国債
Government Bond ・ こくさい
政府が発行する借金の証書。最も安全な資産として、あらゆる金利の基準であり金融システムの土台になる
✦ 30秒で試す — 航海一番安全なはずの国債で、銀行が潰れることがあるこの国債の価格は?予想してみる概要
国債は、政府が発行する債券、つまり政府の借金の証書です。政府は「10年後に額面を返し、毎年決まった利子を払う」と約束した証書を投資家に売って資金を集めます。税収だけでは支出を賄えないとき、つまり財政赤字のときの資金調達の手段で、日本国債(JGB)や米国債(Treasury)のように、各国の政府債務の実体はほぼこの国債の残高です。日本の普通国債の残高は1,100兆円を超えています。
国債には「政府の借金」という顔のほかに、金融市場を支えるインフラという顔があります。徴税権を持つ政府はその国で最も破綻しにくい借り手なので、自国通貨建ての国債は「最も安全な資産」とみなされ、その利回りがあらゆる金利の基準(リスクフリーレート)になります。住宅ローンの金利も企業の借入コストも、株式の理論価格も、出発点には国債の利回りがあります。銀行・保険・年金基金・中央銀行が大量に持つ運用先であり、お金を貸し借りするときの担保でもあります。ただし「安全」なのは約束どおり払われることで、価格が動かないことではありません。この記事の後半は、その違いが銀行を倒すほど大きくなる仕組みを扱います。
なぜ生まれたか
政府には昔から、税収では賄えない巨額の一時的な支出、とりわけ戦費がありました。近代以前の君主は商人からの借金を踏み倒すことが珍しくなく、そのため貸し手は高い金利を求め、資金繰りはますます苦しくなるという悪循環がありました。転機は1694年のイングランドです。フランスとの戦費を集めるため、議会が承認した税収を返済の裏付けにし、新設のイングランド銀行を通じて広く公衆から借りる仕組みが作られました。「王の個人的な借金」から「議会が保証する国家の債務」への転換です。踏み倒される心配が減ったことで、英国は他国より低い金利で大量の資金を集められるようになり、この信用力が18世紀の覇権を財政から支えたと言われます。
国債とは、「政府が約束を守る仕組み」を制度にすることで、将来の税収をいまの資金に変える発明です。戦争に限らず、災害からの復興、インフラの建設、不況期の財政政策まで、時間をまたいだ財政運営はこの発明の上に成り立っています。20世紀に入ると国債は中央銀行の金融政策の道具にもなり、国債の売買でお金の量と金利を動かすのが中央銀行の日常業務になりました。国債は財政と金融の両方を結ぶ結節点になったのです。
詳細
日本の国債の種類 — 建設・特例・借換
国債の基本要素は、満期に返す元本(額面)、定期的に払う利子(クーポン)、満期までの期間(年限)です。日本では2年・5年・10年・20年・30年・40年などの年限が、財務省の入札で金融機関に発行されます。
発行の根拠でも分かれます。財政法は、公共事業などの財源に限って借金を認めていて、これが建設国債です。それ以外の赤字を埋めるには毎年のように特別の法律(特例公債法)が要り、こうして出るのが特例国債、いわゆる赤字国債です。さらに、満期が来た国債を返すための借換債があります。日本の国債は「60年償還ルール」に従い、建設国債で造った資産の平均的な耐用年数(おおむね60年)にならって、60年かけて現金で返し、残りは借換債で借り換え続けます。そのため、2025年度の国債発行計画は総額176.9兆円に上り、その大半は借換債でした。新しい赤字を埋める新規国債(28.6兆円)より、過去の借金を回す発行のほうがずっと多いのです。
個人が買える個人向け国債(変動10年・固定5年・固定3年)もあり、1万円から買えて元本割れがない代わりに、市場で売買はできません。日本国債の約9割は国内の銀行・保険・年金・日本銀行が持ち、ほぼすべて円建てです。自国通貨建てで国内の貯蓄が買い支えているため、外貨で借りた国のように「返す円がない」という形の危機は起きにくい構造です。
国債の一生 — 発行・流通・償還
国債を持つ人は満期まで持ち続ける必要はなく、流通市場で日々売買します。その価格から逆算した「いまこの値段で買った場合の年利回り」が、ニュースで報じられる長期金利の正体です。10年国債の利回りは、その国の金利水準を代表する指標として扱われます。
理解の急所は、価格と利回りが逆に動くことです。クーポンは発行時に決まっているので、国債を安く買えるほど利回りは高くなります。「国債が売られて価格が下がり、金利が上がった」という報道は、この裏表の関係を述べています。年限ごとの利回りを並べたイールドカーブは、市場が見込む将来の金利と景気を読み取る計器盤です。価格と利回りの一般的な関係は債券の記事で扱うので、ここでは国債に特有の2点、年限による値動きの差と、それが銀行に与える影響に絞ります。
年限が長いほど、金利に大きく振られる
国債の価格は、将来受け取るクーポンと元本を、いまの市場金利で割り引いた合計です(現在価値)。割り引く率が上がると、遠い将来のお金ほど何年分も割り引かれるので、大きく縮みます。つまり年限が長い国債ほど、金利の変化に価格が大きく振られるのです。額面100の国債を利回りどおりのクーポンで買ったとして、その後の市場金利の上昇で価格がどう動くかを計算すると、次のようになります。
