金融●●●●○

証券化

Securitizationしょうけんか

ローンを束ねて売れる証券に変える金融技術。リスク分散にも隠蔽にもなる

概要

証券化は、住宅ローンや自動車ローンのような「個別には売り買いしにくい貸出債権」を大量に束ね、そこから生まれる元利金の流れを裏付けとして、投資家に売れる証券に作り替える金融技術です。1本1本のローンは借り手の事情がばらばらで、返済が滞るかどうかも個別には読めません。しかし数千本を束ねれば、全体としての返済の流れはある程度予測可能になります。この「束ねると性質が変わる」ことを利用して、ローンの束を債券に似た商品へ変換するのです。

代表例が、住宅ローンを裏付けとするMBS(モーゲージ担保証券)です。あなたが毎月払う住宅ローンの返済金は、実は銀行の手元に留まらず、証券化を通じて世界中の投資家 — 年金基金や保険会社 — に流れているかもしれません。証券化は、銀行の帳簿に眠っていた債権を市場で流通する商品に変え、世界の資金を住宅や消費の融資へつなぐ配管となりました。同時に、2008年の金融危機では、この配管がリスクの在り処を見えなくする装置として働いたことでも知られています。

なぜ生まれたか

証券化以前、ローンは貸した銀行が満期まで抱え続けるものでした。ここには2つの制約があります。第一に、銀行が貸せる量は自行の資金力と自己資本で頭打ちになります。住宅を買いたい人がどれだけいても、地元の銀行の体力以上には貸せません。第二に、リスクが銀行に一極集中します。地域経済が傾けば、その地域のローンを抱えた銀行は共倒れです。実際、資金の乏しい地域では住宅ローンの供給が慢性的に不足していました。

この制約を破ったのが、1970年代の米国で政府系機関(ジニーメイなど)が始めた住宅ローンの証券化です。ローンを束ねて証券にして投資家に売れば、銀行は貸した資金をすぐ回収して次の融資に回せます。貸し出しの原資が「銀行の預金」から「世界の資本市場」に広がり、リスクも多数の投資家に分散される。銀行は「貸して抱える」機関から「貸して売る(オリジネート・トゥ・ディストリビュート)」機関へと役割を変え、証券化は1980年代以降、自動車ローン・クレジットカード債権・リース料など、あらゆるキャッシュフローに応用されていきました。

詳細

証券化の基本構造 — 束ねて、切り分ける

証券化の工程は大きく3段階です。まず、ローンを組成した銀行(オリジネーター)が、多数の債権をSPV(特別目的事業体)と呼ばれる器に売却します。SPVを挟むのは、銀行本体が破綻しても証券の裏付け資産が巻き込まれないよう、法的に切り離すためです(倒産隔離)。次に、SPVは債権の束から入ってくる元利金を裏付けに証券を発行します。そして最後に、この証券を格付けを添えて投資家に販売します。

このとき単に等分するのではなく、支払いの優先順位が異なる複数の層(トランシェ)に切り分けるのが証券化の技巧です。プールに貸し倒れが出た場合、損失はまず最下層のエクイティ(劣後)部分が吸収し、次にメザニン(中間)、最後にシニア(優先)という順に及びます。シニア債は「プール全体の3割が焦げ付いてもまだ無傷」というような設計にできるため、裏付けが低信用のローンでも最上級の格付けを取得できます。リスクを取りたくない年金基金にはシニアを、高いリスクとリターンを狙うヘッジファンドにはエクイティを — 1つのローンの束から、性質の異なる商品を同時に作り出せるのです。

住宅ローン住宅ローン住宅ローン …数千本の貸出債権SPV債権を束ねて保有倒産隔離された器銀行本体から法的に切り離す証券発行シニア(優先)損失を最後に被る・高格付けメザニン(中間)中程度のリスクと利回りエクイティ(劣後)損失を最初に吸収・高利回り損失の吸収順投資家 — 年金基金・保険会社・ヘッジファンドなどリスク許容度に応じたトランシェを購入するオリジネーターの銀行は売却代金で資金を回収し次の融資に回せる
証券化の構造 — ローンを束ねてSPVに移し、優先順位の異なるトランシェに切り分けて販売する

何が良かったのか

うまく機能する限り、証券化は関係者全員に利点がありました。銀行は債権を売却して資金と自己資本の余力を回復し、より多くの融資を供給できます。借り手にとっては融資の間口が広がり、金利も下がります。投資家にとっては、それまで手の届かなかった「住宅ローンの利息」という収益源に、好みのリスク水準でアクセスできるようになります。地域や資産の種類をまたいでリスクが薄く広く保有される構図は、分散投資の原理を市場全体で実装したものと言えます。

何が危険なのか — インセンティブの断線

しかし証券化には、構造に埋め込まれた弱点があります。最大の問題は、貸し手のインセンティブが壊れることです。ローンを満期まで抱えるなら、銀行は借り手の返済能力を必死に審査します。しかし貸してすぐ売るなら、焦げ付きの損は買い手のものです。審査の質を落としてでも件数を稼ぐ誘惑が生まれる — 売り手だけがローンの中身を知っているという情報の非対称性のもとで、典型的なモラルハザードが起きるのです。

もう1つの弱点は、複雑さがリスクを見えなくすることです。2000年代の米国では、返済能力の低い借り手向けのサブプライムローンが大量に証券化され、さらにその証券のメザニン部分を集めて再証券化するCDO(債務担保証券)まで作られました。何段階も加工された商品の裏付けに何があるのか、最終的な投資家はもはや把握できず、格付け機関の記号だけを頼りに購入します。しかもトランシェ設計の安全性は「貸し倒れが互いに独立に起きる」という前提に依存しており、全米の住宅価格が同時に下落するとこの前提は崩壊しました。安全なはずのシニア債まで暴落し、世界中に薄く広くばら撒かれたはずのリスクは「どこにあるか誰にも分からない」疑心暗鬼に変わり、金融危機を増幅しました。

危機後の証券化

2008年の教訓を踏まえ、証券化には規制の手当てがなされました。代表がリスク・リテンション規制で、オリジネーターに証券化商品の一部(典型的には5%)を自己保有させ、「自分も同じ皿から食べる」ことで審査のインセンティブを回復させる仕組みです。情報開示の標準化や格付け依存の見直しも進みました。証券化そのものは今も金融システムの重要な配管であり続けています。ローンの束を売れる証券に変える技術は、リスクを分散する道具にも、リスクを隠蔽する道具にもなる — どちらに転ぶかを分けるのは技術ではなく、審査の規律と透明性だというのが、この語彙の最大の教訓です。