ミクロ経済●●○○○

限界効用

Marginal Utility ・ げんかいこうよう

追加の1単位から得られる満足の増分。逓減するこの量が需要曲線と予算の配り方を決める

✦ 30秒で試す — 航海大好きなものに全額使っても、満足は最大にならないそのとき、最後に足した映画1本とコーヒー1杯の満足は?予想してみる

概要

限界効用は、ある財をもう1単位だけ追加で消費したときに増える満足(効用)の量です。「限界」は英語の marginal の訳で、「合計」ではなく「端に付け足す1単位ぶん」に注目するという意味です。真夏のビールで考えると分かりやすいでしょう。1杯目は最高においしく、2杯目もまだうまい。しかし3杯目、4杯目と進むにつれて、1杯あたりの満足ははっきり小さくなっていきます。この「追加の1杯がもたらす満足」が限界効用で、それが消費量とともに減っていく傾向を「限界効用逓減の法則」と呼びます。

あたりまえの観察に見えますが、これは経済学の土台を支える発見でした。需要曲線がなぜ右下がりなのか、限られた予算をどう配るのが最善なのか、水はなぜダイヤモンドより安いのか — こうした問いはどれも、「価値は合計ではなく追加の1単位で測る」という限界の発想で解けます。人がどう選ぶかを説明する消費者理論の出発点です。

なぜ生まれたか

「水とダイヤモンドの逆説」を有名にしたのはアダム・スミスです。『国富論』(1776年)でスミスは、水ほど役に立つものはないのにそれで買えるものはほとんどなく、ダイヤモンドはほとんど役に立たないのに大量の品と交換できる、と書きました。スミスとその後継者たちは、価値の説明を「役に立つ度合い」から切り離し、作るのに投じた労働や費用に求めました(労働価値説・生産費説)。しかしこれでは、同じ手間で作ったのに売れる品と売れない品があることや、手間をかけずに手に入る希少品の高値を、すっきり説明できませんでした。

1870年代、イギリスのジェヴォンズ(『経済学の理論』1871年)、オーストリアのメンガー(『国民経済学原理』1871年)、スイスのローザンヌで教えたワルラス(『純粋経済学要論』1874年)の3人が、ほぼ同時に、互いに独立してこの謎を解きました。鍵は「水全体の価値」と「追加のコップ1杯の価値」を区別することです。水の総効用は計り知れないほど大きいけれど、水はふんだんにあるので、最後の1杯の効用はほとんどゼロです。ダイヤモンドは希少性が極端に高いので、追加の1個の限界効用がとても高い。価格を決めるのは総効用ではなく限界効用だ — この視点の転換は「限界革命」と呼ばれます。実はドイツのゴッセンが1854年に、限界効用の逓減と予算の配り方の法則をすでに書いていましたが、ほとんど読まれず、ジェヴォンズらが後に先駆者として再発見しました。

こうして経済学は、価値を「何に労力を投じたか」という過去ではなく、「追加の1単位がいまどれだけ欲しがられているか」という現在の希少性と欲求で説明するようになりました。

詳細

総効用と限界効用 — 増え方が減っていく

限界効用を扱うときの基本は、総効用(それまでの満足の合計)と限界効用(追加1単位の満足)を区別することです。ビールを3杯飲んだときの満足の合計が総効用、3杯目そのものがもたらした満足の増分が限界効用です。限界効用逓減の法則が言っているのは「総効用は増え続けるが、その増え方がだんだん鈍る」ということです。やがて限界効用がゼロになる点(飽和点)を超えると、追加の1杯はむしろ満足を減らします。

満足何杯目か+101杯目+72杯目+43杯目+1.54杯目−25杯目総効用10172122.520.5棒=限界効用(1杯ごとの増分)。下の数=総効用(棒の積み上げ)。4杯目で最大、5杯目で減る
限界効用逓減 — 追加の1杯がもたらす満足は杯を重ねるごとに小さくなる。総効用は4杯目まで増え、5杯目で減る

