中全音律
Meantone Temperament ・ ちゅうぜんおんりつ
三度を美しくするため五度を少しずつ狭めた音律。ルネサンス鍵盤楽器の標準
✦ 30秒で試す — 航海三度を澄ませるために、五度をわざと少しずつ狂わせるこのオルガンで、♯や♭の多い遠い調の和音を弾くと?予想してみる概要
中全音律(ミーントーン)とは、長三度を純正な響きにするために、五度をほんの少しずつ狭めて調律する音律です。純正律の美しい三度を鍵盤楽器の上で実現するための実用的な妥協案として生まれ、16世紀から17世紀のオルガンやチェンバロの事実上の標準調律として、ルネサンスとバロック前期の音楽を支えました。
名前の由来は「全音の中間(mean tone)」です。純正律には 9/8 の大全音と 10/9 の小全音という2種類の全音がありましたが、中全音律ではそのちょうど中間の1種類に統一します。これにより純正律の不均等さが解消され、どの音から弾いても全音は同じ幅になります。そして2つの全音を重ねてできる長三度は、純正な 5:4 の比にぴったり一致するのです。
代償は五度です。1つ1つの五度は純正よりわずかに狭いだけでほとんど気になりませんが、狭めた分の誤差は逃げ場を失い、12鍵で輪を閉じる最後の1箇所に、極端に広いウルフの五度として集中します。美しい三度と引き換えに使える調が限られる — この明快なトレードオフが中全音律の性格です。
なぜ生まれたか
15〜16世紀、三度を含む三和音のハーモニーが音楽の中心になると、長三度が 64:81 と濁るピタゴラス音律は鍵盤楽器の調律として具合が悪くなりました。かといって理想の純正律をそのまま鍵盤に載せることもできません。純正律は調の内部にすら狭い五度を抱え、少し転調しただけで響きが崩れるため、12個しか鍵のない楽器では実現できなかったのです。
そこで調律師たちは発想を転換しました。「どこかの音程だけを完璧にして他を壊す」のではなく、「五度全体に誤差を薄く塗り広げて、三度を狙い撃ちで純正にする」のです。狙う誤差は、ピタゴラス的な長三度と純正な長三度の差であるシントニック・コンマ(81:80、約21.5セント)。五度1つあたりの狂いは耳でようやく分かる程度に抑えられ、その見返りに主要な調の長三度がすべて純正になります。16世紀初頭には実践されており、1523年のアーロン、1571年のツァルリーノらが理論として記述したこの音律は、以後200年近くにわたり鍵盤楽器の標準であり続けました。
詳細
仕組み — 五度を4分の1コンマずつ狭める
出発点は、五度と三度の間にある数学的な関係です。ドから五度を4回積む(ド→ソ→レ→ラ→ミ)と、2オクターブと長三度上のミに着きますが、純粋な五度 2:3 で積んだこのミは、純正な長三度 5:4 のミよりシントニック・コンマ(約21.5セント)だけ高くなります。そこで4分の1コンマ中全音律では、五度をどれもコンマの4分の1(約5.4セント)ずつ狭めます。4つ積めば狭めた分がちょうどコンマ1個分になり、到達するミは純正な 5:4 の長三度にぴったり収まるのです。五度は約696.6セントとなり、純正な702セントよりわずかに狭いだけで、単独ではほとんど違和感がありません。
大事なのは、狭めるのが「ド〜ミに関わる4つの五度」だけではないことです。12鍵の楽器では、五度圏上で E♭ から G♯ までつながる11個の五度をすべて同じだけ狭めます。どの五度も同じ幅なので、どこから4つ積んでも同じように純正な長三度が得られます。
狭める量を変えると何が起きるかは、次の部品で確かめられます。スライダーを右へ動かすと、五度が狭まるのに合わせて長三度のうなりが4倍の速さで遅くなり、1/4 でぴたりと止まります。その間、五度そのものは少しずつ純正から離れていきます。
