ミクロ経済●●●○○

オークション

Auction ・ おーくしょん

参加者に価格を競わせて落札者と価格を決める仕組み。支払いのルールひとつで入札の戦略が変わる

✦ 30秒で試す — 航海欲しい値段をそのまま書くと、勝っても儲けはゼロ2つのルールで、入札者の平均の儲けは?予想してみる

概要

オークションは、買い手(または売り手)に価格を競わせて、「誰が・いくらで」手に入れるかを決める取引の仕組みです。魚市場のセリ、美術品の競売、ネットオークション、公共工事の入札、そして検索結果やウェブページに表示される広告枠の販売 — 形はさまざまですが、どれも「値札を貼る代わりに、参加者の競争そのものに価格を見つけさせる」という発想で動いています。

オークションが選ばれるのは、適正な値札を誰も知らない場面です。一点物の絵画、二度と売り出されない電波の周波数帯、次の瞬間には消える広告表示の1回分 — こうした財には参照できる相場がなく、価値は買い手ごとに大きく違います。オークションは、入札を通じて各自の評価額を引き出し、最も高く評価する人に財を割り当てながら価格も同時に決めます。価格メカニズムの凝縮版です。同時に、入札者は互いの出方を読み合って戦略を練るので、オークションはゲーム理論の格好の応用場面であり、「ルールの設計次第で結果がどう変わるか」を最も鮮やかに観察できる制度設計の実験場でもあります。

なぜ生まれたか

オークション自体は古代からあります(古代ローマでは戦利品が競売にかけられていました)。それが経済学の中心的な研究対象になった背景には、売り手が抱える根本的な情報の問題があります。売り手は、買い手たちが「本当はいくらまで払えるか」を知りません。この情報の非対称性のもとで値札を付けると、高すぎれば売れ残り、安すぎれば取り損ねます。1対1の交渉では、買い手が評価額を偽って安く買い叩こうとします。「買い手同士を競わせれば、彼らの持つ私的な情報が入札額ににじみ出る」— オークションはこの洞察によって、情報を持たない売り手でも適切な価格に届くための仕組みとして磨かれてきました。

理論の転機は1961年、ウィリアム・ヴィックリーが、オークションのルールが違えば入札者の戦略も変わることをゲーム理論で分析したことです。彼は「勝者が2番目に高い入札額を払う」という一見奇妙なルール(2位価格方式)では正直な入札が最善になることを示し、ルールの違う方式でも売り手の期待収入が等しくなりうることも見抜きました。ヴィックリーは1996年にノーベル経済学賞を受けています。実務の転機は1994年、米国の連邦通信委員会(FCC)が、ミルグロムやウィルソンらの設計した同時競り上げ方式で携帯電話用の周波数を売り、巨額の収入と効率的な割り当てを両立させたことです。以降、オークションの設計は「理論が現実の制度を直接つくる」経済学の看板分野となり、2020年にはミルグロムとウィルソンがノーベル経済学賞を受けました。

詳細

基本4方式 — 見せ方の軸と、支払いの軸

古典的なオークションは、2つの軸で4つの基本形に整理できます。1つ目は「入札を公開で競り合うか、封印して一斉に出すか」という見せ方の軸、2つ目は「勝者が払うのは自分の入札額か、2番目に高い入札額か」という支払いの軸です。

公開型 — 競りの過程が見える封印型 — 一斉に1回だけ勝者が払う額自分の入札額勝者が払う額2番目の額ダッチ方式(競り下げ)高値から価格を下げていき最初に手を挙げた人が落札例:オランダの花市場いつ手を挙げるかの読み合い1位価格封印最高額の入札者が落札し自分の入札額を払う例:多くの調達・広告の入札価値より下げて入札する読み合いイングリッシュ方式(競り上げ)価格を上げていき最後まで残った人が落札例:美術品・ネットオークション自分の価値まで粘るのが最善2位価格封印(ヴィックリー)最高額の入札者が落札し2番目に高い入札額を払う例:理論の基準、広告入札の原型正直な入札が支配戦略戦略的に同じ私的価値なら同じ見せ方(横)を変えても戦略は同じ。入札の仕方を変えるのは支払いのルール(縦)
オークションの基本4方式。横の矢印は戦略的に同じ方式の組。入札の戦略を分けているのは、縦の軸=支払いのルールのほう

