原価・管理会計●●●●○

個別原価計算

Job Order Costingこべつげんかけいさん

受注ごとに原価を集計する方法。製造指図書単位で直接費を賦課し間接費を配賦する

概要

個別原価計算は、注文ごとに原価を集計する製品別計算の方法です。造船・特注機械・建設・オーダー家具のように、顧客の注文を受けてから一品ずつ仕様の異なる製品を作る受注生産では、「この注文にいくらかかったか」がそのまま知りたい原価になります。そこで注文ごとに「製造指図書」(この仕様でこれを作れ、という工場への指示書)を発行し、その指図書番号を集計の単位として、かかった製造原価を一件ずつ拾い集めていきます。

イメージとしては、注文ごとに原価の「口座」を開くようなものです。材料を出庫したら「指図書#101のために5万円」、工員が作業したら「#101に8時間」と記録し、間接費は基準に応じて配賦する。指図書ごとに用意された原価計算表にこれらが積み上がり、完成した時点の合計額がその注文の製造原価になります。

この方法は製造業に限りません。法律事務所が案件ごとに、システム開発会社がプロジェクトごとに、修理工場が修理伝票ごとに原価を集計するのも、すべて個別原価計算の応用です。「仕事の一件一件が互いに異なり、一件ごとの採算を知りたい」場面で使う方法だと捉えると、適用範囲の広さが見えてきます。

なぜ生まれたか

受注生産の商売では、期間全体の損益が分かるだけでは経営になりません。注文Aは儲かり注文Bは大赤字だったとしても、期間合計ではならされて見えなくなってしまうからです。見積もりの精度を上げるにも、値引き交渉に応じてよいか判断するにも、「あの注文には結局いくらかかったのか」という一件単位の答えが必要でした。ところが工場の帳簿には材料代や賃金が期間の合計として記録されるだけで、注文との紐付けがありません。

そこで、工場への作業指示である製造指図書を原価集計の単位として流用する方法が考案されました。指示書に番号を振り、材料の出庫票や作業時間の記録にその番号を書かせれば、コストの発生記録が自動的に注文ごとに仕分けられます。現場の管理文書と原価の集計単位を一致させたこの仕組みによって、「一件ごとの原価」が日常業務の副産物として手に入るようになったのです。同じ規格品を連続生産する工場では逆に一件ずつ追う意味がないため、期間で割り算する総合原価計算が発達し、生産形態に応じた二本立てが確立しました。

詳細

計算の流れ — 賦課と配賦の二段構え

個別原価計算の手続きは、製造原価の直間の区別に素直に対応しています。直接材料費・直接労務費・直接経費は、出庫票や作業時間報告に記された指図書番号にもとづいて、その指図書へそのまま賦課します。一方、工場の家賃や機械の減価償却費のような製造間接費は特定の指図書に跡付けられないため、直接作業時間などの基準で各指図書に配賦します。実務では原価をタイムリーに把握するため、あらかじめ決めた予定配賦率で配賦するのが一般的です。

完成

未完成

受注

製造指図書を発行・番号を付与

直接費を指図書へ賦課

製造間接費を基準で配賦

原価計算表に集計

期末までに完成したか

製品原価が確定

集計額がそのまま仕掛品

引き渡しで売上原価へ

原価計算表 — 指図書ごとの成績表

集計の受け皿になるのが、指図書ごとに作られる原価計算表です。横に指図書を並べれば、どの注文にいくらかかっているかが一覧できます。

直接材料費直接労務費製造間接費配賦額合計指図書 #10150万円30万円20万円100万円完成・引渡済→ 売上原価指図書 #10235万円25万円15万円75万円完成・在庫→ 製品指図書 #10320万円10万円8万円38万円未完成→ 仕掛品期末の状態がそのまま勘定の行き先を決める — 未完成の集計額に見積もりは不要
原価計算表のイメージ — 指図書ごとの列に直接費と配賦額が積み上がる

期末の処理も指図書単位で素直に決まります。完成して引き渡した指図書の原価は売上原価へ、完成したがまだ引き渡していないものは製品として、未完成のものは集計途中の金額がそのまま仕掛品として棚卸資産に計上されます。総合原価計算のように仕掛品の進捗度を見積もって期間コストを按分する計算が不要な点は、個別原価計算の分かりやすさの源です。

総合原価計算との対比

二つの方法の違いは、集計の単位に尽きます。個別原価計算は「注文」単位で原価を集め、一件ずつの実額が分かる代わりに、指図書番号付きの記録を日々残す事務コストがかかります。総合原価計算は「期間」単位で原価を集めて生産量で割るため事務は軽く済みますが、分かるのは平均単価であり、一個ずつの違いは見えません。どちらが優れているかではなく、製品が一件ごとに異なるなら個別、同じ規格品の連続生産なら総合、と生産形態が方法を決めます。実際の工場では、標準機種は総合原価計算で、特注対応分だけ指図書を切って個別で追う、といった併用も珍しくありません。

実務での使いどころと落とし穴

個別原価計算の価値は、見積もりと実績の突き合わせができることにあります。受注時の見積原価と完成時の実際原価を指図書単位で比べれば、見積もりの甘い工程や採算の悪い顧客・案件の型が見えてきて、次の見積もり精度と価格交渉力が上がります。プロジェクト型のビジネスで「案件別損益」を出す仕組みは、まさにこの発想です。

落とし穴は二つあります。第一に、直接費の記録の質がすべてを決めることです。作業時間の付け替えや記録漏れがあると、指図書別の原価は簡単に歪みます。特に複数案件を掛け持ちする現場では、時間記録の運用ルールが原価の信頼性そのものになります。第二に、指図書別の損益に含まれる間接費はあくまで配賦された金額だということです。ある案件が配賦後で赤字に見えても、その案件を断れば浮いたはずのコストは直接費部分だけかもしれません。一件ごとの数字が出るぶん説得力があるだけに、配賦の仮定を忘れて判断しないことが重要です。