国債
Government Bond ・ こくさい
政府の借金の証書。金融市場では最も安全な資産として金利の基準になる
概要
国債は、政府が発行する債券、つまり政府の借金の証書です。政府は「10年後に額面を返し、毎年決まった利子を払う」と約束した証書を投資家に売って資金を調達します。税収だけでは支出を賄えないとき——つまり財政赤字のとき——の資金調達手段であり、日本国債(JGB)、米国債(Treasury)のように、各国の政府債務の実体はほぼこの国債の発行残高です。
国債には「政府の借金」というマイナスの顔だけでなく、金融市場を支えるインフラというもうひとつの顔があります。徴税権を持つ政府はその国で最も破綻しにくい借り手なので、国債は「最も安全な資産」とみなされ、その利回りはあらゆる金融取引の基準(リスクフリーレート)になります。住宅ローンの金利も、企業の借入コストも、株式の理論価格も、出発点には国債利回りがあります。また、銀行や年金基金や中央銀行が大量に保有する運用・担保資産でもあり、国債市場は金融システムの土台そのものです。
なぜ生まれたか
政府には昔から、税収では賄えない巨額の一時支出——その筆頭は戦費——が発生してきました。近代以前の君主は商人からの借金を踏み倒すことが珍しくなく、そのため貸し手は高い金利を要求し、資金調達はますます苦しくなるという悪循環がありました。転機は1694年のイングランドです。フランスとの戦費を調達するため、議会の承認した税収を返済の裏付けとし、イングランド銀行を介して広く公衆から借り入れる仕組みが作られました。「王の個人的な借金」から「議会が保証する国家の債務」への転換です。踏み倒される心配が減ったことで英国政府は他国より低い金利で大量の資金を集められるようになり、この信用力こそが大英帝国の軍事力と覇権の財政的な基盤になったと言われます。
つまり国債とは、「政府が約束を守る仕組み」を制度化することで、将来の税収を今の資金に変換できるようにした発明です。徴税権という将来の収入を担保に、大きな支出の負担を長い期間に薄く延ばす——戦争に限らず、災害復興やインフラ建設、不況対策の財政政策まで、時間をまたいだ財政運営はこの発明の上に成り立っています。
詳細
国債の一生 — 発行・流通・償還
国債の基本要素は、満期に返す元本の額面、定期的に払う利子(クーポン)、そして満期までの期間です。日本では2年・5年・10年・30年など多様な年限の国債が、財務省の入札で金融機関に発行されます(発行市場)。投資家は満期まで持ち続ける必要はなく、他の投資家との間で日々売買します(流通市場)。この流通市場での価格から逆算される「今この値段で買った場合の実質的な年利回り」が、ニュースで報じられる「長期金利」の正体です。10年物国債の利回りは、その国の金利水準を代表する指標として扱われます。
理解の急所は、価格と利回りが逆に動くことです。クーポンは発行時に固定されているので、国債が安く買えるほど投資のリターン(利回り)は高くなります。「国債が売られて価格が下落し、金利が上昇した」という報道は、この裏表の関係を述べています。国債は需要と供給で価格が動くふつうの金融商品であり、その需給の結果として国全体の金利水準が決まっているのです。また、年限ごとの利回りを並べたものがイールドカーブで、市場が織り込む将来の金利や景気の予想を読み取る計器盤として使われます。
「金利の基準」としての役割
国債利回りがリスクフリーレートと呼ばれるのは、同じ通貨・同じ期間の貸し借りの中で最も安全だからです。他のあらゆる金利は、この基準に借り手の信用リスクなどの上乗せ(スプレッド)を積んだものとして決まります。だからこそ、国債利回りが1%動くと、住宅ローンから社債、株価の評価まで経済全体の資金の値段が連動して動きます。リスクとリターンの関係を測るモノサシの原点が国債だと言ってもよいでしょう。
金融政策・銀行システムとの深い結びつき
国債市場は金融政策の主戦場でもあります。中央銀行は国債を売買(オペレーション)することで市場の資金量と金利を調節し、2010年代以降の量的緩和では、日銀やFRBが国債を大量に買い入れて長期金利まで押し下げました。日銀は一時、日本国債の発行残高の半分以上を保有するに至っています。また銀行にとって国債は、貸出先が乏しいときの運用先であり、資金をやり取りする際の担保でもあります。国債は単なる政府の資金調達手段を超えて、金融システムの配管の中を流れる基軸的な資産なのです。
「安全資産」の条件と落とし穴
もっとも、国債の安全性は無条件ではありません。第一に、デフォルト(債務不履行)しなくても、金利が上昇すれば保有国債の価格は下落します。2023年の米シリコンバレー銀行の破綻は、「最も安全な」米国債の含み損が引き金でした。安全とは「約束どおり払われる」ことであって「価格が下がらない」ことではないのです。第二に、償還は確実でもインフレーションが進めば、返ってくるお金の実質的な価値は目減りします。第三に、政府への信認そのものが揺らぐ場合です。自国通貨建ての国債は中央銀行が最後の買い手になれるため形式的なデフォルトは起きにくい一方、外貨建てで借りている新興国では、資本流出と通貨急落が重なる通貨危機の中でデフォルトが現実に起きてきました。ギリシャ危機のように、自国の中央銀行を持たない通貨で借りることの脆さも実証されています。「国債=安全」は、通貨・インフレ・信認という条件付きの命題として理解しておく必要があります。