競り下げのダッチ方式は、実は1位価格封印と戦略的に同じです。価格が下がってくるのを見ながら「いくらで手を挙げるか」を決めることは、その額を封筒に書いて出すことと変わりません。途中で得られる情報は「まだ誰も挙げていない」だけだからです。競り上げのイングリッシュ方式は、各自の価値が自分だけで決まる私的価値の場合、2位価格封印と同じ結果になります。最後から2番目の人が降りた価格、つまり2番目に高い評価額で決着するからです。見せ方の軸は(私的価値のもとでは)戦略を変えません。変えるのは支払いの軸です。

2位価格の魔法 — 正直が最善になる設計

2位価格方式では、勝者が払うのは2番目に高い入札額です。自分の入札額は「勝てるかどうか」だけを決め、「いくら払うか」には影響しません。価値より高く書けば、2番目の額が自分の価値を超える回まで勝ってしまい、損な勝ちを拾います。低く書けば、払う額は変わらないのに勝てたはずの回を落とすだけです。結局、正直な評価額をそのまま書くことが、他人の出方によらない最善手(支配戦略。どのナッシュ均衡よりも強い安定性を持つ戦略)になります。読み合いを設計で消し去り、全員から正直な情報を引き出す — 望ましい行動が各自の得になるようにルールを組むこの性質は「耐戦略性」と呼ばれ、インセンティブ設計の教科書的な達成例です。

一方、1位価格方式では、価値そのものを書くと勝っても利得がゼロです。誰もが少し下げて書こうとし、「どれだけ下げるか」はライバルの出方の読み合いになります(入札の割り引き、bid shading)。数字で追ってみます。あなたとライバル3人の価値が、それぞれ0〜100円のあいだで均等にばらついているとします。ライバルが価値の75%で入札しているとき、価値80円のあなたが価値の75%(60円)で入札すると、勝つのはライバル全員の価値が80円未満のとき、つまり確率 0.8³ ≈ 51% で、勝てば 80 − 60 = 20円 の得です。期待利得は約10円。入札を下げれば1回の取り分は増えますが、勝てる確率が3乗で減ります。釣り合うのは、4人の場合なら価値の 3/4 — 一般にライバル m 人なら m/(m+1) — で入札するときです。

では、どちらの方式が売り手にとって得でしょうか。驚いたことに、一定の標準的な条件(参加者が危険に中立、価値は独立の私的価値、同じ分布)のもとでは、どの方式でも売り手の期待収入は同じになり、入札者の平均利得も同じになります。これが収入同値定理です(ヴィックリー1961年、マイヤーソン1981年、ライリーとサミュエルソン1981年)。下の部品で確かめてください。入札線の端をつかんで傾きを変え、手を離すと80回の競りが流れ、その入札の仕方の平均利得が右の図に落ちます。2位価格と1位価格で山を描き比べると、頂上の位置は違うのに、高さはそろいます。

⚡ 体験: 入札線の傾きを動かして、利得の山を描く
正直入札=価値×1.002位価格で正直に入札したとき
入札 ÷ 価値100%80回中の勝ち18回この入札の平均利得—ライバル3人
支払いのルール

入札線の端(金の点)をつかんで上下に動かし、手を離してください。80回の競りが流れ、その入札の仕方の平均利得が右の図に粒として落ちます。何通りか試して、山の形を描いてみましょう。

左: 横軸=あなたの価値、縦軸=入札額。金の線=あなたの入札(価値×割合)、破線=正直な入札。点=直近80回の競り(金=勝ち、灰=負け)。右: 試した割合ごとの平均利得(多数回の平均)。ライバル3人の価値は0〜100円の一様分布

収入同値は条件が崩れると成り立ちません。入札者がリスクを嫌うなら、1位価格方式では負けるのを恐れて高めに入札するので、売り手の収入は1位価格のほうが高くなります。価値に共通の要素があれば、途中経過から他人の情報が読める競り上げのほうが収入が上がりやすくなります。実務の設計は、「どの前提が崩れているか」を見極めて方式を選ぶ仕事です。

