債券
Bond ・ さいけん
借金を売買できる証券にしたもの。将来のお金の現在価値が値段になり、金利が上がると価格が下がる
✦ 30秒で試す — 航海金利が上がると、安全なはずの国債で損をする満期はそのまま、値下がりを小さくするには?予想してみる概要
債券は、国や企業がお金を借りるときに発行する「借用証書を売買できる形にしたもの」です。発行体は「額面100万円を10年後に返す。それまで毎年2%の利子を払う」といった条件を約束して債券を売り出し、買い手は満期までの利子(クーポン)と満期日の元本の返済を受け取ります。国が発行すれば国債、企業が発行すれば社債、地方自治体なら地方債と呼ばれます。世界の債券市場の規模は、株式市場と並ぶか、それを上回る大きさです。
債券のいちばん重要で、いちばん直感に反する性質は、「金利が上がると債券の価格は下がる」という逆向きの関係です。ニュースで「金利上昇で債券安」と聞いて混乱した経験のある人は多いはずですが、この一点が腑に落ちると、住宅ローンから年金の運用、金融政策の波及、銀行の経営問題まで、金融ニュースの大半が読み解けるようになります。債券は投資商品であると同時に、「金利という抽象的な概念が、値札の付いた実物になったもの」です。
なぜ生まれたか
大きな事業には、一人の貸し手ではまかなえない大金が必要です。中世ヨーロッパの都市国家は戦争のたびに巨額の資金を求めました。12世紀のヴェネツィアは市民から強制的にお金を集める代わりに、利子を払い続ける公債の証書を渡しました。決定的だったのは、この証書が他人に売れたことです。貸したお金は満期まで戻らなくても、証書を市場で売れば途中で現金に換えられます。「借金を証券にして流通させる」という発明によって、貸し手は長期の貸し出しに応じやすくなり、借り手はかつてない規模と期間の資金を集められるようになりました。
つまり債券は、「借り手は長く借りたい、貸し手はいつでも引き出したい」という時間の食い違いを、譲渡できる証券という形で解いた仕組みです。同じ食い違いを、預金と貸出の組み替えで解いているのが銀行で、債券市場は銀行と並ぶもう一本の資金調達の大動脈になりました。イギリスの永久公債(コンソル債)は産業革命期の国家財政を支え、鉄道や電力といった巨大なインフラは社債で建設されました。現代の政府の財政赤字も、その大半は国債の発行でまかなわれています。
詳細
債券のつくり — 額面・クーポン・満期・利回り
債券の条件は主に3つの数字で決まります。満期に返される金額である「額面」、毎年支払われる利子である「クーポン」(額面に対する率で表します)、そして返済までの期間である「満期」です。ここに4つ目の、最も重要な概念が加わります。「利回り」— いまの価格でこの債券を買って満期まで持つと、年率何%の運用になるか、という実質的なリターンです。クーポンは発行時に決まった約束で変わりませんが、利回りは債券の市場価格が動くたびに変わります。この「固定されたクーポン」と「動く利回り」の区別が、次の逆向きの関係を理解する土台になります。
なぜ金利が上がると価格が下がるのか
クーポン2%の債券を持っているとします。その後、世の中の金利が上がって、新しく発行される債券のクーポンが4%になったとしましょう。あなたの2%債を額面どおりの価格で買う人はもういません。同じお金で4%もらえる新しい債券が買えるからです。あなたの債券が売れるには、価格が下がって「安く買えるぶん、利回りが新しい債券の4%に見合う」水準になるしかありません。逆に金利が下がれば、高いクーポンを約束した既発債は割高でも欲しがられ、価格は上がります。金利と債券価格は、同じ現象を裏表から見た関係なのです。
もう少し正確に言えば、債券の価格は「将来受け取るクーポンと元本を、いまの金利で割り引いた現在価値の合計」です。残存5年・クーポン2%の債券を4%で割り引くと、2/1.04 + 2/1.04² + … + 102/1.04⁵ ≈ 91.1 になります。割引に使う金利が上がれば、将来のお金の現在価値は小さくなり、価格は数学的な必然として下がります。
デュレーション — 受け取りの重心が振れ幅を決める
同じ金利の変化でも、債券によって値動きの大きさは違います。残存10年・クーポン2%の債券なら、金利が2%から3%に上がると価格は約8.5%下がりますが、残存2年なら約1.9%しか下がりません。遠い将来のお金ほど、割る回数が多いぶん割引率の変化に強く反応するからです。
