金融●●●○○

金融危機

Financial Crisis ・ きんゆうきき

信用の網が一斉に巻き戻る危機。投げ売りと取り付けが銀行を通じて広がり、実体経済まで壊す

✦ 30秒で試す — 航海一番大きな銀行を救っても、連鎖倒産は止まらないAの投げ売りで、銀行Cは?予想してみる

概要

金融危機は、経済の中に張り巡らされた信用の網 — 貸し借りと「後で払う」という約束の連鎖 — が、一斉に巻き戻る現象です。平時の金融システムでは、銀行は貸出を通じて預金を生み(信用創造)、投資家は借入で資産を買い、企業は約束手形で仕入れます。無数の約束が重なり合って経済を回しているのです。この網は、全員が「相手は払ってくれる」と信じている間は滑らかに働きますが、どこかで疑いが生まれると、皆が一斉に資金を引き揚げ、貸出を絞り、資産を投げ売る方向へ雪崩を打ちます。

金融危機が単なる株価の暴落や一企業の倒産と違うのは、決済と信用という経済の配管そのものが詰まる点です。健全な企業まで運転資金を借りられなくなり、倒産と失業が連鎖して、金融の混乱が実体経済の不況に変わります。1929年からの大恐慌、1990年代の日本のバブル崩壊と銀行危機、1997年のアジア通貨危機、2008年のリーマン・ショック — 場所も時代も違うのに、危機の展開は驚くほど似た型をたどります。この型を理解することが、この語彙の目的です。

なぜ生まれたか

なぜ金融システムは、これほど周期的に危機を起こすのでしょうか。かつての主流派経済学は市場の自己調整力を信頼し、危機を「外から来た不運なショック」として扱いがちでした。それに最初に強く異を唱えたのが、大恐慌で自らも財産を失ったアーヴィング・フィッシャーです。彼は1933年の「負債デフレ」の理論で、借金を抱えた人々が一斉に返済と投げ売りに走ると物価が下がり、物価が下がると借金の実質的な重さがかえって増す、という悪循環を示しました。デフレーションが借り手を追い詰めるのです。

1970年代以降、ハイマン・ミンスキーは、安定こそが不安定の種を蒔くと論じました。好況が長く続くと、人々は「価格は下がらない」と学び、より大きなレバレッジを許すようになります。慎重な借入は次第に、値上がりを前提にしなければ返せない投機的な借入に変わり、信用の網は見た目の繁栄の裏で脆くなっていく — 危機は外から来るのではなく、好況の内側で熟す、という洞察です。1983年にはベン・バーナンキが、大恐慌で銀行が大量に倒れたことが、借り手を見極める銀行の情報と信用の経路を壊し、不況を長引かせたことを実証しました。この研究は、2022年のノーベル経済学賞につながっています。そして2009年、カーメン・ラインハートとケネス・ロゴフは『国家は破綻する(This Time Is Different)』で800年分の危機のデータを集め、「今回は違う」という言葉が危機の直前に必ず唱えられてきたことを示しました。

もう1つの根源は、銀行に埋め込まれた構造的な弱さです。いつでも引き出せる預金で長期の貸出をまかなう満期のずれは、平時には価値を生みますが、預金者が一斉に来れば健全な銀行でも倒れます。取り付け騒ぎは一行の事件で済むこともありますが、疑心暗鬼が銀行どうしの市場全体に広がったとき、それは金融危機と呼ばれる規模になります。中央銀行の最後の貸し手機能や預金保険といった安全装置は、繰り返す危機の傷跡として一つずつ発明されてきました。

詳細

危機の解剖図 — 共通の型

個々の危機の引き金はさまざまですが、展開はおおむね次の段階をたどります。まず信用の拡大期です。金融緩和や規制緩和、新しい金融技術を背景に借入が容易になり、資金が特定の資産 — 株式、不動産、新興国の債券 — に流れ込みます。次に陶酔期。資産価格の上昇が担保の価値を高めてさらなる借入を可能にし、「今回は違う」という物語とともにバブルが膨らみます。そして転換点。きっかけは利上げでも大手の破綻でも何でもよく、価格の上昇が止まった瞬間、値上がりを前提にした借入の構造が逆回転を始めます。最後がパニックと信用収縮です。