需要曲線が右下がりである理由

限界効用は、需要と供給で当然のように描かれる「右下がりの需要曲線」に理由を与えます。人は、追加の1単位から得られる満足が支払う価格に見合う限り買い続けます。限界効用は消費量とともに減るので、「見合う」と感じられる数量は価格が高いほど少なく、安いほど多くなります。一人ひとりの限界効用逓減を積み上げたものが、右下がりの需要曲線です。払ってもよいと思った額(限界効用をお金に換算したもの)と実際の価格の差を合計したものが、買い手の得した分、すなわち消費者の余剰です。

限られた予算の配り方 — 限界効用均等の法則

限界効用のもう1つの主な応用が、予算の配り方です。答えは「1円あたりの限界効用が、すべての使い道で等しくなるように配る」で、限界効用均等の法則(ゴッセンの第2法則)と呼ばれます。価格が違う財を比べるときは、1単位の満足そのものではなく、それを価格で割った「1円あたりの満足」を比べるのがポイントです。

数字で追ってみます。予算は500円で、1杯100円のコーヒーと1個200円のケーキがあります。コーヒーの満足は1杯目から順に10・8・6・4・2、ケーキは16・12・8と減っていきます。ケーキを100円あたりに直すと8・6・4です。100円ずつ、そのとき1円あたりの満足がいちばん大きい所へ使っていくと、コーヒー1杯目(10)、コーヒー2杯目(8)、ケーキ1個目(100円あたり8)、コーヒー3杯目(6)で500円を使い切ります。合計は 10 + 8 + 16 + 6 = 40 です。コーヒーだけ5杯なら30、ケーキ2個とコーヒー1杯なら38で、どちらも40に届きません。

100円あたりの満足コーヒー 1杯100円1086421杯2杯3杯4杯5杯ケーキ 1個200円16 ÷ 2 = 812 ÷ 2 = 68 ÷ 2 = 41個2個3個ここで500円が尽きる塗った棒=買うもの。コーヒー3杯(300円)とケーキ1個(200円)で満足の合計は40
限界効用均等の法則 — 100円あたりの満足が高い順に使っていくと、両方の財の「最後の100円」の働きがほぼ同じ高さでそろう

最適な配分では、コーヒーの最後の100円は6、ケーキの最後の100円は8を生み、どちらも、まだ買っていない次の100円(コーヒー4、ケーキ6)以上です。もし「最後の100円」が小さい使い道と「次の100円」が大きい使い道があれば、前者から後者へ100円を移すだけで合計が増えます。移す余地がなくなった状態 — 1円あたりの限界効用がほぼそろった状態 — が最適です。この例のように財が1個単位でしか買えないとぴったりそろうとは限りませんが、細かく分けられるほど、最後の1円の働きは同じ高さに寄っていきます。

下の部品で確かめてください。財布の100円玉を3つの瓶へ配ると、瓶の上に「最後の1枚」と「次の1枚」の柱が立ちます。柱の高さがそろうように配ると、満足の合計がそれ以上増えない所に着きます。

⚡ 体験: 100円玉を配って、1円あたりの満足をそろえる
満足の合計0.0財布(10枚)5.2最後次コーヒー0円1杯300円 → 0.0杯18.0最後次本0円1冊100円 → 0.0冊10.5最後次映画0円1本200円 → 0.0本100100100100100100100100100100
満足の合計0.0財布の残り10枚最後の1枚の最小—次の1枚の最大18.02

財布の100円玉を瓶へドラッグしてください(瓶をタップしても1枚入ります)。瓶の上の柱が、その財に次の1枚を使ったら増える満足です。

柱の塗り=最後に入れた1枚で増えた満足、枠=次の1枚で増える満足(どちらも100円あたり)。瓶の中の硬貨をタップすると財布に戻る

部品で1つの瓶に硬貨を入れ続けると、その瓶の柱はどんどん低くなります。好きな財でも、たくさん買うほど1枚ぶんの満足は細るからです。値段の高い財は、1単位の満足が大きくても100円あたりでは割り引かれます。「最後の1枚」の最小が「次の1枚」の最大を下回らなくなったら、どこから1枚動かしても合計は増えません。この「端の1単位を動かして改善の余地を探す」考え方は限界分析と呼ばれ、企業の生産量の決定から公共事業の評価まで、経済学のあらゆる場面で使われます。何かを選ぶとき、追加の1単位の便益とそのために諦めるもの(機会費用)を比べる、と言い換えることもできます。

