イールドカーブ
Yield Curve ・ いーるどかーぶ
満期ごとの利回りをつないだ曲線。将来の金利の予想が映り、逆イールドは景気後退の先行サインとされる
✦ 30秒で試す — 航海長く貸すほうが利回りが低い。そんな逆さまが不況の前触れになる10年貸すときの利回りは、およそ何%?予想してみる概要
イールドカーブ(利回り曲線)は、同じ発行体の債券について、満期までの期間ごとの利回りを、横軸に期間・縦軸に利回りを取ってつないだ曲線です。ふつうは最も信用力の高い国債で描かれ、「3か月なら年1%、2年なら1.5%、10年なら2.5%」のように、お金を貸す期間と金利の関係を1枚のグラフにまとめます。世の中の金利は無数にありますが、その全体像を一目で見渡せるのがこの曲線です。
イールドカーブが注目されるのは、単なる金利の一覧ではなく、市場が予想する未来が織り込まれたグラフだからです。10年の利回りは、ざっくり言えば「これから10年間の短期金利の予想の平均」に、長く貸すことへの上乗せを足したものです。だから曲線の形を見れば、市場が金利の先行きをどう見ているかが分かります。とくに、短期の利回りが長期を上回って右下がりになる「逆イールド」は、米国で景気循環の後退局面の前にたびたび現れてきたことで知られ、金融ニュースで最も引用される先行指標のひとつになっています。
なぜ生まれたか
かつて金利は、期間ごとにばらばらの市場で個別に語られる数字の寄せ集めでした。しかし実務家たちは、この寄せ集めの「形」にこそ情報があることに気づいていきます。1年物を2回続けて借りるのと、2年物を1回借りるのとで、損得が大きく違うなら、誰かが得なほうへ乗り換えるはずです。だとすれば、2年の金利は「今年の1年金利」と「来年の1年金利の予想」の平均に近くなるはずで、期間ごとの利回りを並べることは、市場が見ている金利の未来 — その背後にある景気やインフレーションの見通し — を読むことに等しくなります。
この直感は20世紀に理論になりました。長期金利は将来の短期金利の予想の平均で決まるという「期待仮説」、長く貸すことの不確実性への上乗せを加える「流動性プレミアム仮説」(ヒックス、1939年)、投資家ごとに好む期間があり、期間ごとの需給も利回りを動かすという「特定期間選好仮説」(モディリアーニとサッチ、1966年)が、曲線の形を説明する枠組みとして整いました。1980年代には、キャンベル・ハーヴェイらが「逆イールドが景気後退に先行する」ことを実証的に示し、エストレージャとミシュキンらの研究が続きました。やがて中央銀行自身が曲線の形を政策判断の材料にし、日本銀行は2016年9月から、10年物国債の利回りを目標にする長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)という金融政策を始めるまでになりました。
詳細
カーブの3つの基本形
イールドカーブの形は、大きく3つに分けられます。平時の標準形は右上がりの「順イールド」です。長くお金を貸すほど、その間の金利や物価の変動を引き受けることになるため、長期ほど高い利回りが求められるのが自然だからです。景気の転換点が近づくと、長短の差が縮まる「フラット化」が進みます。そして短期が長期を上回る右下がりの「逆イールド」は、中央銀行が短期金利を高く引き上げている一方で、市場がその先の利下げを予想している状態です。
カーブは何で動くのか — 左端は中央銀行、右端は市場
カーブの左端(短期の利回り)は、中央銀行が動かす政策金利にほぼ直結しています。政策金利が上がれば、3か月の利回りはすぐに追随します。一方、右端(長期の利回り)を決めるのは市場です。将来の短期金利がどう動くかの予想に、インフレ期待と、長く持つことの不確実性への上乗せ(ターム・プレミアム)が加わって決まります。つまりイールドカーブは、左端に「中央銀行の今」、右端に「市場が見ている未来」が置かれたグラフで、その間の傾きが両者の対話を映します。
数字で組み立ててみます。今の政策金利が5%で、市場が「1年後も5%、2年目から4%、4年目からは3%に下がる」と予想しているとします。10年分の予想を平均すると (5 + 5 + 4 + 4 + 3×6) ÷ 10 = 3.6% です。これに上乗せ0.5%を足した約4.1%が10年の利回りで、3か月の約5%を下回ります。今の金利が高いまま、将来の利下げが予想されているだけで、逆イールドが生まれるのです。
