和声●●●●○

アボイドノート

Avoid Noteあぼいどのーと

コードの響きを濁すため長く伸ばすのを避ける音。テンション選びの裏ルール

概要

アボイドノート(回避音)とは、あるコードの上で使える音階の音のうち、「長く伸ばしたり強調したりするとコードの響きを濁らせてしまう音」のことです。たとえばCメジャーセブンス(ド・ミ・ソ・シ)の上でファの音を長く伸ばすと、コードの持つ澄んだ響きが急に不安定に曇ります。同じ音階の中の音なのに、コードとの相性には差がある — その「相性の悪い音」に付けられた名前がアボイドノートです。

主にジャズやポピュラー音楽の理論で使われる用語で、テンション(9th・11th・13th)を選ぶときの裏ルールとして機能します。「このコードにはどのテンションを乗せられるか」を考えるとき、候補から除外すべき音を教えてくれるのがアボイドノートです。名前は「avoid(避けよ)」と強い響きですが、実際の意味は「絶対に弾いてはいけない音」ではなく、「短く通り過ぎる分にはよいが、長く響かせるのは避けたほうがよい音」という程度の注意書きです。

なぜ生まれたか

ジャズの演奏家たちは、和音の上に7thやテンションを次々と積み重ね、また即興演奏(アドリブ)でコードに対応する音階を自由に駆け回る音楽を発展させました。すると経験的に、「同じ音階内の音でも、伸ばすと明らかに響きを壊す音がある」ことが誰の耳にも分かってきます。Cメジャーセブンスの上のファがその代表で、上手い演奏家は自然にその音を長く弾くのを避けていました。しかし「なぜその音がだめなのか」を説明する言葉がなければ、教育の場では「経験で覚えろ」としか言えません。

この経験則を体系化したのが、バークリー音楽大学などで整備されたコードスケール理論です。「各コードには対応する音階があり、その中の音はコードトーン・テンション・アボイドノートのいずれかに分類できる」という枠組みによって、テンションの選び方が理屈で説明できるようになりました。アボイドノートという概念は、名演奏家たちが耳で避けていた音に理論の名前を与え、学習可能な知識に変えたものだと言えます。

詳細

判定基準 — コードトーンの半音上

アボイドノートかどうかを見分ける基準は驚くほどシンプルで、「コードトーン(和音の構成音)の半音上にある音」がアボイドノートになります。半音上の音を1オクターブ持ち上げて和音に重ねると、コードトーンとの間に短9度(半音+1オクターブ)という強烈に濁る音程が生じるためです。Cメジャーセブンス上のファは、第3音ミの半音上に位置します。ミはコードが「長和音である」ことを決める最重要の音ですから、その半音上で鳴り続けるファは、コードの顔を正面から曇らせてしまうのです。

ファルート9th3rd11th=アボイド5th13th7thコードトーンテンションミとファは半音 — 3rdの半音上で濁るCmaj7 の場合: 7音のうちアボイドはファ1つだけ。残りはコードトーン4つ+テンション2つ
Cメジャーセブンス上のCメジャースケール — コードトーンの半音上にあるファ(11th)だけがアボイドノートになる

コードごとのアボイドノート

この基準をダイアトニックコードに順に当てはめると、コードごとのアボイドノートが機械的に導けます。長7の和音(Imaj7・IVmaj7)では長3度の半音上にあたる完全11度がアボイド、ドミナントのセブンスコード(V7)でも同じく11thがアボイドです。短7の和音(IIm7など)は3度が短3度なので11thは半音上に当たらずテンションとして使えますが、調の文脈によっては13thが避けられることがあります(Cメジャーキーの IIIm7 上のファなど、調の主和音の3度を曇らせる音)。つまりアボイドノートはコード単体の性質だけでなく、調の中でのコードの役割にも左右される、文脈依存の概念です。

「避ける」の本当の意味

アボイドノートの扱いで最も誤解されやすいのが「使ってはいけない音」という解釈です。実際には、旋律の中で短く通過する分にはまったく問題ありません。「ドレミファソ」と駆け上がるフレーズのファを取り締まる人はいませんし、クラシックの用語で言えばこれは経過音 — 非和声音の一種 — として昔から普通に使われてきた用法です。問題になるのは、その音を白玉(長い音価)で伸ばす、フレーズの着地点にする、あるいは和音の中に積んで鳴らし続ける場合です。「avoid」は「立ち止まるな」であって「通るな」ではない、と覚えておくとよいでしょう。

アボイドを解消する技 — 音を変えるか、コードを変えるか

実践では、アボイドノートは「避ける」だけでなく「解消する」対象でもあります。代表的な手が2つあります。1つは音のほうを半音ずらすことで、メジャーコード上のファ(11th)を半音上げてファ♯(♯11)にすれば、3度との短9度衝突が消えて美しいテンションに変わります。これはコードに対して教会旋法のリディアンを当てはめることと同じ意味で、コードスケール理論の考え方が実際の音選びに直結する好例です。もう1つはコードのほうを変えることで、ドミナント7thの11thを活かしたければ、衝突相手の3度を4度に置き換えたサスコード(7sus4)にしてしまえば、ファは堂々と響かせられます。

作曲やアレンジの実務では、アボイドノートはメロディとコードの衝突チェックに使われます。メロディの伸ばす音がコードのアボイドノートに当たっていたら、メロディを変えるのではなくコードのほうを差し替える(リハーモナイズする)のが定石です。逆に言えば、あえてアボイドノートを長く鳴らして濁りを表現として使う音楽も存在します。ルールの根拠が「短9度の濁り」だと理解していれば、守るのも破るのも自分の耳で判断できるようになります。それがこの概念を学ぶ本当の価値です。