金融●●●●○

ポートフォリオ理論

Portfolio Theory ・ ぽーとふぉりおりろん

資産の組み合わせ全体のリスクとリターンを計算し、同じリスクで最も報われる配分を探す理論

✦ 30秒で試す — 航海危ない資産を混ぜると、全体はかえって安全になる全体のぶれが最も小さくなる、株の割合は?予想してみる

概要

ポートフォリオ理論は、「卵をひとつのカゴに盛るな」という昔からの知恵 — 分散投資 — を数学の言葉に翻訳した理論です。ポートフォリオとは、投資家が持っている株式や債券などの資産の組み合わせ全体のことです。1952年にハリー・マーコウィッツが論文「ポートフォリオ選択」で基礎を築き、1964年のウィリアム・シャープらの資本資産価格モデル(CAPM)へ発展しました。1990年のノーベル経済学賞は、マーコウィッツ、シャープ、そして企業金融の理論を築いたマートン・ミラーの3人に贈られています。

この理論の出発点は、資産を1つずつではなく「組み合わせたときに全体がどうなるか」で評価する、という視点の転換です。組み合わせの期待リターンは、中身の期待リターンを配分の比率で平均したものになります。ところが組み合わせのリスク(結果のばらつき)は平均になりません。値動きがそろっていない資産を混ぜると、片方の下げを他方が部分的に打ち消すので、全体の振れ幅は中身の平均より小さくなるからです。リスクとリターンは交換条件だと考えられていた世界で、混ぜ方の工夫だけで対価なしにリスクを削れる余地がある — そのことを数式で示したのがこの理論です。

そこから先の結論は2つあります。第一に、ありうる配分の中で「同じリスクなら最もリターンが高い」ものだけを結んだ線(効率的フロンティア)が、選ぶべき配分の候補のすべてだということ。第二に、国債のような無リスク資産を加えると、候補はさらに1本の直線に絞られ、誰もが同じ1つのリスク資産の組み合わせ(市場ポートフォリオ)を持ち、あとは国債との比率でリスクの量を調整すればよい、ということです。これがインデックスファンドの理論的な支えになりました。

なぜ生まれたか

マーコウィッツ以前の投資の世界では、「良い銘柄を選ぶこと」がすべてでした。1930年代に確立した証券分析は、企業の財務を読み込んで割安な株を見つける技術で、その延長で考えれば、最も有望な1銘柄に全額を投じるのが論理的な帰結になってしまいます。分散投資は経験則としては知られていましたが、「なぜ分けるのか」「何をどんな比率で混ぜるべきか」に答える道具はありませんでした。銀行や保険会社のように大きな資金を預かる機関も、リスクを測る共通のものさしを持っていなかったのです。

シカゴ大学の大学院生だったマーコウィッツは、「投資家がリターンだけを見ているなら、なぜ誰もが分散するのか」という矛盾から出発しました。答えは、投資家がリターンの大きさとともにその不確かさも気にしているからだ、というものです。彼は不確かさをリターンの分散(標準偏差)で測り、組み合わせの分散が「中身の分散」と「中身どうしの共分散(相関)」で決まることを示しました。これで分散投資は、気休めの格言から計算できる技術に変わりました。

その後、1958年にジェームズ・トービンが無リスク資産を加えると最適な危険資産の組み合わせは1つに決まること(分離定理)を示し、1964年にシャープ、続いてリントナーとモッシンが、すべての投資家がこう考えるなら市場の価格はどう決まるかを導きました(CAPM)。問いは「自分は何を持つべきか」から「市場はどのリスクに報酬を払うのか」へ広がり、年金基金の資産配分から企業の投資判断に使う割引率まで、現代の金融実務の共通言語になっています。

詳細

リスクは「足し算」にならない — 2資産で見る心臓部

2つの資産を比率 w と 1−w で持つとき、期待リターンは w·μ₁ +(1−w)·μ₂ という平均です。一方、分散は w²σ₁² +(1−w)²σ₂² + 2w(1−w)ρσ₁σ₂ で、最後の項に相関係数 ρ(−1〜+1)が入ります。ρ = +1 なら標準偏差もちょうど平均になり、分散の効果はゼロです。ρ が +1 より小さいと標準偏差は平均を下回り、ρ が小さいほど下回り方が大きくなります。ρ = −1 なら、比率を選べばリスクをゼロにすることさえできます。

