和声●●●●○

アボイドノート

Avoid Note ・ あぼいどのーと

コードの響きを濁すため長く伸ばすのを避ける音。テンション選びの裏ルール

✦ 30秒で試す — 航海音階の中の音なのに、伸ばすと和音を壊す音がある伸ばすと響きが濁るのはどれ?予想してみる

概要

アボイドノート(回避音)とは、あるコードの上で使える音階の音のうち、「長く伸ばしたり強調したりするとコードの響きを濁らせてしまう音」のことです。たとえばCメジャーセブンス(ド・ミ・ソ・シ)の上でファの音を長く伸ばすと、コードの持つ澄んだ響きが急に不安定に曇ります。同じ音階の中の音なのに、コードとの相性には差がある — その「相性の悪い音」に付けられた名前がアボイドノートです。

主にジャズやポピュラー音楽の理論で使われる用語で、テンション(9th・11th・13th)を選ぶときの裏ルールとして機能します。「このコードにはどのテンションを乗せられるか」を考えるとき、候補から除外すべき音を教えてくれるのがアボイドノートです。名前は「avoid(避けよ)」と強い響きですが、実際の意味は「絶対に弾いてはいけない音」ではなく、「短く通り過ぎる分にはよいが、長く響かせるのは避けたほうがよい音」という程度の注意書きです。

なぜ生まれたか

ジャズの演奏家たちは、和音の上に7thやテンションを次々と積み重ね、また即興演奏(アドリブ)でコードに対応する音階を自由に駆け回る音楽を発展させました。すると経験的に、「同じ音階内の音でも、伸ばすと明らかに響きを壊す音がある」ことが誰の耳にも分かってきます。Cメジャーセブンスの上のファがその代表で、上手い演奏家は自然にその音を長く弾くのを避けていました。しかし「なぜその音がだめなのか」を説明する言葉がなければ、教育の場では「経験で覚えろ」としか言えません。

この経験則を体系化したのが、バークリー音楽大学などで整備されたコードスケール理論です。「各コードには対応する音階があり、その中の音はコードトーン・テンション・アボイドノートのいずれかに分類できる」という枠組みによって、テンションの選び方が理屈で説明できるようになりました。アボイドノートという概念は、名演奏家たちが耳で避けていた音に理論の名前を与え、学習可能な知識に変えたものだと言えます。

詳細

判定基準 — コードトーンの半音上

アボイドノートかどうかを見分ける基準は驚くほどシンプルで、「コードトーン(和音の構成音)の半音上にある音」がアボイドノートになります。半音上の音を1オクターブ持ち上げて和音に重ねると、コードトーンとの間に短9度(半音+1オクターブ)という強烈に濁る音程が生じるためです。Cメジャーセブンス上のファは、第3音ミの半音上に位置します。ミはコードが「長和音である」ことを決める最重要の音ですから、その半音上で鳴り続けるファは、コードの顔を正面から曇らせてしまうのです。逆向き — コードトーンの半音下の音 — は同じ扱いになりません。たとえば CM7 の7度シはルートのドの半音下ですが、長7度として和音の一員に収まっています。濁りの主因は「上に乗った短9度」だと覚えておくと判定がぶれません。

ドレミファソラシルート9th3rd11th=アボイド5th13th7thコードトーンテンションミとファは半音 — 3rdの半音上で濁るCmaj7 の場合: 7音のうちアボイドはファ1つだけ。残りはコードトーン4つ+テンション2つ
Cメジャーセブンス上のCメジャースケール — コードトーンの半音上にあるファ(11th)だけがアボイドノートになる

コードごとのアボイドノート

この基準をダイアトニックコードに順に当てはめると、コードごとのアボイドノートが機械的に導けます。まず IM7(CM7)では、3度ミの半音上のファ(11th)がアボイドです。同じ長7の和音でも IVM7(FM7)は事情が違い、根音ファから数えた11度にあたる音はシ、つまり♯11 です。シは3度ラの全音上なので衝突せず、むしろ IVM7 を代表する美しいテンションになります。「長7の和音では11thがアボイド」と丸暗記すると、ここで誤ります。

V7(G7)では、3度シの半音上のド(11th)がアボイドです。短7の和音は3度が短3度なので11thは衝突しませんが、別の音が引っかかります。IIIm7(Em7)では、根音ミの半音上のファ(♭9)と、5度シの半音上のド(♭13)の2つがアボイドです。VIm7(Am7)では5度ミの半音上のファ(♭13)がアボイドになります。

IIm7(Dm7)は半音上の衝突を1つも持たない、ダイアトニックの中でもっとも懐の深い和音です。ただし13thのシにだけは注意が要ります。シは半音でぶつかるわけではありませんが、3度のファと三全音(トライトーン)を作り、G7 の核心と同じ響きを鳴らしてしまうからです。伸ばすと IIm7 がドミナントのように聞こえ、進行上の役割がぼやけます。「半音上」ルールの例外として、IIm7 の13thは避けるか注意して使う音と整理されています。つまりアボイドノートは原則として音程の性質で決まりますが、調の中でのコードの役割にも左右される、文脈依存の概念でもあります。

