リズム・拍子●○○○○

音価

Note Valueおんか

音の長さを2分割の階層で表す体系。全音符から始まる長さの分数表記

概要

音価(おんか)とは、1つの音符が表す音の長さのことです。五線譜では、音符の見た目 — 玉が白いか黒いか、棒(符幹)や旗(符尾)が付くか — によって長さを書き分けます。もっとも長い全音符を出発点に、半分の2分音符、その半分の4分音符、さらに8分音符、16分音符…と、2で割り続ける階層で長さの体系ができています。「4分音符」という名前は「全音符の4分の1」という意味そのものです。

重要なのは、音価が表すのは絶対的な時間(秒数)ではなく、長さの比だということです。4分音符が「0.5秒」と決まっているわけではなく、「2分音符の半分、8分音符の2倍」という関係だけが決まっています。実際の長さはテンポが決めるので、同じ楽譜でも速く演奏すればすべての音価が一様に縮みます。音価は、リズムを「比率の設計図」として書き残すための言語なのです。

なぜ生まれたか

初期の聖歌の楽譜(ネウマ譜)は音の上がり下がりを示すだけで、長さの正確な指定がありませんでした。単旋律を暗譜の補助として歌ううちは困りませんが、12〜13世紀に複数の旋律を同時に歌う多声音楽が発達すると、パート同士を縦に揃えるために「この音はあの音の何倍の長さか」を紙の上で厳密に決める必要が生じました。こうして13世紀以降に発達したのが計量記譜法で、音符の形ごとに長さの比を定めるという発想がここで生まれます。

初期の体系では3分割(完全分割と呼ばれ、三位一体になぞらえて尊ばれました)が基本でしたが、しだいに2分割が標準となり、17世紀頃までに現在の「全音符から2で割り続ける」体系に整理されました。2分割を基本に据えたことで体系は単純な入れ子構造になり、例外の3分割は付点や連符という補助記法で表す、という現在の役割分担ができあがりました。

詳細

2分割の木構造

音価の体系は、全音符を根とする二分木として一望できます。全音符(白い玉のみ)を割ると2分音符(白い玉+棒)が2つ、2分音符を割ると4分音符(黒い玉+棒)が2つ、以降は旗(連続すると桁=ビームで繋がれる横棒)が1本増えるごとに半分になり、8分・16分・32分…と続きます。どの段の長さも「全音符 ÷ 2のべき乗」で表せるため、英語では whole note、half note、quarter note、eighth note と、そのまま分数の名前で呼ばれます。

全音符2分音符2分音符4分音符4分音符4分音符4分音符8分音符 × 8 (さらに半分で16分音符 × 16)どの段も「全音符 ÷ 2のべき乗」。長さは比率で決まり、実時間はテンポが決める
音価の二分木。1段下がるごとに長さが半分になる。数は全音符1個分に相当する個数

付点・タイ・連符 — 2分割の隙間を埋める

2分割の階層だけでは表せない長さも当然あります。それを埋めるのが3つの補助記法です。付点は音符の右に打つ点で、元の長さの1.5倍(元+その半分)を表します。付点4分音符なら「4分音符+8分音符」の長さです。タイは同じ高さの音符2つを弧線で結んで長さを足し合わせる記法で、小節線をまたぐ長さや「4分+16分」のような付点で書けない合計を表せます。そして連符は「本来2個入る場所に3個を均等に詰める」(3連符)のように、2分割体系の外の等分割を臨時に持ち込む記法です。この3つを合わせることで、2分割ベースのシンプルな体系のまま、実用上ほぼすべてのリズムが書けるようになっています。

休符 — 沈黙にも長さがある

音価の体系は沈黙にもそのまま適用されます。全休符・2分休符・4分休符・8分休符…と、各音価に対応する休符の記号があり、付点も同様に使えます。リズムとは音の配置であると同時に沈黙の配置でもあり、「どこで鳴らさないか」を厳密に書けることが計量記譜の大きな力です。ファンクのカッティングのように、休符の切れ味がグルーヴを決めるジャンルさえあります。

拍・拍子との関係と実務の注意

音価はそれ自体では「どれが1拍か」を決めません。それを決めるのが拍子記号で、分母に置かれた音価がの単位になります。4分の4なら4分音符が1拍、8分の6なら8分音符が数えの単位(体感の拍は付点4分)です。読譜や採譜での実務的な注意は2つあります。第一に、音価と実時間を混同しないこと。「8分音符は速い音」ではなく、テンポ次第で8分音符が悠然と響く曲もあります。第二に、記譜では拍のまとまりが見えるように音符を桁でグループ化する慣習があり、同じリズムでも拍子に合わせた書き方をしないと極端に読みにくい楽譜になります。音価は単独の記号ではなく、テンポ・拍子と組み合わさって初めて音になる、時間の比率の言語なのです。