マクロ経済●●○○○

失業

Unemployment ・ しつぎょう

働く意思と能力があり職を探しているのに仕事がない状態。流入と流出の釣り合いで水準が決まる

✦ 30秒で試す — 航海失業率が下がったのに、働いている人は減っていた景気が良くなり、諦めた10人が職探しを再開。4人が就職すると失業率は?予想してみる

概要

失業とは、働く意思と能力があり、実際に職を探しているのに仕事に就けていない状態を指します。ニュースでよく聞く「失業率」は、働いている人と職探し中の人を合わせた「労働力人口」のうち、職探し中の人(完全失業者)が占める割合です。働いていない人がすべて失業者なのではありません。学生や専業主婦・主夫、引退した高齢者のように、職を探していない人は「非労働力人口」に分類され、失業率の計算には入りません。

日本の失業率は、総務省の労働力調査で測られます。国際労働機関(ILO)の基準に沿って、毎月の月末1週間に少しも仕事をせず、仕事があればすぐ就くことができ、その期間に仕事を探す活動をしていた人を完全失業者と数えます。1週間に1時間でも収入のある仕事をすれば就業者です。2025年平均の完全失業率は2.5%で、主要国の中でも低い水準にあります。

失業率は、景気の体温計の一つです。景気が悪化して企業が採用を絞れば失業率は上がり、GDPの伸びと失業率の変化のあいだには、成長が鈍ると失業率が上がるという安定した関係(オークンの法則)が観察されます。ただし失業は単なる数字ではありません。個人にとっては収入と生活の基盤を失うことであり、社会にとっては働けるはずの人の力がまるごと使われない無駄です。物価の安定と並んで、失業を抑えることがマクロ経済政策の中心的な目標になっているのはこのためです。

なぜ生まれたか

「失業」を経済学の独立した問題として扱う見方は、意外なほど新しいものです。19世紀までの主流の経済学では、労働もほかの商品と同じく需要と供給で調整されると考えられていました。働きたい人が余っているなら賃金が下がり、安くなった労働を企業が雇うので、市場に任せれば失業は自然に解消するはずだ — この理屈のもとでは、長く職に就けない人は「今の賃金では働きたくないだけ」とみなされ、失業は本人の選択の問題とされがちでした。

この見方を打ち砕いたのが、1929年に始まる世界恐慌です。米国では1933年に働く人の4人に1人が職を失い、賃金が下がっても雇用は戻りませんでした。働きたいのに、どれほど探しても仕事そのものがない — この「非自発的失業」の現実を前に、ケインズ経済学は、経済全体の需要が足りなければ市場の自動調整では雇用が戻らないこと、だから政府が財政政策などで需要を下支えする必要があることを理論にしました。失業を毎月測る統計の整備(米国では1940年代に今の形の調査が始まります)と、失業を政策で減らすという発想は、この経験から生まれたのです。

詳細

失業率はフローの釣り合いで決まる

失業者の数は、固定した人々の集まりではありません。毎月、職を失ったり辞めたりして失業に入る人がいて、職を見つけて出ていく人がいます。職探しを始めて非労働力から入ってくる人もいれば、職探しを諦めて非労働力へ出ていく人もいます。失業者の数(ストック)は、この流れ込み(フロー)と流れ出しが釣り合う所で決まります。風呂の水位が、蛇口と排水口の量の釣り合いで決まるのと同じです。

数字で追ってみます。就業者が600人、失業者が25人の町で、毎月就業者の0.8%(4.8人)が職を失い、失業者の20%(5人)が職を見つけるとします。職を見つける人の割合が20%から30%に上がると、失業者の部屋から出ていく流れが太くなり、失業者は新しい釣り合いまで減ります。このとき注意したいのは、失業の部屋から出ていく道が「就職」だけではないことです。職探しを諦めた人も、失業者の定義から外れて部屋を出ていきます。

