金融●●●○○

信用創造

Credit Creationしんようそうぞう

銀行が貸出のたびに預金というお金を生み出す仕組み。マネーの大半はこれ

概要

信用創造は、銀行が貸出を行うたびに、預金という新しいお金が世の中に生まれる仕組みです。直感に反しますが、銀行は「誰かが預けたお金をそのまま右から左へ貸している」のではありません。銀行があなたに1,000万円を貸すとき、金庫から札束を取り出すのではなく、あなたの口座に1,000万円と記帳します。この瞬間、あなたの預金 — 振込にも支払いにも使える、まぎれもない貨幣 — が新規に誕生しています。貸出が先、預金はその結果として生まれる。これが信用創造の核心です。

この仕組みの帰結として、世の中に流通するお金(マネーストック)の大半は、紙幣や硬貨ではなく銀行預金です。日本では現金はマネーストックの1割程度に過ぎず、残りは銀行の帳簿の上の数字として存在しています。つまり現代のお金の量は、造幣局の印刷機ではなく、銀行の貸出がどれだけ活発かによって伸び縮みするのです。景気やインフレーションを理解するうえで、この事実は決定的に重要です。

なぜ生まれたか

信用創造は誰かが設計した制度というより、銀行業の実践から自然に生まれ、後から理論として発見された仕組みです。原型は近世ヨーロッパの金細工職人(ゴールドスミス)にさかのぼります。彼らは顧客から金貨を預かり、預かり証を発行していました。やがて人々は、金貨そのものではなく預かり証で支払いを済ませるようになります。ここで職人たちはあることに気づきました。全員が同時に金貨を引き取りに来ることはないのだから、金庫の金貨を上回る枚数の預かり証を発行して貸し出しても、日々の営業は回る — こうして「保有する正貨より多くの通貨を流通させる」部分準備銀行制度が始まりました。

経済学がこの仕組みを重視するのは、お金の量の謎を解く鍵だからです。物価や景気はお金の量と深く関わるのに、現金の発行量だけを見ていてもマネーの動きは説明できません。銀行部門全体が貸出を通じて預金を膨らませたり縮ませたりしている — この視点を得てはじめて、好況期にマネーが自己増殖的に膨らみ、金融危機で貸出が止まるとマネーが収縮して不況が深まる、という現代経済のダイナミクスが理解できるようになりました。

詳細

貸出が預金を生む瞬間

具体的な帳簿の動きで追ってみます。A銀行が建設会社に1,000万円を融資すると、A銀行の帳簿では資産側に「貸出金1,000万円」、負債側に「建設会社の預金1,000万円」が同時に記帳されます。どこからもお金を持ってきていません。複式簿記の両側に同時に書き込むこと、それ自体が貨幣の創造です。逆に、建設会社が返済すれば貸出金と預金が同時に消え、貨幣は消滅します。マネーストックとは、こうした銀行部門全体の貸出と返済の絶えざる差し引きの残高なのです。

B銀行資材会社A銀行建設会社B銀行資材会社A銀行建設会社この記帳の瞬間に新しい預金マネーが誕生預金は銀行間を移動しても消えない返済されると預金マネーは消滅する1000万円の融資を申し込む口座に1000万円を記帳する預金から資材代金を振り込む受け取った代金がB銀行の預金になる増えた預金を背景にさらに貸出が可能後日、融資を返済する

教科書の乗数モデルと現実

伝統的な教科書は、信用創造を「又貸しの連鎖」として説明します。銀行は預金の一定割合(準備率)を手元に残し、残りを貸し出す。貸されたお金は誰かの支払いを経て別の銀行の預金になり、その銀行がまた一部を貸す…という連鎖を繰り返すと、最初の預金の何倍ものマネーが生まれる。準備率が10%なら最大10倍、という「貨幣乗数」の説明です。連鎖の全体像をつかむには有用なモデルですが、現実の銀行の行動とは順序が逆であることに注意が必要です。実際の銀行は、手元の預金残高を確認してから貸すのではなく、まず信用力のある借り手に貸して預金を創造し、決済に必要な準備預金は後から銀行間市場や中央銀行から調達します。イングランド銀行が2014年の解説論文で明示的に確認したように、「貸出が預金をつくる」のが実態です。

準備率を動かしながら又貸しの連鎖を1段ずつ進めると、預金=マネーが積み上がって理論上限(初期預金÷準備率)に漸近していく乗数モデルの構造を、下の部品で確かめられます。

⚡ 体験: 貸出の連鎖がマネーを生む
準備(手元に残す)貸出 → 次の銀行の預金に棒全体=その銀行に生まれた預金1銀行累計マネーサプライ上限 1,000万円(10倍)100万円
準備率(預金のうち手元に残す割合)10%
銀行の数 1累計 100万円上限 1,000万円 = 100万円 ÷ 10%到達率 10%

最初の預金は100万円だけ。「次の銀行へ」を押すと、準備10万円を残した90万円が貸し出され、次の銀行の新しい預金になります。

無限には増えない — 3つのブレーキ

では銀行は無から無限にお金を生めるのかというと、そうではありません。第一のブレーキは借り手の需要です。返済できる見込みのある借り手が「その金利でなら借りたい」と思わなければ、貸出は伸びません。中央銀行が金融政策で政策金利を動かすのは、まさにこの借り入れの採算ラインを動かして、信用創造のペースを調節するためです。第二は銀行自身の健全性規制です。貸出には貸し倒れのリスクが伴うため、自己資本比率規制(バーゼル規制)が、銀行の損失吸収力に応じて貸出の総量を制約します。過大な借り入れで資産を膨らませるレバレッジへの歯止めです。第三は収益性で、貸し倒れ損失が利ざやを上回るような貸出は、そもそも銀行が実行しません。信用創造は「無制限の錬金術」ではなく、需要・規制・採算の3つの制約の中で行われる貨幣の生成なのです。

実務・生活での視点 — 膨張と収縮の非対称

信用創造のレンズを持つと、経済ニュースの見え方が変わります。好況期には、資産価格の上昇が担保価値を高め、貸出をさらに増やし、そのマネーが資産価格をまた押し上げる — 信用の自己増殖がバブルを膨らませます。逆に危機が起きると、銀行は貸出を絞り、返済だけが進んでマネーが収縮し、デフレーション圧力がかかります。2008年以降の各国で、中央銀行が大量に資金を供給してもインフレーションがなかなか起きなかったのは、マネーの大半を生むのは中央銀行ではなく銀行貸出であり、その貸出が伸びなかったからです。また、預金の裏付けが「金庫の現金」ではなく「銀行の貸出資産」であるというこの構造は、皆が一斉に現金化を求めれば応じられないという弱点と表裏一体であり、取り付け騒ぎが起こりうる根本原因でもあります。お金とは何かという問いの現代的な答え — それは銀行システムが日々生成と消滅を繰り返す信用の記録である、というのが信用創造の教えです。