有価証券
Marketable Securities ・ ゆうかしょうけん
株式や債券など財産的価値を持つ証券。保有目的によって会計上の分類と評価が変わる
概要
有価証券とは、株式や国債・社債といった「それ自体が財産的価値を持つ証券」のことです。会社は余った資金の運用先として株式や債券を買ったり、取引先との関係を深めるために相手の株式を持ち合ったり、他社を支配するために株式を大量に取得したりします。同じ「株式を持っている」という事実でも、その目的はまったく違うわけです。
会計の世界で有価証券が面白いのは、この「何のために持っているか」という保有目的によって、貸借対照表での分類も、決算での評価方法も変わるという点です。すぐ売るつもりの株式は今日の時価で測り、満期まで持つつもりの債券は取得した値段を基礎に測ります。モノとしては同じ証券なのに、目的が変わると会計上の姿が変わる — 有価証券は「会計は事実だけでなく意図も映す」ことを最もよく示す資産だといえます。
日常の簿記では、購入したときに手数料などの付随費用を含めた金額で資産計上し、売却したときに売却価額との差額を売却損益として記録します。そして決算では、保有目的ごとのルールに従って帳簿価額を評価し直します。この「購入・売却・期末評価」の三場面が有価証券の会計処理の基本形です。
なぜ生まれたか
かつての会計は、資産を「買った値段(取得原価)」で据え置くのが原則でした。土地や機械のように事業で使い続ける資産なら、それで大きな問題はありません。しかし金融市場が発達し、企業が大量の株式や債券を抱えるようになると、この原則が実態を隠すようになります。買値1億円の株式が市場では3千万円まで値下がりしていても、帳簿には1億円のまま載り続ける。逆に含み益のある株式を決算の直前だけ売って利益を作る「益出し」も自在にできてしまう。帳簿と市場価格の乖離が、決算書の信頼性を蝕んでいたのです。
そこで生まれたのが「市場で値段のつく金融資産は時価で評価する」という考え方です。ただし、すべてを一律に時価評価して損益に流すと、今度は売るつもりのない持ち合い株式の値動きまで毎期の利益を揺さぶってしまいます。この二つの要請 — 実態を映したい、しかし保有の実態に合わない損益は出したくない — を折り合わせた答えが、「保有目的で分類し、目的ごとに評価と差額の行き先を変える」という現在の枠組みです。
詳細
保有目的による四つの分類
有価証券は保有目的によって大きく四つに分類されます。第一に、短期的な値上がり益を狙って売買を繰り返す売買目的有価証券。第二に、満期まで保有して利息と元本を受け取るつもりの満期保有目的債券。第三に、他社を支配・影響下に置くために持つ子会社株式・関連会社株式。そして第四に、どれにも当てはまらないものを受け止めるその他有価証券で、取引先との持ち合い株式などが典型です。
分類が決まると、期末の評価方法と、評価差額の行き先が決まります。骨格は「売るつもりなら時価、売る場面を予定しないなら原価ベース」です。
この表を貫く理屈はシンプルです。売買目的なら時価の変動そのものが事業の成果なので、評価差額を損益計算書の損益に含めます。満期保有目的の債券や子会社株式は、途中の値動きが事業の成果と関係ないため評価替えをしません。その他有価証券はその中間で、「実態は時価で見せたいが、売る予定のない値動きで利益を揺らしたくない」ため、評価差額を損益に通さず純資産の部に直接計上します(全部純資産直入法と呼ばれる考え方です)。
購入と売却の処理
購入時の取得原価には、証券会社に払う売買手数料などの付随費用を含めます。「その資産を使える状態にするまでの支出は取得原価に含める」という、資産一般に共通するルールです。たとえば株式を100万円で買い、手数料が1万円なら、仕訳は借方・有価証券101万円、貸方・現金101万円となります。
売却時は、売却価額と帳簿価額の差額を「有価証券売却益(または売却損)」として計上します。同じ銘柄を何度かに分けて買っている場合は、帳簿価額を平均単価などで計算する必要があります。また債券を利払日の途中で売買したときは、前回の利払日から売買日までの利息(端数利息)を売り手と買い手の間で精算する、という実務上の論点もあります。
貸借対照表での表示
貸借対照表では、保有目的が表示区分にも反映されます。売買目的有価証券や1年以内に満期の来る債券は流動資産に「有価証券」として、満期まで1年超の債券・子会社株式・その他有価証券は固定資産に「投資有価証券」などとして表示されます。同じ証券でも、短期の資金運用なのか長期の投資なのかで置き場所が変わるわけです。
実務での落とし穴
有価証券の会計で誤解しやすいのは、「時価評価すればすべて利益に響く」と思ってしまうことです。実際にはその他有価証券の評価差額は純資産に直入されるため、株価が上がっても利益は増えません。逆にいえば、この仕組みがあるからこそ、決算直前に含み益のある株式だけを売却して利益を「作る」誘惑が残る、という指摘もあります。また、時価が著しく下落して回復の見込みがない場合は、取得原価で据え置く分類であっても評価を切り下げる(減損する)必要があり、「原価評価だから絶対に損は出ない」わけではない点にも注意が必要です。
有価証券は、保有目的という「経営者の意図」が会計処理を決める珍しい領域です。だからこそ分類の変更には厳しい制約があり、「都合が悪くなったので満期保有目的をやめる」といった恣意的な付け替えは原則として認められません。ルールの細部よりも、「実態を映すことと、意図しない損益の揺れを防ぐことのバランス」という設計思想を押さえておくと、応用が利きます。