下の部品で確かめてください。部屋をつなぐ管の太さを変えると、部屋の人数が新しい釣り合いへ動き、失業率が落ち着く所が変わります。

⚡ 体験: 管の太さを変えて、失業率が落ち着く所を見る
引退など職探しを経ずに就職離職・解雇 0.8%就職 20%職探しを断念 12%職探しを開始 0.9%就業600人失業25人非労働力375人
0か月
失業率4.00%就業者600人失業者25.0人労働参加率62.5%

人が3つの部屋のあいだを毎月流れています。管の壁(白い小さなつまみ)をつかんで外側へ引くと管が太くなり、その道を通る人が増えます。

1000人の町。就業・非労働力の部屋は1粒=10人、失業の部屋は拡大して1粒=1人。管の太さ=毎月その道を通る人の割合。細い灰色の道は引退(就業→非労働力)と、職探しを経ない就職(非労働力→就業)で、太さは固定

失業の3つの種類

失業対策を考えるうえで大切なのは、失業をひとくくりにせず、原因の違う3つの種類に分けることです。処方箋がまったく違うからです。

第一が摩擦的失業です。転職や新卒の就職活動など、職を移る途中で一時的に仕事がない状態を指します。働き手と企業が互いに相手を探すには時間がかかるので、経済が健全でも必ず一定量あります。むしろ、人がより合う仕事へ移っている証拠でもあります。第二が構造的失業です。求人はあるのに、求職者の技能や住む地域と噛み合わないために生じる失業で、産業構造が変わる時期に深刻になります。炭鉱が閉山した町の元鉱員と、都市部のIT求人のように、需要と供給が「量」ではなく「質」でずれている状態です。第三が循環的失業です。不況で経済全体の仕事の量が減ることによる失業で、景気循環とともに増減します。世界恐慌の失業はこれにあたります。

摩擦的失業転職・就職活動の途中で一時的に無職になる健全な経済でも必ず発生構造的失業求人と求職者のスキル・地域が噛み合わない産業構造の転換期に深刻化循環的失業不況で経済全体の仕事の総量が減る景気とともに増減するマッチングの改善求人情報の整備職業紹介の効率化スキルの組み替え職業訓練・リスキリング労働移動の支援需要の下支え財政政策・金融政策で経済全体の需要を回復同じ「失業率の上昇」でも、どの型かで打つべき手が変わる
失業の3類型 — 原因が違えば処方箋も違う

循環的失業には、財政政策や金融政策で経済全体の需要を回復させるのが効きます。けれども構造的失業に需要の刺激で応じても、求人と求職の食い違いは解消せず、人手不足の職種で賃金と物価が上がるだけになりかねません。

UV曲線 — 求人の空きと失業を並べて読む

いまの失業がどの型かを見分ける道具が、UV曲線(ベバリッジ曲線)です。横軸に失業率(U)、縦軸に欠員率(求人のうち埋まっていない割合、V)を取ると、両者は右下がりの曲線の上を動きます。好況では求人が埋まらず欠員が多く、失業は少ない。不況では逆になります。景気の波は、この曲線の上を行き来する動きとして現れます。

欠員率(埋まらない求人)失業率2%4%6%8%2%4%6%ずれた曲線もとの曲線好況不況景気の悪化=曲線の上の移動求人と求職の食い違いが増す=曲線ごと外側へずれる(構造的)
UV曲線(ベバリッジ曲線)— 景気の変化は曲線の上の移動、求人と求職の食い違い(構造的な要因)の悪化は曲線そのものの外側へのずれとして現れる

一方、同じ失業率なのに欠員も多い、つまり曲線そのものが右上へずれていくなら、求人と求職の食い違い(構造的な要因)が大きくなっている合図です。求人はあるのに失業も減らない状態で、需要を刺激しても効きにくく、職業訓練や労働移動の支援が必要になります。日本でよく使われる有効求人倍率(ハローワークの求人数÷求職者数)も、同じ発想の指標です。2025年平均は1.22倍、2026年7月は1.18倍で、求職者1人に1件以上の求人がある状態が続いています。

