払出単価の計算
Cost Flow Assumption ・ はらいだしたんかのけいさん
同じ商品を違う値段で仕入れたとき、売れた分の原価をいくらとするかの計算方法
概要
払出単価の計算とは、同じ商品を異なる値段で仕入れてきたときに、「売れた(払い出した)分の原価を1個いくらとして計算するか」を決めるルールです。たとえば同じ商品を先月は1個100円で、今月は1個120円で仕入れたとします。倉庫の中で商品は混ざってしまい、今日売れた1個が「100円で仕入れた個体」なのか「120円の個体」なのかは、物理的にはもう区別できません。それでも売上原価と期末の棚卸資産の金額を確定させるためには、何らかの仮定を置いて単価を決める必要があります。
この「仮定」の代表が、先に仕入れたものから順に売れたとみなす先入先出法(FIFO)と、仕入単価をならして平均を使う平均法(移動平均法・総平均法)です。英語で Cost Flow Assumption(原価の流れの仮定)と呼ばれるとおり、これはモノの実際の動きを追跡する仕組みではなく、「原価がどう流れたとみなすか」という計算上の約束事です。
どの方法を選ぶかで、同じ取引・同じ在庫でも売上原価と期末在庫の金額が変わり、その期の利益まで変わります。だからこそ払出単価の計算方法は会計方針の一つとして位置づけられ、いったん選んだら毎期継続して適用することが求められます。
なぜ生まれたか
商品を1種類しか扱わず、仕入値もずっと一定なら、こんなルールは要りません。売れた個数に単価を掛ければ原価が出ます。しかし現実の商売では、同じ商品でも仕入れるたびに値段が変わります。物価の変動、為替、仕入先との交渉、まとめ買いの値引き——単価が動く要因はいくらでもあります。一方で倉庫の中の商品は同質で混ざり合っており、「どの仕入ロットの個体が売れたか」を1個ずつ追跡するのは、宝石や自動車のような個別性の高い商品(個別法が使える世界)を除けば現実的ではありません。
追跡できないのに金額は確定させなければならない——この矛盾を解くために、「実際の流れの代わりに、合理的な流れを仮定する」という発想が生まれました。仮定である以上、複数の方法がありえます。そこで会計は、先入先出法や平均法といった一定の合理性を持つ方法を認めたうえで、恣意的に方法を切り替えて利益を操作することがないよう、継続適用を条件としました。なお「後に仕入れたものから売れたとみなす」後入先出法(LIFO)もかつては使われましたが、実際のモノの流れとかけ離れやすく古い原価が在庫に滞留するため、日本基準でもIFRSでも現在は認められていません。
詳細
具体例で比べる — 先入先出法と平均法
数字で比べるのがいちばん早いでしょう。ある商品を、第1回に単価100円で10個、第2回に単価120円で10個仕入れ、そのあと15個売れたとします。仕入総額は 100×10 + 120×10 = 2,200円です。この2,200円を、売れた15個分の売上原価と、残った5個分の期末棚卸資産にどう配分するかが、払出単価の計算の仕事です。
先入先出法(FIFO: First-In, First-Out)は、先に仕入れた古いものから順に売れたと仮定します。売れた15個は「100円の10個 + 120円の5個」で、売上原価は 1,000 + 600 = 1,600円。残る5個はすべて新しい120円のロットなので、期末在庫は600円です。多くの商品は実際にも古いものから出荷するため、モノの流れと仮定が一致しやすく、期末在庫が直近の仕入価格で評価されるという特徴があります。
平均法は、仕入単価をならした平均単価で払い出したと仮定します。この例では平均単価が 2,200 ÷ 20個 = 110円となり、売上原価は 110×15 = 1,650円、期末在庫は 110×5 = 550円です。配分の合計がどちらの方法でも2,200円で変わらないことに注目してください。変わるのは「売上原価と期末在庫への切り分け方」だけです。
移動平均法と総平均法
平均法には、平均を取るタイミングの違いで二つの流儀があります。移動平均法は、仕入れるたびに「その時点の在庫金額 ÷ 在庫数量」で平均単価を計算し直す方法です。払出のつど最新の平均単価が使えるため、期中でも在庫と原価の金額をリアルタイムに把握できますが、仕入のたびに再計算が必要です。総平均法は、期間全体(月次や年次)の仕入をまとめて「期首在庫+当期仕入の総額 ÷ 総数量」で一つの平均単価を出す方法です。計算は一回で済む代わりに、期間が締まるまで払出単価が確定しないという性質があります。手計算の時代には総平均法の簡便さに意味がありましたが、在庫管理システムが自動計算する現在では、移動平均法の手間の問題はほぼ解消されています。
利益への影響と方法選択
方法の違いが効いてくるのは、仕入価格が一方向に動いている局面です。上の例のような価格上昇局面では、FIFOは古い(安い)原価から先に売上原価にするため原価が小さく、売上総利益が大きく出ます。逆に価格下落局面ではFIFOの利益が小さく出ます。平均法は変動をならすため、その中間に落ち着きます。どちらが「正しい」のではなく、どの仮定で原価の流れを描くかの違いであり、だからこそ選んだ方法は会計方針として開示し、正当な理由なく変更しないことがルール化されています。期ごとに有利な方法へ乗り換えられたら、利益の比較可能性が壊れてしまうからです。
落とし穴 — 払出単価の計算が答えないこと
実務でよくある誤解は、払出単価の計算を「在庫の評価方法のすべて」と捉えてしまうことです。この計算が決めるのは、あくまで取得原価2,200円を売上原価と期末在庫にどう配分するかまでです。配分の結果として期末在庫が600円と計算されても、その商品の市場価値が下がって400円でしか売れそうにないなら、帳簿価額を切り下げる別のルールが働きます。これが低価法で、「原価の配分(払出単価の計算)」と「期末の評価(低価法)」は二段階の別の手続きです。また、単価の仮定はあくまで金額計算の話であり、実地棚卸で数量を確かめる作業を置き換えるものでもありません。数量×単価の「数量」と「単価」、それぞれに独立した確かめ方があると整理しておくと混乱しません。
