寡占
Oligopoly ・ かせん
少数の企業が市場の大半を占め、互いの出方を読み合う戦略的相互依存が価格と生産量を決める市場構造
✦ 30秒で試す — 航海2社しかいないのに、値段は独占ほど高くならないBが約束を守るなら、Aの儲けが最も大きいのは?予想してみる概要
寡占とは、少数の企業が市場の大部分を占めている状態です。日本の携帯電話会社、ビール、コンビニ、世界の旅客機やジェットエンジンの製造など、生活を支える産業の多くは、数社で市場を分け合う寡占市場です。売り手が無数にいる競争市場と、1社しかない独占のあいだに位置します。
寡占を特徴づけるのは「戦略的相互依存」です。競争市場の企業は小さすぎて市場全体に影響を与えられず、独占企業には気にすべき相手がいません。寡占では、自社が値下げすれば競合の客を直接奪うので、相手は必ず反応してきます。「自分が動けば相手も動く。相手の反応まで読んで自分の手を決める」— この読み合いが寡占の分析を難しく、面白くしています。寡占が、戦略的な駆け引きを数理的に扱うゲーム理論の主要な応用先になったのはこのためです。
なぜ生まれたか
19世紀までの経済学が主に扱ったのは、「無数の売り手」の競争市場と「1社」の独占という両極端でした。ところが19世紀末から20世紀にかけて、鉄鋼・石油・自動車・化学といった巨大な設備が必要な産業は、軒並み数社に集約されていきます。大きな工場ほど1個あたりの費用が下がる規模の経済が働くと、小さな企業が無数に並び立つことはできず、かといって1社にもならない。現実の市場の主役は「少数」でした。
既存の道具ではこれを分析できませんでした。需要と供給の曲線の交点を求めるだけでは、「相手がどう出るか」で結果が変わる状況を扱えないからです。先駆けはフランスの数学者クールノーで、1838年の著作で2つの鉱泉の持ち主が生産量で張り合うモデルを解き、各自が相手の量を所与として最適に振る舞う点に市場が落ち着くことを示しました。1883年にはベルトランがこれを書評で批判し、企業が張り合うのが量ではなく価格なら結論はまったく違う、と指摘しました。二人の議論が本当の意味で整理されたのは、1944年のフォン・ノイマンとモルゲンシュテルンによるゲーム理論の誕生と、1950年のナッシュによる均衡概念の後です。クールノーが見つけた点は、どの企業も相手の戦略を前提にすれば自分の戦略を変えたくない状態、すなわちナッシュ均衡の一例だったのです。
さらに1930年代には、チェンバリンとロビンソンが、売り手は多いが製品が少しずつ違う市場(独占的競争)を理論化しました。こうして市場構造は、完全競争・独占的競争・寡占・独占の4つに整理されました。
詳細
競争と独占のあいだ — 4つの市場構造
市場構造は、売り手の数と製品の違い(差別化)で並べられます。寡占の特徴は、同じ数社の市場でも、企業どうしの関係しだいで結果が競争寄りにも独占寄りにも大きく振れることです。
量で張り合う — クールノー均衡を数字で追う
クールノーのモデルを、数字を1組通して追ってみます。市場全体の価格が「12 − 総生産量」で決まり、A社とB社はどちらも1単位2の費用で作れるとします。A社にとっての正解は、B社がどれだけ作るかで変わります。B社の量を q2 とすると、A社の利潤 (12 − q1 − q2 − 2) × q1 がいちばん大きくなるのは q1 = (10 − q2) ÷ 2 のときです。B社が何も作らなければA社は5、B社が4作るならA社は3。この「相手の量ごとの自分の正解」を結んだ線を反応曲線(最適反応)と呼びます。
B社にも同じ形の反応曲線があります。2本の線の交点では、A社は「B社がこれだけ作るならこれが最善」と思い、B社も同じことを思っています。どちらにも自分だけ量を変える理由がない — これがクールノー均衡です。この例では両社とも 10/3(約3.33)を作り、総生産は約6.67、価格は約5.33、各社の利潤は約11.1になります。
同じ2社でも、カルテルを結んで独占のようにふるまえば総生産は5、価格は7に上がり、2社合計の利潤は25になります。クールノー均衡の合計22.2より多いのに、なぜそこに留まれないのでしょうか。カルテルの価格7のもとで相手が2.5しか作らないなら、自分は3.75作るほうが儲かるからです(反応曲線の上の点)。各社が自分の反応曲線に戻ろうとする力が、協調を内側から崩します。
下の部品で確かめてください。金の点を横に動かしてA社の量を決め、手を離すと、B社があなたの量を見て最も儲かる量へ縦に動きます。何度かくり返すと、どこから始めても交点に吸い込まれていきます。右のパネルでは企業数をつかんで増やせます。企業が増えるほど1社の値下げが市場全体に及ぼす影響が小さくなり、価格は限界費用へ沈んでいきます。
金の点をつかんで横に動かすと、A社(あなた)の生産量が変わります。手を離すと、B社が「いちばん儲かる量」へ縦に動きます。何度かくり返してみてください。
横軸=A社(あなた)の生産量、縦軸=B社の生産量。金の線=A社の反応曲線、緑青の線=B社の反応曲線。右は企業数を増やしたときの価格
