ジニ係数
Gini Coefficient ・ じにけいすう
所得の格差を0から1の一つの数字にまとめる指標。ローレンツ曲線のたわみの大きさを測る
✦ 30秒で試す — 航海格差の数字が同じ2つの国で、困っている人はまるで違う全員の所得が2倍になった後、ジニ係数は?予想してみる概要
ジニ係数は、ある社会の所得(や資産)の格差の大きさを、0から1のあいだの一つの数字にまとめた指標です。0は全員の所得がまったく等しい状態、1はたった一人がすべての所得を独り占めしている状態を表し、数字が大きいほど格差が大きいことを意味します。現実の国の値はおおむね0.25から0.6の範囲に収まります。OECDの統計(世帯の人数で調整した、税と社会保障の後の所得=等価可処分所得)では、デンマークやノルウェーなど北欧の国が0.25〜0.29、日本が0.338(2021年)、米国が0.394(2023年)です。
この指標の値打ちは、比べられることにあります。分布という複雑な情報を一つの数字にまとめてあるので、国どうしの比較、同じ国の時系列の変化、そして税と社会保障による所得再分配の前後の変化を、同じ物差しで語れます。「格差が広がった」という印象論を、確かめられる数字の議論に変えるための、国際的に最も広く使われている道具です。
なぜ生まれたか
20世紀の初め、産業化の進んだ国々で貧富の差が政治の問題になり、「格差は本当に広がっているのか」「どの国がより不平等なのか」を客観的に論じる必要が生まれました。しかし平均所得は分配の形をまったく伝えません。平均が同じでも、全員が中くらいの社会と、少数の富豪と多数の貧しい人に割れた社会はまるで別物です。分布の表をそのまま並べても、どちらが「より不平等」かを一目で判定することはできませんでした。
突破口は2段階で開かれます。まず1905年に米国の統計学者マックス・ローレンツが、人々を貧しい順に並べて「下位 x%の人々が所得全体の何%を得ているか」を描く曲線(ローレンツ曲線)を考え、分布の形を1本の曲線として見えるようにしました。次いで1912年、イタリアの統計学者コッラド・ジニが、所得の散らばりを一つの数で表す方法を示し、これが曲線と完全平等の状態のずれを面積の比として表す値と一致することも明らかになりました。分布の全体を保ったまま見せる曲線と、それを1個の数字に要約する係数の組み合わせによって、格差ははじめて測って比べられる対象になったのです。
詳細
ローレンツ曲線からジニ係数へ
作り方を順に追います。まず社会の全員を所得の低い順に一列に並べ、横軸に人口の累積の割合、縦軸に所得の累積の割合を取って点を打ちます。全員の所得が等しければ「下位20%の人が所得の20%を持つ」ので、点は45度の直線(完全平等線)に並びます。現実には所得の低い層の取り分は人口の割合より小さいので、曲線は必ず45度線の下にたわみます。このたわんだ曲線がローレンツ曲線で、たわみが深いほど格差は大きい。ジニ係数は、45度線とローレンツ曲線に挟まれた三日月形の面積 A を、45度線の下の三角形全体の面積(A+B)で割った値です。
同じ値は、面積を使わずに計算することもできます。社会の中から2人を選ぶすべての組み合わせについて所得の差の絶対値を平均し(平均絶対差)、それを平均所得の2倍で割ったものがジニ係数です。所得100万円と300万円の2人の社会なら、組み合わせ(自分どうしも含む)の差は0・200・200・0で平均は100万円、平均所得は200万円なので、ジニ係数は 100 ÷(2×200)=0.25 です。「誰と誰を比べても、平均所得に対してどれだけ離れているか」を測っている、と読み替えると直観がつかめます。
下の部品で確かめてください。20人の所得の粒を左右に動かすと、貧しい順に並べ直したローレンツ曲線の弛みと、ジニ係数がその場で変わります。
緑青の粒は20人の所得です。粒をつかんで左右に動かすと、右のローレンツ曲線の弛みとジニ係数がその場で変わります。
