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バブル

Bubble ・ ばぶる

資産価格が配当や家賃などの裏付けを離れて膨らみ、やがて弾ける現象。被害の大きさは借金の量で決まる

✦ 30秒で試す — 航海同じだけ膨らんだバブルでも、弾けた後の被害は桁違いこの株の価格は、実力の2倍を超える?予想してみる

概要

バブルは、株式や土地などの資産の価格が、その資産が本来生み出す価値から大きく離れて上がり、やがて急に下がる現象です。本来の価値とは、株なら将来の配当、土地やマンションなら家賃のように、持っていることで受け取れるお金の流れのことで、ファンダメンタルズ(実力)と呼びます。泡のように膨らんで弾けることから、この名が付きました。渦中では「値上がりしているから買う、買うからさらに値上がりする」という自己強化の循環が働き、価格そのものが買う理由になっていきます。

厄介なのは、渦中の人にはそれがバブルだと確信できないことです。価格の上昇には毎回それらしい物語 — 新技術、新しい市場、「今回は違う」という理屈 — が伴い、しかもその物語の一部は本物です。1720年のイギリス南海会社株、1980年代後半の日本の土地と株、2000年前後のITドットコム株、そして2008年の世界的な金融危機の引き金になった米国の住宅 — 対象を変えながら、熱狂と崩壊は数百年にわたって繰り返されてきました。

もう一つ大事なのは、バブルの「怖さ」は膨らみ方より弾け方で決まることです。同じように大きく膨らんでも、借金で買われた部分が大きいと、崩壊が銀行を傷め、経済全体を長い不況に引きずり込みます。借金の少ないバブルは、多くの投資家の財産を減らしても、経済の血流までは止めません。

なぜ生まれたか

価格は需要と供給を通じてモノの価値を映す鏡のはずです。ところが歴史上たびたび、鏡そのものが狂ったとしか思えない事態が起きました。1720年、イギリスの南海会社の株式の価格は1月の約128ポンドから6月には約1,000ポンドへ、半年ほどで約8倍になり、秋には崩れました。同じ年には中身の怪しい新会社が次々に株を売り出し、議会は泡沫会社禁止法(Bubble Act)で規制に乗り出します。「泡(bubble)」という言葉が投機熱を指すようになったのはこのころです。この相場で大損したニュートンが「天体の動きは計算できるが、人々の狂気は計算できない」と嘆いたという話も伝えられています(出典のはっきりしない逸話です)。

よく引かれる1630年代オランダのチューリップ熱には但し書きが要ります。歴史家アン・ゴールドガーの研究(2007年)は、当時の記録を調べ直し、球根の値上がりは実際にあったものの、破産者の続出や経済の混乱といった「狂乱」の話の多くは、後の道徳的な小冊子や19世紀のマッケイの著作が誇張したものだったと指摘しています。バブルの物語そのものが、伝わるうちに膨らむのです。

こうした出来事を説明するには、「市場の価格は常に正しい」という前提の外に出る言葉が必要でした。株価には手に入る情報がすべて織り込まれると考える効率的市場仮説に対して、バブルの歴史は反証の系譜であり続けました。経済学者は二つの方向からこれに答えようとします。一つは、全員が合理的でもバブルは起こりうるという「合理的バブル」の理論(ブランチャードとワトソン、1982年)。もう一つは、人の心理の偏りから説明する行動経済学で、シラーの『根拠なき熱狂』(2000年)がITバブルの頂点で出版されたことはよく知られています。さらにミンスキーは、好況が続くほど借金の仕方が危うくなり、金融そのものが不安定さを生むという「金融不安定性仮説」を唱え、キンドルバーガーはこれを土台に歴史上の熱狂と恐慌を体系立てました(『熱狂、恐慌、崩壊』1978年)。

詳細

バブルの解剖図 — 5つの局面

キンドルバーガーは、歴史上のバブルが共通してたどる経路を整理しました。始まりは「転位」— 新技術や規制緩和、金利の低下といった本物の環境変化です。これが正当な値上がりを生み、それを見た人々が参入して「ブーム」になります。やがて値上がり自体が目的になる「陶酔」の局面では、ふだん投資をしない人まで市場に集まり、借金で買う人が増えます。どこかで事情通が売り抜け始め(利益確定)、金融の引き締めや大型の倒産をきっかけに買い手が消えると、全員が同時に出口へ向かう「パニック」で崩れます。崩壊のときは投げ売りが投げ売りを呼ぶので、価格は実力を下回るところまで落ちることがよくあります。

