共分散
Covariance ・ きょうぶんさん
2つの確率変数が連動して動く度合いを符号付きで測る指標
概要
共分散は、2つの確率変数 X と Y が「連動して動く度合い」を符号付きの数値で表す指標です。定義は「X の期待値からのずれ × Y の期待値からのずれ、の期待値」。記号では Cov(X, Y) と書きます。X が平均より大きいとき Y も平均より大きい傾向があれば共分散はプラス、X が大きいとき Y は小さい傾向があればマイナス、連動が見られなければ 0 に近づきます。
1変数のばらつきを測る分散と標準偏差の、2変数版の拡張と考えると位置づけが掴みやすくなります。実際、X と Y に同じ変数を入れた Cov(X, X) は X の分散そのものです。分散が「1つの量が平均のまわりでどれだけ揺れるか」を測るのに対し、共分散は「2つの量の揺れがどれだけ同調しているか」を測ります。
共分散は単体で解釈することは少なく、そこから派生する道具の部品として至るところに現れます。標準化して単位をなくしたものが相関係数であり、回帰分析の係数の計算、ポートフォリオのリスク評価、機械学習の主成分分析まで、「変数間の関係」を扱う手法の心臓部には必ず共分散(を並べた共分散行列)が入っています。
なぜ生まれたか
分散という道具で1つの量のばらつきは測れるようになりましたが、19世紀後半、ゴルトンやピアソンが遺伝の研究で「親の身長と子の身長」のような2つの量の関係を数値化しようとしたとき、既存の道具では足りませんでした。散布図を描けば右上がりの傾向は目に見えるのに、その「傾向の強さ」を客観的に比較・計算する数値がなかったのです。
そこで考案されたのが、「2つの量がそれぞれの平均からずれる方向が揃っているか」を、ずれの積の平均で測るという発想です。両方が同時に平均より上(または下)にあれば積はプラス、逆方向ならマイナスになるので、積を平均すれば連動の向きと強さがひとつの数に集約されます。これが共分散で、ピアソンはさらにこれを標準偏差で割って単位に依存しない相関係数へ仕上げました。「関係の強さ」が計算可能になったことは相関研究と回帰分析の出発点となり、のちにマーコウィッツが資産どうしの共分散を使って分散投資の理論(現代ポートフォリオ理論)を築くなど、20世紀の統計学と金融工学を支える基礎概念になりました。
詳細
符号のからくり — 4象限で考える
共分散の定義を絵にすると仕組みがよく見えます。散布図に「X の平均」の縦線と「Y の平均」の横線を引いて平面を4つの象限に分けると、右上と左下の象限では「ずれの積」がプラス、左上と右下ではマイナスになります。共分散はこの積の平均なので、点が右上・左下に多ければプラス(正の連動)、左上・右下に多ければマイナス(負の連動)、4象限に満遍なく散らばればプラスとマイナスが打ち消し合って 0 に近づきます。
理論上の共分散はずれの積の期待値として定義されますが、手元のデータから計算するときは「各データ点のずれの積を平均する」だけです(推測に使う際は分散と同様に n−1 で割る不偏版を使います)。2変数の関係をカテゴリ表の形で捉えるクロス集計の、数量データ版の要約と見ることもできます。なお理論上の計算では、X と Y の値の組がどんな確率で現れるかを与える同時分布と周辺分布が前提になります。周辺分布(各変数単体の分布)だけでは共分散は決まらない — 2変数の「組み合わさり方」の情報こそが共分散の中身です。
単位の問題と相関係数
共分散の弱点は、値の大きさが単位に依存することです。身長と体重の共分散は「cm×kg」という奇妙な単位を持ち、身長をmに変えるだけで値が100分の1になります。つまり共分散の絶対値を見ても「連動が強いのか弱いのか」は判断できません。この弱点を解消するのが、共分散を両変数の標準偏差の積で割った相関係数です。単位が消えて必ず −1 から +1 に収まるため、強さの比較が可能になります。実務で「関係の強さ」を報告するときは相関係数を使い、共分散はその計算の中間生成物や、次に述べる理論計算の部品として働きます。
和の分散と共分散 — 分散投資の数理
共分散が理論面で顔を出す代表例が、和の分散の公式です。X+Y の分散は「X の分散 + Y の分散 + 2×Cov(X, Y)」となり、共分散の項が加わります。この項がマイナスなら、2つを合わせたときのばらつきは単純合計より小さくなる — これが分散投資の数学的な根拠です。逆方向に動きがちな資産(負の共分散)を組み合わせれば、期待リターンを保ちながらリスク(ばらつき)を減らせます。多数の変数を扱うときは、すべてのペアの共分散を並べた共分散行列が登場し、ポートフォリオ最適化や主成分分析(データのばらつきが大きい方向を見つける次元削減)の入力になります。
「共分散ゼロ」と独立は同じではない
X と Y が独立なら共分散は必ず 0 になりますが、逆は成り立ちません。共分散が捉えられるのは直線的な連動だけで、たとえば Y が X の2乗で完全に決まる関係(U字型)でも、左右対称なら正負の積が打ち消し合って共分散は 0 になります。「共分散(相関)が 0 だから無関係」という結論は、強い関係を見落とす危険があります。数値だけに頼らず散布図で形を確かめる、という探索的データ分析の基本動作は、この限界への実践的な備えでもあります。
