金融●●○○○

リスクとリターン

Risk & Returnりすくとりたーん

高いリターンには高いリスクが付く。金融市場に無料の昼食はないという原則

概要

リスクとリターンは、投資の世界を貫く「高い儲けを狙うなら、大きな振れ幅を受け入れなければならない」という原則です。ここでいうリターンとは投資から得られる収益率のこと、リスクとは「危険」そのものではなく「結果のばらつき・不確実性」のことです。predictably(予測どおり)に毎年1%増える資産はローリスク、平均すれば年7%だが年によって+30%にも−30%にもなる資産はハイリスク、と表現します。日常語の「リスク=損する危険」とは少しずれた、金融特有の定義であることが最初のポイントです。

この2つは自由に組み合わせられるものではなく、市場では強く結びついています。もし「リスクが低いのにリターンが高い」資産があれば、皆が殺到して価格が上がり、リターンは下がってしまうからです。結果として、安全な預金や国債のリターンは低く、値動きの激しい株式のリターンは長期平均では高い、という秩序が生まれます。「ローリスク・ハイリターン」を謳う商品は、この市場の力学に照らせばほぼ確実に、リスクが見えにくく隠されているか詐欺かのどちらかです。リスクとリターンの関係は、金融商品を見る目を養う最初のフィルターになります。

なぜ生まれたか

この原則が言葉になる前から、商人たちは経験的にそれを知っていました。近世の海上貿易では、嵐や海賊で船が失われる危険が大きい航路ほど、成功したときの分け前を大きく設定しなければ出資者が集まりませんでした。危険な事業ほど高い見返りを約束しなければお金が動かない — これは市場が自然に発見した価格付けです。しかし20世紀半ばまで、この直感を測定し比較する共通の物差しはなく、「この投資は儲かりそうか」を語れても「この投資はリスクに見合うか」を数量的に問うことができませんでした。

転機は1950年代に訪れます。ハリー・マーコウィッツがリターンの「ばらつき」(統計学の分散・標準偏差)をリスクの尺度として採用し、リスクとリターンを同じグラフの縦横に置いて資産を比較する枠組みを作りました。続くウィリアム・シャープらのCAPM(資本資産価格モデル)は、「安全資産の利回りに、負担するリスクに応じた上乗せ(リスクプレミアム)を加えたものが、その資産の期待リターンである」という形で両者の関係を定式化します。曖昧だった「危険と儲けの釣り合い」は、測定し、価格付けし、検証できる理論になりました。現代のファイナンス理論はほぼすべて、この土台の上に建っています。

詳細

リスクの正体 — ばらつきとしてのリスク

金融でリスクを「ばらつき」と定義するのは、不確実性こそが投資家に負担を強いるものだからです。平均リターンが同じ7%でも、毎年ほぼ7%で安定する資産と、−30%の年がありうる資産では、後者を持つには「暴落の年に耐える力」が要ります。生活資金を取り崩す時期に暴落が重なれば、平均では良い投資でも個人にとっては破綻です。ばらつきは標準偏差(ボラティリティ)で測るのが標準で、たとえば「期待リターン5%・標準偏差20%」の資産は、おおまかに言えば3年に1回程度は−15%を下回る年がある、という意味を持ちます。

リスクプレミアム — 我慢代としての上乗せリターン

投資家は不確実性を嫌うため、リスクのある資産には「我慢代」としての上乗せリターンがなければ買い手がつきません。この上乗せ分をリスクプレミアムと呼びます。基準になるのは、ほぼ確実に約束どおり支払われる安全資産 — 実務では国債金利 — で、あらゆる資産の期待リターンは「安全資産の利回り+リスクプレミアム」に分解できます。株式のリスクプレミアムは歴史的に年数%程度と推計されており、株式が長期で債券を上回ってきたのは幸運ではなく、値動きの激しさに耐えることへの対価だと解釈されます。裏を返せば、プレミアムは「耐えた人だけが受け取れる報酬」であり、暴落のたびに売ってしまう投資家は、リスクだけ負担してプレミアムを取り損ねることになります。

期待リターンリスク(ばらつき)預金国債社債株式安全資産の利回りリスクプレミアム「ローリスク・ハイリターン」隠れたリスクか詐欺を疑う
リスクとリターンの平面 — 資産クラスは右上がりの帯に並び、左上の「うまい話」は存在しにくい

消えるリスクと消えないリスク

理論上の重要な発見は、リスクには2種類あるということです。個別企業の不祥事や新製品の失敗のような、その資産に固有のリスクは、多くの資産を組み合わせる分散投資でほぼ打ち消せます。一方、景気後退や金融危機のように市場全体を同時に襲うリスクは、どれだけ銘柄を増やしても消せません。市場が対価(プレミアム)を払うのは、この「消せないリスク」だけです。分散すれば消せるリスクをわざわざ負っても、上乗せリターンは期待できない — 少数の銘柄への集中投資が理論的に不利とされる理由であり、ポートフォリオ理論の中心的な結論です。

実務での使いどころと落とし穴

リスクとリターンの枠組みは、金融商品の比較だけでなく、あらゆる「うまい話」の検証に使えます。相場より高い利回りを謳う社債があれば、その差は発行体の破綻リスクの対価です。高金利通貨の預金は、通貨下落のリスクを金利で先払いされているだけかもしれません。リターンの源泉を問い、「このプレミアムは何のリスクの対価か」と考える癖が、金融リテラシーの核心です。

落とし穴も知られています。第一に、過去のばらつきが将来のリスクを保証しないこと。標準偏差は平時の物差しであり、金融危機のような極端な事象(テールリスク)は過去データが示唆するよりずっと頻繁に起きてきました。第二に、レバレッジの誘惑です。借金で投資額を膨らませればリターンもリスクも倍増しますが、下振れ時には元本を超える損失があり得ます。第三に、リスク認識のゆがみです。行動経済学が示すとおり、人は損失を利得より重く感じ、直近の相場に引きずられてリスクを過大・過小に見積もります。バブルの高値では皆がリスクを忘れ、暴落の底では皆がリスクを過大視する — 原則を知識として持つことと、それに従い続けることの間には大きな溝があるのです。