マクロ経済●●●○○

金融政策

Monetary Policy ・ きんゆうせいさく

中央銀行が短期金利を動かし、1〜2年のラグを見越して物価と景気を安定させる政策

✦ 30秒で試す — 航海熱いシャワーで蛇口をひねりすぎると、次は冷水が来る金利を下げ始めるのは、いつがよい?予想してみる

概要

金融政策は、中央銀行(日本なら日本銀行、アメリカならFRB)が短期の金利を上げ下げして、物価と景気を安定させる政策です。景気が過熱してインフレーションが行き過ぎそうなら金利を上げてお金を借りにくくし(利上げ・引き締め)、景気が冷え込めば金利を下げて借りやすくします(利下げ・緩和)。経済全体の温度を測って暖房と冷房を切り替える、サーモスタットのような役割です。

政府が税と支出で需要を直接動かす財政政策と並ぶ、マクロ経済政策の二本柱のひとつです。財政政策は国会の議決が要りますが、金融政策は中央銀行の会合(日銀なら年8回の金融政策決定会合)で決められるため、景気の変化に最初に応じる役になることが多くなります。「日銀が政策金利を1.25%に引き上げ」(2026年9月)と報じられると、変動型の住宅ローン、企業の借入、株式市場、為替レートまでが一斉に反応します。

難しいのは、金利の効き目がすぐには届かないことです。今日の利上げが物価に効いてくるのは1〜2年後。だから金融政策は「今の物価」ではなく「先行きの見通し」に対して打たれ、そのぶん判断を誤る余地も大きくなります。この記事では、金利がどの道を通って物価に届くのか、そのラグが政策をどれほど難しくするのかを追います。

なぜ生まれたか

金貨や金と交換できる紙幣が使われた金本位制の時代、お金の量は金の量に縛られ、物価を「誰かが管理する」という発想は限られていました。しかし経済が銀行預金で回るようになると、2つの問題が繰り返し起こります。ひとつは取り付け騒ぎです。不安に駆られた預金者が一斉に引き出しに走ると、健全な銀行まで連鎖的に倒れます。1907年の米国の金融恐慌を機に、危機のときに資金を貸す最後の貸し手として、1913年に米国の中央銀行であるFRBが設けられました。

もうひとつは、貨幣の価値そのものの不安定さです。第一次世界大戦後のドイツでは、政府の支出を紙幣の増発で賄った結果、物価が天文学的に上がるインフレーション(ハイパーインフレ)が起き、1930年代の大恐慌では逆に、お金の流れの収縮を放置したことが不況を深めました。金本位制が崩れて通貨が金の裏付けを失うと、「お金の量と金利を、誰が、何を目標に決めるのか」を制度として決める必要が生まれます。

戦後の答えは長く揺れました。1970年代には政府の意向で緩和を続けた国々が高インフレに陥り、1979年に就任したFRBのボルカー議長が政策金利を20%近くまで上げてようやく鎮めました。この経験から、「物価の番人は選挙から距離を置き、明確な目標に責任を持たせる」という枠組みが広がります。1990年にニュージーランドが最初にインフレ目標を採用し、日本も2013年に「物価上昇率2%」の目標を掲げました。独立した中央銀行が、公表した物価目標に向けて短期金利を動かす — これが現在の金融政策の標準形です。

詳細

何を動かすのか — 政策金利と「床」の仕組み

金融政策の中心の道具は政策金利です。日本では、銀行どうしが翌日までお金を貸し借りする市場の金利(無担保コール翌日物)がそれにあたり、米国ではフェデラルファンド金利が同じ役割を果たします。この最も短い金利が動くと、預金金利・住宅ローン・企業向け貸出の金利が連動して動くため、一点を押さえるだけで経済全体に力が伝わります。

