原価・管理会計●●○○○

原価計算

Cost Accountingげんかけいさん

製品やサービスの原価を測定・集計する手続き。財務諸表作成と経営管理の両方を支える

概要

原価計算は、「この製品ひとつを作るのに、結局いくらかかったのか」を測定・集計する手続きです。商品を仕入れて売る商業なら、仕入値がそのまま商品の原価になるので話は単純です。しかしメーカーのように材料を買い、人を雇い、機械を動かして製品を作る場合、ひとつの製品にかかったお金は材料代・賃金・電気代・機械の減価償却費など無数の費用に散らばっています。これらを一定のルールで製品ごとに集め直し、「製品Aは1個あたり1,200円」と言えるようにするのが原価計算です。

原価計算が答えを届ける相手は二つあります。ひとつは財務諸表です。完成した製品の原価が分からなければ、棚卸資産をいくらで計上するか、売れた分の売上原価をいくらにするかが決められません。もうひとつは経営者です。「この注文を受けて採算が合うのか」「どの製品が儲かっていてどれが足を引っ張っているのか」「来期のコストをどこまで下げられるか」——こうした意思決定と管理のすべてが、原価という物差しを前提にしています。

簿記の世界では、商品売買を扱う「商業簿記」に対して、製造業の原価計算を扱う分野を「工業簿記」と呼びます。原価計算はこの工業簿記の中心テーマであり、経営者のための会計である管理会計の入口でもあります。

なぜ生まれたか

原価計算が本格的に必要になったのは、産業革命以降に工場制の大量生産が始まってからです。それ以前の商人は「100円で仕入れた物を150円で売る」世界に生きており、儲けの計算に迷いはありませんでした。ところが工場を持つと状況が一変します。材料は複数の製品に共通で使われ、職人の賃金は月給で払われ、工場の家賃や機械代は特定の製品と紐付きません。「この製品1個の原価はいくらか」という問いに、帳簿を眺めるだけでは誰も答えられなくなったのです。

原価が分からないことの実害は深刻でした。売価をいくらに設定すればよいか根拠がなく、実は赤字の注文を喜んで受けてしまう。工場の無駄がどこに潜んでいるか見えず、改善のしようがない。決算では作りかけの製品や倉庫の完成品をいくらで評価すればよいか決められない。19世紀末から20世紀初頭にかけて、大規模工場や鉄道会社の実務家たちがこの問題に取り組み、費用を分類し、部門に集め、製品に割り振るという原価計算の体系が整えられていきました。日本でも「原価計算基準」という実務規範が定められ、今日の製造業の会計の土台になっています。

詳細

二つの目的 — 財務諸表のためと、経営管理のため

原価計算の目的は大きく二系統に整理できます。第一は財務諸表目的です。当期に発生した製造コストのうち、完成して売れた分は売上原価として損益計算書へ、まだ売れていない完成品や作りかけ(仕掛品)は棚卸資産として貸借対照表へ振り分けます。かかった費用を売れた期の収益にぶつけるこの振り分けは、費用収益対応の原則を製造業で実現する仕組みそのものです。

第二は経営管理目的です。製品別の採算把握、売価の設定、損益分岐点の分析、あらかじめ目標原価を設定して実績との差異分析を行う原価管理、設備投資や外注化の意思決定——いずれも原価情報が出発点になります。同じ「原価計算」でも、外部報告のための計算は正確性と検証可能性が、内部管理のための計算は迅速さと意思決定への役立ちが重視される、という力点の違いがあります。

材料費労務費経費工場で発生する費用の束原価計算分類・集計・製品への割り振り財務諸表目的売上原価の算定棚卸資産の評価経営管理目的売価の設定採算・原価管理意思決定の材料同じ原価データが外部報告と内部管理の二役をこなす
原価計算の全体像 — ひとつの計算体系が外部報告と内部管理の両方に原価情報を供給する

計算の三段階 — 費目別・部門別・製品別

伝統的な原価計算は、三つの段階を踏んで費用を製品にたどり着かせます。まず費目別計算で、当期に発生した費用を材料費・労務費・経費に分類します。この分類と、製品に直接跡付けられる費用(直接費)か否か(間接費)の区別を扱うのが製造原価の考え方です。次に部門別計算で、間接費を切削部門・組立部門・動力部門といった発生場所ごとに集めます。最後に製品別計算で、直接費は各製品にそのまま賦課し、間接費は一定の基準で配賦して、製品1単位あたりの原価を確定します。

費目別計算

部門別計算

製品別計算

売上原価と棚卸資産へ

材料費・労務費・経費に分類

発生場所ごとに間接費を集計

製品単位の原価を確定

生産形態で選ぶ — 個別原価計算と総合原価計算

製品別計算の方法は、工場の生産形態によって使い分けます。船や特注機械のように注文ごとに仕様が異なる受注生産では、製造指図書ごとに原価を集める個別原価計算を使います。飲料や化学製品のように同じ規格品を連続して大量生産する場合は、期間の総コストを生産量で割る総合原価計算が適しています。どちらも「散らばった費用を製品に集める」という目的は同じで、集計の単位が「注文」か「期間」かが違うだけです。

実際原価から標準原価・ABCへ

実際にかかった費用を集計する実際原価計算は正確ですが、結果が出るのは月末や期末で、しかも「かかったものはかかった」としか言えません。そこで、あるべき原価をあらかじめ設定し、実績との差異から無駄を炙り出す標準原価計算が原価管理の道具として発展しました。また、工場の自動化で間接費の比重が高まると、操業度一辺倒の配賦では原価が歪むという批判から、活動ごとに原価を集計する活動基準原価計算(ABC)も登場しています。さらに意思決定の場面では、原価を変動費と固定費に分けて利益の構造を読む見方(直接原価計算)が使われます。原価計算はひとつの決まった計算式ではなく、「目的に応じて計算方法を選ぶ」体系だと理解しておくと、個々の手法の位置づけが見えやすくなります。

実務での落とし穴

原価計算で最も誤解されやすいのは、「計算された原価は客観的な事実だ」という思い込みです。直接費はともかく、間接費を含んだ製品別原価は配賦基準の選び方ひとつで大きく変わります。製品別の採算表を見て撤退を判断する前に、「その原価はどんな仮定で計算されたのか」「その製品をやめたら本当にその原価は消えるのか——固定費は残らないか」を確かめることが、原価情報を使う側の基本動作です。原価計算は答えを吐き出す機械ではなく、仮定を明示して議論の土台を作る道具だという感覚が、実務では何より重要になります。