音高と音名
Pitch and Note Names ・ おんこうとおんめい
音の高さを周波数で捉え、名前を付けて共有できるようにした約束事
概要
音高(ピッチ)とは、音の「高い・低い」のことです。物理的には空気の振動の速さ、つまり周波数(1秒間に何回振動するか。単位はHz)で決まり、振動が速いほど高い音に聞こえます。オーケストラがチューニングで合わせる「ラ」の音は440Hz — 1秒間に440回の振動、と決められています。
音名は、その音高に付けた名前です。「ドレミファソラシ」や「C・D・E・F・G・A・B」がそれにあたり、連続的に無限にある音の高さの中から特定の高さを選び出し、名前で指し示せるようにした約束事です。音楽理論のあらゆる語彙 — 音程も音階も和音も — は、この「音に名前が付いている」ことを出発点にして組み立てられています。
なぜ生まれたか
名前がなかった時代、旋律を伝える手段は口伝、つまり「聴いて真似る」しかありませんでした。中世ヨーロッパの教会では膨大な聖歌をすべて暗記で伝承しており、修道士が全曲を覚えるのに10年かかったといわれます。歌い手が変われば旋律も少しずつ変わってしまい、正確に記録し、遠くの人に伝え、初めての曲を「読んで」歌う手段が求められていました。
これを解決したのが、音の高さに名前と記号を与えることです。11世紀の修道士グイード・ダレッツォは、賛歌の各行の最初の音節「ウト・レ・ミ・ファ・ソル・ラ」を音の高さの名前として使う方法(後の「ドレミ」)と、線の上に音を書き取る記譜法を整備しました。音に名前が付いたことで、旋律は「聴いて覚えるもの」から「書いて共有できるもの」に変わった — これは音楽における文字の発明のようなもので、以後の音楽理論はすべてこの土台の上に築かれています。
詳細
幹音と派生音 — 12個の音の名前
現代の西洋音楽では、1オクターブ(後述)を12個の音高に等分して使います。このうち基本となる7つが幹音で、英語式にC・D・E・F・G・A・B(日本式ではハ・ニ・ホ・ヘ・ト・イ・ロ、イタリア式ではド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ)と呼ばれます。ピアノの白鍵がこの7つに対応します。残りの5つは幹音にシャープ(♯: 半音上げる)やフラット(♭: 半音下げる)を付けて表す派生音で、ピアノの黒鍵に対応します。同じ黒鍵をC♯ともD♭とも呼べるように、1つの音高に複数の名前があり得る(異名同音)のもこの体系の特徴です。
オクターブ — 周波数が2倍になると「同じ音」に戻る
周波数がちょうど2倍の音、たとえば440Hzの「ラ」と880Hzの「ラ」は、高さは違うのに不思議と「同じ音」に聞こえます。この関係をオクターブと呼び、同じ音名を繰り返し使う理由がここにあります。ドレミファソラシと上がって次に来るのはまた「ド」であり、音名は7つ(派生音を含めて12個)の名前がオクターブごとに循環する構造になっています。区別が必要なときは「C4」「A4」のようにオクターブ番号を添えて表し、C4はピアノ中央のド、A4が440Hzの基準音です。
平均律 — オクターブを12等分するという妥協
1オクターブを「どう12個に区切るか」には長い試行錯誤の歴史があり、現代の標準は十二平均律です。これはオクターブの周波数比2倍を、比率が均等になるように12等分したもので、隣り合う音同士の周波数比はすべて2の12乗根(約1.0595倍)になります。純粋な整数比による美しい響き(詳しくは音程を参照)をわずかに犠牲にする代わりに、どの音から始めても同じ音の並びが作れる — つまりどんな調でも演奏でき、自由に転調できるという実用性を取った妥協の産物です。ピアノをはじめ現代のほとんどの楽器はこの調律を前提にしています。
固定ドと移動ド — 「ドレミ」の2つの使い方
「ドレミ」には2通りの使い方があり、混同すると会話が噛み合わなくなります。1つは固定ド(音名唱)で、ド=C、レ=Dと音の絶対的な高さに固定する使い方。日本の音楽教育やクラシックの現場で一般的です。もう1つは移動ド(階名唱)で、音階の主音(中心となる音)を常に「ド」と読む相対的な使い方です。移動ドでは、何の調で歌っても「ドミソ」は常に安定した響き、「シ」は常にドへ解決したがる音、というように、音の役割を名前で捉えられます。絶対的な高さを指すのが音名、音階内での役割を指すのが階名 — この区別を押さえておくと、この先の理論の見通しが良くなります。
音名が支えるもの
音に名前が付いたことで、2つの音の隔たりを「CからGまで」のように測れるようになり(音程)、使う音の一覧を「C・D・E・F・G・A・B」のように列挙できるようになり(音階)、同時に鳴らす組み合わせを「C・E・G」のように指定できるようになりました(和音)。バンドの現場で「キーはGで」「ここはAマイナー」と一言で通じるのも、すべて音名という共通言語があるからです。音楽理論の学習は、この小さな約束事から始まります。
