引当金
Provision ・ ひきあてきん
将来の支出や損失に備え、当期に属する分をあらかじめ費用として見積り計上する勘定
概要
引当金は、「支出はまだ先だが、その原因はすでに当期に生まれている」費用や損失を、あらかじめ見積もって計上しておくための勘定です。たとえば夏の賞与は支給日こそ翌期でも、その査定対象には当期の労働が含まれています。販売した製品の無償修理は将来発生しますが、原因は当期の販売です。こうした「原因と支出の時間差」を埋め、費用を原因の生じた期間に帰属させるのが引当金の役割です。
仕訳の形は「〇〇引当金繰入(費用)/ 〇〇引当金」となり、多くは決算整理仕訳として期末に計上されます。繰り入れた引当金は、賞与引当金・退職給付引当金のように貸借対照表の負債の部に載るものが中心ですが、貸倒引当金のように資産から控除する形で表示されるものもあります。
引当金の最大の特徴は「見積り」であることです。確定した金額を記録する通常の仕訳と違い、将来いくら支出するかを合理的に予測して計上します。ここに引当金の実務的な難しさと、会計上の規律の必要性があります。
なぜ生まれたか
引当金がない世界を想像してみましょう。ある会社が当期に大量の製品を売り、翌期にその修理費用がまとめて発生したとします。支出時に費用計上すると、当期は修理費ゼロで好業績、翌期は売上と無関係な修理費で赤字——という歪んだ決算書ができあがります。儲けの原因(販売)と犠牲(修理費)が別の期に泣き別れになり、期間ごとの業績比較が意味をなさなくなるのです。さらに、期末時点で会社が背負っている「将来払う義務」が貸借対照表のどこにも現れないため、財政状態も実際より良く見えてしまいます。
この問題の根は、発生主義と費用収益対応の原則——費用は収益を生んだ期間に対応させるべきだ、という考え方にあります。支出が未確定でも、原因が当期にあり、発生の可能性が高く、金額を合理的に見積もれるなら、当期の費用として計上すべきだ。この論理を制度化したのが引当金です。あわせて、確実な利益だけを計上し起こりうる損失には備えるという保守主義(慎重性)の考え方も、引当金を支える柱になっています。
詳細
計上のための4つの要件
見積りで費用を作れるということは、裏を返せば利益操作の温床にもなり得ます。好業績の年に引当金を厚く積んで利益を圧縮し、不振の年に取り崩して利益をかさ上げする——これを放置すれば決算書は信用を失います。そこで会計のルールは、引当金を計上できる条件を明確に絞っています。日本の企業会計原則では、(1) 将来の特定の費用または損失であること、(2) その発生が当期以前の事象に起因すること、(3) 発生の可能性が高いこと、(4) 金額を合理的に見積もれること、の4要件をすべて満たす場合に計上を求めています。逆に言えば、単なる「万一への備え」や社内の任意の積立ては引当金にはできません。
引当金の2つの系統
引当金は表示のされ方で2つに分かれます。ひとつは負債性引当金で、賞与引当金・退職給付引当金・製品保証引当金・修繕引当金などが代表です。これらは「将来、会社の資源が流出する義務」なので負債の部に計上されます。法的な債務として確定していなくても、経済的な実質として支払いを避けられないなら負債とみなす——ここに、負債概念を法的債務より広く捉える会計の考え方が表れています。
もうひとつは評価性引当金で、代表は貸倒引当金です。これは将来の支出への備えというより、「保有する債権のうち回収できない見込みの部分」を表すもので、負債ではなく資産の金額を間接的に減らす評価勘定として、資産の部にマイナス表示されます。同じ「引当金」という名前でも、貸借対照表上の性格が異なる点は押さえておきましょう。
ライフサイクル — 繰入れ・取崩し・戻入れ
引当金は計上して終わりではありません。翌期に実際の支出が起きたとき、その支出は費用ではなく引当金の取崩しとして処理します。賞与を支給したら「賞与引当金 / 現金」と仕訳し、前期に費用化済みの部分を消し込むのです。見積りが実績とズレた場合は、不足分を追加で費用にし、余った分は戻入れ(収益または費用の減額)として調整します。つまり引当金は「見積る → 使う → 差額を精算する」というサイクルで回り続け、損益計算書には毎期、原因に対応した費用だけが残るように設計されています。
実務での使いどころと落とし穴
実務で引当金が重要になるのは、まず決算の正確性です。賞与や退職給付は金額が大きく、引当金の有無で利益が大きく変わります。次に見積りの規律です。退職給付引当金のように数十年先の支払いを見積もるものでは、割引率や退職率といった前提の置き方が結果を左右するため、前提を毎期見直し、変更したら理由を開示するという運用が求められます。落とし穴として典型的なのは、要件を満たさない「利益調整目的の引当金」を積んでしまうことと、逆に発生可能性の高い損失(訴訟や保証)を「まだ確定していないから」と計上せず、後で一気に損失が噴き出すことです。引当金は、決算書に将来の影を先回りして映すための装置——その趣旨に照らして判断するのが原則です。