曲線の傾きの大きさを表す数字がデュレーションです。「平均して何年先にお金が返ってくるか」を表し、金利が1%動いたときの価格の変化率のおおよその目安になります。2年債ならおよそ2、30年債ならおよそ20です。長い国債は利回りが高い代わりに、この感応度を引き受けているのです。
下の部品では、4つの年限の国債を、将来受け取る粒の列として並べました。右端の市場金利のつまみを上に引いてみてください。左の資金ブロックを動かすと、銀行がどの年限を持つかが変わり、含み損と自己資本の比べ方が見えます。
右端の 市場金利のつまみ を上に引いてみてください。遠い将来に受け取る粒ほど大きく縮みます。左の資金ブロックをドラッグすると、銀行がどの年限の国債を持つかを変えられます。
粒=将来受け取るお金(小さい粒=毎年のクーポン、大きい粒=満期の元本)。粒の面積はいまの価値。点線の輪=金利が変わる前の大きさ。左の四角=銀行の資金10ブロック(残りは現金)
2023年3月に破綻した米国のシリコンバレー銀行(SVB)は、この構図をそのまま生きた銀行でした。低金利の時代に集まった預金で長い米国債や住宅ローン担保証券を大量に買い、2022年からの急激な利上げで大きな含み損を抱えました。満期まで持てば額面は戻りますが、預金が一斉に引き出されて国債を売らざるを得なくなると、損は確定します。「最も安全な資産」でも、年限の選び方しだいで銀行を倒しうるのです。日本でも、日銀の利上げが進んだ2024年以降、国債を多く持つ地方銀行などの含み損が注目されるようになりました。
日本の国債市場 — 日銀の「最後の買い手」からの出口
2013年からの異次元緩和で、日本銀行は国債を大量に買い入れ、2016年からは長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)で10年国債の利回りを0%程度に抑えました。日銀の国債保有割合は2023年ごろのピークで5割を超えました。国債の最大の買い手が中央銀行になったことで、巨額の財政赤字にもかかわらず長期金利はほぼゼロに張り付いていたのです。
この構図は2024年に転換しました。日銀は2024年3月にマイナス金利とYCCを終え、7月には国債の買入れを段階的に減らす計画を決めました(2026年1〜3月に月3兆円程度まで)。2025年6月の中間評価では、超長期債の利回りの急上昇などを受けて、2026年4月からは減らすペースを緩める(四半期ごとに2,000億円程度)と決めています。保有割合は下がり続け、2025年末には49%と5割を割りました。
日銀が買わなくなった分を誰が持つかで、金利は動きます。10年国債の利回りは2025年のうちに2%前後まで上がり、2026年1月には約27年ぶりの2.35%をつけました。とくに生命保険や年金の需要が細った20〜40年の超長期債では、利回りが急上昇し、入札で買い手が集まらない「入札不調」も目立ちました。
金利の上昇は、国債を発行する政府にも跳ね返ります。国の利払いと償還のための国債費は、2026年度当初予算で31.3兆円と前年度から3兆円以上増えました。債務がGDPの2倍以上ある国では、金利が成長率(r と g)に対してどこにあるかが、財政の持続可能性を左右します(財政赤字の記事の r−g の式)。
「金利の基準」としての役割
国債の利回りがリスクフリーレートと呼ばれるのは、同じ通貨・同じ期間の貸し借りの中で最も安全だからです。ほかのあらゆる金利は、この基準に借り手の信用リスクなどの上乗せ(スプレッド)を積んで決まります。だからこそ、国債の利回りが1%動くと、住宅ローンから社債、株価の評価まで、経済全体の資金の値段がつられて動きます。リスクとリターンを測るモノサシの原点が国債だと言ってもよいでしょう。
「安全資産」の条件と落とし穴
国債の安全性は無条件ではありません。第一に、上で見たとおり、デフォルト(債務不履行)がなくても金利が上がれば価格は下がります。第二に、償還が確実でもインフレーションが進めば、返ってくるお金の実質的な価値は目減りします。第三に、政府への信認そのものが揺らぐ場合です。自国通貨建ての国債は、中央銀行がいざとなれば最後の貸し手として買い支えられるので、形の上のデフォルトは起きにくい一方、その代償はインフレや通貨安として現れます。外貨建てで借りている新興国では、資本移動の逆流(資本流出)と通貨の急落が重なる通貨危機の中で、デフォルトが実際に起きてきました。自国の中央銀行を持たないユーロで借りていたギリシャの危機(2010年)も、同じ脆さを示しています。「国債=安全」は、通貨・インフレ・信認・年限という条件付きの命題として理解しておく必要があります。
試問
利回りを求めて、長い国債を多く抱えた銀行です。資金は10ブロック(資産の100%)で、自己資本は資産の5%あります。
長い国債を多く抱えた銀行です。右端の 市場金利のつまみ を上に引いて +2% の世界を確かめ、左の 資金ブロック を置き直してください。
粒=将来受け取るお金(小さい粒=毎年のクーポン、大きい粒=満期の元本)。粒の面積はいまの価値。点線の輪=金利が変わる前の大きさ。左の四角=銀行の資金10ブロック(残りは現金)