部品のジグザグは、「相手の量を前提に、自分の正解を選ぶ」ことの連鎖です。1回ごとにずれは4分の1に縮み、数回で均衡に届きます。企業数のパネルでは、この例と同じ需要と費用で N 社が対称に張り合うと価格は (12 + 2N) ÷ (N + 1) になり、1社なら7、2社で5.33、8社で約3.1と、限界費用2に近づいていきます。寡占の価格が独占と競争のあいだに来るのは、この読み合いの結果です。
価格で張り合う — ベルトランのパラドックス
ところが、企業が張り合う手段が「量」ではなく「価格」だと、結論はがらりと変わります。製品がまったく同じで生産能力に制約がなければ、客は1円でも安いほうへ全員移ります。相手より1円安くすれば市場を総取りできるので、価格が限界費用を上回っている限り値下げの誘惑が残り、たった2社でも価格は限界費用まで下がります。これがベルトランのパラドックスです。「売り手が少ないから高い」とは限らないのです。
現実の寡占がこのパラドックスどおりにならないのは、製品が差別化されていたり(銘柄・立地・品質)、工場の能力に上限があって値下げしても全員の注文に応じられなかったりするからです。どちらのモデルが当てはまるかは産業によって違い、設備の大きさが先に決まり、そのあと価格で競う産業ではクールノーに近い結果になることが知られています(クレプスとシャインクマン、1983年)。
カルテルの誘惑と、裏切りの構造
寡占企業にとって最も儲かるのは、全社が示し合わせて生産を絞り、独占と同じ高値を保つことです。この協定をカルテルと呼びます。しかしカルテルには構造的な弱点があります。全社が高値を守っているなら、自分だけこっそり増産・値下げするのが各社にとって最も儲かるからです。全員が協調すれば全員が得をするのに、個々の合理的な判断が裏切りに向かう — これは囚人のジレンマそのものの構造で、協調が崩れた状態がナッシュ均衡になります。
だから現実のカルテルは、裏切りを監視して報復する仕組みを必要とします。取引が長く繰り返される市場ほど「将来の報復」が効いてカルテルは安定し、一回きりに近い市場では崩れやすい — これはゲーム理論の繰り返しゲームの分析から得られた予測で、摘発されたカルテルの経験ともよく合います。
競争当局はこの構造を逆手に取ります。課徴金減免制度(リーニエンシー)は、カルテルを最初に自主申告した企業の課徴金を免除し、2番目以降も減額する仕組みです。米国では1978年に導入され1993年に拡充、日本では2006年1月に導入されました。仲間を裏切って申告した者だけが助かる状況を制度で作り、カルテルの参加者を囚人のジレンマに追い込むのです。日本でも、制度の導入後に多くの摘発が申告をきっかけに進みました。
価格の硬直と、価格以外の競争
寡占市場では、値下げはすぐ報復されて共倒れになるため、企業はしばしば価格以外の土俵で競います。広告・ブランド、製品の差別化、ポイントや長期契約による囲い込み、新規参入を思いとどまらせるための過剰な生産能力などです。料金が横並びなのに広告合戦が激しい、という姿は寡占の典型です。
寡占では価格が動きにくいとも言われます。スウィージー(1939年)の屈折需要曲線は、「値上げには誰もついてこないが、値下げには全員がついてくる」と各社が予想するなら、いまの価格から動かないのが最善になる、と説明しました。ただしスティグラー(1947年)が実際の価格の動きを調べたところ、寡占産業のほうが価格が硬直的だという証拠は乏しく、屈折需要曲線は、なぜその価格なのかを説明できないという弱点も指摘されています。現在では、1つの説明として紹介される程度の位置づけです。
集中度の測り方と、実務での見方
寡占の程度は、各社のシェア(%)を2乗して足したハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)で測ります。1社独占なら 100² = 10,000、4社が25%ずつなら 2,500 です。競争当局はこれを合併審査の入口に使います。米国の2023年の合併ガイドラインは、HHI が1,800を超え、合併で100を超えて上がる場合を「集中を著しく高める」合併と推定します。日本の公正取引委員会の企業結合ガイドラインでは、合併後の HHI が1,500以下、または1,500〜2,500で増分が250以下、2,500超で増分が150以下なら、原則として競争を実質的に制限するおそれはないとされます。
ビジネスの側から見れば、寡占市場への参入や値下げの判断では「既存企業がどう報復してくるか」まで読む必要があり、競争市場の分析とはまったく違う思考が求められます。相手の反応を織り込んで自分の一手を決める — 寡占の分析は、経済学が「市場の科学」から「戦略の科学」へ広がった入口です。
試問
ある2社だけの市場です。2社の費用は違い、どちらがいくら作るべきかはまだ誰にも分かりません。反応曲線は隠してあります。
金の点をつかんで横に動かし、A社(あなた)の生産量を決めてください。手を離すと、B社があなたの量を見て動きます。
横軸=A社(あなた)の生産量、縦軸=B社の生産量。金の点を横にドラッグ(矢印キーでも可)。手を離すとB社が縦に動く