昔の教科書では、中央銀行は国債を売り買いして銀行の手元資金(中央銀行に預けた準備預金)の量を細かく調節し、その需給で金利を誘導する、と説明されていました。しかし2008年以降、量的緩和で準備預金が大量に積み上がると、量で金利を動かすことはできなくなります。いまの主流は、準備預金に中央銀行が付ける利子(付利)で金利の「床」を作るやり方(フロア・システム)です。銀行は中央銀行に預けておけば付利を受け取れるので、それより低い金利で他行に貸す理由がなく、市場金利は付利の水準に張り付きます。米国は2020年3月に預金準備率をゼロにし、準備預金への付利(IORB)で金利を操っています。日銀も2024年3月にマイナス金利をやめてからは、準備預金の一部に付ける利子(補完当座預金制度の適用利率)を政策金利と同じ水準に上げていく形で利上げを重ねています。詳しい仕組みは中央銀行の記事の部品で確かめられます。

どこを通って物価に届くのか — 波及の経路

政策金利が物価に届くまでの道筋(トランスミッション・メカニズム)は1本ではありません。利上げの場合で追ってみます。

政策金利引き上げ市場金利・貸出金利預金・ローン・社債資産価格株価・地価が下がる為替レート金利差で自国通貨高インフレ期待「物価は落ち着く」投資・消費借りにくく、減る純輸出輸出が減る賃金・値付け上げ幅を抑える総需要景気が冷える物価上昇率が下がる決定の日物価に届くまで1〜2年
利上げの波及経路 — 1本のレバーが4つの道に分かれ、総需要と物価で合流する。右へ進むほど時間がかかる

1本目は金利そのものの道です。政策金利が上がると銀行の調達コストが上がり、貸出金利や住宅ローン金利が上がって、企業の設備投資や家計の住宅購入が減ります。2本目は資産価格の道です。将来の収益を割り引く金利が上がると株価や地価が下がり、資産を持つ家計は財布の紐を締めます。3本目は為替レートの道です。金利が上がった国の通貨は買われやすく、通貨高で輸入品が安くなり、輸出は減ります。4本目は期待の道です。中央銀行の引き締めが信じられていれば、インフレ期待が下がり、企業や労働者は値上げ・賃上げの幅を控えます。4つの道は総需要と総供給の総需要で合流し、需要の冷え込みが遅れて物価に届きます。

ラグがあると、動かしすぎが波を大きくする

ミルトン・フリードマンは、金融政策の効果には「長く、しかも一定しないラグ」があると述べました。利上げが設備投資を減らすには、計画の見直しと発注の取り消しを経る必要があり、需要の変化が値札に反映されるにはさらに時間がかかります。その結果、目の前の物価だけを見て金利を動かすと、効き目が届くころには物価はもう反転していて、引き締めすぎた分だけ反対側へ行き過ぎます。シャワーの温度調節に似ています。お湯が出るまで時間がかかる蛇口で、今の水温に反応してひねり続けると、熱湯と冷水を行ったり来たりするのです。

下の部品で確かめてください。四半期ごとに時間が流れ、下段の紫の点(政策金利)をつかんで上下させると、その効き目が中段の右に紫の棒として「予約」され、2〜5四半期後に景気へ届きます。需要ショックを起こして、物価が上がり始めてから慌てて金利を上げると、どうなるでしょう。

⚡ 体験: 政策金利をつかんで、遅れて届く効き目を見る
インフレ率目標 2%景気(需給ギャップ)中立 3%政策金利3.00%
インフレ率2.0%需給ギャップ+0.0%実質金利(金利−物価)1.0%
0四半期

▶ 動かすで四半期が流れ始めます。「需要ショック」で景気を過熱させ、下段の紫の点(政策金利)をつかんで物価を2%へ戻してみてください。

上段=インフレ率(帯は目標2%±0.5)、中段=需給ギャップ(景気。右の紫の棒=これから届く金利の効き目)、下段=政策金利(点をつかんで上下)。1目盛り=1四半期

ラグへの実務の答えのひとつが、目安の式を持つことです。ジョン・テイラーは1993年、政策金利を「中立の実質金利 + 現在のインフレ率 + 0.5 ×(インフレ率 − 目標)+ 0.5 × 需給ギャップ」で決めると、実際のFRBの動きをよく説明できることを示しました(テイラー・ルール)。たとえば中立の実質金利1%、インフレ率4%、目標2%、需給ギャップ+1%なら、1 + 4 + 0.5×2 + 0.5×1 = 6.5%です。インフレ率が1ポイント上がれば政策金利を1.5ポイント上げる — 物価の上昇以上に金利を上げて、実質金利を確実に引き上げる、というのが式の核心です。中央銀行はこの種の式を機械的に使うわけではありませんが、判断が式から大きく外れるときはその理由を説明することが求められます。

