原価・管理会計●●○○○

変動費と固定費

Variable and Fixed Costsへんどうひとこていひ

操業度に比例して増減する費用と、操業度によらず一定の費用という原価の分類

概要

変動費と固定費は、費用を「操業度(生産量や販売量といった活動量)に対してどう振る舞うか」で分けた分類です。材料費や販売手数料のように、作れば作るほど・売れば売るほど比例して増えるのが変動費。工場の家賃や正社員の給料のように、生産量がゼロでも満杯でも金額がほぼ変わらないのが固定費です。この「操業度に対する費用の振る舞い」をコストビヘイビアと呼びます。

同じ費用を「何のために使ったか」で分ける分類(材料費・労務費・経費など)が過去の記録・報告に向いているのに対し、変動費と固定費の分類は未来の予測に向いています。「来月販売量が2割増えたら利益はいくらになるか」「この注文を値引きしてでも受けるべきか」といった問いに答えるには、費用のうちどこまでが量に連動し、どこからが連動しないのかを知る必要があるからです。

この分類は原価計算の中でも、経営の意思決定や利益計画を支える管理会計の領域で中心的な役割を果たします。損益分岐点の計算も貢献利益の考え方も、すべてこの分類の上に成り立っています。

なぜ生まれたか

伝統的な会計は、費用を発生した形態別(材料費・人件費・家賃など)に記録します。この分類は「何にいくら使ったか」の報告には十分ですが、「売上が変わったら利益はどうなるか」という問いにはまったく答えられません。売上が2倍になっても家賃は2倍にならず、材料費は2倍になる — 費用ごとに売上への連動の仕方が違うのに、形態別の分類はその違いを写し取っていないからです。実際、売上が増えたのに思ったほど利益が増えない、逆に少しの売上減で赤字に転落する、といった現象は、固定費の存在を抜きには説明できません。

そこで、費用を「量に連動するか否か」という一点で分類し直す発想が生まれました。この分け方をすると「利益 = 売上 −変動費 − 固定費」という単純な構造が現れ、売上の変化に対する利益の変化を計算で予測できるようになります。過去を説明するための分類から、未来を計画するための分類へ — 変動費と固定費の区別は、会計を意思決定の道具に変えた分類だと言えます。

詳細

二つの費用の振る舞いをグラフで見る

横軸に操業度、縦軸に費用額をとると、二つの費用の性格の違いがはっきり現れます。変動費は原点から右上がりの直線、固定費は水平な直線です。総費用はこの二つの合計なので、「固定費の高さから始まり、変動費の傾きで増えていく」直線になります。

操業度(生産量・販売量)費用額固定費操業度によらず一定変動費操業度に比例総費用 = 固定費 + 変動費総費用線は固定費の高さから始まり、変動費の傾きで増えていく
コストビヘイビア — 操業度に対する変動費・固定費・総費用の振る舞い

代表的な変動費には直接材料費、外注加工費、販売手数料、出来高払いの賃金などがあります。固定費の代表は減価償却費、家賃・リース料、正社員の人件費、保険料、固定資産税などです。注意したいのは、固定費の「固定」は金額が永久に変わらないという意味ではなく、「操業度が変わっても変わらない」という意味だということです。家賃は値上げされることもありますが、生産量を増やしたから上がるわけではありません。

きれいに二分できない費用 — 準変動費と関連範囲

現実の費用は、教科書どおりに二分できるとは限りません。電力料のように「基本料金(固定部分)+ 使用量に応じた従量部分(変動部分)」を持つ費用は準変動費と呼ばれます。また、監督者の人件費のように、一定の操業度までは一定で、超えると一段増える階段状の費用(準固定費)もあります。

さらに、固定費が「固定」でいられるのは一定の操業度の範囲内(関連範囲)に限られます。生産量が工場の能力を超えれば新しい設備や建物が必要になり、固定費は段階的に跳ね上がります。変動費・固定費という分類は厳密な物理法則ではなく、「想定する操業度の範囲では直線とみなしてよい」という実用的な近似だと理解しておくことが、使いこなす上で重要です。

固変分解 — 実務でどう分けるか

過去の費用データから変動費と固定費を切り分ける作業を固変分解と呼びます。最も実務的なのは、勘定科目ごとに性質を判断して変動費か固定費に割り振る勘定科目法(費目別精査法)です。より分析的には、過去数か月の操業度と費用額のデータから回帰分析で「傾き(変動費率)」と「切片(固定費)」を推定する方法や、最高操業度と最低操業度の2点だけで傾きを求める高低点法があります。どの方法も近似にすぎないため、分解結果を使う意思決定の重要度に応じて精度を選ぶのが実務感覚です。

この分類が可能にする分析

固変分解ができると、売上高から変動費だけを引いた貢献利益(限界利益)という利益概念が使えるようになります。貢献利益は「売上が1単位増えるごとに、固定費の回収と利益にいくら貢献するか」を表し、これを固定費と突き合わせれば、利益がゼロになる売上高、すなわち損益分岐点が求まります。売上・費用・利益の関係を一望するこの分析体系は CVP 分析と呼ばれ、利益計画の基本ツールです。

また、標準原価計算における製造間接費の管理でも、操業度に応じた予算(変動予算)を組むために固変分解が前提になります。差異分析で操業度差異(固定費を吸収しきれなかったズレ)を切り出せるのも、固定費という概念があるからです。

経営構造としての固定費 — トレードオフの視点

変動費と固定費の比率は、そのまま事業のリスク構造を表します。固定費の重い装置産業は、損益分岐点を超えた後の利益の伸びが大きい反面、売上が落ちると一気に赤字化します。変動費中心の事業は利益の爆発力に欠ける代わりに、売上減少への耐性があります。設備投資で内製化するか(固定費化)、外注を使うか(変動費化)といった意思決定は、この構造をどちらに寄せるかの選択です。変動費と固定費は費用の分類であると同時に、事業の設計思想を映す鏡でもあるのです。