簿記のしくみ●●●●○

貸倒引当金

Allowance for Doubtful Accountsかしだおれひきあてきん

売掛金などの債権が回収不能になるリスクを見積もり、あらかじめ費用計上しておく評価勘定

概要

貸倒引当金は、売掛金受取手形、貸付金といった債権のうち、「回収できない見込みの部分」をあらかじめ見積もって計上しておく勘定です。掛け(後払い)で商品を売れば債権が残りますが、取引先の倒産などで、その一部は現実に回収できなくなります。これを貸倒れと呼び、貸倒れに備える見積りが貸倒引当金です。

貸倒引当金は引当金の一種ですが、賞与引当金のような負債ではなく、債権という資産の金額を間接的に減らす評価勘定(コントラ・アカウント)として働きます。貸借対照表では売掛金などの総額の下にマイナスとして表示され、差し引き後の金額が「実際に回収できる見込みの価値(回収可能価額)」を示します。

期末に貸倒引当金を設定する処理は、決算整理仕訳の定番論点です。簿記3級から登場し、設定・貸倒れの発生・見積りの更新という一連のサイクルを通じて、「見積りで資産を評価する」という会計の重要な発想を最初に体験させてくれる勘定でもあります。

なぜ生まれたか

掛け売りをする会社の帳簿には、売った時点で売上と売掛金が計上されます。しかしその後、取引先が倒産して回収不能になったとき、損失を「貸倒れが確定した期」に計上する方式には2つの問題がありました。第一に、貸倒れの本当の原因は「掛けで売る」という当期の販売活動にあるのに、損失だけが後の期に飛んでいき、売上と対応しなくなります。第二に、期末の貸借対照表に売掛金が額面どおり載り続けるため、実際には回収できない債権まで資産として数えた、実態より良く見える決算書になってしまいます。

そこで、過去の貸倒実績率などから「この債権のうち何%は回収できないだろう」と期末に見積もり、その分を当期の費用(貸倒引当金繰入)として先取りし、同額を債権の評価減として表示する仕組みが確立しました。損益計算書の側では費用を販売の期に対応させ、貸借対照表の側では債権を回収可能価額まで切り下げる——ひとつの見積りが両方の決算書を同時に正すのです。

詳細

評価勘定としての表示

貸倒引当金の独特な点は、売掛金そのものを直接減らさないことです。売掛金勘定には債権の総額(誰にいくら請求できるか)を残したまま、別建てのマイナス勘定で回収不能見込額を示します。こうすると「請求する権利は1,000ある。ただしそのうち30は戻ってこない見込みだ」という2つの情報が両方読み取れます。

貸借対照表(資産の部)での表示売掛金1,000貸倒引当金△30差引: 回収可能価額970読み取れる2つの情報・請求できる権利の総額は 1,000・うち 30 は回収不能の見込み・実質的な資産価値は 970設定の仕訳: 貸倒引当金繰入(費用) 30 / 貸倒引当金(評価勘定) 30費用は損益計算書へ、評価勘定は貸借対照表の資産のマイナスへ — 一つの仕訳が両方を正す
貸借対照表での表示 — 債権の総額から貸倒引当金を控除し、回収可能価額を示す

設定から取崩しまでのサイクル

期末の設定額は、基本形では「債権残高 × 貸倒実績率」で見積もります。たとえば売掛金1,000に対し過去の実績から3%を見込むなら、貸倒引当金は30です。すでに前期末の残高が残っている場合は、見積額と残高の差額だけを繰り入れる(または戻し入れる)差額補充法が標準的な処理です。

翌期に実際の貸倒れが起きたときの処理は、その債権がいつ生まれたかで分かれます。前期以前の債権が貸し倒れたなら、すでに費用計上済みなので引当金を取り崩すだけです(貸倒引当金 / 売掛金)。引当金が足りなければ不足分を貸倒損失として費用にします。一方、当期に発生したばかりの債権が貸し倒れた場合は、まだ引当ての対象になっていないため、全額を貸倒損失とします。

前期以前の債権

当期発生の債権

期末: 債権残高に実績率を掛けて見積る

差額補充法で繰入れまたは戻入れ

翌期: 実際に貸倒れが発生

どの期の債権か

貸倒引当金を取り崩す

不足分があれば貸倒損失

全額を貸倒損失として費用計上

次の期末に再び見積り直す

見積りの精度と債権の区分

実績率を一律に掛ける方法は簿記学習の基本形ですが、実務の会計基準では債権を状態に応じて区分し、それぞれ異なる方法で見積もります。正常に回収できている一般債権には過去の実績率を、経営状態が悪化した取引先への債権には回収見込みを個別に評価した率を、破産などで回収がほぼ絶望的な債権には担保を除いた全額を、という具合に、危険度が上がるほど個別的で厳しい見積りに切り替えていきます。細かい区分名より、「一律の統計的見積りと、個別の実態評価を組み合わせる」という考え方を掴んでおくことが大切です。

実務での意味と落とし穴

貸倒引当金は、金融機関では「貸倒引当金の積み増し」が業績を左右する最重要項目ですし、一般企業でも与信管理(取引先ごとの信用リスク管理)の成績表として機能します。引当率が毎期ぶれる会社は、与信管理か見積りの規律のどちらかに問題を抱えているサインです。落とし穴として典型的なのは、業績の良い期に引当てを厚くし悪い期に戻し入れる利益平準化の誘惑と、逆に取引先の悪化の兆候を無視して引当てを先送りし、倒産時に一気に損失が噴き出すパターンです。回収可能性を毎期冷静に見積もり直す——地味ですが、発生主義会計の誠実さが最も試される場所のひとつです。