勝者の呪いと共通価値

有名な落とし穴があります。油田の採掘権のように、「財の本当の価値は誰にとってもほぼ同じだが、誰も正確には知らない」共通価値の状況では、各社は自前の調査に基づいて入札します。このとき勝つのは、最も楽観的な — つまり本当の価値を最も過大に見積もった — 入札者になりがちです。「勝った」という事実自体が「自分の見積もりは全員の中で一番高かった」という悪い知らせを含んでいる。これが勝者の呪い(winner’s curse)で、1971年に石油会社アトランティック・リッチフィールドの技術者たちが、メキシコ湾の鉱区の入札で勝者が損をし続ける現象として報告しました。企業買収でも、勝者の高値づかみが繰り返し観察されています。洗練された入札者は呪いを見越して控えめに入札しますが、それは売り手の収入や割り当てに跳ね返ります。落札した瞬間が一番危ない、という感覚はネットオークションの個人にもそのまま当てはまります。

設計の実務 — 広告・談合・公共入札・複雑な財

オークションの理論が最も大量に動いている現場は、ネット広告です。検索連動広告では、長く「一般化2位価格方式(GSP)」が使われてきました。広告枠が複数あり、1位の広告主は2位の入札額を、2位は3位の入札額を払う、という仕組みです。名前は似ていますが、枠が複数あるとGSPでは正直な入札が最善になりません(エデルマン、オストロフスキー、シュワルツ、2007年)。広告主は入札を調整し続け、その読み合いを前提に制度が運営されています。ディスプレイ広告では、Googleが2019年にアド・マネージャーの入札を1位価格方式に切り替えました。取引が複数の仲介を経る仕組みでは、2位価格の「2番目の額」が不透明になりやすかったためです。

最大の敵は談合です。入札者同士が「今回はA社に譲り、次はB社」と回し合えば、競争は骨抜きになります。これは寡占企業の暗黙の協調と同じで、繰り返しの囚人のジレンマで協力が成り立つ仕組みが、社会にとっては悪い方向に働く例です。落札額の統計的な偏りから談合を検出する研究や、談合を難しくする方式の工夫(入札の途中経過を見せない、など)は重要な実務応用です。

日本の公共工事の入札は、買い手(発注者)が売り手(建設会社)を競わせる逆オークションで、最も低い価格を出した会社が落札します。発注者は、これ以上は払わないという上限の「予定価格」を定めます。安すぎて品質が保てない入札を防ぐために「最低制限価格」や「低入札価格調査基準」を置き、価格だけでなく技術提案も点数にする「総合評価落札方式」も広く使われています。価格だけで選ぶと手抜きのおそれがあり、品質も点数にすると評価の恣意性が問題になる — 設計のトレードオフがそのまま制度の形に出ています。

さらに、周波数帯のように「隣接する免許をまとめて取れてこそ価値が出る」財では、1つずつ売ると組み合わせの失敗が起きます。複数の品目を同時に競る同時競り上げ方式や、組み合わせに入札できる組み合わせオークションが開発されました。オークションは、参加者の戦略・情報・結託まで織り込んでルールを組む総合工学です。うまく設計すれば、最も高く評価する人に財が渡り、社会全体の余剰が大きくなる効率的な割り当てと、売り手の収入を両立できます。市場そのものを人の手で設計できることを示した、経済学の到達点の1つです。

試問

ライバルと封印入札で競う1位価格方式のオークションです。勝ったら自分の入札額を払います。ライバルの人数は、挑むたびに変わります。

✦ 命題挑戦中

1位価格方式のオークションで、2位価格方式に正直に入札したときとほぼ同じ(9割以上の)平均利得に届く、入札の割り引き方を見つけよ

  • 1位価格方式で、価値より低く入札している
  • 平均利得が、2位価格方式で正直に入札したとき(5.00円)の9割以上(いま 0.00円)
⚡ 体験: 1位価格方式で、入札をどこまで下げるか
正直入札=価値×1.002位価格で正直に入札したとき
入札 ÷ 価値100%80回中の勝ち31回この入札の平均利得—ライバル3人

1位価格方式です。ライバルは 3人。入札線の端(金の点)をつかんで上下に動かし、手を離して競りを回してください。平均利得が右の図に落ちます。

左: 横軸=あなたの価値、縦軸=入札額。金の線=あなたの入札(価値×割合)、破線=正直な入札。点=直近80回の競り(金=勝ち、灰=負け)。右: 試した割合ごとの平均利得(多数回の平均)。ライバル3人の価値は0〜100円の一様分布