確率変数
Random Variable ・ かくりつへんすう
偶然に左右されて値が決まる量を数学の変数として扱う仕掛け
✦ 30秒で試す — 航海「サイコロの和が7になる」は、数ではない。では何か値の散らばりが大きいのは?予想してみる概要
確率変数は、サイコロの目や明日の気温のように「偶然に左右されて値が決まる量」を、数学の変数として扱えるようにする仕掛けです。確率の世界では、コインを投げる・くじを引くといった試行の結果はそのままでは「表」「裏」「当たり」のような記号にすぎません。確率変数は、それぞれの結果に数値を割り当てる対応関係 — 数学的にはひとつの関数 — として定義され、偶然の世界と数の世界をつなぐ橋になります。
たとえば「コインを3回投げて表が出た回数」を X と書けば、X は 0, 1, 2, 3 のどれかの値を偶然に応じて取る確率変数です(この X の分布が二項分布です)。ひとたび X と名付けてしまえば、「X が 2 以上になる確率は?」「X の平均的な値は?」といった問いを、数式で組み立てて計算できるようになります。
確率変数は確率論と統計学のほぼすべての概念の土台です。確率分布は「確率変数がどの値をどんな確率で取るか」の一覧であり、期待値は確率変数の平均、分散と標準偏差は確率変数のばらつきです。この語を押さえずに先へ進むと、以降のすべての定義が宙に浮いてしまいます。
なぜ生まれたか
初期の確率論は「サイコロで6が出る確率」「くじが当たる確率」のように、個別の事象の確率を場合の数で数える学問でした。しかし賭け金の配分や保険料の設計といった実際の問題で本当に知りたいのは、「事象が起きるか否か」より「結局いくら得られるのか」という数量です。事象の言葉だけでは「賞金の平均」「損失のばらつき」を計算する枠組みがなく、問題ごとに場当たり的な計算を繰り返すしかありませんでした。
そこで「偶然の結果に数値を対応させる」という一段の抽象を挟むことで、状況が一変します。賞金でも誤差でも回数でも、いったん確率変数として表現してしまえば、期待値・分散・分布といった共通の道具立てが等しく適用できます。20世紀にコルモゴロフが確率論を測度論(集合の「大きさ」を厳密に扱う数学)の上に再構築した際も、確率変数は「標本空間から実数への関数」として定式化され、現代確率論の中心的な語彙になりました。個別の賭けの計算術だった確率が汎用の数学理論へ育つための鍵が、この抽象だったのです。
詳細
「結果に数を割り当てる関数」という見方
確率変数の定義は「試行の結果ひとつひとつに実数を対応させる関数」です。コインを2回投げる試行なら、起こりうる結果は「表表・表裏・裏表・裏裏」の4通り。ここで「表が出た回数」を X とすると、X は 表表→2、表裏→1、裏表→1、裏裏→0 という対応そのものです。偶然なのは「どの結果が起きるか」であって、対応関係自体は確定した規則である — この切り分けが確率変数の要点です。
この対応を通して、事象の確率が「値の確率」に翻訳されます。「X=1 となる確率」は「表裏または裏表が起きる確率」なので 2/4。こうして得られる「値と確率の対応表」が、そのまま確率分布です。確率変数を定義することと、その分布を考えることは、常にセットで進みます。
36マスはサイコロ2個を振ったときの結果(標本空間)です。上で確率変数を選ぶと、各マスに数が割り当てられ、その数の位置へ飛んで積み上がります。
左: 試行の結果(1つ目の目 × 2つ目の目)。右: 確率変数の値ごとに結果を積んだもの = 確率分布
部品で X(和)から Y(大きい方)に切り替えると、同じ36個の結果がまったく別の形に積み直されます。標本空間と確率は同じでも、「どんな数を割り当てるか」という関数を変えれば分布が変わる — 分布は確率変数ごとに決まるものなのです。また「和が10以上なら1、そうでなければ0」という指示変数を選ぶと、事象の確率 P(和 ≥ 10) がそのまま P(I = 1) として現れます。事象は、0と1だけを取る確率変数の特別な場合とみなせます。
分布を丸ごと表す — 確率関数と累積分布関数
離散型の確率変数の分布は、「各値 x を取る確率 P(X = x)」を並べた確率関数で表せます。もうひとつの表し方が累積分布関数 F(x) = P(X ≤ x)、つまり「x 以下になる確率」です。確率関数の棒を左から足し上げていくと、0 から始まって 1 に届く階段になります。