ドレミファソラシCM7(IM7)R9311 ×5137Dm7(IIm7)♭7R9♭311513 △Em7(IIIm7)♭13 ×♭7R♭9 ×♭3115FM7(IVM7)5137R93♯11G7(V7)11 ×513♭7R93Am7(VIm7)♭3115♭13 ×♭7R9灰 = コードトーン / 金 = テンション / 赤 × = アボイド(コードトーンの半音上)赤の破線 △ = 半音の衝突はないが、3度と三全音を作るので注意する IIm7 の13th
ハ長調のダイアトニックコード(四和音)の上で、音階の7音が何になるか — 赤の × がアボイドノート

下の部品で和音を選び、上の段の鍵を押して音を伸ばしてみてください。コードトーンの半音上に来る音だけが赤い弧で結ばれ、濁りとして聴こえます。CM7 と G7 では、次の節で説明する「逃げ道」のボタンも試せます。

⚡ 体験: 伸ばすと濁る音を探す
和音
CM7
和音旋律(押して伸ばす)RC4357RC593115137

CM7 の上で、上の段(旋律)の鍵を1つずつ押してください。どの音も和音と一緒に伸びますが、ファだけが下の段のミと赤い弧で結ばれ、濁って聴こえます。

下の段 = 和音(金)/ 上の段 = 旋律の音。灰 = 構成音、青緑 = テンション、赤 = アボイド、橙 = 例外的に注意

「避ける」の本当の意味

アボイドノートの扱いで最も誤解されやすいのが「使ってはいけない音」という解釈です。実際には、旋律の中で短く通過する分にはまったく問題ありません。「ドレミファソ」と駆け上がるフレーズのファを取り締まる人はいませんし、クラシックの用語で言えばこれは経過音 — 非和声音の一種 — として昔から普通に使われてきた用法です。問題になるのは、その音を白玉(長い音価)で伸ばす、フレーズの着地点にする、あるいは和音の中に積んで鳴らし続ける場合です。「avoid」は「立ち止まるな」であって「通るな」ではない、と覚えておくとよいでしょう。

アボイドを解消する技 — 音を変えるか、コードを変えるか

実践では、アボイドノートは「避ける」だけでなく「解消する」対象でもあります。代表的な手が2つあります。1つは音のほうを半音ずらすことで、メジャーコード上のファ(11th)を半音上げてファ♯(♯11)にすれば、3度との短9度衝突が消えて美しいテンションに変わります。これはコードに対して教会旋法のリディアンを当てはめることと同じ意味で、コードスケール理論の考え方が実際の音選びに直結する好例です。先ほど見た IVM7 の上で♯11 が自然に使えるのも、ハ長調の音階を IVM7 から眺めるとちょうどリディアンになっているからです。もう1つはコードのほうを変えることで、ドミナント7thの11thを活かしたければ、衝突相手の3度を4度に置き換えたサスコード(7sus4)にしてしまえば、ド(G7 なら11th)は堂々と響かせられます。

作曲やアレンジの実務では、アボイドノートはメロディとコードの衝突チェックに使われます。メロディの伸ばす音がコードのアボイドノートに当たっていたら、メロディを変えるのではなくコードのほうを差し替える(リハーモナイズする)のが定石です。たとえば旋律がファを伸ばしている小節の和音が C なら、Dm7 や FM7、G7sus4 といった「ファが構成音になる和音」に替えれば衝突は消えます。逆に言えば、あえてアボイドノートを長く鳴らして濁りを表現として使う音楽も存在します。ルールの根拠が「短9度の濁り」だと理解していれば、守るのも破るのも自分の耳で判断できるようになります。それがこの概念を学ぶ本当の価値です。

試問

下の段で和音 Em7(ミ・ソ・シ・レ)が鳴り続け、上の段の鍵を押すとその音を和音と一緒に長く伸ばせます。下のボタンで、伸ばすと濁ると思う音に印(×)を付けたり外したりできます。

✦ 命題挑戦中

和音 Em7(ミ・ソ・シ・レ)の上で、長く伸ばすと響きを濁らせる音(アボイドノート)をすべて見つけ、それだけに印を付けよ

  • 伸ばすと濁る音に、すべて印を付ける
  • 濁らない音には印を付けない
⚡ 体験: Em7 の上で、伸ばすと濁る音に印を付ける
Em7
和音旋律(押して伸ばす)C4♭7R♭35C5
濁る音に印

Em7(ミ・ソ・シ・レ)の上で、上の段の鍵を押すとその音を和音と一緒に伸ばせます。濁ると思う音には、下のボタンで印を付けてください。

下の段 = 和音 Em7(金)/ 上の段 = 旋律の音(押すと伸ばして鳴る)。赤の × = 印を付けた音