音波と周波数
Sound Wave & Frequency ・ おんぱとしゅうはすう
音の正体は空気の振動。高さは周波数、大きさは振幅で決まる物理の土台
概要
音の正体は、空気の振動です。弦をはじく、声帯をふるわせる、太鼓の膜を叩く — 何かが振動すると、まわりの空気が押されたり引かれたりを繰り返し、その圧力の変化が波として空気中を伝わっていきます。これが音波です。波が耳に届くと鼓膜が同じパターンで振動し、脳がそれを「音」として感じます。音楽で扱うあらゆる音は、突き詰めればこの空気の波にほかなりません。
音波の性質のうち、音楽にとって決定的に重要なのが「周波数」です。周波数とは1秒間に振動が何回繰り返されるかの回数で、単位はヘルツ(Hz)。この回数が多いほど高い音、少ないほど低い音として聞こえます。たとえばオーケストラがチューニングに使う「ラ」の音は440Hz、つまり空気が1秒間に440回振動しています。一方、振動の振れ幅(振幅)は音の大きさに対応します。私たちが音高や音量と呼んでいる音楽的な感覚は、周波数と振幅という物理量の知覚なのです。
なぜ生まれたか
音の高い・低いという感覚そのものは太古からありましたが、それを数で語れなかった時代、音楽の理論は「経験と伝承」の域を出ませんでした。楽器職人は勘で弦の長さや管の寸法を決め、合奏の音合わせも耳頼み。「なぜこの2音は美しく響き、あの2音は濁るのか」を説明する共通の言葉がなかったのです。古代ギリシャのピタゴラス学派が弦の長さの比と響きの関係に気づいたのが最初の一歩でしたが、弦の長さはあくまで間接的な量で、音そのものの測定ではありませんでした。
17世紀に「音の高さは振動の速さである」ことが実証され、19世紀にはヘルムホルツらが音響学として体系化します。音を周波数という測定可能な量に還元できたことで、音程は周波数の比として厳密に定義でき、音律の設計や楽器の製作が計算にもとづいて行えるようになりました。今日のチューナー、シンセサイザー、録音技術はすべて、この「音は波であり、数で扱える」という認識の上に成り立っています。
詳細
波の三要素と音の三属性
音波の性質と聴覚の対応は、きれいに三対三で整理できます。第一に、周波数は音高(ピッチ)に対応します。周波数が高いほど音は高く聞こえ、人間の可聴域はおよそ20Hz〜20,000Hzです。ピアノの最低音は約27.5Hz、最高音は約4,186Hzで、音楽の主役はこの範囲に収まっています。第二に、振幅は音量に対応します。空気の圧力変化が大きいほど、音は大きく聞こえます。第三に、波の形(波形)は音色に対応します。同じ高さ・同じ大きさでも、バイオリンとフルートの音が違って聞こえるのは、波形 — つまり波にどんな成分が含まれているか — が違うからです。
音程は「差」ではなく「比」
音楽理論の観点で最も重要な事実は、耳が周波数を比で聞いているということです。220Hzと440Hzの隔たりも、440Hzと880Hzの隔たりも、耳には同じオクターブとして聞こえます。周波数の差は220Hzと440Hzでまったく違うのに、比がどちらも1:2だからです。つまり聴覚は周波数に対して対数的で、「同じ音程だけ上がる」ことは「周波数を同じ倍率で掛ける」ことに対応します。ピアノの鍵盤の上で等間隔に見える音の並びは、周波数のグラフに描くと右に行くほど間隔が広がる曲線になります。この「音程 = 周波数比」という対応が、倍音列から音律の設計まで、音響と音楽理論をつなぐ蝶番になっています。
純音と複合音
1つの周波数だけを含む、完全に滑らかな正弦波の音を純音と呼びます。音叉やチューナーの発する「ポー」という無機質な音がそれに近いものです。しかし楽器や声の音は純音ではなく、基本となる周波数(基音)の上に、その整数倍の周波数成分(倍音)が同時に鳴っている複合音です。私たちが感じる音高は基音の周波数で決まり、倍音の混ざり方が音色を決めます。どんな複雑な波形も正弦波の足し合わせに分解できるというフーリエ解析の考え方が、この見方の数学的な裏づけです。詳しくは倍音列の項で扱います。
実務との接点 — チューニングから電子音楽まで
周波数の考え方は、演奏の現場に直結しています。オーケストラが「ラ=440Hz」(国や団体によっては442Hzなど)を基準に音を合わせる約束事は標準ピッチと呼ばれ、周波数という共通のものさしがあって初めて成立します。2つの音の周波数がわずかにずれていると「ワーンワーン」という音量のうなりが生じ、これはうなりとしてチューニングの実用的な手がかりになります。また、シンセサイザーは発振器で波形そのものを合成する楽器であり、周波数・振幅・波形という三要素を直接つまみで操作します。音を物理量として捉える視点は、音楽理論の出発点であると同時に、現代の音作りの共通言語でもあるのです。