この感応度を1つの数字にしたのがデュレーション(マコーレー・デュレーション)です。各時点の受け取りの現在価値を重みにして、受け取り時期を平均したもので、いわば「お金を受け取る時期の重心」です。上の10年債のデュレーションは約9.2年で、価格の変化率はおよそ「−デュレーション ÷ (1+利回り) × 金利の変化」で見積もれます(9.2 ÷ 1.02 × 1% ≈ 9.0%)。デュレーションは満期が長いほど長くなり、クーポンが厚いほど短くなります。クーポンの大きい債券は手前で受け取るお金が多く、重心が手前に寄るからです。利子のない割引債では、デュレーションは満期そのものになります。
下の部品で、左の市場金利のつまみを上下させて確かめてください。コインの列の下の三角が受け取りの重心で、重心が遠い債券ほど価格が大きく振れます。
左の市場金利のつまみを上へ引いてみてください。遠い将来のコインほど大きく縮み、長い債券の価格が沈みます。大きい元本のコインを左右にずらすと満期が変わります。
点線の輪=額面、金の円=今の価値(面積が金額に比例)。三角=今の価値で重みを付けた受け取りの重心(デュレーション)。下のグラフ=市場金利ごとの価格(右下がりで、下に膨らむ曲線)
部品の下のグラフのように、価格と利回りの関係は直線ではなく、下に膨らんだ曲線です。金利が1%下がったときの値上がり(10年債で約+9.5%)は、1%上がったときの値下がり(約−8.5%)より大きくなります。この曲がり具合をコンベクシティ(凸性)と呼び、デュレーションだけの見積もりを補正するのに使います。
信用リスクと物価のリスク
金利の変動と並ぶもう一つのリスクが、発行体が約束を守れなくなる信用リスク(デフォルトリスク)です。同じ満期でも、財務の危うい企業の社債は国債より高い利回りで取引されます。この上乗せ分(信用スプレッド)は、市場が値付けした「貸し倒れの保険料」です。格付け会社は発行体を AAA から D まで格付けし、BBB−(ムーディーズでは Baa3)以上を「投資適格」、BB+以下をハイイールド債(いわゆるジャンク債)と呼びます。この境目をまたぐ格下げは、投資適格しか持てない年金や保険会社の売りを一斉に呼ぶので、価格が大きく動きます。リスクとリターンの関係がこれほど明示的に数値になっている市場は、ほかにありません。
忘れられがちなのがインフレーションのリスクです。普通の債券の受取額は名目で固定されているので、物価が上がると実質的な価値が静かに目減りします。これを避けるために、元本が物価指数に合わせて増減する物価連動債があり(日本では2004年から物価連動国債を発行)、その利回りは「実質利回り」の市場の目安になっています。普通の国債の利回りと物価連動債の利回りの差(ブレーク・イーブン・インフレ率)は、市場が予想するインフレ率として中央銀行も注目しています。
株式との違い、そして経済全体との接点
株式が会社の所有権の一部であるのに対し、債券は返済の順位が高い債権です。会社が倒れれば株主より先に弁済を受けられますが、業績が良くても受取額は増えません。値動きの傾向が異なる債券と株式を組み合わせることは、分散投資の基本形です。
債券は経済全体を映す鏡でもあります。中央銀行の金融政策は国債の売買を通じて金利に波及し、満期ごとの国債利回りを並べたイールドカーブは景気の先行きを読む代表的な指標です。日本では、日銀が2024年3月にマイナス金利と長短金利操作(YCC)を解除して利上げに転じ、国債の買い入れも減らし始めました。その中で超長期の国債利回りが大きく上がり、2025年には30年国債の利回りが初めて3%を超えました。
逆相関の怖さも実在します。2023年3月の米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻では、銀行が預金で集めたお金を長期の国債や住宅ローン担保証券で運用していたところに急激な利上げが来て、巨額の含み損が生まれました。その含み損を埋めるための増資の発表が不安を呼び、1日で預金の4分の1近くが引き出される取り付け騒ぎに発展しました。「安全資産」と呼ばれる債券も、デュレーションの長い持ち方をすれば、金利が動く局面で大きく傷つきます。逆相関とデュレーションの理解は、教養であると同時に実務的な自衛策なのです。
試問
あなたは年金の運用担当です。「満期5年以上の債券しか買わない」という決まりの中で、金利上昇に強い債券を組みます。
下の「あなたの債券」の満期(大きい元本のコインを左右に)とクーポン(下のスライダー)を組み替えてから、左の市場金利のつまみを2%から3%へ上げて、値下がりを比べてください。
点線の輪=額面、金の円=今の価値(面積が金額に比例)。三角=今の価値で重みを付けた受け取りの重心(デュレーション)。下のグラフ=市場金利ごとの価格(右下がりで、下に膨らむ曲線)