「鳴らす」で C–E–G の和音を鳴らし続け、スライダーを右へ動かして5度を少しずつ狭めてください。長3度のうなりがだんだん遅くなり、1/4 でぴたりと止まります。
「中全音」の名の由来と、2種類の半音
この調律の結果、全音(たとえばド〜レ)は五度2回分から1オクターブを引いた音程になり、約193セントの1種類に統一されます。これは純正律の大全音 9/8(約204セント)と小全音 10/9(約182セント)のちょうど中間(幾何平均)、つまり「中ほどの全音」です。全音が1種類になったことで音階の足取りは均質になり、旋律の移調にも(使える範囲内なら)耐えられるようになりました。
一方で半音は2種類に分かれます。ミ〜ファのような全音階的半音(綴りの違う2音の半音)は約117セントと広く、ド〜ド♯のような半音階的半音(同じ幹音に♯を付けた半音)は約76セントと狭いのです。差はおよそ41セント。これがそのまま異名同音の不一致になります。ド♯はドから半音階的半音(約76セント)上、レ♭はドから全音階的半音(約117セント)上にあるので、中全音律ではド♯がレ♭より約41セント低い別の音です。12鍵の楽器はこの2つのどちらか一方しか持てません。
得たもの — 8つの純正な長三度
11個の五度を狭めた結果、E♭・B♭・F・C・G・D・A・E を根音とする8つの長三度が純正な 5:4 になり、ハ長調・ト長調・ヘ長調など中心的な調の三和音は、現代のピアノでは決して聴けない透明な響きを手に入れます。当時の音楽がいかにこの響きを前提にしていたかは、ルネサンス〜バロック前期の作品を中全音律の楽器で聴くとよく分かります。持続音で和音を鳴らすオルガンでは特に効果が大きく、歴史的オルガンの多くが中全音律またはその変種で調律されていました。
失ったもの — ウルフと使えない調
一方、輪を閉じる最後の G♯–E♭ 間は、狭めた11個の五度の反動を一手に引き受け、純正五度より35セント以上も広い約737.6セントのウルフの五度になります。さらに、B–D♯、F♯–A♯、C♯–E♯、G♯–B♯ の4つの長三度は、鍵盤上では実際には減四度(B–E♭、F♯–B♭、C♯–F、G♯–C)として鳴り、純正な長三度より約41セントも広い耐えがたい響きになります。五度圏の上に並べると、得たものと失ったものの配置がひと目で分かります。
結果として快適に使えるのはおよそ♭2個から♯3個までの調に限られ、嬰ハ長調や変イ長調のような遠隔調は事実上立ち入り禁止でした。G♯ と A♭ のどちらを鍵盤に置くかという選択も、この体系では異名同音の問題として現実に効いてきます。この制約を緩和するため、G♯/A♭ などの黒鍵を2つに割った分割鍵盤や、狭め方をコンマの5分の1・6分の1に緩めた変種(ウルフを弱める代わりに三度の純度を少し諦める設計)も使われました。
歴史的な位置づけ
中全音律は「三度の美しさ」と「調の自由」を天秤にかけ、前者に大きく賭けた音律です。バロック後期に入り、組曲や幻想曲が遠い調へ大胆に転調するようになると、この賭けは時代に合わなくなり、コンマを不均等に分散してすべての調を解放するウェル・テンペラメントへ、さらに完全に均等化する平均律へと主役が移っていきます。それでも中全音律は、音律というものが「何を美しくし、何を諦めるかの設計」であることを最も鮮やかに示す実例として、また古楽演奏の現場で今も現役の調律として、重要な位置を占め続けています。
試問
オルガンの和音 C–E–G(ド・ミ・ソ)を鳴らし続けながら、スライダーで5度1つを純正からどれだけ狭めるかを変えられます。画面に見えるのは5度のずれだけで、長3度 C–E がどれだけずれているかは表示されません。長3度は、C→G→D→A→E と5度を4つ積んで作られる音程です。
「鳴らす」で C–E–G の和音が鳴り続けます。スライダーで5度1つを狭める量を変えられます(見えるのは5度のずれだけです)。
