因子分析
Factor Analysis ・ いんしぶんせき
観測変数の相関の背後にある少数の潜在因子を仮定して構造を探る手法
概要
因子分析は、直接測れる多数の変数(観測変数)の背後に、直接は測れない少数の「因子(潜在変数)」が隠れていると仮定し、その構造をデータから探る手法です。たとえば国語・英語・社会の点数が互いに強く相関しているなら、その背後に「言語能力」という共通の因子があるのではないか — このように、観測変数どうしの相関パターンを「共通の原因」で説明しようとします。
心理学の「知能」「外向性」、マーケティングの「ブランドへの信頼感」、アンケート調査の「顧客満足」など、世の中には重要なのに直接測れない概念がたくさんあります。因子分析は、こうした概念を複数の質問項目や測定値の背後にある因子として定量化する道具であり、心理尺度の開発、アンケートの項目整理、テスト理論の基盤として広く使われています。
似た手法である主成分分析が「変数を分散最大の軸に要約する」記述的な道具であるのに対し、因子分析は「観測値は因子から生成される」という統計モデルを立てる点が本質的に異なります。各観測変数は「共通因子の影響 + その変数固有の要因」に分解される、という生成の仕組みを仮定するのが因子分析です。
なぜ生まれたか
因子分析は20世紀初頭の心理学、「知能とは何か」という問いから生まれました。1904年、スピアマンは子どもたちの各科目の成績が、科目の組み合わせによらず一様に正の相関を示すことに気づきます。古典の成績が良い子は数学もでき、音楽の感覚も鋭い — この「何をやらせてもできる度合い」に共通する何かがあるのではないか。スピアマンはこれを一般知能因子 g と名付け、「観測される成績の相関は、背後の単一因子で説明できる」という仮説を相関行列の分析で検証する方法を考案しました。これが因子分析の原型(1因子モデル)です。
その後サーストンが「知能は単一ではなく、言語・数・空間など複数の因子からなる」と主張して多因子モデルへ拡張し、因子の解釈を容易にする「回転」の技法を整備しました。直接測れない概念をめぐる理論的な論争を、相関という測れるものから逆算して検証する — この方法論の需要が、因子分析を心理統計の中心的な道具に育てました。
詳細
モデル — 観測値 = 因子の影響 + 独自の要因
因子分析のモデルでは、各観測変数は「共通因子の値に係数を掛けたものの和 + 独自因子」で表されます。この係数が因子負荷量(factor loading)で、「その因子がその変数にどれだけ強く効いているか」を表し、因子と変数の相関として解釈できます。観測変数のばらつきのうち共通因子で説明される割合を共通性、残りを独自性と呼びます。独自性には、その変数だけに効く要因と測定誤差の両方が含まれます。
このモデルを立てると、観測変数どうしの相関行列が「因子負荷量の組み合わせ」でどこまで再現できるかという問題になります。データの相関行列をよく再現する負荷量を推定する方法として、多変量正規分布を仮定した最尤法や、主因子法などが使われます。
因子数の決定と回転
因子分析には分析者が決めるべきことが2つあります。1つ目は因子数です。固有値1以上の因子を採用するカイザー基準、固有値の折れ線の「肘」を見るスクリープロット、乱数データとの比較で決める平行分析などの目安がありますが、最終的には「その因子数で解釈可能な構造が得られるか」も含めて判断します。
2つ目は回転です。因子分析の解には「回転の不定性」があり、負荷量の軸を回転させても相関行列の再現度は変わりません。そこで「各変数がなるべく1つの因子だけに高い負荷を持つ」単純構造に近づくよう軸を回転させ、解釈しやすい解を選びます。因子どうしの無相関を保つ直交回転(バリマックス回転など)と、因子間の相関を許す斜交回転(プロマックス回転など)があり、心理学の構成概念のように因子どうしが相関していて自然な場面では斜交回転が標準的です。この不定性は「同じデータから複数のもっともらしい解が出る」ことを意味するため、因子分析の結果は常に一つの解釈候補として扱う姿勢が大切です。
探索的因子分析と確認的因子分析
ここまで述べた、因子の数も構造もデータから探るやり方を探索的因子分析(EFA)と呼びます。これに対し、理論から「この4項目は因子Aを、この4項目は因子Bを測るはずだ」という構造を先に仮定し、データがその構造と整合するかを検証するのが確認的因子分析(CFA)です。CFA は構造方程式モデリング(SEM)の枠組みで実行され、心理尺度が意図した概念を測れているか(構成概念妥当性)の検証に使われます。尺度開発では、EFA で構造の当たりを付け、別のデータで CFA により確認する、という2段構えが定石です。
主成分分析との違い
主成分分析と因子分析は、多変量データを少数の軸にまとめるという見た目が似ており、ソフトウェアのメニューでも隣に並びがちですが、向きが逆のモデルです。主成分分析は「観測変数から主成分を合成する」要約の道具で、誤差という概念を持ちません。因子分析は「因子が観測変数を生み出す」という生成モデルを仮定し、測定誤差(独自性)を明示的に分離します。「アンケート項目の背後の心理的構造を知りたい」なら因子分析、「多数の変数を機械的に圧縮したい」なら主成分分析、が基本の使い分けです。
実務での使いどころと落とし穴
実務での典型例は、アンケート・心理尺度の設計です。20個の質問項目を因子分析にかけ、「この5項目は同じ因子を測っている」とわかれば項目を整理でき、因子ごとの得点(因子スコア)を後続の分析に使えます。マーケティングでのブランドイメージ調査、人事のコンピテンシー評価、教育のテスト設計などにも同じ構図で使われています。
落とし穴として、まず因子に名前を付ける段階は完全に人間の解釈であり、「言語因子」という命名が正しい保証はどこにもありません(命名の誤謬と呼ばれます)。また標本サイズが小さいと負荷量の推定は不安定で、目安として変数の数の数倍〜10倍、最低でも数百のサンプルが望ましいとされます。さらに、相関行列が土台なので、相関を歪める外れ値や、順序尺度をそのまま使うことによる歪みにも注意が必要です。因子分析は「隠れた構造の仮説を立てる」道具であって、構造の実在を証明する道具ではない — この一線を意識することが、結果を過信しないための要点です。
