金融●●●●○

証券化

Securitization ・ しょうけんか

ローンを束ねて優先順位の違う証券に切り分けて売る金融技術。リスクを分散する道具にも、隠す道具にもなる

✦ 30秒で試す — 航海危ないローンを束ねると、なぜか最高格付けの証券ができる最上位の層まで損が届くのは、どんなとき?予想してみる

概要

証券化は、住宅ローンや自動車ローンのような「一本ずつでは売り買いしにくい貸出債権」を大量に束ね、そこから入ってくる元利金の流れを裏付けにして、投資家が買える証券に作り替える金融技術です。1本1本のローンは借り手の事情がばらばらで、返済が滞るかどうかは個別には読めません。しかし数千本を束ねれば、全体としての返済の流れはある程度予測できます。この「束ねると性質が変わる」ことを利用して、ローンの束を債券に似た商品に変えるのです。

代表例が、住宅ローンを裏付けにした MBS(モーゲージ担保証券)です。あなたが毎月払う住宅ローンの返済金は、銀行の手元に留まらず、証券化を通じて年金基金や保険会社といった国内外の投資家に流れているかもしれません。証券化は、銀行の帳簿に眠っていた債権を市場で流通する商品に変え、世界の資金を住宅や消費の融資へつなぐ配管になりました。同時に、2008年の金融危機では、この配管がリスクの在りかを見えなくする装置として働いたことでも知られています。

なぜ生まれたか

証券化が広まる前、ローンは貸した銀行が満期まで抱え続けるものでした。ここには2つの制約があります。第一に、銀行が貸せる量は自分の資金と自己資本で頭打ちになります。家を買いたい人がどれだけいても、地元の銀行の体力以上には貸せません。第二に、リスクが1つの銀行に集中します。地域の経済が傾けば、その地域のローンを抱えた銀行は共倒れになります。1980年代の米国の貯蓄貸付組合(S&L)の大量破綻は、長期の固定金利の住宅ローンを短期の預金で抱え込む危うさを示しました。

この制約を破ったのが、米国の政府系機関ジニーメイが1970年に保証を付けて売り出した住宅ローンのパススルー証券(元利金をそのまま投資家に流す証券)です。ローンを束ねて証券にして投資家に売れば、銀行は貸したお金をすぐ回収して次の融資に回せます。貸し出しの元手が「銀行の預金」から「世界の資本市場」に広がり、リスクも多数の投資家に分散投資されます。銀行は「貸して抱える」機関から「貸して売る(オリジネート・トゥ・ディストリビュート)」機関へと役割を変え、1980年代以降、証券化は自動車ローン・クレジットカード債権・リース料など、定期的にお金が入るあらゆる流れに応用されていきました。

詳細

証券化の基本構造 — 束ねて、切り分ける

証券化の工程は大きく3段階です。まず、ローンを組成した銀行(オリジネーター)が、多数の債権を SPV(特別目的事業体)と呼ばれる器に売ります。SPV を挟むのは、銀行本体が破綻しても証券の裏付けの資産が巻き込まれないよう、法的に切り離すためです(倒産隔離)。次に、SPV は債権の束から入ってくる元利金を裏付けに、債券と同じように利息と元本を払う証券を発行します。最後に、この証券を格付けを添えて投資家に売ります。

このとき、単に等分するのではなく、支払いの優先順位が違う複数の層(トランシェ)に切り分けるのが証券化の技巧です。入ってくる元利金は、まず最上位のシニア(優先)に払われ、余った分がメザニン(中間)へ、最後にエクイティ(劣後)へ流れます。貸し倒れの損失はその逆で、まずエクイティが吸収し、次にメザニン、最後にシニアに及びます。シニアは「プールの15%が焦げ付いてもまだ無傷」のように設計できるので、裏付けが信用の低いローンでも最上級の格付けを取れます。リスクを取りたくない年金基金にはシニアを、高いリスクとリターンを狙うヘッジファンドにはエクイティを — 1つのローンの束から、性質の違う商品を同時に作り出せるのです。

