財務諸表●●●●○

包括利益

Comprehensive Incomeほうかつりえき

当期純利益に有価証券の評価差額など資本取引以外の純資産変動を加えた利益

概要

包括利益は、ある期間における純資産の変動のうち、株主との直接のやり取り(増資や配当などの資本取引)を除いたすべてを利益として捉える考え方です。式で書けば「包括利益 = 当期純利益 + その他の包括利益(OCI: Other Comprehensive Income)」となります。当期純利益が「損益計算書を通った儲け」だとすると、包括利益はそこに「損益計算書を通らずに純資産を増減させた項目」まで足し込んだ、より広い利益の概念です。

代表的なOCIの項目は、長期保有目的の有価証券の時価評価差額(その他有価証券評価差額金)です。売る予定のない株式の値上がりを当期純利益に含めると、実現していない儲けで業績が大きく振れてしまいます。かといって時価の変動を財務諸表にまったく反映しないと、会社が抱えるリスクが見えません。そこで「時価評価は貸借対照表に反映するが、損益計算書は通さず純資産に直接入れる」という折衷が採られ、その受け皿として整理されたのがOCIであり、当期純利益とOCIの合計が包括利益です。

上場企業の連結決算では、当期純利益に続けてOCIの内訳と包括利益を示す「包括利益計算書」の開示が求められています。投資家は当期純利益で経営の成果を、包括利益で為替や市場価格の変動まで含めた純資産の増減の全体像を、それぞれ読み取ることができます。

なぜ生まれたか

伝統的な会計では、利益は「実現した収益 − 発生した費用」として損益計算書で計算され、その結果だけが純資産に積み上がるという整理(収益費用アプローチ)が支配的でした。ところが金融の高度化とともに、企業は持ち合い株式、デリバティブ、海外子会社への投資など、時価や為替レートの変動で価値が動く資産・負債を大量に抱えるようになります。取得原価のままでは貸借対照表が実態を映さない。しかし未実現の評価差額をすべて当期純利益に流し込めば、本業と無関係な市場変動で業績が乱高下してしまう。この板挟みが問題でした。

解決策として各国の会計基準は、「貸借対照表は時価で実態を映す、ただし未実現の変動は当期純利益とは別枠で示す」という道を選びました。純資産の変動全体をまず利益と捉え(資産負債アプローチ)、そのうち実現・確定した部分を当期純利益、それ以外をOCIとして区分する — この二層構造によって、貸借対照表の実態表示と損益計算書の業績表示を両立させたのです。日本でも国際的な会計基準との比較可能性を保つ流れの中で、連結財務諸表への包括利益の表示が導入されました。

詳細

純資産の変動を三つに仕分ける

包括利益を理解する近道は、純資産の期首から期末への変動を三つに仕分けてみることです。第一に、増資や配当といった株主との資本取引。これは株主とのお金の出し入れであって儲けではないので、利益からは除きます。第二に、事業活動の成果として損益計算書で計算された当期純利益。第三に、損益計算書を通らずに純資産を直接増減させた評価差額などの項目、すなわちOCIです。第二と第三の合計が包括利益であり、「資本取引以外の純資産の変動はすべて利益」という定義そのものになっています。

期首の純資産期末の純資産資本取引増資・配当など株主との出し入れ当期純利益損益計算書を通った儲けその他の包括利益 OCI評価差額など損益計算書を通らない変動包括利益 = 当期純利益 + OCI資本取引を除く純資産の変動のすべて
純資産の変動の分解 — 資本取引を除いた変動がすべて包括利益になる

その他の包括利益の中身

日本基準の連結財務諸表でOCIに区分される代表的な項目は次のとおりです。長期保有する有価証券の時価評価差額である「その他有価証券評価差額金」、海外子会社の財務諸表を円に換算するときに生じる「為替換算調整勘定」、リスクヘッジ目的のデリバティブに関する「繰延ヘッジ損益」、退職給付の計算差異に関する「退職給付に係る調整額」などです。共通するのは、市場価格・為替・長期の見積りといった、経営者が短期的にコントロールできない外部要因による変動だという点です。だからこそ「業績」である当期純利益とは区分して示す意味があります。

リサイクリング — OCIから当期純利益への振り替え

OCIに入れた評価差額は、そのまま消えるわけではありません。たとえば評価差額金を計上していた株式を実際に売却すると、その時点で儲けが「実現」します。このとき、過去にOCIとして計上していた差額を純資産から取り崩し、あらためて当期純利益に計上し直します。この振り替えを「リサイクリング(組替調整)」と呼びます。リサイクリングがあることで、長い目で見れば「当期純利益の累計 = 包括利益の累計」となり、当期純利益は実現のタイミングを厳格に守る指標、包括利益は変動を即時に映す指標、という役割分担が保たれます。なお国際的な基準では一部の項目をリサイクリングしない扱いもあり、当期純利益と包括利益の関係をどう設計するかは現在も基準間で考え方が分かれている論点です。

表示の場所と他の書類とのつながり

包括利益の表示には、損益計算書の末尾に続けて一本の計算書で示す方式(1計算書方式)と、損益計算書とは別に包括利益計算書を作る方式(2計算書方式)があります。いずれの場合も、OCIの累計額は貸借対照表の純資産の部に「その他の包括利益累計額」として表示され、その期中の増減は株主資本等変動計算書にも現れます。つまり包括利益は、損益計算書・貸借対照表・変動計算書の三つを純資産の変動という一本の筋でつなぎ直す概念だといえます。

読むときの視点

実務での使い分けはシンプルです。経営の巧拙を評価するなら当期純利益、会社が抱える市場リスクの大きさを知るならOCIの内訳、株主に帰属する価値の増減の全体像を見るなら包括利益を見ます。たとえば当期純利益が安定していても、OCIが毎期大きく振れている会社は、株式持ち合いや為替への露出が大きいと読めます。包括利益は当期純利益に代わる指標ではなく、当期純利益だけでは見えないリスクの次元をもう一枚重ねて見せる指標だ、と理解するのが実態に合っています。