音階
Scale ・ おんかい
1オクターブの12音から音を選んで並べた素材集。旋律と調の土台
✦ 30秒で試す — 航海同じ7つの白鍵なのに、弾き始めを変えるだけで暗くなるラから弾き始めてラで終えると、響きは?予想してみる概要
音階(スケール)とは、1オクターブの中にある12の音高から一部を選び、低い方から順に並べたものです。「ドレミファソラシド」はその代表例で、12音のうち7音を選んで並べた長音階と呼ばれる音階です。曲を作るとき・演奏するときに「基本的にこの音たちを使う」と決める素材集であり、パレットに絞り込んだ絵の具のようなものだと考えると分かりやすいでしょう。
音階の性格は、選んだ音同士の音程 — 全音と半音がどんな順序で並ぶか — によって決まります。明るく聞こえる長音階、哀愁を帯びた短音階、民謡やロックで活躍するペンタトニックなど、選び方と並べ方のパターンごとに固有の雰囲気があり、旋律の性格も、その上に積まれる和音の顔ぶれも、音階の選択から導かれます。
なぜ生まれたか
音の高さは物理的には連続していて、ドとレの間にも無限の高さが存在します。しかし旋律を歌い継ぎ、複数人で合わせ、楽器を作るためには、「使う音をあらかじめ決めておく」必要がありました。フレットや音孔の位置を決めずに楽器は作れませんし、共通の音の選び方がなければ合奏も成立しません。実際、世界中のあらゆる音楽文化が、それぞれの音階 — インドのラーガ、日本の音階、アラブのマカームなど — を独自に発達させています。連続する音高の離散化は、音楽をするうえで避けて通れない課題だったのです。
西洋では、古代ギリシャの音組織を受け継いだ中世の教会旋法(ドリア旋法など、聖歌で使われた複数の音の並び)が長い間使われていました。やがて17世紀頃までに、和音の響きと相性のよい2つの並び — 長音階と短音階 — に淘汰・集約され、これが調にもとづく音楽(調性音楽)の土台になります。一方で20世紀には、調の重力から離れるために、あえて規則的な形をした音階が作られるようになりました。音階は「どの音を使うか」という実用上の約束であると同時に、「どんな重力の音楽にするか」を決める設計でもあるのです。
詳細
音階を決める2つのこと — 集合と主音
音階は2つの要素で決まります。1つは12音のうちどれを使うか(音の集合)、もう1つはどの音から数えるか(主音、つまり中心の音)です。集合は、12音を時計の文字盤のように円に並べ、選んだ音を線で結ぶと多角形として目に見えます。長音階なら7つの頂点、ペンタトニックなら5つ、全音音階なら正六角形、12音すべてを使う半音階なら正十二角形です。
多角形の形そのものは、主音をどこに置いても変わりません。形を保ったまま円の上で回す操作が移調で、C の長音階を回せば G の長音階や F の長音階になります。音階の名前(長音階・ドリア旋法…)が表しているのは具体的な音名ではなく、この「形」と「数え始めの位置」の組み合わせです。個々の長音階の並び(全・全・半・全・全・全・半)やその実際の綴りについては、それぞれの語彙で詳しく扱います。
音数 — 5音・7音・それ以外
世界の音楽でとくに広く使われているのは、5音の音階(ペンタトニック)と7音の音階です。この2つが多いのには理由があります。よく溶け合う完全5度を積み重ねて音を集めていくと(C→G→D→A→E…)、5音集めた時点で半音を含まない5音(ペンタトニック)が、7音集めた時点で長音階と同じ7音が得られるのです(五度圏の隣り合う7つの音)。5度という最も単純な音程から出発すると、自然にこの2つの音数に行き着きます。
ほかにも、ブルースで使われる6音のブルーススケール、全音だけの6音の全音音階、全音と半音を交互に並べた8音のディミニッシュスケール、そして12音すべての半音階があります。音数が少ないほど1音1音の役割がはっきりして素朴になり、多いほど色の選択肢が増える代わりに、どの音が大事なのかがぼやけていきます。
半音の有無と置き場所
音階の性格をもっとも強く左右するのは、半音(鍵盤で隣り合う2音の距離)を含むかどうか、含むならどこに置くかです。半音で隣り合う2音は同時に鳴らすとぶつかり、旋律の中では片方がもう片方へ「滑り込みたがる」強い方向性を生みます。長音階には半音が2か所あり、そのうちの1つが主音のすぐ下に来ます。この主音の半音下の音が導音で、ここから主音へ向かう引力が「終わった」という感覚を作ります(音階の中の各音の役割は音度を参照)。
逆に、半音を1つも含まないペンタトニックでは、どの2音もぶつからず、どの音で止まっても不自然になりません。そのぶん主音へ向かう強い引力もありません。日本の都節音階のように半音を含む5音音階もあり、同じ5音でも半音の有無で響きはまったく違います(日本の音階)。「半音をどこに置くか」は、音階に重力の向きを与える設計そのものなのです。
旋法 — 同じ集合を別の音から数える
同じ音の集合でも、数え始めの音(主音)を変えると別の音階になります。白鍵の7音を C から数えれば長音階、A から数えれば自然短音階、D から数えればドリア旋法です。音そのものは1つも変わっていないのに、主音から見た半音の位置がずれるため、響きの明るさも重心もがらりと変わります。長音階と自然短音階が同じ7音を共有する関係は平行調と呼ばれ、7つの数え始めそれぞれに名前を付けたものが教会旋法です。
下の円で試してみてください。点を押すと音を入れたり外したりでき、並びと(既知の音階なら)名前がその場で出ます。「主音を次の音へ」を押すと、多角形はそのままで数え始めだけが移り、長音階がドリア旋法、フリギア旋法…と回転していくのが聴こえます。
円の点を押すと、その音を音階に入れたり外したりできます。いまは C の長音階(7音)。まず「鳴らす」で聴いてから、F を外して F♯ を入れてみてください。
対称音階 — 回しても同じ形
円の上の多角形が回転対称になっている音階もあります。全音音階は正六角形なので、全音(半音2つ)回すと元の形に重なり、異なる集合は2種類しかありません。ディミニッシュスケールは短3度(半音3つ)回すと重なるので3種類です。長音階が12種類の移調を持つのと対照的です。
対称形には「ここが特別」という場所がありません。どの音も同じ位置関係に囲まれているので、耳は主音を決める手がかりを失い、響きは宙に浮いたように聞こえます。長音階の半音の非対称な置き場所が調の重力を生むのとちょうど裏返しで、対称音階は調の重力から離れるための道具として近代の作曲家やジャズの演奏家に使われてきました。
音階から和音・調へ
音階は旋律の素材であると同時に、和声の母体でもあります。音階の各音の上に、音階内の音だけで3度を積み重ねると、その調で使える基本の和音一式(ダイアトニックコード)が得られ、それらの引力関係がコード進行を形づくります。どの音階を選ぶかは、どんな和音が手に入り、どの音が中心に聞こえるか — つまりどんな調の音楽になるか — を同時に決めることでもあります。音階を「暗記する運指表」ではなく「12音からの選び方と数え始め」として理解しておくと、旋法・調・和音の語彙が一本の線でつながります。
試問
円には1オクターブの12の音が時計のように並び、色の付いた点が音階に入っている音です(金の点が数え始めの音 C)。いまは C の長音階の7音で、点を押すと音を入れたり外したりできます。隣り合う音の距離は「全」(全音)か、いちばん狭い「半」(半音)かで表示されます。
円の点を押すと、その音を音階に入れたり外したりできます。いまは C の長音階(7音)。