金利がゼロに達したら — 非伝統的な政策とその出口

利下げには下限があります。金利がゼロ近くまで下がると、それ以上は下げにくくなります(ゼロ金利制約)。1930年代の米国もこの壁に当たりましたが、現代で最初に直面したのは1990年代末の日本でした。日銀は1999年にゼロ金利政策、2001年に準備預金の量を目標にする量的緩和を始め、2013年からは国債を大量に買い入れる量的・質的金融緩和、2016年には準備預金の一部に−0.1%を課すマイナス金利、同年9月には10年物国債の利回りをゼロ%程度に抑えるイールドカーブ・コントロール(YCC)へと進みました。2008年の金融危機のあとは、米欧も量的緩和や将来の政策の約束(フォワードガイダンス)を採用しました。

長く続いたデフレーションからの脱却のために積み上げたこれらの道具は、2022年以降の物価上昇で出口を迎えます。日銀は2024年3月にマイナス金利とYCCを終え、2024年7月に0.25%、2025年1月に0.5%、2025年12月に0.75%、2026年6月に1.0%、2026年9月に1.25%程度へと政策金利を引き上げてきました。FRBは2022年から急速に利上げして2023年に5.25〜5.50%とし、2024年9月から2025年12月にかけて3.50〜3.75%まで下げたあと、2026年9月に3.75〜4.00%へ再び引き上げています(いずれも2026年9月時点)。膨らんだ中央銀行の国債保有をどう減らすか、市場の値付けの機能をどう戻すかは、いまも続く課題です。

限界とトレードオフ

金融政策は万能ではありません。第一に、緩和は「紐で押す」ようなものだと言われます。金利を下げても、先行きを悲観する企業や家計は借りてくれません。第二に、原油高のような供給側から来る物価上昇に利上げで応じると、物価を抑える代わりに景気と雇用を犠牲にする苦しい選択を迫られます(スタグフレーション)。第三に、低金利を長く続けると、資産価格の上昇や、返済能力の低い借り手への貸出の膨張といった金融の不均衡がたまりやすくなります。物価の安定、雇用、金融システムの安定という複数の目標は時に衝突し、その舵取りに正解の式はありません。

もうひとつの落とし穴は、中央銀行の独立性を「説明責任からの自由」と取り違えることです。中央銀行が政府から距離を置くのは、選挙前の景気刺激や財政赤字の穴埋めといった短期の圧力から物価を守るためです。その代わりに、目標の達成状況と判断の理由を議会と国民に説明し続ける義務を負います。ラグのある政策では、決定の時点で結果を見せることができません。だからこそ、見通しと理由を言葉で示し、それが信じられていること自体が、政策の効き目の一部になるのです。

試問

需要が急に強まり、景気が過熱し始めた直後の経済です。政策金利はまだ中立のままです。

✦ 命題挑戦中

需要が過熱した経済で政策金利を動かし、物価を行き過ぎさせずに2%へ着地させ、金利も中立に戻せ

  • インフレ率の山を 3.4% 以下に抑える(いまの山 2.0%)
  • 6四半期目以降、インフレ率を 2±0.5% の帯に6四半期つづけて収める(0/6)
  • そのとき政策金利を中立(3%)±0.5 に戻している
⚡ 体験: 過熱した経済を、行き過ぎずに2%へ着地させる
インフレ率目標 2%景気(需給ギャップ)中立 3%政策金利3.00%
インフレ率2.0%需給ギャップ+0.0%実質金利(金利−物価)1.0%
0四半期

需要が急に強まりました(景気の過熱)。下段の紫の点(政策金利)をつかんで上下させ、▶ 動かすか1期すすめるで時間を進めてください。効き目は数四半期遅れて届きます。手を緩めるときは「金利を中立に戻す」も使えます。

上段=インフレ率(帯は目標2%±0.5)、中段=需給ギャップ(景気。右の紫の棒=これから届く金利の効き目)、下段=政策金利(点をつかんで上下)。1目盛り=1四半期