価格時間実力(配当や家賃の裏付け)転位新技術・金融緩和ブーム陶酔値上がりが買う理由に利益確定事情通が売り抜けパニック全員が出口へ実力を下回ることも
バブルの典型的な経路 — 実力(青の破線)から離れて膨らみ、崩壊のときは実力を下回ることも多い。金の塗りは実力との差

なぜ賢い人まで巻き込まれるのか

バブルは無知な人だけの現象ではありません。まず「より大きな愚か者」の構造があります。価格が実力を超えていると分かっていても、もっと高く買う誰かに売り抜けられると信じられるなら、買うことは個人としては合理的に見えます。運用のプロにも「周りが儲けているときに独りだけ降りると顧客に説明できない」という事情があり、宴が続く限り踊り続ける圧力が掛かります。そこへ群集心理、直近の上昇がこの先も続くと思い込む外挿、乗り遅れることへの恐れといった心理の偏りが火に油を注ぎます。

割高な資産を空売りして値下がりに賭ける人がいれば、価格は正されるはずです。これは広い意味の裁定取引ですが、崩壊の時期を当てられない売り手は、値上がりが続くあいだに損が膨らんで途中で降ろされます。「市場は、あなたの資金が尽きるより長く不合理であり続けられる」という格言のとおりです。価格のゆがみを正す力に限界があることを、ファイナンスでは「裁定の限界」と呼びます。

実験室でもバブルは起きます。ヴァーノン・スミスらの実験(Smith, Suchanek & Williams、1988年)では、毎期の配当で価値が確実に下がっていく資産を学生に売買させました。理屈の上では、残りの配当の合計(実力)より高く買う理由はありません。ところが多くの市場で価格は実力を大きく上回って膨らみ、終わり近くで崩れました。面白いのは、同じ参加者で2回、3回と繰り返すと、バブルがしだいに小さくなって消えることです。経験がバブルを抑える — 逆に言えば、新しい参加者が大勢流れ込む市場ほど膨らみやすいということです。

燃料としての信用 — 被害の大きさを分けるもの

バブルの破壊力を決めるのは、借金の量です。低金利や緩い融資はレバレッジを掛けた投資を促し、値上がりした資産を担保にさらに借りる循環が泡を大きくします。銀行が貸し出すたびに預金というお金が新しく生まれる信用創造の仕組みがあるので、この循環はお金の量そのものを膨らませます。1980年代の日本では、値上がりした土地を担保に銀行が貸し、その資金がまた土地と株に向かいました。2000年代の米国では、住宅ローンを束ねて売る証券化が貸し手の規律を緩め、返せる見込みの薄い人にまでお金が流れました。

だから崩壊が悲惨になります。価格が下がって担保割れした借り手は投げ売りを迫られ、売りが売りを呼び、貸し込んだ銀行は不良債権を抱えます。買値の8割を借りて買った人は、価格が2割下がっただけで自分のお金をすべて失い、それ以上下がると売っても借金を返せません。日本の地価と株価の崩壊が長い停滞につながり、米国の住宅価格の下落が2008年に世界的な金融危機に広がったのは、崩壊が銀行を直撃したからです。対照的に、2000年のITバブルでは米ナスダック総合指数が2002年までに約8割下がりましたが、株の多くは借金でなく手元の資金で買われていたため、銀行危機には至りませんでした。バブルそのものより「信用で膨らんだバブル」が危ない、というのが歴史の教訓です。

ミンスキーは、借り手を3つに分けてこの危うさを説明しました。収入で利息も元本も返せる「ヘッジ金融」、利息は払えても元本は借り換えに頼る「投機的金融」、利息すら払えず資産の値上がりだけが頼りの「ポンツィ金融」です。好況が長く続くと、成功体験が警戒を緩め、借り手の構成がしだいに右へずれていきます。値上がりが止まった瞬間、ポンツィ金融の借り手は立ち行かなくなり、彼らの投げ売りが投機的金融の借り手まで追い詰めます。

収入利息元本の返済収入の上限ヘッジ金融利息も元本も返せる投機的金融元本は借り換え頼みポンツィ金融利息も払えず値上がり頼み
ミンスキーの3つの借り手 — 収入(緑青)と、返すべきもの(利息=灰、元本=金)の長さを比べる。好況が続くと下の段へずれていく

