財政政策
Fiscal Policy ・ ざいせいせいさく
政府が支出と税で景気を調整する政策。金融政策と並ぶマクロ政策の両輪
概要
財政政策とは、政府が自らの支出と租税を増減させることで、経済全体の需要を調整する政策です。不況で民間の消費や投資が冷え込んだときには、公共事業や給付金で政府が需要を作り出し、減税で家計や企業の使えるお金を増やします。逆に景気が過熱してインフレが心配なときには、支出を絞り増税で需要を冷まします。中央銀行が金利を通じて行う金融政策と並ぶ、マクロ経済政策の両輪の一方です。
政府の支出はGDPを構成する需要項目のひとつなので、政府が支出を増やせばその分だけ直接GDPが増えます。さらに、政府が発注した工事の代金は建設会社の売上になり、従業員の給料になり、その給料がまた消費に回る — という連鎖で、最初の支出額以上に経済全体の所得が膨らみます。この波及の仕組みが乗数効果であり、財政政策が「呼び水」と呼ばれる理由です。
なぜ生まれたか
20世紀初頭までの経済学と政治の常識は「政府の家計簿は毎年均衡させるべきだ」というものでした。不況で税収が減れば政府も支出を切り詰める — 家計の感覚では美徳ですが、皆が財布のひもを締めている不況期に政府まで需要を減らせば、景気はさらに悪化します。1930年代の世界恐慌では、この健全財政の教義に従った各国が緊縮を重ね、失業率25%という破局を深めました。市場が自力で完全雇用に戻るのを待つ、という当時の理論は、現実の前で立ち往生したのです。
この行き詰まりを打開したのがケインズです。彼は、不況の正体は社会全体の支出(総需要)の不足であり、民間が支出できないなら政府が代わりに支出して需要の穴を埋めるべきだ、と主張しました(ケインズ経済学)。不況期にはあえて赤字を出して支出し、好況期に引き締めて返す — 家計簿の道徳を国家に当てはめることをやめ、政府の財布を景気の安定装置として使うという発想の転換です。この考え方は第二次大戦後の先進国で標準装備となり、リーマン・ショックやコロナ禍のような危機のたびに、大規模な財政出動という形で呼び出され続けています。
詳細
2つのレバーと2つの向き
財政政策のレバーは「支出」と「税」の2本で、それぞれを景気に応じて両方向に動かせます。景気を押し上げたいときは政府支出の拡大(公共投資・給付金)か減税、冷ましたいときは支出削減か増税です。同じ拡張でも性質は異なります。政府支出は全額がそのまま需要になるのに対し、減税は手取りが増えても一部が貯蓄に回るため、1円あたりの乗数効果は一般に支出のほうが大きいとされます。一方、減税は「何に使うか」を民間の判断に委ねられるため、資源配分の歪みが小さいという利点があります。どちらを使うかは経済学だけでなく政治の選択でもあります。
裁量か、自動か
意外に重要なのが、財政には政策決定を待たずに働く自動ブレーキが組み込まれていることです。不況になると所得が減って税収は自動的に減り、失業給付の支払いは自動的に増えます。つまり誰も法律を変えなくても、政府は不況期に受け取りを減らし支払いを増やして、需要の落ち込みを和らげているのです。この仕組みを自動安定化装置と呼びます。景気対策として語られる補正予算などの「裁量的財政政策」は、この自動装置の上に載る追加の一手です。裁量的政策には、景気悪化の認識→予算編成→国会審議→執行という長いタイムラグがあり、効果が出る頃には景気が既に回復していて、かえって波を増幅してしまう危険が常につきまといます。
財源と副作用 — 赤字・国債・クラウディングアウト
拡張的な財政政策の財源は、増税でまかなわない限り借金、すなわち国債の発行です。支出が税収を上回る状態が財政赤字であり、赤字の累積が政府債務残高になります。ケインズ的な処方箋は「不況で借り、好況で返す」でしたが、現実の政治では給付の拡大は歓迎され増税は嫌われるため、赤字が景気と無関係に恒常化しやすいという非対称性があります。
副作用として古くから警戒されてきたのがクラウディングアウトです。政府が大量の資金を借りると金利が上昇し、民間の投資が押しのけられて、財政拡大の効果が相殺されるという理屈です。この効果がどれほど強いかは経済の状態によって大きく変わります。景気が過熱し資金需要が旺盛なときには深刻ですが、深い不況で金利がゼロ近辺に張り付き、民間に借り手がいない局面では、押しのける相手がそもそもいないため財政政策の効果はむしろ大きくなります。「財政出動は常に有効/常に無駄」という二分法ではなく、局面によって答えが変わるのがこの政策の難しさです。
金融政策との役割分担
金融政策との比較で見ると、財政政策の特徴が際立ちます。金融政策は中央銀行の決定だけで機動的に動かせますが、効果は金利という間接的な経路頼みです。財政政策は国会の議決が必要で発動は遅いものの、政府が需要を直接作り出せるため、金利がゼロまで下がって金融政策が効きにくくなった深い不況では最後の頼みの綱になります。また、給付金の対象を絞るなど「誰に届けるか」を設計できるのは財政政策だけの強みです。リーマン・ショック後やコロナ禍で各国が金融緩和と財政出動を同時に発動したように、現代のマクロ政策は両輪の組み合わせ(ポリシーミックス)として運用されています。総需要の調整という共通の土俵は、総需要・総供給の枠組みで整理すると見通しがよくなります。