左: 1粒=1人の年間所得(万円)。右: 貧しい順に並べたときの「人口の累積比 → 所得の累積比」(ローレンツ曲線)。45度線とのあいだの塗りの面積 ÷ 三角形の面積 = ジニ係数
実際の数字の読み方
日本では、厚生労働省の所得再分配調査がこの指標を3年ごとに公表しています。2023年の調査(2025年12月公表)では、市場で稼いだままの当初所得のジニ係数が0.5855と過去最高になった一方、税と社会保障を経た再分配所得では0.3825まで下がりました(前回2021年の調査では0.5700と0.3813)。再分配でジニ係数が何%下がったかを示す改善度は34.7%です。この差がまさに所得再分配の効果の大きさで、その大部分は累進課税よりも、年金や医療などの社会保険の給付によるものです。
国際比較では、OECDなどが等価可処分所得(世帯の人数で調整した、税と社会保障の後の所得)のジニ係数を整備しています。概要で挙げた北欧0.25〜0.29、日本0.338、米国0.394はこの数字です。なお「0.4を超えると社会が不安定になる警戒ライン」という言い方をよく見かけますが、経験則的な俗説で、理論的な根拠のある閾値ではありません。
落とし穴1 — 同じ数字でも中身は違う
ジニ係数は分布を1個の数字にまとめるので、その過程で情報が失われます。下の層が取り残された社会と、上位の少数に所得が集まる社会が、同じジニ係数になることは普通にありえます。このときローレンツ曲線は交差し、どちらが「より不平等」かは一意に決まりません。また、ジニ係数は分布の中ほどの変化に敏感で、上位1%への集中のような裾の変化を捉えにくい性質があります。
そこで目的に応じて別の指標が併用されます。上位10%の取り分を下位40%の取り分で割るパルマ比率は、中間層の取り分がどの国でも比較的安定していることに着目し、両端の差に焦点を当てます。アトキンソン指数は、社会が格差をどれだけ嫌うかを表す値を自分で選び、それに応じて下の層の変化を重く見る指標です。ピケティらの研究で注目された上位1%の所得シェアは、頂点への集中を直接測ります。
計算上の癖もあります。n人の社会では、一人がすべてを持っていてもジニ係数は 1−1/n までしか上がりません(5人なら0.8、20人なら0.95)。少ない標本から計算すると値が低めに出るので、n/(n−1) をかけて補正することがあります。また、事業の赤字などで所得がマイナスの人がいると、ジニ係数は1を超えることがあります。
落とし穴2 — 何の格差を測っているか
比較の土台が揃っているかにも注意が要ります。第一に、当初所得と再分配所得のどちらのジニ係数かで数字は大きく変わります。「日本の格差は0.58で世界最悪級」という議論は、再分配前の数字を他国の再分配後と比べる典型的な誤りです。第二に、世帯の人数をどう調整するか(等価所得への換算)や、対象が世帯か個人かでも値は動きます。第三に、高齢化の影響です。引退して当初所得がほぼゼロになる高齢の世帯が増えると、一人ひとりの生涯の格差が変わらなくても、当初所得のジニ係数は機械的に上がります。日本の当初所得のジニ係数の上昇の相当部分は、この人口構成の変化で説明されます。最後に、ジニ係数がふつう測るのは1年間の所得(フロー)で、株式や不動産といった資産(ストック)の格差は別に測る必要があります。資産の格差は所得の格差よりずっと大きいのが普通です。数字を引用するときは「誰の・何の・どの段階の所得か」を必ず確かめる — これがこの指標を使いこなす最低限の作法です。
試問
社会 A は、下の5人が取り残された社会です。社会 B は、いまは中くらいの所得に人が集まっています。
緑青の A は「下の5人が取り残された」社会です。金の B の粒をつかんで左右に動かし、A とジニ係数がほぼ同じなのに曲線の形が違う社会を作ってください。
左: 1粒=1人の年間所得(万円)。右: 貧しい順に並べたときの「人口の累積比 → 所得の累積比」(ローレンツ曲線)。45度線とのあいだの塗りの面積 ÷ 三角形の面積 = ジニ係数