下の部品で確かめてください。資産の実力は毎期の配当の分だけ確実に下がっていきます。40人のトレーダーのうち何人を値上がりを追う「追随型」にするか、買値の何割まで借金で買えるかを決めて、30期を再生します。泡の大きさを決めるのはどちらで、破産者の数を決めるのはどちらでしょう。

⚡ 体験: 追随型の割合と信用の蛇口を決めて、バブルの30期を再生する
トレーダー40人← ファンダ派 20人追随型 20人 →信用の蛇口買値の何割まで借りられるか50%020406080実力の2倍実力
0期
価格 ÷ 実力1.00倍いちばん膨らんだ1.00倍破産した買い手0人

右の列ほど値上がりを追う追随型です。縦の仕切りを左右にドラッグして追随型の割合を、下の蛇口のつまみで借りられる割合を決め、「▶ 動かす」で30期を再生してください。

左: 40人のトレーダー(青=実力を見て売買するファンダ派、緑青=値上がりを追う追随型。塗り=保有中、金の輪=借金で買った、朱=破産)。右: 価格(白)と実力(青の破線、毎期の配当の分だけ下がる)

合理的なバブルはあるか

「全員が合理的ならバブルは起きない」と言い切れないところに、この問題の奥深さがあります。価格が毎期、金利と同じ率で膨らみ続けると全員が予想していれば、実力より高い価格でも持つことが割に合います。これが合理的バブルです。ただし、満期のある資産(期限の決まった債券や、SSWの実験の資産)では、最後の期に実力を超えて買う人はいないので、後ろから逆算するとバブルは成り立ちません。永遠に続く資産でも、経済全体の成長率を超えて膨らみ続けることはできません。現実のバブルを合理性だけで説明するのは難しく、多くの研究者は、合理的な計算と心理の偏り、そして借金の制度が組み合わさって起きると考えています。

バブルとどう付き合うか

バブルの確実な判定法はありません。事後には明白でも、渦中では本物の成長と過熱の区別が付きにくく、実際にITバブルの中からは現在の巨大企業も生まれました。中央銀行にとっても、膨らみつつある泡を金融政策の引き締めで刺すべきか(lean)、崩壊後の後始末に徹するべきか(clean)は長年の論争でした。1990年の日本では、日銀の利上げと不動産融資の総量規制が重なって崩壊を早めたとされ、刺し方の難しさを示しています。2008年以降は、金利という一本の道具に頼るのではなく、住宅ローンの借入比率の上限や銀行の自己資本の上乗せ(景気の過熱時に積み増すカウンターシクリカル・バッファー)で、信用の膨らみそのものを抑えるマクロプルーデンス政策が重視されるようになりました。泡を止めるより、泡に注がれる借金を止める、という発想の転換です。

個人の投資家にとっての防御は、地味ですが一貫しています。価格の勢いではなく資産の実力に目を向けること、分散投資で特定の熱狂への集中を避けること、そして借金で相場に賭けないことです。借金をしていなければ、読みを外しても失うのは自分のお金までで、相場が戻るまで待つこともできます。「今回は違う」という言葉が聞こえ始めたときこそ、数百年分の歴史を思い出す価値があります。

試問

追随型が半分、買値の5割まで借りられる市場から始まります。このまま再生すると、崩壊で大勢が借金を返せなくなります。

✦ 命題挑戦中

価格を実力の2倍以上に膨らませながら、崩壊で破産する買い手をゼロにせよ

  • 30期を最後まで再生した
  • 価格が一度は実力の2倍以上に膨らんだ
  • 崩壊のあとも、破産した買い手が0人
⚡ 体験: 泡を膨らませても、誰も破産させない
トレーダー40人← ファンダ派 20人追随型 20人 →信用の蛇口買値の何割まで借りられるか50%020406080実力の2倍実力
0期
価格 ÷ 実力1.00倍いちばん膨らんだ1.00倍破産した買い手0人

いまは追随型が半分、買値の5割まで借りられる市場です。このまま再生すると大勢が破産します。仕切りと蛇口のつまみを動かしてから「▶ 動かす」で再生してください。

左: 40人のトレーダー(青=実力を見て売買するファンダ派、緑青=値上がりを追う追随型。塗り=保有中、金の輪=借金で買った、朱=破産)。右: 価格(白)と実力(青の破線、毎期の配当の分だけ下がる)