共分散
Covariance ・ きょうぶんさん
2つの確率変数が連動して動く度合いを符号付きで測る指標
✦ 30秒で試す — 航海プラスの関係が、1点動かすだけでマイナスに変わるその1点を平均の真上へ、はるか遠くまで動かすと共分散は?予想してみる概要
共分散は、2つの確率変数 X と Y が「連動して動く度合い」を符号付きの数値で表す指標です。定義は「X の期待値からのずれ × Y の期待値からのずれ、の期待値」。記号では Cov(X, Y) と書きます。X が平均より大きいとき Y も平均より大きい傾向があれば共分散はプラス、X が大きいとき Y は小さい傾向があればマイナス、連動が見られなければ 0 に近づきます。
1変数のばらつきを測る分散と標準偏差の、2変数版の拡張と考えると位置づけが掴みやすくなります。実際、X と Y に同じ変数を入れた Cov(X, X) は X の分散そのものです。分散が「1つの量が平均のまわりでどれだけ揺れるか」を測るのに対し、共分散は「2つの量の揺れがどれだけ同調しているか」を測ります。
共分散は単体で解釈することは少なく、そこから派生する道具の部品として至るところに現れます。標準化して単位をなくしたものが相関係数であり、回帰分析の傾きの計算、ポートフォリオのリスク評価、主成分分析まで、「変数間の関係」を扱う手法の心臓部には必ず共分散(を並べた共分散行列)が入っています。
なぜ生まれたか
分散という道具で1つの量のばらつきは測れるようになりましたが、19世紀後半、ゴルトンやピアソンが遺伝の研究で「親の身長と子の身長」のような2つの量の関係を数値化しようとしたとき、既存の道具では足りませんでした。散布図を描けば右上がりの傾向は目に見えるのに、その「傾向の強さ」を客観的に比較・計算する数値がなかったのです。
そこで考案されたのが、「2つの量がそれぞれの平均からずれる方向が揃っているか」を、ずれの積の平均で測るという発想です。両方が同時に平均より上(または下)にあれば積はプラス、逆方向ならマイナスになるので、積を平均すれば連動の向きと強さがひとつの数に集約されます。これが共分散で、ピアソンはさらにこれを両方の標準偏差で割って単位に依存しない相関係数へ仕上げました(1896年)。「関係の強さ」が計算可能になったことは相関研究と回帰分析の出発点となり、のちにマーコウィッツが資産どうしの共分散を使って分散投資の理論(現代ポートフォリオ理論、1952年)を築くなど、20世紀の統計学と金融工学を支える基礎概念になりました。
詳細
符号のからくり — 4象限で考える
共分散の定義を絵にすると仕組みがよく見えます。散布図に「X の平均」の縦線と「Y の平均」の横線を引いて平面を4つの象限に分けると、右上と左下の象限では「ずれの積」がプラス、左上と右下ではマイナスになります。共分散はこの積の平均なので、点が右上・左下に多ければプラス(正の連動)、左上・右下に多ければマイナス(負の連動)、4象限に満遍なく散らばればプラスとマイナスが打ち消し合って 0 に近づきます。
さらに一歩進めると、ずれの積 (x − x̄)(y − ȳ) は「その点と平均の交点を対角とする長方形の面積」として目に見えます。右上・左下の点が作る長方形はプラスの面積、左上・右下の点はマイナスの面積です。共分散とは、この符号付きの面積の平均にほかなりません。平均から遠い点ほど縦にも横にも長い長方形を作るので、合計への影響力が大きくなります。
共分散 =(金の面積 − 朱の面積)÷ 14 = 45.2。白い点をつかんで左上や右下へ動かすと朱が増え、天秤が傾き直します。
長方形 = 各点と「平均の交点」を対角とする、ずれの積(x のずれ × y のずれ)。金 = 正、朱 = 負。共分散 = 符号付き面積の合計 ÷ (n−1)
理論上の共分散はずれの積の期待値として定義されますが、手元のデータから計算するときは「各データ点のずれの積を足して割る」だけです。母集団の共分散を推定するなら、分散と同じ理由で n ではなく n − 1 で割る不偏版を使います(平均を標本から推定したぶん、ずれが小さめに出るのを補正するためです)。計算の近道として Cov(X, Y) = E[XY] − E[X]E[Y] という形もよく使われます。なお理論上の計算では、X と Y の値の組がどんな確率で現れるかを与える同時分布と周辺分布が前提になります。周辺分布(各変数単体の分布)だけでは共分散は決まらない——2変数の「組み合わさり方」の情報こそが共分散の中身です。2変数の関係をカテゴリの表で捉えるクロス集計の、数量データ版の要約と見ることもできます。