数字で1つ追ってみましょう。期待リターン2%・標準偏差6%の債券と、期待リターン6%・標準偏差16%の株があり、相関が −0.3 だとします。半分ずつ持つと、期待リターンは平均どおり4%です。標準偏差は √(0.25×36 + 0.25×256 + 2×0.25×(−0.3)×6×16) = √58.6 ≈ 7.7% で、平均の11%を大きく下回ります。債券を8割にすると標準偏差は約4.9%まで下がり、債券だけ(6%)より小さくなります。「安全な債券に少し株を混ぜると、かえってリスクが減る」 — 直感に反するこの結果が、分散の力です。

ただし、分散で消せるのは個々の資産に固有のリスク(ある企業の不祥事、ある業界の不振)だけです。景気後退や金融危機のように市場全体を揺らすリスク(システマティック・リスク)は、どれだけ銘柄を増やしても消えません。

効率的フロンティア — 選ぶ価値があるのは上の枝だけ

横軸にリスク、縦軸に期待リターンを取り、ありうるすべての配分を点として打つと、弾丸のような形の領域ができます(実現可能領域)。その左側の縁は、「このリターンを出すのに必要な最小のリスク」を結んだ線で、最もリスクの小さい点(最小分散ポートフォリオ)で折り返します。

大事なのは、この縁のうち最小分散点より上の枝だけが効率的フロンティアだということです。下の枝の点は、真上に同じリスクでもっと高いリターンを出す点(上の枝)があるので、選ぶ理由がありません。内側の点も同じで、左へ動けば同じリターンでリスクを減らせ、上へ動けば同じリスクでリターンを増やせます。

期待リターンリスク(標準偏差)効率的フロンティア(上の枝だけ)最小分散点下の枝 — 真上に同じリスクでリターンの高い点がある(非効率)個別の資産(4つ)4資産を混ぜた配分の例上へ: 同じリスクでリターンを増やせる左へ: 同じリターンでリスクを減らせるP = 領域の内側の配分
実現可能領域と効率的フロンティア — 縁のうち最小分散点より上の枝(金)だけが効率的。下の枝(破線)と内側の点には、同じリスクでリターンの高い配分が必ずある

フロンティアのどこを選ぶかは、どれだけの振れに耐えられるかで決まります。運用期間が長く収入の安定した人は右上寄りを、近く取り崩す予定の人は左下寄りを選ぶ、という資産配分の議論は、この図の上の枝の上で行われます。

三角形の中の点は3つの資産(債券・国内株・外国株)の配分です。点を動かして右の像がどこへ行くかを見てください。領域の左上の縁(金の線)に載せると、そこから先は同じリスクでリターンを上げられないことが分かります。縦軸の紫の点は無リスク金利で、つかんで上下させると接線が張り直されます。

⚡ 体験: 配分の点を動かして、効率的フロンティアを見る
効率的な配分債券国内株外国株最小分散点接点債券国内株外国株無リスク 1.0%
配分 債券/国内株/外国株20% / 70% / 10%リスク13.6%期待リターン4.65%シャープレシオ(点 / 接点)0.27 / 0.39

左の三角形の中の点をつかんで動かしてみてください。頂点に近いほど、その資産を多く持つ配分です。右の平面で、その配分のリスクとリターンが動きます。

左: 3資産の配分(頂点=その資産だけ、中心=等分)。右: 配分の像(横=リスク=年率の標準偏差、縦=期待リターン)。灰色の点=とりうる配分すべての像、金の線=効率的フロンティア、紫の破線=資本市場線。数値は例示用

無リスク資産を足すと — 資本市場線と接点ポートフォリオ

ここに国債のような無リスク資産を加えます(満期まで持てば額面が約束どおり返ってくる資産。リスクはほぼゼロとみなします)。無リスク資産と、あるリスク資産の組み合わせ T を混ぜた配分は、縦軸上の無リスク金利の点と T を結ぶ直線の上に並びます。T をフロンティア上で動かすと、直線が最も立つのは、直線がフロンティアにちょうど接するときです。この接点を接点ポートフォリオ、直線を資本市場線と呼びます。

資本市場線は、フロンティアのどの点よりも上(または同じ)にあります。つまり無リスク資産があるときの最善は、「リスク資産は全員が接点ポートフォリオを持ち、慎重な人は国債を多めに混ぜ、積極的な人は借りて接点ポートフォリオを買い増す(レバレッジ)」という形になります。何を持つかとどれだけリスクを取るかが切り離されるので、これを分離定理といいます。直線の傾き、つまり「無リスク金利を超える期待リターン ÷ 標準偏差」がシャープレシオで、リスク1単位あたりにどれだけ報われるかの物差しです。