資産価格の上昇が担保価値を高め、さらなる借入を呼ぶ

利上げや大型破綻などのきっかけで上昇が止まる

投げ売りと資金の一斉引き揚げ

金融機関が損失を抱え、貸出を絞る

健全な企業まで資金繰りに窮し、倒産と失業が連鎖

信用拡大期

陶酔期

転換点

パニック

信用収縮

実体経済の不況

下降局面のエンジン — 投げ売りの悪循環

下降局面を動かすのは、一人ひとりには合理的な自衛が全体を悪化させるループです。数字で追ってみます。総資産100、自己資本7(レバレッジ約14倍)の金融機関があり、借り手や規制から「14倍以内」を求められているとします。持っている資産の価格が2%下がると、損失2で自己資本は5に減り、レバレッジは98÷5で約20倍に跳ね上がります。14倍に戻すには資産を5×14=70まで減らさなければならず、28も売ることになります。たった2%の値下がりが、資産の3割近い売りを生むのです。

しかも、同じ資産を持つ金融機関が同時に売れば価格はさらに下がり、それが次の損失と売りを呼びます。これが投げ売り(ファイヤーセール)の悪循環です。一人ひとりの「賢明な自衛」が全体の破滅を早めるという合成の誤謬が、局所の損失をシステム全体の危機に増幅します。

資産価格の下落きっかけは何でもよい自己資本が減るレバレッジが上限を越え、追加担保資産の投げ売り皆が同じ資産を同時に売る時価で評価し直す売って借金を返す売りが値を崩す悪循環一周するごとに下落が加速し局所の損失が全体の危機になる例: 自己資本7・資産100のとき、2%の値下がりで14倍に戻すための売りは28
投げ売りの悪循環 — 価格の下落が自己資本を削り、上限を越えたレバレッジを戻すための売りが、また価格を下げる

この連鎖がどこまで広がるかは、最初の損失の大きさより、誰がどの資産をどれだけの借金で持っているかという網の形で決まります。下の部品で確かめてください。6つの銀行が2つの資産を持ち合っていて、銀行Aに小さな損失が落ちています。「▶ 動かす」で投げ売りの連鎖を見たあと、紫の中央銀行の資金を別の銀行に入れてやり直してみてください。

⚡ 体験: 損失を落として、投げ売りが網を伝わるのを見る
住宅ローン証券100社債100価格(最初=100)銀行A自己資本0.0・限界銀行B自己資本12.0・8.3倍銀行C自己資本9.0・8.9倍銀行D自己資本14.0・9.3倍銀行E自己資本9.0・10.0倍銀行F自己資本10.0・9.0倍中央銀行の資金(60まで・1回)¥
破綻した銀行0行住宅ローン証券100社債100資金を入れた先—
0ラウンド

銀行Aに損失のショック(⚡)が落ちています。まずはそのまま「▶ 動かす」を押し、投げ売りが網を伝わる様子を見てください。⚡や紫の資金は別の銀行へドラッグできます。

箱=銀行(緑の帯=自己資本、倍率=レバレッジ。14倍を越えると資産を売る)。中央の柱=2つの資産の価格。線の太さ=保有量。朱の粒=投げ売り、紫=中央銀行の資金

2008年 — 現代型危機の実例

2008年の世界金融危機は、この型が現代の金融技術の上で展開した実例です。低金利と住宅価格の上昇を背景に、返済能力の低い借り手向けのサブプライムローンが広がり、証券化で加工されて世界中の投資家に売られました。住宅価格が下がり始めると証券の価値に疑いが生じますが、何段も加工された商品のどこにどれだけ損失があるのか誰にも分からず、金融機関どうしが互いを信用できなくなります。

