音と音程●○○○○

半音と全音

Semitone & Whole Toneはんおんとぜんおん

オクターブを12等分した最小の隣接音程が半音。その2つ分が全音

概要

半音とは、西洋音楽の音の体系における「隣の音までの最小の距離」です。ピアノの鍵盤でいえば、白鍵・黒鍵を問わず、すぐ隣の鍵までの音程が半音にあたります。ドからド♯へ、ミからファへ、シからドへ — これらはすべて半音1つ分です。そして半音2つ分の距離が全音です。ドからレへ、ファからソへ進むときは、間に黒鍵を1つ飛び越えているので全音になります。

1オクターブの中には半音がちょうど12個収まっており、現代の標準的な調律ではこの12個が均等な幅になっています。半音と全音は、いわば音の世界の「センチとメートル」のような基本単位です。ドレミの並びが「全音・全音・半音…」というパターンでできていることからわかるように、あらゆる音階や和音の構造は、突き詰めれば半音と全音の並べ方として記述できます。この2つの単位を押さえることが、音楽理論の語彙を読み解く最初の鍵になります。

なぜ生まれたか

半音は「オクターブを12等分しよう」と決めて生まれたものではありません。順序は逆で、まずドレミのような7音の音階が先にありました。古代ギリシャ以来の音階を音程の観点で調べると、隣り合う音の間隔には広いもの(全音)と狭いもの(半音)の2種類があり、狭い方がおよそ広い方の半分だったため「半分の音 = 半音」と呼ばれるようになったのです。ミとファ、シとドの間だけが狭いという不均等さこそが、音階に位置の感覚と方向性を与えていました。

やがて音楽が発展すると、7音の間を埋める音 — ド♯やミ♭など — が転調や装飾のために必要になり、オクターブは実用上12の半音で埋め尽くされます。しかし単純な音律ではこの12個の半音の幅が場所によって微妙に異なり、遠い調へ移ると響きが破綻するという問題を抱えていました。最終的に平均律がオクターブを数学的に12等分することで、半音は「どこでも同じ幅の均一な単位」となり、すべての調を平等に行き来できる現代の音楽の基盤が完成したのです。

詳細

鍵盤の上の半音と全音

半音・全音の配置は、鍵盤を見るのがいちばん確実です。1オクターブには白鍵7つと黒鍵5つ、合わせて12の鍵があり、隣り合う鍵の間隔がすべて半音です。黒鍵は白鍵の間に均等に置かれているのではなく、「2つ組」と「3つ組」に分かれて配置されています。黒鍵がない場所 — ミとファの間、シとドの間 — では白鍵どうしが直接隣り合うため、白鍵から白鍵へ進んでも半音になります。ここが初心者が最もつまずく地点です。「白鍵どうしは全音」という思い込みは、この2か所で裏切られます。

ファド♯レ♯ファ♯ソ♯ラ♯半音半音全音 = 半音2つ分白鍵7個 + 黒鍵5個 = 12。隣の鍵へ進むのが半音、鍵を1つ飛び越えるのが全音
1オクターブの鍵盤 — 隣の鍵までがすべて半音。黒鍵のないミ・ファ間とシ・ド間だけは白鍵どうしで半音になる

音階の設計図としての全音・半音

ドレミファソラシドを半音の数で書くと「2・2・1・2・2・2・1」、つまり「全・全・半・全・全・全・半」となります。音階の性格はこのパターンで決まっており、同じパターンをどの音から始めても長音階が作れます。ソから始めれば途中でファ♯が必要になるように、パターンを保つために黒鍵の音が呼び出され、それを楽譜上で示す記号が変化記号(♯・♭)です。半音の位置がミ・ファ間とシ・ド間にあることは、旋律に「導かれる感じ」— シからドへ引き寄せられる重力のような感覚 — を生み出します。半音は単なる距離の単位ではなく、音楽の方向性を作る仕掛けでもあるのです。

12音すべてを使う — 半音階

半音を単位に12音すべてを順に並べたものが半音階(クロマチックスケール)です。特定の音階に属さない音へも半音単位で自由にアクセスできるため、装飾や経過音、調から調への移動に使われます。ここで注意したいのが表記の問題です。ドの半音上は「ド♯」とも「レ♭」とも書け、平均律の上ではまったく同じ高さになります。この「名前は違うが音は同じ」関係を異名同音と呼びます。理論上は、同じ音名内で変化する半音(ド→ド♯、半音階的半音)と、隣の音名へ進む半音(ド→レ♭、全音階的半音)を文脈で使い分けるのが正しい記譜とされます。

半音より細かい世界と、単位としての限界

半音は西洋の12音体系における最小単位ですが、音の高さそのものは連続的なので、半音より細かい音程も当然存在します。精密な議論では半音をさらに100等分したセントという単位が使われ、1オクターブは1200セントになります。チューナーの表示や音律の比較はセントで語られます。また、半音の半分(クォータートーン)などを意図的に使う音楽もあり、これは微分音と呼ばれます。アラブ音楽の音組織や現代音楽、ギターのチョーキングやボーカルのしゃくり上げのような表現も、半音の網の目からこぼれる連続的な音高の世界です。半音は音楽を扱いやすくする離散化の単位であって、音の高さの物理的な最小単位ではない — この区別を意識しておくと、平均律以外の音律や他文化の音楽を学ぶときに見通しがよくなります。