銀行が組成したローン住宅ローン住宅ローン住宅ローン …SPV債権を束ねて保有倒産隔離された器発行シニア(優先)先に払われ、損失は最後メザニン(中間)中くらいのリスクと利回りエクイティ(劣後)損失を最初に吸収・高利回り損失は下から投資家 — 年金基金・保険会社・ヘッジファンドリスクの好みに合ったトランシェを買う売却代金が銀行に戻り次の融資へ
証券化の構造 — ローンを束ねて SPV に売り、優先順位の違うトランシェに切り分けて投資家に売る。売却代金は銀行に戻り、次の融資の元手になる

支払いの滝 — 数字で追う

優先順位の効き方を、100億円分のローンのプールで追ってみましょう。シニアが85億円(プールの85%)、メザニンが10億円、エクイティが5億円とします。毎月入ってくる元利金は、滝が上の段から順に水を満たしていくように、まずシニアの利息と元本に充てられ、余りがメザニンへ、さらに余りがエクイティへ流れます。この仕組みをウォーターフォール(支払いの滝)と呼びます。

プールの8%(8億円)が貸し倒れた場合、損失は下から吸収されます。エクイティの5億円は全額消え、残りの3億円がメザニンを削り(メザニンの3割の損)、シニアは無傷です。損失が15%を超えて初めてシニアに届きます。逆に言えば、シニアの安全性は「プールの15%が同時に焦げ付くことは、まずない」という見積もりの上に立っています。

ローンの元利金毎月プールに入る① まずシニアへ② 余りをメザニンへ③ 最後にエクイティへシニア 85億損失15%超で初めて傷むメザニン 10億エクイティ 5億損失 8億損失は下から溜まるエクイティ 5億 → 全損メザニン 10億 → 3億の損シニア 85億 → 無傷塔の高さ: エクイティ5%・メザニン10%は目盛りどおり、シニアの85%は波線で省略
支払いの滝 — 元利金は上から順に払われ、損失は下から吸収される(プール100億円、貸し倒れ8%の例。高さは損失率の目盛りで、シニアは途中で省略)

平均ではなく「同時に起きるか」— 相関がシニアを崩す

ここに証券化の核心の危うさがあります。1本あたりの貸し倒れ確率が5%で、各ローンが互いに独立に貸し倒れるなら、100本のうち15本を超えて同時に貸し倒れる確率は、およそ10万分の4しかありません。シニアが「ほぼ安全」なのはこのためです。ところが、住宅価格が全国で一斉に下がると、借り手たちは同時に返済に困ります。1本あたりの確率(平均)は同じ5%でも、ふだんはほとんど貸し倒れず、まれな年にまとめて貸し倒れる — 貸し倒れの相関が高まると、損失の分布の裾が伸び、シニアまで届く年が現れます。

下の部品で確かめてください。▶ で「世界」を1つずつ流すと、貸し倒れたローンが朱に灯り、損失の水が塔の下から溜まります。住宅価格の連動のつまみを右へ動かすと、平均の損失は変わらないまま、右のヒストグラムの裾が伸びていきます。

⚡ 体験: 貸し倒れを降らせて、損失がどの層に溜まるかを見る
住宅ローン100本(貸し倒れ確率 5%)住宅価格の連動(相関)ばらばら一斉にρ = 0.00損失の吸収順シニア15%〜メザニン5〜15%エクイティ損失 0%世界ごとの損失率(0/60)0%5%15%25%40%1本の確率
0番目の世界
平均の損失0.0%メザニンに届いた世界0シニアに届いた世界0
1本あたりの貸し倒れ確率

▶ 動かすで「世界」を1つずつ流してください。貸し倒れた家が朱に灯り、損失の水が塔の下から溜まります。下の金のつまみで住宅価格の連動(相関)を変えられます。

左=100本の住宅ローン(朱=貸し倒れ)。塔=損失の吸収順(下から)。右=流した世界ごとの損失率の山(灰=エクイティの中で収まった、金=メザニンまで、朱=シニアに到達)。回収はゼロと仮定

2000年代、CDO(債務担保証券)の格付けやプライシングで広く使われたのが、デビッド・X・リーが2000年に提案したガウス・コピュラと呼ばれるモデルでした。部品の「住宅価格の連動」はまさにこのモデルの相関パラメータにあたります。当時の相関の見積もりは、全米の住宅価格が長く下がったことがない過去のデータに基づいていて、小さすぎました。2006年以降に住宅価格が全国で下がり始めると、前提が崩れ、AAA のはずのシニアまで格下げと暴落に見舞われました。

