音と音程●●●○○

平均律

Equal Temperamentへいきんりつ

オクターブを対数的に12等分し、全調を平等にした現代標準の音律

概要

平均律(十二平均律)とは、オクターブを周波数比で12等分し、隣り合うどの半音も同じ比率になるように音の高さを定めた音律です。半音1つ分の比率は「2の12乗根」=約1.0595倍。この比率を12回掛けるとちょうど2倍、つまり1オクターブ上に戻ります。ピアノの調律も、ギターのフレット位置も、シンセサイザーの音源も、現代の楽器のほとんどはこの平均律を前提に作られています。

平均律の最大の特長は、12個ある半音がすべて完全に同じ大きさであることです。どの音から音階を始めても音程の関係が寸分たがわず同じになるため、すべての調が完全に平等になり、どの調からどの調へも自由に移動できます。ただしこれは「どの調も等しく美しい」音律であると同時に、「どの調も等しく、純正な響きから少しずつずれている」音律でもあります。この妥協の設計こそが平均律を理解する鍵です。

なぜ生まれたか

音の協和は単純な整数比の音程(純正音程)から生まれますが、純正な音程だけで12音を組み立てようとすると、必ずどこかで計算が合いません。純正な完全5度を12回積み重ねてもオクターブの整数倍にぴったり戻らず、コンマと呼ばれる小さな誤差が残るのです。ピタゴラス音律中全音律は、この誤差を特定の場所に押し込める設計でした。よく使う調は美しく響く代わりに、しわ寄せを受けた場所にはウルフの五度というひどく濁った音程が生じ、遠い調へは事実上転調できませんでした。1音につき1つの鍵しか持てない鍵盤楽器にとって、これは深刻な制約でした。

平均律の発想は、この誤差をどこか1か所に押し込めるのではなく、「12個の五度すべてに均等に薄く散らしてしまう」というものです。各五度を約2セント(半音の50分の1)ずつ狭めるだけで誤差は消え、破綻した音程はどこにもなくなります。数学的には中国・明の朱載堉が1584年に、西洋ではほぼ同時期にシモン・ステヴィンが「2の12乗根」による分割を算出していました。ただし実際の普及はずっと遅く、調ごとの個性を残したウェル・テンペラメントの時代を経て、19世紀にピアノの大量生産と自由な転調を求めるロマン派の音楽が広まるなかで、平均律が標準の座を得ました。

詳細

仕組み — 足し算ではなく掛け算で12等分する

平均律の「等分」は周波数の引き算ではなく、比率(対数)の等分です。音程の知覚は周波数の比で決まるため、半音を全部同じ「広さ」にするには、半音ごとに同じ数を足すのではなく同じ数を掛ける必要があります。1オクターブ=2倍を12回の掛け算で作るので、半音1つは 2 の 12乗根(約1.05946)倍。この対数的なものさしを整備したのがセントで、平均律の半音はちょうど100セント、オクターブは1200セント、完全5度は700セントと、きれいな整数になります。無理数の比率でありながら、セントで見るとこれ以上ない規則性を持つ体系です。

純正な響きからのずれ

代償は、オクターブ以外のすべての音程が純正な整数比から外れることです。ずれの大きさは音程によってまちまちで、完全5度は純正(比3:2=約702セント)よりわずか2セント狭いだけなのに対し、長3度は純正(比5:4=約386セント)より14セントも広く、短3度は16セント狭くなります。

純正な響きからのずれ(0 が純正、右=広い、左=狭い)−15−10−50+5+10+15ずれ(セント)完全八度±0 唯一の純正音程完全五度−2長三度+14短三度−16
平均律の各音程が純正音程からどれだけずれているか。五度はほぼ無傷だが、三度に大きなしわ寄せがある

5度の2セントはほとんど誰にも聴き取れませんが、3度の14〜16セントは、注意して聴けばはっきり分かるずれです。純正律の澄み切った長3度に比べると、平均律の長3度はわずかにうなりを伴う、少しざらついた響きになります。私たちが普段「ハモっている」と感じているピアノの和音は、実は全部ほんの少しだけ濁っている、というのが平均律の隠れた事実です。

このずれが実際にどう聴こえるかは、次の部品で音律を切り替えながら同じ音程を鳴らして確かめられます。

⚡ 体験: 音律で変わる響きを聴き比べる基音 220 Hz
音程
音律
周波数 220 Hz + 275.0 Hz(比 5:4広さ 386.3セント — 純正比そのものうなり なし(倍音が一致)
0秒1秒重なる倍音(基音の5倍音 1100 Hz と 上音の4倍音 1100.0 Hz)の合成音量

まず純正律の長三度を鳴らし、次に12平均律に切り替えてもう一度。同じ長三度でも、響きの澄み方が違います。

何を得て、何を失ったか

平均律が音楽にもたらしたものは計り知れません。すべての調が同一の構造を持つため、転調移調は完全に自由になり、五度圏は端のない円環として閉じました。ソ♯とラ♭のような異名同音が物理的に同じ高さになったことで、綴りを読み替えて遠隔調へ滑り込む異名同音転調が可能になり、ロマン派の半音階的和声から、12音を完全に対等に扱う20世紀の音楽までの道が開かれました。

一方で失われたのは、調ごとの響きの個性です。ウェル・テンペラメントの時代には調ごとに音程の配合が異なり、「ハ長調は素朴、変ホ長調は荘厳」といった調性格の感覚が実際の音響に根ざしていました。平均律ではどの調も完全に同じ響きになります。なお、バッハの《平均律クラヴィーア曲集》は原題が「よく調律された(wohltemperirt)」であり、現在の研究では十二平均律ではなくウェル・テンペラメントを指すと考えられています。「平均律」という日本語の定訳が生んだ有名な誤解です。

実務での姿

平均律は「鍵盤・フレット楽器の妥協解」であって、すべての演奏の実態ではありません。合唱や弦楽四重奏など音高を連続的に作れる編成では、奏者は和音が澄むよう無意識に純正方向へ音程を寄せます。ピアノの調律も理論値そのままではなく、弦の物理的性質(インハーモニシティ)のためオクターブをわずかに広げて張る「ストレッチ」が施されます。また、オクターブの12等分はあくまで選択肢の1つであり、19等分や31等分など別の等分律や、12音の外側の微分音を探求する音楽も存在します。平均律は「自由な転調」と「響きの純度」のトレードオフにおいて、前者を最大化した1つの設計解——そう捉えると、音律の系譜全体の中での位置づけがよく見えてきます。