マクロ経済●●○○○

関税

Tariff ・ かんぜい

輸入品にかける税。国内の生産者を守る代わりに、消費者が高い価格を払い、社会全体の余剰の一部が消える

✦ 30秒で試す — 航海外国に払わせるはずの関税。実は、払っているのは自国の客国全体で見た損が小さいのは?予想してみる

概要

関税は、外国から輸入される品物にかける税です。徴収するのは国境の税関で、税収は国庫に入りますが、現代の関税の主な目的は税収よりも「国内の生産者を外国との競争から守ること」にあります。日本では、たとえば輸入米に1キロあたり341円(枠外の税率)がかかります。牛肉は WTO で約束した税率が38.5%ですが、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的・先進的協定)と日米貿易協定の相手国からの牛肉は段階的に下がっていて、2026年度は21.6%、2033年度には9%になる予定です。同じ品物でも、どの国から来たかで税率が違うのが現代の関税の姿です。

仕組みは単純です。関税で輸入品が高くなれば、消費者の一部は買う量を減らしたり国産品に切り替えたりし、国内の生産者は高い価格で多く売れるようになります。つまり関税は、消費者から国内の生産者と政府へ所得を移す装置です。そして重要なのは、この移転の途中で社会全体の余剰の一部が誰の手にも渡らずに消える、という点です。

関税は最も古い貿易政策の道具であり、自由貿易か保護貿易かという論争の主戦場でもあります。2025年、米国は緊急事態の法律(国際緊急経済権限法、IEEPA)を根拠に、ほぼすべての国に「相互関税」を課しました。日本とは自動車を含めて15%で合意し、米国の平均の実効関税率は1930年代以来の水準に上がりました。2026年2月に米連邦最高裁が「IEEPA は関税を課す権限を与えていない」と判断すると、米国は通商法122条による一律10%(最長150日)、続いて7月からは通商法301条による関税に置き換えました。根拠となる法律を替えながら高い関税が続いている — 2026年9月時点で、関税は国際政治の第一線にあります。

なぜ生まれたか

関税の起源は保護政策ではなく、徴税の手軽さにあります。所得や国内の取引を把握する行政能力がなかった時代、港や関所を通る商品に課税するのは、少ない人手で確実に徴収できる数少ない方法でした。米国では19世紀を通じて連邦政府の収入の大半を関税が占めました。所得税や消費税の徴税の仕組みが整った現代の先進国では、税収源としての関税の地位はほぼ消えています。

役割の重心が「産業保護」へ移ったのは産業革命以降です。工業化で先行したイギリスに対し、後発の米国(1791年のハミルトンの『製造業に関する報告書』)やドイツ(1841年のリストの『経済学の国民的体系』)は、「自国の幼い産業が育つまで関税の壁で守るべきだ」という幼稚産業保護論を掲げました。一方、当のイギリスは1846年に穀物法を廃止して自由貿易へ舵を切ります。穀物の輸入関税は地主を守る代わりにパンを高くし、工場労働者と産業資本家の不満を集めていました。関税が「誰から誰へ所得を移すか」をめぐる政治の争点になったのは、このときからです。

保護の論理は暴走もします。1930年、大恐慌が始まった米国は、スムート・ホーリー関税法で約2万品目の関税を引き上げ、各国が報復関税で応じました。世界の貿易額は1929年から1933年にかけておよそ3分の1にまで縮みましたが、その大半は恐慌による所得の落ち込みと物価の下落によるもので、関税法そのものの寄与は一部だったとする研究が主流です。それでも、報復の連鎖が貿易と各国の関係を傷つけたという教訓は大きく、戦後の GATT と世界貿易機関による関税引き下げの国際協調を生みました。

詳細

関税の効果を需給で追う

関税の効果は、需要と供給の図に世界価格の線を引くと正確に見えます。世界価格に影響を与えない小さな国が、世界価格でいくらでも輸入できるとしましょう。自由貿易のもとでは国内価格は世界価格まで下がり、国内で欲しい量と国内で作られる量の差を輸入で埋めます。ここに関税をかけると、国内価格は「世界価格+関税」まで上がります。価格が上がった分だけ国内の生産者は生産を増やし、消費者は買う量を減らすので、輸入は両側から縮みます。

数字で追ってみましょう。世界価格が1キロ300円で、国内では140万トンが消費され、そのうち40万トンが国産、100万トンが輸入だとします。ここに1キロ150円の関税をかけると、国内価格は450円に上がり、消費は110万トンに減り、国産は70万トンに増え、輸入は40万トンに縮みます。帳簿をつけると、消費者が失う余剰は1,875億円です。そのうち825億円は国内の生産者の利益に、600億円(150円×40万トン)は関税収入として政府に移ります。残る450億円は、どこにも移らずに消えます。

価格数量国内の需要国内の供給世界価格世界価格+関税関税前の輸入量関税後の輸入量 — 両側から縮む関税収入死荷重死荷重
関税の余剰分析 — 消費者の損失は、生産者の利益と関税収入を足しても埋まらず、2つの三角形(死荷重)が残る

図の2つの三角形がその450億円です。左の三角形は、世界から300円で買えるものを、国内でそれ以上のコストをかけて作った無駄です。右の三角形は、300円なら買いたかったのに450円では諦めた消費者の、失われた満足です。これが死荷重で、関税が「保護のコストを社会全体に払わせる政策」である理由です。三角形の大きさは需要と供給の価格弾力性(価格に対する反応の敏感さ)で決まり、底辺も高さも関税額に比例して伸びるので、関税を2倍にすると死荷重はおよそ4倍に膨らみます。

