制度・監査●●●○○

会計基準

Accounting Standardsかいけいきじゅん

財務諸表の作成が従うべき共通ルール。比較可能性と信頼性の土台

概要

会計基準は、企業が損益計算書貸借対照表などの財務諸表を作成するときに従うべき共通ルールの体系です。「売上をいつ計上するか」「資産をいくらで評価するか」「何をどこまで開示するか」といった判断の一つひとつに基準が用意されており、企業はこのルールブックに沿って決算書を組み立てます。英語圏では GAAP(Generally Accepted Accounting Principles、一般に公正妥当と認められた会計原則)と呼ばれます。

重要なのは、会計基準が「正しい計算方法を一つに定める自然法則」ではなく、「関係者の合意によって作られた約束事」だという点です。利益という数字は物理量のように測れば一意に決まるものではなく、収益の認識タイミングや費用の配分方法など、複数のもっともらしい選択肢の中から「みんなでこう測ることにしよう」と決めた結果として算出されます。会計基準はその「測り方の合意」を文書化したものです。

だからこそ会計基準は、財務諸表の比較可能性と信頼性の土台になります。すべての企業が同じ物差しで測っているからこそ、投資家は A 社と B 社の利益を並べて比べられ、去年と今年の業績を連続して評価できるのです。

なぜ生まれたか

会計基準が制度として整備される決定的な契機になったのは、1929年の米国株式大暴落とそれに続く大恐慌です。当時の企業の決算書は、作成ルールが各社の自由に委ねられていました。同じ「利益」という言葉でも中身の計算方法は会社ごとにバラバラで、都合よく資産を過大評価したり利益を膨らませたりする余地が大きく、投資家は決算書を信じて資金を投じ、実態との乖離が露呈して株価が崩壊するという事態を招きました。決算書が信用できなければ、証券市場そのものが機能しません。

この反省から、米国では証券取引委員会(SEC)の設立とともに「一般に認められた会計原則」を明文化する動きが始まり、会計ルールは「各社の慣行」から「市場参加者全員が従う公的な基準」へと性格を変えました。日本でも戦後の証券市場再建にあわせて1949年に「企業会計原則」が設定され、以後、経済の複雑化に対応して個別の基準が積み重ねられてきました。つまり会計基準は、決算書の読み手(投資家・債権者)を作り手(経営者)の恣意から守り、市場の信頼を支えるために生まれた社会的なインフラです。

詳細

基準がないと何が起こるか

会計基準の役割は、具体的な論点を見ると分かりやすくなります。たとえば3年分のサービスを一括前払いで受注した場合、売上を初年度に全額計上するか3年に分けて計上するかで、各年度の利益はまったく変わります。機械の取得原価を何年で費用化するか、在庫の評価に含み損を反映するか — こうした論点のそれぞれに裁量の余地があり、基準がなければ経営者は自社に都合のよい方法を選べてしまいます。収益認識減価償却引当金といった個別ルールは、いずれも「裁量の余地をどう枠にはめるか」という問いへの答えとして基準化されたものです。

基準がない世界A社「うちの測り方」で利益 100売上は契約時に全額計上B社「うちの測り方」で利益 60売上は提供期間に分けて計上数字を並べても比較できない恣意的な選択・粉飾の温床に基準がある世界A社・B社の取引同じ経済活動が同じ入口へ会計基準 = 共通の物差し認識・測定・表示・開示のルール比較可能な財務諸表他社比較・期間比較・信頼の土台利益は「自然に決まる数字」ではなく「合意された測り方の結果」
会計基準の役割 — 同じ経済活動を共通の物差しで測ることで比較可能になる

基準の中身 — 認識・測定・表示・開示

会計基準が定めているのは、大きく分けて四つの問いへの答えです。第一に「認識」— ある取引や事象をいつ帳簿に載せるか。第二に「測定」— いくらの金額で載せるか。取得したときの価格で測り続ける取得原価主義か、いまの市場価格で測り直す公正価値か、という対立軸はこの測定の論点です。第三に「表示」— 財務諸表のどこにどう区分して見せるか。第四に「開示」— 本体の数字だけでは伝わらない情報を注記などでどこまで補うか。個別基準はどれも、この四つの観点の組み合わせでできています。

原則の底流にある考え方

個別ルールの背後には、共通する基礎概念があります。企業がこの先も事業を続けるという前提(継続企業の前提)、収益と費用を対応させて期間の儲けを測るという考え方(費用収益対応の原則)、不確実な状況では利益を控えめに見積もるという態度(保守主義)、そして些細な事項には厳密さを要求しないという割り切り(重要性)などです。個別基準を暗記するより、これらの底流を押さえるほうが、初めて出会う論点にも「基準はおそらくこう考えるはずだ」と当たりをつけられるようになります。

基準と会計方針 — ルールの中の選択

会計基準は、すべてを一意に定めるわけではありません。たとえば在庫の払い出し単価の計算方法のように、複数の方法を認めたうえで「どれかを選び、継続して適用せよ」と求める領域があります。企業が基準の枠内で選んだ方法の集合が会計方針です。また、耐用年数や債権の回収可能性のように将来の見積もりに依存する数字(会計上の見積り)も必ず残ります。つまり基準は裁量をゼロにするのではなく、「裁量の範囲を明示し、選択を開示させ、みだりに変更させない」ことで信頼性を確保する仕組みだといえます。

誰が作り、誰が守らせるか

現在の日本では、企業会計基準委員会(ASBJ)という民間の基準設定主体が個別の会計基準を開発し、金融商品取引法や会社法の枠組みがその遵守を求めています。基準どおりに作られているかを独立の第三者が検証するのが会計監査で、基準・監査・ディスクロージャーの三点セットが揃って初めて、財務報告の信頼性は制度として担保されます。逆にいえば、基準の隙間や見積もりの裁量を突いて実態より良く見せようとする行為が粉飾決算利益操作であり、会計基準の歴史は不正の手口とのいたちごっこの歴史でもあります。

一国のルールから国際的な統一へ

経済がグローバル化すると、「国ごとに基準が違う」こと自体が問題になりました。同じ企業でも日本基準と米国基準とで利益が大きく違って見えるなら、国境を越えた投資判断の物差しになりません。そこで各国基準の統一・共通化を目指して整備されてきたのが国際財務報告基準(IFRS)です。日本基準も IFRS との差異を縮める方向(コンバージェンス)で改正が重ねられており、会計基準は今も「合意の範囲を国内から世界へ広げていく」途上にあります。