ペンタトニックスケール
Pentatonic Scale ・ ぺんたとにっくすけーる
5音でできた音階。半音のぶつかりがなく、世界中の民族音楽に遍在する
概要
ペンタトニックスケールとは、1オクターブを5つの音で構成する音階です。ギリシャ語で5を意味する「ペンタ」が名前の由来で、日本語では五音音階と呼ばれます。代表格はドレミソラと並ぶメジャーペンタトニックで、長音階のドレミファソラシからファとシを抜いた形になっています。日本の唱歌ではこの抜き方を「ヨナ抜き」(4番目と7番目を抜く)と呼び、「蛍の光」や「上を向いて歩こう」など、耳になじんだ旋律の多くがこの5音でできています。
この音階の最大の特徴は、構成音の間に半音が1つもないことです。隣り合う音の間隔はすべて全音か短3度(半音3つ分)で、強くぶつかり合う音の組み合わせが最初から存在しません。そのため「どの音を、どの順番で、どのタイミングで弾いても大きく外れない」という驚くべき性質を持ち、スコットランド民謡から中国の伝統音楽、アメリカのブルース、ロックのギターソロまで、文化も時代も超えて世界中に遍在しています。
なぜ生まれたか
ペンタトニックは誰かが設計した音階ではなく、世界各地で独立に「発見」された音階です。その背景には音響的な必然があります。1本の弦や声から自然に導かれる協和音程 — オクターブと完全5度 — を起点に、5度を4回積み重ねて1オクターブ内に折りたたむと(ド→ソ→レ→ラ→ミ)、ちょうど5音のペンタトニックが得られます。つまり、最もよく協和する音程だけを頼りに音を選んでいくと、多くの文化が自然にこの5音へたどり着くのです。古代中国の三分損益法(弦の長さを3分の1ずつ増減して音を導く方法)が生んだ五声(宮・商・角・徴・羽)は、まさにこの手順の産物でした。
もうひとつの理由は実用性です。楽譜も理論もない口承の音楽では、歌い継ぎやすく、合わせてもぶつからない音の選び方が生き残ります。半音を含まないペンタトニックは音程を取りやすく、複数人が多少ずれて歌っても濁りにくい。理論以前の「歌いやすさの淘汰」を勝ち抜いた音の選び方が、結果として世界共通のペンタトニックだったと言えます。
詳細
メジャーとマイナー — 同じ5音の2つの顔
ペンタトニックには大きく2つの形があります。メジャーペンタトニック(ドレミソラ)は長音階から第4音と第7音を抜いた明るい響き、マイナーペンタトニック(ラドレミソ)は短音階から第2音と第6音を抜いた翳りのある響きです。そして長音階と自然短音階が同じ音の集合を共有する平行調の関係にあるのと同じように、ドレミソラとラドレミソも同じ5音の出発点違いにすぎません。ロックギタリストが最初に覚える「ペンタトニックの5つのポジション」は、この同一集合を指板上の5つの場所から眺めたものです。
鍵盤の上では、この5音構造をもっと直感的に確かめられます。ピアノの黒鍵は5つ — 実はこれがそのままペンタトニックの配置になっており、黒鍵だけをでたらめに弾いても不思議と音楽らしく聞こえます。半音のぶつかりがないという性質を、体で確かめられる実例です。
半音がないことの意味 — 「外さない」音階
ペンタトニックの実用上の強みは、旋律を「外しにくい」ことに尽きます。7音の音階では、伴奏の和音に対して半音でぶつかる音に長く留まると響きが濁ります。ペンタトニックはその危険な半音関係をあらかじめ全部取り除いた音階なので、初心者のアドリブでも致命的な不協和が起きません。ロックやブルースのギターソロの入門が例外なくマイナーペンタトニックから始まるのはこのためですし、オルフの音楽教育で子どもの即興にペンタトニックの鉄琴が使われるのも同じ理由です。避けるべき音の考え方はアボイドノートの項で詳しく扱います。
ただし、この安全性は裏を返せば「方向性の弱さ」でもあります。長音階の推進力の源だった導音(主音の半音下から主音へ引き寄せる音)が抜かれているため、ペンタトニックだけの旋律は解決への切迫感が薄く、良くも悪くも穏やかに漂います。民謡ののどかさ、癒し系BGMの浮遊感はこの性質の恩恵ですが、緊張と解決のドラマを作りたい場面では7音の音階や経過的な半音を補う必要があります。
各地のペンタトニック — 同じ5音、違う音楽
「5音である」ことは共通でも、どの5音を選ぶかには文化ごとの個性があります。半音を含まないドレミソラ型(アンヘミトニックと呼ばれます)は中国・スコットランド・アメリカ民謡などに広く分布する一方、日本には半音を含む5音音階 — 都節音階や琉球音階など — が発達しました。同じ「5音」という枠でも半音の有無で表情は一変します。日本固有の5音音階については日本の音階で詳しく扱います。また、マイナーペンタトニックに1音(♭5)を加えて泥臭さを足したものがブルーススケールで、20世紀のポピュラー音楽の旋律語法はほぼこの拡張ペンタトニックの上に築かれました。
実務での使いどころ
作編曲の現場では、ペンタトニックは「安全な骨格」として機能します。メロディをまずペンタトニックで骨組みし、要所にだけ第4音・第7音を差して色付けする書き方は、歌謡曲からゲーム音楽まで広く使われる定石です。またジャズやフュージョンでは、コードのテンションを狙って「あえて別の場所のペンタトニックを当てる」高度な使い方(例: Cメジャー7に対してDメジャーペンタトニックを弾き、9th・♯11th・13thを浮かび上がらせる)も定番で、単純な音階が上級の語彙としても生き続けています。5音という制約は、初心者の安全網であると同時に、選択肢を絞ることで線の美しさに集中させる設計上の武器でもあるのです。