同じ保護を、もっと安く

関税の目的が「国内の生産を70万トン守ること」なら、ほかの手段と比べることができます。生産者に1キロ150円の生産補助金を直接払えば、生産者の受取価格は同じ450円になり、国産は同じ70万トンに増えます。ところが消費者は世界価格の300円のまま買えるので、右の三角形(諦めた消費)は生まれません。消えるのは左の三角形だけです。代わりに補助金の財源1,050億円(150円×70万トン)を税で集める必要があり、その税にも歪みがありますが、「保護したいのが生産なら、生産に直接届く手段のほうが無駄が少ない」という原則は、国際経済学の標準的な結論です。部品で確かめてください。

⚡ 体験: 関税の線を引き上げて、余剰の行き先を見る
国内の需要国内の供給世界価格 300円輸入 100万トン世界価格+関税 300円
保護の手段
国内生産40万トン輸入100万トン関税収入0億円社会全体の損失0億円

いまは自由貿易です。国内価格は世界価格と同じで、足りない分は輸入しています。「世界価格+関税」の線をつかんで上へ引いてみてください。

緑青の線=国内の需要、金の線=国内の供給、点線=世界価格。緑青の塗り=消費者余剰、金の塗り=生産者余剰、紫=関税収入(補助金なら政府の支出)、朱=誰の手にも渡らず消えた余剰

誰が関税を払うのか

「外国に関税をかければ外国が払う」と語られがちですが、関税を税関で納めるのは輸入業者であり、その負担は多くの場合、価格に転嫁されて国内の消費者と企業に及びます。米国の2018〜2019年の対中関税については、上乗せ分のほぼ全額が米国側の輸入価格に転嫁されたとする実証研究が複数あります(Amiti・Redding・Weinstein、2019年など)。

例外は、世界価格を動かせる大きな国です。大国が関税で輸入を減らすと、世界の需要が減って世界価格が下がり、負担の一部を外国の輸出者に負わせられます(交易条件効果)。これを使うと、理論上は自国の余剰を最大にする正の関税(最適関税)が存在します。ただしそれは相手国の損失と引き換えの利益で、相手が報復すれば両国とも損をします。互いに相手の報復を恐れて関税を下げられない状況は、ゲーム理論の囚人のジレンマと同じ形で、これを多国間の約束で解こうとしたのが世界貿易機関(WTO)です。

実効保護率 — 部品の関税は最終財の保護を削る

現代のサプライチェーンでは、関税が守りたい産業をかえって傷つけることがあります。価格100の完成品を、輸入部品60と国内の付加価値40で作っている産業を考えます。完成品に10%の関税がかかると国内価格は110になり、付加価値は40から50へ25%増えます。完成品への10%の関税が、この産業の付加価値を25%守っているわけです(実効保護率25%)。ところが部品にも20%の関税がかかると、部品代が72に上がって付加価値は38に減り、保護はマイナスに転じます。関税の表面の税率だけでは、誰が本当に守られているかは分かりません。輸入部品に頼る国内メーカーが関税に反対することがあるのは、このためです。

関税の種類と、関税以外の壁

課税の方式には、価格の一定割合をかける従価税(例: 10%)と、数量あたり定額の従量税(例: 1キロ341円)があります。従量税は輸入価格が下がるほど実質の税率が上がるため、安い輸入品への防壁として強く働きます。貿易を妨げるのは関税だけではありません。輸入数量の上限(輸入割当)、過度に厳しい安全・検疫基準、国産品を優遇する政府調達といった非関税障壁は、関税収入すら生まない分、経済学的には関税より劣る保護手段とされます。ダンピング(不当廉売)への対抗としてのアンチダンピング税や、輸入の急増に対する一時的なセーフガードなど、WTO のルール上で例外的に認められた発動の型もあります。

関税の是非を考えるときの実践的な問いは、「守られる雇用1人あたり、社会はいくら払っているか」と「同じ目的を関税より安く達成する手段はないか」です。前者は多くの実証研究で、その産業の平均年収を大きく上回る額になると報告されています。それでも関税が選ばれ続けるのは、負担が全消費者に薄く広がって見えにくい一方、利益は特定の産業に集中して政治的な声になりやすいからです。関税は、比較優位に沿った特化の利益を諦める代わりに、特定の産業と地域を守る選択だといえます。

試問

1キロ150円の関税で、国内の生産者を守っている市場です。

✦ 命題挑戦中

関税で実現したのと同じ国内生産量を、関税より小さい社会全体の損失で実現せよ

  • 関税ではなく生産補助金を使う
  • 国内生産が関税のときと同じ(70万トン)
  • 社会全体の損失(朱)が関税のときより小さい
⚡ 体験: 同じ国内生産を、小さい損失で守る
国内の需要国内の供給世界価格 300円輸入 40万トン関税のときの国内生産世界価格+関税 450円
保護の手段
国内生産70万トン輸入40万トン関税収入600億円社会全体の損失450億円

関税150円で、国内生産は70万トンまで守られています(点線)。「生産補助金」に切り替え、生産者の受取価格の線を動かしてみてください。

緑青の線=国内の需要、金の線=国内の供給、点線=世界価格。緑青の塗り=消費者余剰、金の塗り=生産者余剰、紫=関税収入(補助金なら政府の支出)、朱=誰の手にも渡らず消えた余剰