このとき起きたのは、預金者が窓口に並ぶ古典的な取り付け騒ぎではなく、担保付きの短期資金市場(レポ市場)での取り付けでした。投資銀行は証券を担保に翌日物の資金を借りて資産を膨らませていましたが、貸し手は担保の価値を疑って掛け目(ヘアカット)を数%から数十%へと引き上げました。同じ担保で借りられる額が一気に減り、足りない分は資産を売って返すしかない — 部品で見た投げ売りの連鎖そのものです。預金ではなく市場の短期資金に頼っていたリーマン・ブラザーズは2008年9月15日に破綻しました。翌日には、住宅ローン証券の損失を保証するデリバティブ(クレジット・デフォルト・スワップ、CDS)を大量に売っていた保険大手 AIG が、米国政府の救済を受けます。AIG が倒れれば、保証を当てにしていた世界中の銀行が一斉に損失を抱えるからでした。

2023年 — 利上げが掘った落とし穴

2023年3月には、別の型の危機が起きました。2022年以降の世界的なインフレに対して各国が急速に利上げすると、低金利の時代に買われた国債などの債券の価格が下がります(金利が上がると既存の債券の価格は下がる)。米国のシリコンバレー銀行(SVB)は預金の多くを長期の債券に回していたため、含み損を抱えていました。その損失が表に出た途端、上限を超える大口の法人預金がスマートフォン経由で一斉に流出し、銀行は2日で閉鎖されました。同じ月、欧州ではスイスの大手銀行クレディ・スイスが信認を失い、当局の仲介で UBS に救済合併されています。危機の姿は時代とともに変わりますが、満期のずれ・レバレッジ・信認の崩れという骨格は同じです。

危機への対応と、対応が生む新たな問題

危機の消火には確立された処方箋があります。中央銀行が最後の貸し手として資金を惜しみなく供給してパニックを止め、預金保険が預金者の逃走を防ぎ、政府が資本注入で金融機関の自己資本を立て直し、財政政策と金融政策で需要の崩落を支える。2008年に各国が大恐慌の再来を防げたのは、1930年代の失敗 — 銀行を倒れるに任せ、マネーが3分の1縮むのを放置したこと — から学んだこの処方箋を大規模に実行したからです。それでも米国の失業率は10%近くまで上がり、失業と投資の落ち込みは何年も尾を引きました。金融危機のあとの景気回復は、通常の景気後退よりも遅いことが知られています。

しかし救済には副作用があります。「潰すには大きすぎる」金融機関を救えば、大きくなりさえすれば失敗しても救われるというモラルハザードを植え付け、次の危機の種を蒔きかねません。危機後のバーゼル III — 自己資本の質と量の引き上げ、レバレッジ比率の上限、流動性の規制 — は、救済への依存を減らし、そもそも燃えにくい金融システムをつくろうとする試みです。それでも、ミンスキーの洞察が正しければ、安定が続くほど油断とレバレッジは再び積み上がります。金融危機は根絶できる病気というより、信用経済と共に生き続ける持病として、備えを更新し続けるべき対象なのです。

試問

銀行Aに損失のショックが落ちた直後です。ショックの場所は変えられません。使えるのは、1回だけの中央銀行の資金です。

✦ 命題挑戦中

同じ初期ショックのまま、1回だけの中央銀行の資金をどこに入れれば連鎖破綻を1行以内に止められるか見つけよ

  • 中央銀行の資金を1つの銀行に入れた
  • 連鎖が止まるまで動かした
  • 破綻した銀行が1行以内(いま 0行)
⚡ 体験: 1回だけの資金で、投げ売りの連鎖を断つ
住宅ローン証券100社債100価格(最初=100)銀行A自己資本0.0・限界銀行B自己資本12.0・8.3倍銀行C自己資本9.0・8.9倍銀行D自己資本14.0・9.3倍銀行E自己資本9.0・10.0倍銀行F自己資本10.0・9.0倍中央銀行の資金(60まで・1回)¥
破綻した銀行0行住宅ローン証券100社債100資金を入れた先—
0ラウンド

銀行Aに損失が出た直後です。紫の中央銀行の資金(1回だけ)をどこかの銀行へドラッグしてから、「▶ 動かす」を押してください。

箱=銀行(緑の帯=自己資本、倍率=レバレッジ。14倍を越えると資産を売る)。中央の柱=2つの資産の価格。線の太さ=保有量。朱の粒=投げ売り、紫=中央銀行の資金