単位の問題と相関係数
共分散の弱点は、値の大きさが単位に依存することです。身長と体重の共分散は「cm × kg」という奇妙な単位を持ち、身長を m に変えるだけで値が100分の1になります。上の部品で単位を切り替えると、長方形はすべて横に1/100に潰れて共分散も1/100になりますが、拡大して見れば点の並びはまったく同じで、正と負の面積の比(天秤の傾き)も変わりません。つまり共分散の絶対値を見ても「連動が強いのか弱いのか」は判断できないのです。
この弱点を解消するのが、共分散を両変数の標準偏差の積で割った相関係数 r = Cov(X, Y) / (σx σy) です。単位が消えて必ず −1 から +1 に収まるため、強さの比較が可能になります。実務で「関係の強さ」を報告するときは相関係数を使い、共分散はその計算の中間生成物や、次に述べる理論計算の部品として働きます。単回帰の傾きも Cov(X, Y) / Var(X) と共分散で書け、回帰分析の係数は「X が1単位動いたとき Y がどれだけ一緒に動くか」を共分散から読み直したものです。
和の分散と共分散 — 分散投資の数理
共分散が理論面で顔を出す代表例が、和の分散の公式です。X + Y の分散は「X の分散 + Y の分散 + 2 × Cov(X, Y)」となり、共分散の項が加わります。この項がマイナスなら、2つを合わせたときのばらつきは単純合計より小さくなる——これが分散投資の数学的な根拠です。逆方向に動きがちな資産(負の共分散)を組み合わせれば、期待リターンを保ちながらリスク(ばらつき)を減らせます。
多数の変数を扱うときは、すべてのペアの共分散を並べた共分散行列が登場します。対角には各変数の分散が、対角の外には共分散が並ぶ対称な表で、多変量正規分布の形を決めるパラメータそのものです。共分散行列の固有ベクトルは「データがいちばん大きくばらつく方向」を示し、それを順に取り出すのが主成分分析、ポートフォリオ全体のリスクを最小にする資産の配分を求めるのがポートフォリオ最適化です。
落とし穴 — 外れ値と「共分散ゼロ」
実務で最初に気をつけたいのは、共分散が**外れ値に非常に敏感**なことです。ずれの積は縦横のずれの掛け算なので、平均から遠い1点は巨大な長方形を作り、ほかの十数点の関係を簡単にひっくり返します(部品で1点を左上の隅へ動かしてみると分かります)。入力ミスや単位の混在が1件あるだけで符号まで変わることもあるので、共分散や相関を計算する前に散布図で外れ値を確かめ、必要なら順位に基づく相関(スピアマンの順位相関)のような頑健な指標を併用します。
もう1つは、「共分散ゼロ」と独立は同じではないことです。X と Y が独立なら共分散は必ず 0 になりますが、逆は成り立ちません。共分散が捉えられるのは直線的な連動だけで、たとえば Y が X の2乗で完全に決まる関係(U字型)でも、左右対称なら正負の長方形が打ち消し合って共分散は 0 になります。「共分散(相関)が 0 だから無関係」という結論は、強い関係を見落とす危険があります(例外は変数の組が多変量正規分布に従う場合で、このときに限り共分散 0 と独立は同値です)。数値だけに頼らず散布図で形を確かめる、という探索的データ分析の基本動作は、この2つの限界への実践的な備えでもあります。
試問
15人の身長と体重の散布図です。各点と「平均の交点」を対角にした長方形が、ずれの積がプラス(右上・左下の点)なら金、マイナス(左上・右下の点)なら朱で塗られていて、共分散はこの符号付きの面積を平均したものです。いまは右上がりの関係なので金が勝っています。ドラッグして動かしてよいのは、どれか1点だけです。
共分散 =(金の面積 − 朱の面積)÷ 14 = 45.2。白い点をつかんで左上や右下へ動かすと朱が増え、天秤が傾き直します。
長方形 = 各点と「平均の交点」を対角とする、ずれの積(x のずれ × y のずれ)。金 = 正、朱 = 負。共分散 = 符号付き面積の合計 ÷ (n−1)
