公共財
Public Goods ・ こうきょうざい
皆が同時に使えて減らず、払わない人も締め出せない財。ただ乗りされるため市場では供給が足りなくなる
✦ 30秒で試す — 航海全員が入れれば全員が得をする。なのに壺は空になっていく1払えば相手を3減らせる罰を足すと、拠出は?予想してみる概要
公共財とは、「誰かが使っても他の人の分が減らない」(非競合性)と「お金を払わない人を締め出せない」(非排除性)という2つの性質を併せ持つ財・サービスのことです。代表例は国防、堤防、花火大会、天気予報、基礎科学の知識です。ミサイル防衛は税金を払っていない人だけを守らないわけにいかず、花火は何万人が見上げても1人あたりの見え方は減りません。
この2つの性質は一見すると良いことずくめですが、市場にとっては致命的です。払わなくても使えるなら、誰も自分から代金を払おうとしません。全員が「他の誰かが作ってくれるのを待つ」のが個人としては合理的になり、社会の全員が欲しがっているのに誰も十分に供給しない、という状況が生まれます。このただ乗り(フリーライダー)問題が、公共財が市場の失敗の典型とされ、政府が租税で強制的に費用を集めて供給する根拠になっている理由です。
なぜ生まれたか
「なぜ道路や国防は国がやるのか」という問いに、長いあいだ経済学ははっきりした基準を持っていませんでした。アダム・スミスも、市場に任せられない仕事として国防・司法・公共事業を挙げてはいましたが、どんな性質を持つ財なら市場に任せられないのかという判定の基準は曖昧なままでした。線引きがないと、「政府がやるべき事業」の範囲は政治的な声の大きさで決まってしまいます。
1954年、ポール・サミュエルソンがわずか3ページの論文でこの問いに理論の土台を与えました。彼が定式化したのは非競合性です。1人が消費しても他人の消費が減らない財では、社会にとっての価値は全員の限界便益の合計になります。最適な供給量は「全員の限界便益の合計 = 限界費用」で決まり(サミュエルソン条件)、各自が自分の便益だけを考えて支払う仕組みでは、この量に届かないことを示したのです。その後、マスグレイブ(1959年)が「払わない人を締め出せるか」という排除性の軸を加え、ブキャナン(1965年)が「排除はできるが混むまでは競合しない」クラブ財の理論を作り、ヴィンセントとエリノアのオストロム夫妻(1977年)が2軸による財の4分類を整えました。政府の役割を伝統ではなく財の性質から導くこの系譜によって、市場の失敗のどこに集合的な負担が必要なのかを、論理で議論できるようになりました。
詳細
2つの軸で財を4分類する
「競合性」と「排除性」の2軸は、世の中の財を4つに分類する道具になります。リンゴは食べれば減り、お金を払わない人には売らない — 排除可能で競合的な「私的財」で、市場が最もうまく扱える領域です。有料の動画配信は、視聴者が増えても中身は減りませんが、契約しない人は締め出せます(クラブ財)。海の魚は、獲れば減るのに誰も締め出せません(共有資源)。そして両方の性質を欠くのが公共財です。
失敗の型は象限ごとに違います。公共財の問題は「誰も作らない」(供給不足)ですが、左下の共有資源の問題は「みんなが使いすぎる」(過剰利用)で、こちらは共有地の悲劇として知られています。減らない財はただ乗りされても枯れませんが、減る財がただ乗りされると枯渇する — 非排除性という同じ根から、競合性の有無で正反対の症状が出るのです。なお、境界は技術と制度で動きます。道路は空いていれば公共財に近く、渋滞すれば競合的になり、料金所を置けばクラブ財になります。
どれだけ作るべきか — 需要を縦に足す
私的財なら、同じ価格のもとで各人が買う量を横に足したものが市場の需要です。公共財は違います。街灯が1基増えると、町の全員が同時にその明るさを受け取るので、1基の価値は全員の評価の縦の和になります。
数字で追ってみます。AさんとBさんの2人が住む通りに街灯を建てます。1基あたりの費用は40万円です。Aさんにとっての街灯の限界便益(もう1基増えたときの価値)は 60 − 4Q 万円、Bさんは 48 − 4Q 万円とします(Q は基数)。社会にとっての限界便益は2人の和で 108 − 8Q、これが費用40と等しくなる Q = 8.5 基が最適です。ところがAさんが自分の便益だけで判断すると、60 − 4Q = 40 の5基で止まります。5基あればBさんにとっての次の1基の価値は 28万円 で、費用40万円に届かないので、Bさんは1円も出しません。自発的な負担に任せると、最適の8.5基に対して5基しか建たないのです。