期待リターンリスク(標準偏差)無リスク国債接点ポートフォリオ=市場ポートフォリオ紫の直線=資本市場線、傾き=シャープレシオ期待リターンβ=1ベータ市場割安割高金の直線=証券市場線(CAPM)
左: 資本市場線 — 無リスク金利から引いた接線が接する点が接点ポートフォリオで、傾きがシャープレシオ。右: 証券市場線 — 期待リターンは標準偏差ではなくベータで決まり、線から外れた資産は売買されて線へ戻る

CAPM — 報われるのは消せないリスクだけ

全員が同じ見通しを持ってこう行動するなら、接点ポートフォリオは市場に出ているすべてのリスク資産を時価の比率で持った「市場ポートフォリオ」そのものになるはずです。すると、個々の資産の期待リターンは次の式で決まります。

期待リターン = 無リスク金利 + β ×(市場の期待リターン − 無リスク金利)

β(ベータ)は、その資産が市場全体の動きにどれだけ連れて動くかを表す数です。市場が1%動くと平均1.5%動く株なら β = 1.5 です。ここで効いてくるのは標準偏差ではなくベータだという点が決定的です。個別の不祥事のような固有のリスクは市場ポートフォリオの中で消えてしまうので、それを負っても誰も上乗せを払ってくれません。報われるのは、分散しても消せない市場全体と連動するリスクだけです。証券市場線より上にある資産は割安なので買われ、価格が上がってリターンが下がり、線へ戻ります(線の下の割高な資産はその逆)。

実務では、企業が新しい事業に投資するかどうかを決めるときの割引率(資本コスト)を見積もるのに CAPM がいまも広く使われています。ただし実証では、ベータの低い株が理論より高いリターンを出すことや、ベータだけでは説明できないリターンの差(小型株・割安株など)が見つかっており、ファーマとフレンチはそれを「規模」「割安度」などの要因(ファクター)を加えたモデルで説明しました。CAPM は現実の完全な記述ではなく、「何が報われるのか」を考えるための基準線として読むのが妥当です。

実務での使いどころと落とし穴

ポートフォリオ理論は、年金基金の基本ポートフォリオ(国内外の株式・債券の配分比率)、ロボアドバイザーの提案、投資信託のリスク表示など、資産運用のあらゆる場面の出発点です。日本の公的年金の積立金を運用する GPIF も、国内債券・外国債券・国内株式・外国株式を各25%を目安とする基本ポートフォリオを、期待リターンとリスクと相関の推計から決めています(2020年度から。2025年度からの5年間も同じ配分を維持)。

一方で、弱点もはっきりしています。第一に、入力(期待リターン・標準偏差・相関)は推計にすぎず、とくに期待リターンの推計が少しずれるだけで「最適」な配分が大きく変わります。最適化は推計の誤りを増幅する装置でもあるので、実務では配分に上限を設けたり、市場の時価比率を出発点にしたりして極端な答えを避けます。第二に、相関は一定ではありません。平時に低かった相関が金融危機では一斉に高まり、2022年のインフレ局面では株と債券がそろって下落しました。第三に、標準偏差はめったに起きない大暴落(テールリスク)を過小評価しがちです。

それでも、この理論の中心にある2つの教え — 「資産は単体でなく組み合わせで評価する」「報われないリスク(分散で消せるリスク)を負う理由はない」 — は、推計の精度に左右されずに成り立ちます。個人にとっての実践的な答えが、市場全体を低コストで持つインデックスファンドと、国債・預金との比率でリスクの量を決めることに行き着くのは、この理論の素直な帰結です。どれだけ市場が理論どおりに価格を付けているのかという問いは、効率的市場仮説に引き継がれます。

試問

債券・国内株・外国株の3つの資産があり、あなたが受け入れられるリスク(標準偏差)は年10%までです。

✦ 命題挑戦中

三角形の中の配分の点を動かし、リスク10%以下で期待リターンが最大になる組み合わせ(効率的フロンティア上の点)に載せよ

  • リスクが 10% 以下
  • 同じリスクでこれ以上リターンを上げられない(フロンティアの上の枝に載っている)
  • リスク10%以下の配分の中で、リターンがほぼ最大(最大との差 0.4ポイント以内)
⚡ 体験: リスク10%の枠の中で、いちばん上の配分を探す
債券国内株外国株リスク10%の上限債券国内株外国株
配分 債券/国内株/外国株20% / 70% / 10%リスク13.6%期待リターン4.65%

いまは国内株を7割持っています。三角形の中の点を動かして、リスク10%の縦線の左側で、いちばん上へ像の点を運んでください。

左: 3資産の配分(頂点=その資産だけ、中心=等分)。右: 配分の像(横=リスク=年率の標準偏差、縦=期待リターン)。灰色の点=とりうる配分すべての像。数値は例示用