累積分布関数が便利なのは、離散型にも連続型にも同じ形で使える点です。「a より大きく b 以下」になる確率は F(b) − F(a) で求まり、「下から90%の位置の値」(90パーセンタイル)は F(x) = 0.9 となる x を探すことにあたります。統計ソフトで正規分布の確率や分位点を計算するとき、裏で使われているのはこの関数です。
離散型と連続型
確率変数は取りうる値の性質で2種類に大別されます。離散型はサイコロの目や来店客数のように、値が飛び飛び(数えられる個数)のもの。それぞれの値に対して「その値になる確率」を直接与えられます。連続型は身長や待ち時間のように、値が連続的に変化しうるもの。連続型では「ちょうど 170.000… cm になる確率」は 0 になってしまうため、個々の値ではなく「この範囲に入る確率」を確率密度関数の曲線の下の面積として与えます。正規分布は連続型の代表例です。注意したいのは、確率密度関数の値そのものは確率ではないことです。密度は「幅あたりの確率」なので、幅の狭い分布では1を超えることもあり、確率になるのは必ず「区間の面積」です。この区別はデータの種類と尺度における離散データ・連続データの区別と対応しており、扱う数学の道具(総和か積分か)を分ける重要な分類です。
確率変数を組み合わせる
確率変数の強力さは、変数どうしを演算できることにあります。X と Y が確率変数なら、X+Y も 2X も X の2乗もまた確率変数です。「サイコロ2個の目の合計」「1年間の損害額の総和」のような量を、部品となる確率変数の組み合わせとして構成できます。複数の確率変数を同時に扱うときの確率の与え方は同時分布と周辺分布で、変数どうしが無関係であることの定式化は独立性で扱います。また2つの確率変数が連動して動く度合いは共分散で測ります。
分布を数で要約する — 期待値と分散
分布を丸ごと扱うのは大変なので、実務ではまず2つの数に要約します。値を確率で重み付けた平均が期待値、期待値からのずれの2乗の期待値が分散です(その平方根が標準偏差。分散と標準偏差を参照)。サイコロ2個の和なら期待値は7で、部品の三角印の位置がちょうど積み上がった山の釣り合う点になっています。
確率変数を組み合わせるときの落とし穴は、期待値と分散で規則が違うことです。期待値は常に足し算がそのまま通り、E[X + Y] = E[X] + E[Y] は X と Y が関係していても成り立ちます。ところが分散の足し算 Var(X + Y) = Var(X) + Var(Y) が成り立つのは、X と Y が無相関(独立ならなおよい)なときだけです。2つの在庫の需要が連動しているのに分散を単純に足すと、合計のばらつきを過小評価して欠品を招く — こうした誤りは、確率変数の関係を確かめずに公式を当てはめたときに起こります。
統計学とシミュレーションでの位置づけ
推測統計では、標本抽出で得られる個々の観測値を「同じ分布に従う確率変数の実現値」とみなします。「標本平均もまた確率変数である」という視点に立ってはじめて、中心極限定理や大数の法則が意味を持ち、推定や検定の理論が組み上がります。またプログラミングの側から見ると、乱数を生成して確率変数の実現値を大量に作り出し、複雑な確率変数の分布を数値的に調べるのがモンテカルロ法です。理論と計算のどちらの道でも、出発点に置かれるのはこの「確率変数」という抽象です。
最後に記法の注意をひとつ。教科書では確率変数を大文字の X、実際に観測された値(実現値)を小文字の x と書き分けます。「X = x となる確率」P(X = x) は、「まだ決まっていない量 X が、特定の値 x を取る確率」という意味です。データの平均値 x̄ は1つの数ですが、「これから取る標本の平均」X̄ は確率変数で、分布を持ちます。この区別を曖昧にすると、標準誤差や信頼区間の意味が掴めなくなります。
試問
サイコロを2個振る試行について、9つの言葉を仕分けてください。
サイコロ2個を振る試行に出てくる9つのものを、「結果」「事象」「確率変数」「確率変数から決まる数」の4つに仕分けよ
項目を選んでから、入れる箱を選びます