下の部品で確かめてください。紫の点は、市場が予想する各年の政策金利です。点を上下に動かすと、金の曲線(満期ごとの利回り)が「その期間の予想の平均 + 上乗せ」として組み直されます。
紫の点は、市場が予想する各年の政策金利です。点をつかんで上下に動かすと、金のカーブ(満期ごとの利回り)がどう組み直されるか見てください。
紫の点と階段=市場が予想する各年の政策金利(上下にドラッグ)、金の曲線=満期ごとの利回り(その期間の予想の平均+ターム・プレミアム)
逆イールドはなぜ景気後退の前に現れるのか
逆イールドが生まれる筋道は、部品で見たとおりです。景気の過熱やインフレーションを抑えるために中央銀行が利上げを重ねると、カーブの左端が持ち上がります。市場が「この引き締めはいずれ景気を冷やし、中央銀行は利下げに転じる」と予想すると、将来の短期金利の平均である長期金利は上がりにくくなり、やがて短期を下回ります。逆イールドは、「今の引き締め」と「将来の減速の予想」が同時に成り立っていることの表れなのです。米国では、3か月と10年(または2年と10年)の利回り差がマイナスになったあと、多くの場合1〜2年ほどで景気後退が訪れるというパターンが、1970年代以降くり返し観察されてきました。
予想が当たる理由には、実体経済への直接の作用もあります。銀行は「短期で調達し、長期で貸す」ことで利ざやを得ているので、長短が逆転すると貸すほどもうけが薄くなり、融資に慎重になります。お金の供給が絞られること自体が、景気を減速させる力になるのです。
実務での使いどころと落とし穴
イールドカーブは金融実務の共通言語です。債券の運用者はカーブの形の変化(長短の差が広がるスティープ化、縮まるフラット化)に賭け、企業の財務担当者は社債をどの期間で発行するかをカーブを見て決め、固定型の住宅ローン金利も長めの期間の利回りから決まります。エコノミストにとって、長短金利差は景気予測の定番の手がかりです。
ただし、万能の水晶玉ではありません。逆イールドは「いつ」後退が来るかまでは教えてくれず、シグナルから後退までの間隔は数か月から2年超までばらつきます。米国では2年と10年の利回りが2022年7月に逆転し、2024年9月まで2年以上も逆転が続く記録的な長さになりましたが、少なくとも2026年9月までに景気後退は認定されていません。FRBは2024年9月から利下げに転じたあと、2026年9月には再び利上げしています。中央銀行が大量の国債を買い入れる量的緩和の時代には、ターム・プレミアムが押しつぶされて、カーブの形が持つ意味そのものが変わっているという指摘もあります。
日本のカーブ — 操作された時代から、市場が決める時代へ
日本銀行は2016年9月から、短期金利を−0.1%、10年物国債の利回りをゼロ%程度に誘導するイールドカーブ・コントロールを続けました。カーブの形そのものを中央銀行が決める、世界でもまれな政策です。そのため10年の利回りは長くゼロ付近に張り付き、市場の予想を映す鏡としての役割はほとんど失われていました。2022年以降、世界の金利が上がると、日銀は許容する変動の幅を段階的に広げ、2024年3月にマイナス金利とともにイールドカーブ・コントロールを終えました。同年からは国債の買い入れ額も段階的に減らしています。
鏡が戻ったカーブに映ったのは、急な右上がりでした。政策金利の引き上げで左端が上がる一方、国債の最大の買い手だった日銀が退き、財政への懸念も重なって、20年・30年といった超長期の利回りが大きく上がりました。30年物国債の利回りは2025年から2026年にかけて何度も過去最高を更新し、2026年5月には4%に達する場面がありました。長い期間ほど利回りが大きく上がるスティープ化です。イールドカーブは市場の集合知を映す優れた鏡ですが、鏡そのものが政策によって曲げられうる — その留保をつけて読むのが、この指標との正しい付き合い方です。
試問
中央銀行が政策金利を5%まで引き上げ、市場は「このまま5%が続く」と見ている状態です。
中央銀行は政策金利を 5% まで引き上げ、市場は「このまま5%が続く」と予想しています。紫の点(将来の政策金利の予想)をつかんで、カーブの形を変えてください。今の金利(左端)は動かせません。
紫の点と階段=市場が予想する各年の政策金利(上下にドラッグ)、金の曲線=満期ごとの利回り(その期間の予想の平均+ターム・プレミアム)
