音と音程●●○○○

音階

Scaleおんかい

1オクターブの中から音を選んで並べた素材集。旋律と調の土台

概要

音階(スケール)とは、1オクターブの中にある12の音高から一部を選び、低い方から順に並べたものです。「ドレミファソラシド」はその代表例で、12音のうち7音を選んで並べた長音階(メジャースケール)と呼ばれる音階です。曲を作るとき・演奏するときに「基本的にこの音たちを使う」と決める素材集であり、パレットに絞り込んだ絵の具のようなものだと考えると分かりやすいでしょう。

音階の性格は、選んだ音同士の音程 — 全音と半音がどんな順序で並ぶか — によって決まります。明るく聞こえる長音階、哀愁を帯びた短音階、民謡やロックで活躍するペンタトニックなど、並べ方のパターンごとに固有の雰囲気があり、旋律の性格も、その上に積まれる和音の顔ぶれも、すべて音階の選択から導かれます。

なぜ生まれたか

音の高さは物理的には連続していて、ドとレの間にも無限の高さが存在します。しかし旋律を歌い継ぎ、複数人で合わせ、楽器を作るためには、「使う音をあらかじめ決めておく」必要がありました。フレットや音孔の位置を決めずに楽器は作れませんし、共通の音の選び方がなければ合奏も成立しません。実際、世界中のあらゆる音楽文化が、それぞれの音階 — インドのラーガ、日本の音階、アラブのマカームなど — を独自に発達させています。連続する音高の離散化は、音楽をするうえで避けて通れない課題だったのです。

西洋では、古代ギリシャの音組織を受け継いだ中世の教会旋法(ドリア旋法など、聖歌で使われた複数の音の並び)が長い間使われていました。やがて17世紀頃までに、和音の響きと相性のよい2つの並び — 長音階と短音階 — に淘汰・集約され、これが調にもとづく音楽(調性音楽)の土台になります。クラシックからポップスまで、私たちが日常的に聴く音楽の大半は、この2つの音階を軸に作られています。

詳細

長音階 — 全音・半音の設計図

長音階の正体は「全・全・半・全・全・全・半」という音程の並びです。ドから出発して、全音・全音・半音・全音・全音・全音・半音と上がっていくと、ちょうど1オクターブ上のドに到着します。重要なのは、音階の本質が具体的な音名ではなくこの間隔のパターンだということです。同じパターンをソから始めればト長調の音階(ソラシドレミファ♯ソ)になるように、どの音から始めても長音階が作れます。出発点(主音)を変えてパターンを保つ操作が移調で、12個の出発点それぞれに長音階が1つずつ、合計12個存在します。

ファ主音1オクターブ上階段の高さの差 = 音程。段差が小さい2か所が半音
長音階の構造 — 全音と半音の並び方がドレミの正体。半音の位置はミとファ、シとドの間

各音の役割 — 主音と導音

音階の中の7つの音は対等ではなく、それぞれに役割があります。中心となる第1音は主音と呼ばれ、旋律が最終的に帰り着く「家」のような存在です。特に重要なのが第7音の導音(長音階のシ)で、主音の半音下という位置ゆえに、主音へ引き寄せられる強い方向性を持ちます。「ドレミファソラシ…」と歌って止めると強烈に「ド」を歌いたくなる、あの感覚です。半音がミ・ファ間とシ・ド間という特定の位置にあることが音階に重力のような方向性を生み、この引力の体系こそが調の感覚(調性)の源になっています。

短音階 — もう1つの標準

長音階と並ぶもう1つの標準が短音階(マイナースケール)です。基本形の自然短音階は「全・半・全・全・半・全・全」の並びで、ラから白鍵だけを弾いた「ラシドレミファソラ」がその例です。主音から第3音までが短3度になることが哀愁を帯びた響きの主因です。ただし自然短音階には導音がない(第7音と主音が全音間隔で、主音への引力が弱い)ため、第7音を半音上げて導音を作った和声的短音階、さらに旋律の歌いやすさのため第6音も上げた旋律的短音階という変種が使われます。1つの短調の中でこの3形態が場面に応じて使い分けられます。なお「ドレミファソラシド」と「ラシドレミファソラ」が同じ7音の出発点違いであるように、長音階と自然短音階は同じ音の集合を共有しており、この関係は平行調と呼ばれます。

7音以外の音階

音階は7音とは限りません。5音のペンタトニック(ドレミソラなど)は半音のぶつかりがなく、どの音を弾いても外れにくいため、世界中の民謡からロックのギターソロまで幅広く使われています。すべて全音間隔で6音の全音音階はドビュッシーが愛した浮遊感のある響きを持ち、12音すべてを使う半音階は調の重力から自由になります。またジャズの世界では、教会旋法がモード(ドリアン、リディアンなど)として再発見され、コードに対して使える音の選択肢を広げる語彙になっています。どの音階も「どの音を選び、どこに半音を置くか」の設計の違いであり、その設計が音楽の表情を決めます。

音階から和音へ

音階は旋律の素材であると同時に、和声の母体でもあります。音階の各音の上に、音階内の音だけで3度を積み重ねると、その調で使える基本の和音一式(ダイアトニックコード)が得られます。長音階からは7つの三和音が生まれ、それらの間の引力関係がコード進行を、進行の句読点が終止形を形づくります。また、12の長音階を主音の完全5度関係で並べると五度圏という円環になり、調同士の近さが一望できます。音階を「暗記する運指表」ではなく「全音・半音の設計図」として理解しておくことが、この先の和声の語彙をつなげて学ぶ鍵になります。