測れる効用から、順番だけの効用へ

ジェヴォンズやマーシャルの時代の限界効用は、満足を「10」「7」のように数で測れる量(基数的効用)として扱っていました。しかし、満足を測る目盛りは誰も持っていません。20世紀に入ると、パレート(1906年)、ヒックスとアレン(1934年)らは、消費者理論に必要なのは「AとBのどちらが好きか」という順番(序数的効用)だけだと示しました。好みが同じになる組み合わせを結んだ無差別曲線と、2つの財を交換してもよい比率である限界代替率を使えば、予算の配り方も需要曲線の右下がりも、効用の数値なしで導けます。サミュエルソンの顕示選好理論(1938年)は、さらに「選んだ行動」だけから好みを読み取る道を開きました。

いまの教科書で限界効用均等の法則は、「限界代替率 = 価格の比」という形で生き残っています。「1円あたりの満足をそろえる」という直観は変わらず、測れるかどうかの前提だけが外されたのです。この記事の数値は、その直観を見せるための例と考えてください。

実務での視点と落とし穴

限界効用逓減は、商売の設計にも広く現れます。まとめ買い割引や2個目半額は「2個目以降の限界効用が低いなら、安くしないと買ってもらえない」ことへの対応です。食べ放題が成り立つのも、限界効用逓減のおかげで客の食べる量が自然に頭打ちになるからです。

お金そのものの限界効用も逓減すると考えられています。貧しいときの1万円は、豊かなときの1万円より重い。ダニエル・ベルヌーイは1738年に、この考えでサンクトペテルブルクの賭けの逆説を説明しました。同じ期待値でも確実なほうを選ぶ「リスク回避」は、お金の限界効用逓減から生まれ、保険にお金を払う理由や、リスクとリターンの関係の土台になっています。

一方で、限界効用の理論は「人は満足を冷静に比べて選ぶ」という理想化の上に立っています。現実の人間は、同じ金額でも損を利益より重く感じたり(プロスペクト理論)、目先の満足を過大評価したり(現在バイアス)と、理論から系統的にずれます。こうしたずれを正面から扱うのが行動経済学です。また、効用は本人の主観で、人と人のあいだで比べる確かな方法はありません。「彼より私のほうが満足が大きい」を持ち出す議論には注意が必要です。

最後に、よく似た名前の収穫逓減は生産の側(投入と産出)の法則で、消費の側の限界効用逓減とは別物です。「追加の1単位の効き目が減っていく」という形は同じでも、登場する場面が違います。

試問

コーヒー・本・映画の値段と、あなたの好みの強さは、挑戦ごとに変わります。

✦ 命題挑戦中

値段と好みが違う3つの財に100円玉10枚を配り、満足の合計(総効用)を最大にせよ

  • 10枚をすべて使う
  • どの瓶から1枚動かしても、満足の合計が増えない
⚡ 体験: 10枚の100円玉で、満足をいちばん大きくする
満足の合計0.0財布(10枚)13.9最後次コーヒー0円1杯100円 → 0.0杯5.8最後次本0円1冊300円 → 0.0冊9.7最後次映画0円1本200円 → 0.0本100100100100100100100100100100
満足の合計0.0財布の残り10枚最後の1枚の最小—次の1枚の最大13.86

好みと値段は毎回変わります。財布の100円玉を瓶へドラッグして(瓶をタップしても1枚入ります)、10枚で満足の合計がいちばん大きくなる配り方を探してください。

柱の塗り=最後に入れた1枚で増えた満足、枠=次の1枚で増える満足(どちらも100円あたり)。瓶の中の硬貨をタップすると財布に戻る