理屈の上では、各人に自分の限界便益に等しい「個人別の価格」を払わせれば(Aさんは最適点での便益26万円、Bさんは14万円、合計40万円)、全員が8.5基に賛成するはずです。これをリンダール価格と呼びます。しかし実際には、誰の便益がいくらなのか政府には分かりません。尋ねても、負担を逃れたい人は「自分は要らない」と過少に申告するインセンティブを持ちます。公共財の最適量を決める難しさは、計算ではなく、この情報の引き出しにあります。
ただ乗りの構造を体験する
公共財の供給が崩れる仕組みは、実験室で「公共財ゲーム」として繰り返し確かめられてきました。参加者が手持ちのトークンを共同の壺に入れ、壺の中身が増えて全員に等分されるゲームです。全員が全額を入れれば全員が最も豊かになりますが、1人にとっては、自分が入れた1トークンのうち戻ってくるのは一部だけなので、入れないのが得です。これは囚人のジレンマを多人数に広げたゲームで、参加者が増えるほど「自分一人が抜けても影響は小さい」という誘惑が強まります。
実験の結果には特徴があります。最初の回には、多くの人が手持ちの4〜6割ほどを入れます。純粋に利己的な人ばかりではないのです。ところが回を重ねるごとに拠出は細っていきます。「周りが入れるなら自分も入れるが、周りより少し少なめに」という条件付きの協力者が多く、そのわずかなずれが積み重なるからです。フェールとゲヒター(2000年)は、自分の取り分を削って相手の取り分を減らせる「罰」を加えると、拠出が回を重ねても保たれ、むしろ増えていくことを示しました。下の部品で確かめてください。最初は罰の仕組みを「なし」にして10ラウンド進め、次に「あり」にしてやり直してみてください。
下の金の取っ手をつかんで、20トークンのうち壺に入れる量を決め、「壺に入れる」を押してください。壺の中身は1.6倍になって、入れなかった人も含めた8人に等分されます。
8人(下の金の輪=あなた)が毎ラウンド20トークンから壺に入れ、壺は1.6倍になって全員に等分される。右(スマホでは下)の折れ線=ラウンドごとの平均拠出
罰には皮肉な性質があります。罰する側は自分の取り分を削るので、罰すること自体が「誰かがやってくれれば助かる」公共財です。社会がこの二段目のただ乗りを避けるために、罰の役割を個人の善意ではなく、税と法の強制や共同体の監視の仕組みに預けているのだ、と見ることもできます。
解決策 — 強制、境界づけ、そして工夫
最も標準的な解決は、政府が租税という強制的な仕組みで全員から費用を集めて供給することです。ただし政府の供給には固有の難しさがあります。市場の価格メカニズムのような需要のシグナルがないため、「どれだけ作るのが適量か」の手がかりが乏しく、上で見た過少申告の問題もあります。公共事業の規模がしばしば政治問題になるのは、この情報の問題が本質的に解けていないからです。
政府以外の解決もあります。技術で排除を可能にして、公共財をクラブ財に変える方法 — スクランブル放送や有料道路のETCがその例です。正の外部性が大きい知識の生産には、特許で一時的な排除性(期間限定の独占)を与えて発明の対価を回収させたり、政府が基礎研究に補助金を出したりします。オープンソースソフトウェアや Wikipedia のように、名声・貢献の満足感・互恵の規範を燃料に、強制なしで公共財が供給される例も現代では大きな規模に育っています。
教科書の定番例にも注意が要ります。灯台は長く「市場では供給されない公共財」の典型とされてきましたが、ロナルド・コースは1974年の論文「経済学における灯台」で、19世紀までの英国では民間の灯台が近くの港の使用料で運営されていたことを示しました。光そのものは排除できなくても、港に入る船から料金を取る、という形で排除を別の場所に作れたのです。公共財かどうかは財の物理的な性質だけでは決まらず、制度の工夫しだいで市場に乗ることもあります。
実務・生活での視点
公共財のレンズは、身の回りの「誰もやりたがらない仕事」を診断するのに使えます。職場のドキュメント整備、業界の標準化活動、オンラインコミュニティの治安維持 — どれも組織内の公共財で、放っておけばただ乗りが広がり供給されません。うまく回っているチームは、当番制(強制)、貢献の見える化(名声という私的な報酬)、担当者の明確化(排除性の付与)など、公共財問題の古典的な処方箋を無意識に実装しています。「なぜ誰もやらないのか」と嘆く前に、非排除性と非競合性がないかを疑ってみると、打ち手が見えてきます。
試問
8人で共同の壺を囲む村です。罰の仕組みがあり、あなたは1トークン払うごとに、相手の取り分を3減らせます。
全員が20トークンを持っています。下の金の取っ手で入れる量を決め、「壺に入れる」を押してください。ラウンドの終わりに、少なすぎる人を罰することができます。
8人(下の金の輪=あなた)が毎ラウンド20トークンから壺に入れ、壺は1.6倍になって全員に等分される。右(スマホでは下)の折れ線=ラウンドごとの平均拠出
