マクロ経済●●○○○

関税

Tariffかんぜい

輸入品にかける税。国内産業を守る代わりに消費者が高い価格を払う

概要

関税は、外国から輸入される品物にかけるです。輸入牛肉に38.5%、輸入米に1キロ341円といった形で課され、その分だけ輸入品の国内価格は高くなります。徴収するのは国境の税関で、税収は国庫に入りますが、現代の関税の主な目的は税収よりも「国内の生産者を外国との競争から守ること」にあります。

仕組みは単純です。関税で輸入品が高くなれば、消費者の一部は国産品に切り替え、国内の生産者は競争圧力が和らいだ分だけ高い価格で多く売れるようになります。つまり関税は、消費者から国内生産者と政府へ所得を移転する装置です。そして重要なのは、この移転の過程で社会全体の経済的余剰の一部が誰の手にも渡らず消えてしまう、という点です。

関税は最も古くからある貿易政策の道具であり、自由貿易か保護貿易かという論争の主戦場でもあります。2018年以降の米中貿易摩擦や2025年の米国の広範な関税引き上げのように、関税は21世紀の今も国際政治の第一線に登場し続けています。

なぜ生まれたか

関税の起源は保護政策ではなく徴税の手軽さにあります。所得や国内取引を把握する行政能力がなかった時代、港や関所を通る商品に課税するのは、少ない人手で確実に徴収できる数少ない方法でした。米国では19世紀を通じて連邦政府収入の大半を関税が占め、日本でも江戸時代の関所や明治期の税関が同じ役割を果たしました。所得税や消費税の徴税インフラが整った現代の先進国では、税収源としての関税の地位はほぼ消滅しています。

役割の重心が「産業保護」へ移ったのは産業革命以降です。工業化で先行したイギリスに対し、後発のドイツや米国は「自国の幼い産業が育つまで、関税の壁で外国製品から守るべきだ」という幼稚産業保護論を掲げました。しかし保護の論理は暴走もします。1930年、大恐慌下の米国が成立させたスムート・ホーリー関税法は2万品目超の関税を大幅に引き上げ、各国の報復関税の連鎖を招いて世界貿易を数年で3分の1程度にまで縮小させました。この失敗の反省が、戦後のGATT・世界貿易機関による関税引き下げの国際協調体制を生むことになります。

詳細

関税の効果を需給で追う

関税の効果は、需要と供給のグラフに世界価格の線を引くと正確に見えます。小さな国が世界価格でいくらでも輸入できるとしましょう。自由貿易のもとでは国内価格は世界価格まで下がり、国内の需要量と国内の供給量の差が輸入で埋められます。ここに関税をかけると、国内価格は「世界価格+関税」まで上がります。価格が上がった分だけ国内生産者は生産を増やし、消費者は購入を減らし、輸入は両側から圧縮されます。

価格数量国内需要国内供給世界価格世界価格+関税関税前の輸入量関税後の輸入量 — 両側から縮む関税収入死荷重死荷重
関税の余剰分析 — 消費者の損失は、生産者の利益と関税収入を足しても埋まらず、死荷重が残る

余剰の帳簿をつけてみましょう。価格上昇で消費者余剰は大きく減ります。その一部は生産者余剰の増加として国内生産者へ、一部は関税収入として政府へ移りますが、図の2つの三角形 — 割高な国内生産にコストを浪費した分(左)と、価格上昇で消費を諦めた取引の価値(右)— は誰の手にも渡りません。これが死荷重(デッドウェイトロス)で、関税が「保護のコストを社会全体に払わせる政策」である理由です。損失の大きさは需要・供給の弾力性、つまり価格変化への反応の敏感さに依存し、税率を2倍にすると死荷重はおおよそ4倍に膨らみます。

誰が関税を払うのか

「外国に関税をかければ外国が払う」と語られがちですが、関税を税関で納めるのは輸入業者であり、その負担は多くの場合、価格に転嫁されて国内の消費者と企業に及びます。米国の2018〜2019年の対中関税については、上乗せ分のほぼ全額が米国側の輸入価格に転嫁されたとする実証研究が複数あります。さらに現代のサプライチェーンでは、輸入部品に頼る国内メーカー自身が関税でコスト増を被るため、「国内産業の保護」のつもりが下流の産業の競争力を削ぐ、という自己矛盾も頻繁に起きます。

関税の種類と、関税以外の壁

課税方式には、価格の一定割合をかける従価税(例: 10%)と、数量あたり定額の従量税(例: 1キロ341円)があります。従量税は輸入価格が下がるほど実質の税率が上がるため、安価な輸入品への防壁として強く働きます。また、貿易を妨げるのは関税だけではありません。輸入数量の上限(輸入割当)、過度に厳しい安全・検疫基準、国産品優遇の政府調達といった非関税障壁は、関税収入すら生まない分、経済学的には関税より劣る保護手段とされます。ダンピング(不当廉売)への対抗としてのアンチダンピング税や、他国の不公正慣行への報復関税など、世界貿易機関のルール上で例外的に認められた発動類型もあります。

実務・生活での視点 — 保護の値段を測る

関税の是非を考えるときの実践的な問いは「保護される雇用1人あたり、社会はいくら払っているか」です。各国の実証研究では、関税による消費者負担を守られた雇用数で割ると、その産業の平均年収を大きく上回る金額になる例が繰り返し報告されています。それでも関税が選ばれ続けるのは、負担が全消費者に薄く広がって見えにくい一方、利益は特定の産業に集中して政治的な声になりやすいからです。安全保障や食料自給のように価格だけで測れない目的もありますが、その場合でも「同じ目的を関税より安く達成する手段はないか」— たとえば直接の補助金 — を比較するのが、機会費用の発想に立った政策の見方です。