何が危険なのか — 情報とインセンティブの断線

証券化の構造には、ほかにも弱点が埋め込まれています。1つは、貸し手のインセンティブが壊れることです。ローンを満期まで抱えるなら、銀行は借り手の返済能力を真剣に審査します。しかし貸してすぐ売るなら、焦げ付きの損は買い手のものです。審査を甘くしてでも件数を稼ぐ誘惑が生まれます — これは、見えないところで行動が緩むモラルハザードです。

もう1つは、売り手だけがローンの中身をよく知っているという情報の非対称性です。どのローンを証券化に回し、どれを手元に残すかを売り手が選べるなら、質の悪いものほど売りに出したくなります。買い手はそれを見越して値を下げ、良いローンの売り手は市場から去っていく — アカロフが中古車の「レモン市場」として描いた逆選抜と同じ構図です。さらに2000年代には、サブプライムローン(返済能力の低い借り手向けのローン)の証券のメザニン部分をさらに集めて再び切り分ける CDO まで作られ、最終的な投資家は裏付けに何があるかを把握できず、格付けの記号だけを頼りに買うようになりました。証券の倒産に備える保険として売られた CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というデリバティブも膨らみ、それを大量に引き受けていた米国の保険大手 AIG は2008年に政府の救済を受けました。薄く広くばらまかれたはずのリスクは「どこにあるか誰にも分からない」疑心暗鬼に変わり、金融危機を増幅しました。

危機後の証券化と、いまの姿

2008年の教訓を受けて、証券化には規制の手当てがなされました。代表がリスク・リテンション規制で、オリジネーターに証券化商品の一部(典型的には5%)を自分で持たせ、「自分も同じ皿から食べる」ことで審査のインセンティブを取り戻す仕組みです。米国のドッド・フランク法や欧州の規制で導入され、日本でも銀行の自己資本比率規制の中に取り入れられています。情報開示の標準化や、格付けへの依存の見直しも進みました。

証券化そのものは今も金融の重要な配管です。日本では、住宅金融支援機構が銀行などの長期固定金利の住宅ローン「フラット35」を買い取り、それを裏付けにした MBS を毎月発行しています。国の機関が保証する単純な構造で、日本最大級の証券化商品です。一方、企業向けの貸出(とくに信用力の低い企業向けのレバレッジド・ローン)を束ねた CLO(ローン担保証券)は2010年代に急拡大し、日本の大手金融機関がそのシニア部分を大量に保有していることでも知られます。ローンの束を売れる証券に変える技術は、リスクを分散する道具にも、リスクを隠す道具にもなります。どちらに転ぶかを分けるのは技術ではなく、審査の規律と、相関まで含めた透明性だというのが、この語彙の最大の教訓です。

試問

住宅ローン100本を束ね、エクイティ5%・メザニン10%・シニア85%に切り分けた証券です。1本あたりの貸し倒れ確率は5%。

✦ 命題挑戦中

1本あたりの貸し倒れ確率(5%)は変えずに、シニア層に損失を届かせよ

  • 1本あたりの貸し倒れ確率は5%のまま
  • シニア層に損失が届いた世界がある
⚡ 体験: 連動を変えて、シニアに損失を届かせる
住宅ローン100本(貸し倒れ確率 5%)住宅価格の連動(相関)ばらばら一斉にρ = 0.00損失の吸収順シニア15%〜メザニン5〜15%エクイティ損失 0%世界ごとの損失率(0/60)0%5%15%25%40%1本の確率
0番目の世界
平均の損失0.0%メザニンに届いた世界0シニアに届いた世界0
1本あたりの貸し倒れ確率

いまは住宅ローン同士がほとんど連動していません。▶ 動かすで世界を流し、シニア層まで損失の水が届くかを見てください。

左=100本の住宅ローン(朱=貸し倒れ)。塔=損失の吸収順(下から)。右=流した世界ごとの損失率の山(灰=エクイティの中で収まった、金=メザニンまで、朱=シニアに到達)。回収はゼロと仮定