ミ♭・ソCaug ド・ミ・ソ♯Cdim ド・ミ♭・ソ♭第5音 ソ第3音 ミ根音 ド短3度 +3長3度 +4第5音 ソ第3音 ミ♭根音 ド長3度 +4短3度 +3第5音 ソ♯第3音 ミ根音 ド長3度 +4長3度 +4第5音 ソ♭第3音 ミ♭根音 ド長3度 +4短3度 +3外枠は完全5度・安定外枠は完全5度・安定外枠は増5度・浮遊外枠は減5度・緊張
三和音の4種類 — 積む3度の組み合わせ(+数字は半音の数)。外枠が完全5度になる長・短が安定、増・減は不安定

響きの安定感はどこから来るか

長三和音がとりわけ安定して聞こえることには物理的な裏づけがあります。1つの音を鳴らすと、その整数倍の高さの倍音が同時に鳴っていますが、第4・5・6倍音の高さの関係(周波数比 4:5:6)は、まさに長三和音の根音・第3音・第5音の関係と一致します。つまり長三和音は、自然界の1つの音の中にすでに含まれている響きを取り出したような和音なのです。協和と不協和の感覚がこの周波数比の単純さと結びついていることを踏まえると、長・短三和音が「安定した響きの単位」として選ばれたのは偶然ではありません。逆に増・減三和音の不安定さは欠点ではなく、次の和音へ進みたがるエネルギーとして、和声に推進力を与える役割を担います。

音階の上に立てる — ダイアトニックの三和音

三和音の実用上の出発点は、音階の各音の上に音階内の音だけで3度を積むことです。長音階の7つの音それぞれを根音にすると、長三和音が3つ(I・IV・V)、短三和音が3つ(ii・iii・vi)、減三和音が1つ(vii)できます。これがその調のダイアトニックコードであり、「ハ長調の曲で C・F・G・Am がよく出てくる」のはこの仕組みの帰結です。どの度数にどの種類の三和音が立つかというパターンは全ての長調で共通なので、一度理解すればすべての調に持ち運べます。各三和音が担う安定・準備・緊張といった役割の体系は機能和声として整理されています。

転回形 — 積み替えても同じ和音

「ド・ミ・ソ」を「ミ・ソ・ド」や「ソ・ド・ミ」に積み替えても、和音としては同じ C の三和音です。最低音が根音でなくなったこれらの形は転回形と呼ばれ、根音が最低音の基本形、第3音が最低音の第1転回形、第5音が最低音の第2転回形の3通りがあります。転回形はベースラインをなめらかにつなぐための道具で、和音の機能はおおむね保ちながら響きの重心だけを変えられます。実際の楽曲で三和音が常に「団子状」に積まれているわけではなく、オクターブをまたいで音を散らした配置(開離配置)も普通に使われます。どんな配置でも「根音は何か・種類は何か」を見抜けることが、和声を読む基礎体力になります。

実務での使いどころと落とし穴

作曲や編曲の現場では、三和音はまず「骨格」として使われます。メロディに対してダイアトニックの三和音を割り当てるだけで曲の背骨ができ、そこにセブンスコードテンションを足して色付けしていくのが典型的な手順です。落とし穴としてよくあるのは、増・減三和音を「使ってはいけない不気味な和音」と敬遠してしまうことです。減三和音はドミナントの響きの中核(V7 の上部3音)として頻出しますし、増三和音も経過的な半音の動きの中で自然に現れます。もう1つは、コードネームの C と Cm の違いを「雰囲気の違い」とだけ覚えて、第3音が半音違うだけだという構造を見ないことです。4種類の違いを半音数で正確に把握しておくと、セブンスコード以降の複雑な和音も「三和音+追加の3度」として整理でき、暗記量が激減します。