和声●●●●●

リハーモナイゼーション

Reharmonizationりはーもないぜーしょん

旋律を保ったまま和音を付け替える編曲技法。代理・裏コードの総合演習

概要

リハーモナイゼーション(通称リハモ)とは、旋律をそのまま保ちながら、その下に付ける和音を別のものに付け替える編曲技法です。同じメロディでも、支える和音が変われば響きの色彩は一変します。ジャズのスタンダード曲が演奏者ごとにまったく違う表情で演奏されるのは、各人が独自のリハモを施しているからであり、「きらきら星」のような童謡をおしゃれなジャズ風に仕立て直すアレンジも、その正体はリハモです。

この技法は、代理コード・セカンダリードミナント・裏コード・借用和音といった、コード理論で学ぶ拡張テクニックの総合演習という位置づけにあります。個々のテクニックが「1つの和音を別の和音に置き換える」部品だとすれば、リハモは旋律という制約のもとでそれらを組み合わせ、コード進行全体を再設計する応用問題です。編曲・伴奏・即興のいずれでも、和声の引き出しの深さがそのまま表現の幅になる領域です。

なぜ生まれたか

旋律に和音を付ける行為そのものは古くからあり、バッハが同じコラール旋律に何通りもの和声付けを残しているように、「1つの旋律に対する和声の解は複数ある」ことは西洋音楽の伝統の中で早くから知られていました。しかしこれが独立した技法として体系化されたのは、20世紀のジャズとポピュラー音楽においてです。ジャズの演奏文化は、少数のスタンダード曲を全員が共有し、繰り返し演奏することの上に成り立っています。同じ曲を何度も演奏する以上、「原曲のコードのままなぞる」だけでは個性が出せません。旋律は聴衆が知っている形のまま残し、和声だけを自分の語彙で語り直す — この必要から、リハモは演奏者・編曲者の必修技術になりました。

また、初期のポピュラー曲やトラディショナル曲のシンプルな3和音進行を、ビッグバンドやモダンジャズの豊かなサウンドへ翻訳する実務も、リハモの体系化を後押ししました。ギル・エヴァンスやセロニアス・モンクらの仕事を通じて、リハモは「原曲の改変」ではなく「同じ旋律の別の読み方を提示する創造行為」として確立していきます。

詳細

大原則 — 旋律の音が、新しい和音の中で説明できること

リハモの唯一にして最大の制約は旋律です。どんな和音に付け替えてもよいのですが、その瞬間に鳴っている旋律の音が、新しい和音の構成音か、許容できるテンションとして説明できなければなりません。たとえば旋律がドの音を伸ばしているとき、C(ドはルート)にも Am7(ドは短3度上の音)にも A♭maj7(ドは長3度)にも付け替えられますが、旋律音が和音に対してアヴォイドノートになる組み合わせは避けます。逆にいえば、1つの旋律音は多くの和音の構成音になり得るので、選択肢は思いのほか広い — この「1音に対する複数の解釈」こそがリハモの原理です。

旋律音「ド」(変えない)この音を構成音として説明できる和音なら付け替えられるCド=ルートAm7ド=3度Fmaj7ド=5度Dm7ド=7度A♭maj7ド=3度・借用系左ほど原曲に近い安定した響き、右へ行くほど色彩的で意外性のある響き同じ旋律音の「読み替え」がリハモの原理
1つの旋律音に対する和音の選択肢 — 同じドでも、支える和音次第でルートにもテンション級の彩りにもなる

技法のカタログ — 部品を組み合わせる

リハモの部品は、コード理論の拡張語彙そのものです。もっとも穏やかなのは代理コードによる置き換えで、C を Am7 や Em7 に差し替えるといった、ダイアトニックコード内の機能の言い換えです。次に、目標の和音の直前にセカンダリードミナントを挿入して進行の推進力を増す手法、さらにそれをツーファイブワン(II-V)に展開して細分化する手法があります。ジャズらしい色彩の代表が裏コードで、ドミナント7thを増4度違いの和音に差し替えてベースラインを半音進行にします。モーダルインターチェンジによる同主短調からの借用(IVm や ♭VImaj7 など)は、長調の progression に陰影を加える定番です。ベース音だけを差し替える分数コードや、和音が動いてもベースを保続するペダルポイントも、手軽で効果の大きい部品です。

実際の手順 — ゴールから逆算する

実務のリハモは、闇雲な置き換えではなく設計として進めます。典型的な手順は、まず(1)原曲の進行を機能和声の観点で分析し、トニック・ドミナントなどの骨格と、フレーズの着地点(終止形)を特定します。次に(2)残したい骨格 — 多くの場合、セクションの頭と終止 — を決め、そこは動かしません。そのうえで(3)骨格の間を、II-V の挿入や代理・借用で埋め直していきます。このとき鍵になるのがベースラインの設計で、半音や順次進行で滑らかに降りる(または昇る)ラインを先に描き、それに合う和音を選ぶと、複雑な付け替えでも自然に聞こえます。個々の和音の善し悪しよりも、声部連結としての線の滑らかさが、リハモの説得力を決めます。

強度の調整と落とし穴

リハモには強度の段階があります。和音の質を保ったままテンションを足すだけの軽いものから、代理・挿入で進行を細分化する中程度のもの、骨格ごと別の進行に差し替え、原曲の面影を旋律だけに残す大胆なものまで連続的です。実務では「誰のための編曲か」で強度を選びます。歌の伴奏なら歌い手の音程の拠り所を奪わない程度に、ソロピアノのアレンジならより自由に、という具合です。

落とし穴も強度に比例します。第1に、旋律との衝突の見落としです。紙の上では成立する進行でも、旋律の経過音が新しい和音と半音でぶつかることがあり、必ず旋律と一緒に音を出して確認します。第2に、詰め込みすぎです。全小節を II-V で埋め尽くすと和声リズムが過密になり、かえって進行の推進力が失われます。色彩的な和音は「ここぞ」の1〜2か所に絞るほうが効果的です。第3に、機能の骨格を壊してしまうことです。終止の解決感まで置き換えてしまうと、聴き手はフレーズの句読点を見失います。リハモの上達は、置き換えの語彙を増やすことと同じくらい、「どこを変えないか」を見極める耳を育てることにかかっています。