ピタゴラス音律
Pythagorean Tuning ・ ぴたごらすおんりつ
純粋な五度2:3だけを積み上げて12音を作る最古の音律。三度が濁るのが弱点
✦ 30秒で試す — 航海古代ギリシャの音律は、たった1つの比から12の音を作った12回積んだ音は、上のオクターブのドと比べてどうなる?予想してみる概要
ピタゴラス音律とは、周波数比3:2の純正な完全五度だけをひたすら積み上げて12音を作る、記録に残る最古の音律です。名前は古代ギリシャのピタゴラス学派に由来し、弦の長さを2:3に分けると美しく響く五度が得られるという発見が出発点にあります。使う材料はオクターブの2:1と五度の3:2というたった2つの比だけ。この潔さゆえに、五度と四度は完璧に澄んだ響きになります。
同じ原理は西洋だけのものではありません。古代中国でも「三分損益法」——弦の長さを3分の1ずつ切り詰めたり継ぎ足したりして音を得る方法——として独立に発見されており、五度を積むという発想が音の物理に根ざした普遍的なものであることを物語っています。西洋音楽では中世を通じて標準の音律であり続け、五度圏という発想の原型も、この「五度の連鎖で音を生む」体系にさかのぼります。
なぜ生まれたか
音楽をするには、まず「どの高さの音を使うか」を決めなければなりません。しかし基準になるものが何もない時代に、音の高さを再現可能な形で定義するのは難題でした。ピタゴラス学派の答えは、耳ではなく数に基準を置くことです。一弦琴(モノコード)の弦を単純な整数比で分割すると、2:1でオクターブ、3:2で五度、4:3で四度という、誰の耳にも明確に協和する音程が得られます。オクターブと五度の2つの比さえあれば、あとは機械的な操作の繰り返しですべての音を導出できる——音の体系を測定と計算で再現可能にした、いわば音楽の公理化がピタゴラス音律でした。
実際、ドから五度を積んでソ・レ・ラ・ミ・シを得て、下へ1つ積んだファを加えれば、オクターブ内に折り返すだけで7音の音階が完成します。旋律中心だった中世の聖歌や、五度・四度の平行で歌うオルガヌム(初期の多声音楽)にとって、五度が完璧に澄むこの音律はまさに理想の答えだったのです。
詳細
生成の仕組み — 五度を積み、オクターブ内へ折り返す
作り方は単純です。基準の音に3/2を掛けて五度上の音を作り、オクターブを超えたら2で割って元のオクターブ内に戻す。これを繰り返すだけです。ドを1とすると、ソは3/2、レは五度2回分の9/4を折り返して9/8、ラは27/16、ミは81/64、シは243/128となります。こうしてできる音階の全音は9:8(約204セント)で、すべての全音が同じ幅になります。一方、半音には2種類の幅が生じます。ミとファの間のような全音階的半音はリンマ(256:243、約90セント)と呼ばれる狭い半音、ファとファ♯のような半音階的半音はアポトメ(約114セント)と呼ばれる広い半音で、平均律のような均一な100セントの半音は存在しません。
弱点その1 — 三度が濁る
ピタゴラス音律の最大の弱点は長三度です。五度を4回積んで折り返した長三度は81:64(約408セント)となり、倍音列に由来する純正な長三度5:4(約386セント)より約22セントも広くなります。この差 81:80 はシントニック・コンマと呼ばれ、半音の5分の1を超えるはっきり聴き取れるずれです。旋律や五度の平行が中心だった中世には問題になりませんでしたが、三度を含む三和音が音楽の中心になると、この濁った三度は致命的な欠点になりました。三度の純正さを取り戻すために生まれたのが純正律や中全音律であり、音律の歴史はここから動き出します。
弱点その2 — 円が閉じない
もう1つの弱点は図に示したとおりです。五度を12回積めば12音がすべて出そろい、ちょうど7オクターブ上の出発音に戻ってほしいところですが、実際には約23.5セント(ピタゴラス・コンマ)だけ行き過ぎてしまいます。1回あたりでは平均律の五度(700セント)より約2セント広いだけの差が、12回積むうちに積み上がるのです。つまりピタゴラス音律の五度の連鎖は、円ではなく閉じない螺旋です。1オクターブ12音の楽器に収めるには、どこか1か所の五度を約24セントも狭くして帳尻を合わせるしかなく、そこにはウルフの五度と呼ばれる使いものにならない唸る五度が生じます。
この体系では、シ♯とド、ソ♯とラ♭のような異名同音は本来コンマ分だけ高さの違う別の音です。それでも12鍵の楽器では1つの鍵を両方に兼用するしかなく、たとえばソ♯として調律した鍵をラ♭として使うと、その鍵を含む五度や三度がウルフになります。異名同音が兼用されること自体は昔からで、変わったのは「兼用しても高さが一致するか」です。コンマを12の五度に均等に塗り込めた平均律や、閉じた循環を作るウェル・テンペラメントになって、はじめてどの読み替えでも破綻しなくなりました。
次の部品で、ドから純正な五度を1つずつ積んでみてください。点は12音の円の上を回りながら少しずつずれていき、12回目のシ♯は出発のドの少し先に止まります。最後に、4回目で現れた 81/64 の長三度を、純正な 5/4 と聴き比べられます。
出発点は円の一番上の C です。「+ 5度を積む」を押すたびに純正な5度 3:2 を1つ積み、新しい音を円の上に置きます。12回積んだとき、C に戻ってくるでしょうか。
現代に残るピタゴラス的な感覚
ピタゴラス音律は過去の遺物ではありません。ヴァイオリンなどのフレットのない弦楽器の奏者は、旋律を弾くとき導音を高めに取り、半音を狭く詰める傾向があることが知られていますが、これはリンマの狭い半音を持つピタゴラス的な音程感覚そのものです。旋律にはピタゴラス的な音程が、和音には純正な音程が心地よいという使い分けは、現代の演奏実践にも生きています。また「五度を積むと12音が一巡する」という構造は、そのまま調同士の遠近を示す五度圏の骨格として、音楽理論の中心に残り続けています。
試問
ドから始めて、「+ 5度を積む」を押すたびに、周波数の比がぴったり2:3の5度を1つずつ積み、新しい音を12音の円の上に置きます(オクターブを超えたら1オクターブ下げて円に戻します)。下の2つのボタンでは、ドと、いま作ったミを重ねた長3度(81/64)と、倍音から来る純正な長3度(5/4)を鳴らせます。
出発点は円の一番上の C です。「+ 5度を積む」を押すたびに純正な5度 3:2 を1つ積み、新しい音を円の上に置きます。12回積んだとき、C に戻ってくるでしょうか。