自然失業率と NAIRU

摩擦的失業と構造的失業は好況でも消えないので、経済が健全でも失業率はゼロにはなりません。景気の要因を除いたときに残る水準を、自然失業率と呼びます(1960年代末にフリードマンとフェルプスがそれぞれ提唱しました)。似た言葉に NAIRU(インフレを加速させない失業率)があります。こちらは、失業率をそれより下げようとするとインフレ率が上がり続けてしまう水準、という物価の側から定義した概念で、統計から推計する実務の道具です。2つはほぼ同じ水準を指すことが多いものの、自然失業率は労働市場の構造から、NAIRU は物価の動きから決める、という出発点が違います。

実際の失業率がこの水準まで下がった状態が、事実上の完全雇用です。ここからさらに失業率を押し下げようと需要を過熱させると、人手の奪い合いが賃金と物価を押し上げ、インフレーションが加速します。このインフレ率と失業率の綱引きを表したのがフィリップス曲線で、金融政策の運営は、この目に見えない水準の推定と常に隣り合わせです。

日本の失業率が低い理由と、統計の落とし穴

日本の失業率は、1990年代以降の長い停滞期でも最高で5.5%ほどにとどまり、欧米の不況期に比べて低い水準でした。理由の一つは、雇用を維持したまま調整する慣行です。景気が悪化すると、日本の企業は解雇よりも残業の削減、賞与のカット、配置転換、採用の抑制で人件費を調整してきました。国も雇用調整助成金で、休業させながら雇用を続ける企業を支えます(コロナ禍では特例で大幅に拡充されました)。そのため、不況の痛みが失業率より、労働時間や賃金、若い世代の就職難として表れやすいのです。近年は労働力人口の減少で人手不足が続き、失業率は2025年平均で2.5%、2026年7月に2.4%と低い水準にあります。

失業率を読むときは、定義の裏側に隠れるものにも注意が必要です。長い不況で職探しそのものを諦めた人(求職意欲喪失者)は、非労働力人口に移るので失業者の定義から外れ、失業率はむしろ改善したように見えます。深刻な不況の終わりに失業率が下がり始めたら、雇用が戻ったのか、人々が諦めたのかを、労働参加率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)や就業者数と合わせて確かめます。フルタイムで働きたいのに短時間の仕事しか見つからない人も、統計上は就業者です。失業率という一つの数字は、就業者数・労働参加率・賃金の動きとセットで読んではじめて意味を持ちます。

失業のコストと、制度による備え

失業のコストは、失業手当の額だけでは測れません。マクロには、働けるはずの人が生産に加われないことで、GDPが潜在的な水準を下回り続けます。ミクロには、長い失業は技能の陳腐化と自信の喪失を招き、再就職したあとの賃金にも長く傷を残すことが知られています(履歴効果)。とくに若いときに不況で就職の機会を逃した世代への影響は、数十年単位で続きます。

そこで多くの国は、雇用保険のような社会保険で失業中の所得を支えつつ、給付が長引いて職を探すインセンティブを弱めないよう、給付の期間や職業訓練の条件を組み合わせて制度を設計しています。失業対策とは、3つの型の診断と、こうした制度設計のさじ加減の総合問題なのです。

試問

1000人の町で、失業率は4.0%、就業者は600人です。

✦ 命題挑戦中

就業者を1人も増やさずに、失業率を1ポイント下げよ

  • 失業率が 3.0% 以下(最初の 4.0% から1ポイント下げる)
  • 就業者が最初の 600人 を上回っていない
  • その状態が半年(6か月)続いている
⚡ 体験: 管の太さを変えて、就業者を増やさずに失業率を下げる
引退など職探しを経ずに就職離職・解雇 0.8%就職 20%職探しを断念 12%職探しを開始 0.9%就業600人失業25人非労働力375人
0か月
失業率4.00%就業者600人失業者25.0人労働参加率62.5%

いまの失業率は 4.0%。部屋をつなぐ管の壁をつかんで太さを変え、就業者を増やさずに失業率を下げる道を探してください。

1000人の町。就業・非労働力の部屋は1粒=10人、失業の部屋は拡大して1粒=1人。管の太さ=毎月その道を通る人の割合。細い灰色の道は引退(就業→非労働力)と、職探しを経ない就職(非労働力→就業)で、太さは固定