金融●●○○○

債券

Bondさいけん

借金を証券にしたもの。金利が上がると価格が下がる逆相関が理解の鍵

概要

債券は、国や企業がお金を借りるときに発行する「借用証書を売買できる形にしたもの」です。発行体は「額面100万円を10年後に返す。それまで毎年2%の利子を払う」といった条件を約束して債券を売り出し、買い手は満期までの利子(クーポン)と満期日の元本返済を受け取ります。国が発行すれば国債、企業が発行すれば社債、地方自治体なら地方債と呼ばれ、世界の債券市場の規模は株式市場を上回ります。

債券のいちばん重要で、いちばん直感に反する性質は、「金利が上がると債券の価格は下がる」という逆相関です。ニュースで「金利上昇で債券安」と聞いて混乱した経験のある人は多いはずですが、この一点さえ腑に落ちれば、住宅ローンから年金運用、金融政策の波及、銀行の経営問題まで、金融ニュースの大半が読み解けるようになります。債券は金融の語彙の中でも、投資商品であると同時に「金利という抽象概念が値札の付いた実体になったもの」という、理解の要となる存在です。

なぜ生まれたか

大きな事業には、一人の貸し手ではまかなえない大金が必要です。中世ヨーロッパの都市国家は戦争のたびに巨額の資金を求め、12世紀のヴェネツィアなどは市民から強制的にお金を集める代わりに、利子を払い続ける公債という形の証書を渡しました。ここで決定的だったのは、この証書が他人に売れたことです。貸したお金は満期まで戻らなくても、証書を市場で売れば途中で現金化できる — 「借金を証券にして流通させる」という発明によって、貸し手は長期の貸し出しに応じやすくなり、借り手はかつてない規模と期間の資金を調達できるようになりました。

つまり債券は、「借り手は長く借りたい、貸し手はいつでも引き出したい」という時間のミスマッチを、譲渡可能な証券という形で解いた仕組みです。同じミスマッチを預金と貸出の変換で解いているのが銀行であり、債券市場は銀行と並ぶもう一本の資金調達の大動脈になりました。イギリスの永久公債(コンソル債)は産業革命期の国家財政を支え、鉄道や電力といった巨大インフラは社債によって建設されました。現代の政府の財政赤字も、その大半は債券の発行でファイナンスされています。

詳細

債券のつくり — 額面・クーポン・満期・利回り

債券の条件は主に3つの数字で決まります。満期に返される金額である「額面」、毎年支払われる利子である「クーポン」(額面に対する率で表す)、そして返済までの期間である「満期」です。ここに4つ目の、最も重要な概念が加わります。「利回り」— いまの価格でこの債券を買った場合、満期まで持つと年率何%の運用になるか、という実質的なリターンです。クーポンは発行時に固定された約束ですが、利回りは債券の市場価格が動くたびに変わります。この「固定されたクーポン」と「変動する利回り」の区別が、次の逆相関を理解する土台になります。

なぜ金利が上がると価格が下がるのか

クーポン2%の債券を持っているとします。その後、世の中の金利が上がって、新しく発行される債券のクーポンが4%になったとしましょう。あなたの2%債券を額面どおりの価格で買う人はもういません。同じお金で4%もらえる新発債が買えるからです。あなたの債券が売れるためには、価格が下がって「安く買えるぶん、実質的な利回りが新発債の4%に見合う」水準になるしかありません。逆に世の中の金利が下がれば、高いクーポンが約束された既発債は割高でも欲しがられ、価格は上がります。金利と債券価格は、同じ現象を裏表から見た関係なのです。

きのうまでの世界市場金利 2%クーポン2%の債券 = 額面どおり100新発債と条件が同じなので等価金利上昇きょうの世界市場金利 4% — 新発債はクーポン4%クーポン2%の既発債は100では売れない同じお金で4%が手に入るから価格が下がって釣り合う価格 100 → 例えば 92 に下落安く買えるぶん利回りが4%相当に上がる裏返しの関係金利が下がれば既発債の価格は上がる満期が長い債券ほど価格の振れは大きいクーポンは固定、価格が動いて利回りを市場水準に合わせる — これが逆相関の正体
金利と債券価格の逆相関 — 市場金利が動くと、クーポンが固定された既発債の価格が調整弁になる

より厳密に言えば、債券の価格は「将来受け取るクーポンと元本を、いまの金利で割り引いた現在価値の合計」です。割引に使う金利が上がれば、将来のお金の現在価値は小さくなり、価格は数学的必然として下がります。また、満期が長い債券ほど遠い将来のキャッシュフローの割合が大きいため、同じ金利変動でも価格の振れ幅が大きくなります。この感応度を測る指標がデュレーションで、債券運用の実務ではリスク管理の中心的な物差しです。

信用リスク — 貸した相手が返せるか

金利変動と並ぶもう一つのリスクが、発行体が約束を守れなくなる信用リスク(デフォルトリスク)です。同じ満期でも、財務の危うい企業の社債は国債より高い利回りで取引されます。この上乗せ分(信用スプレッド)は、いわば市場が値付けした「貸し倒れの保険料」です。格付け会社が発行体をAAAからCまで格付けし、投資適格とそれ未満(ハイイールド債、いわゆるジャンク債)の線引きが投資家の行動を左右します。リスクとリターンの関係が、これほど明示的に数値化されている市場は他にありません。もう一つ、忘れられがちなのがインフレーションのリスクです。債券の受取額は名目で固定されているため、物価が上がると実質的な価値は静かに目減りします。

株式との違い、そして経済全体との接点

株式が会社の所有権の一部であるのに対し、債券は返済順位の高い債権です。会社が倒れれば株主より先に弁済を受けられ、業績が良くても受取額は増えません。ローリスク・ローリターンの債券とハイリスク・ハイリターンの株式は資産運用の両輪であり、値動きの傾向が異なる両者を組み合わせることが分散投資の基本形になっています。

債券はまた、経済全体を映す鏡でもあります。中央銀行の金融政策は国債の売買を通じて金利に波及し、満期ごとの国債利回りを並べたイールドカーブは景気の先行きを読む代表的な指標です。一方で逆相関の怖さも実在します。2023年のシリコンバレー銀行の破綻は、保有する長期債券が急激な金利上昇で値下がりし、含み損への不安が取り付けを招いたものでした。「安全資産」と呼ばれる債券も、金利が動く局面では大きく傷つく — 逆相関の理解は、教養であると同時に実務的な自衛策なのです。